錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 On earth who? 〟




No.16『学級〇〇』ー衝撃ー

 チャイムが鳴り、放送があってから数分後。

 辺古山さんと連れ立って来た九頭龍クンを最後に、とうとう大広間へと全員が集まった。

 私はトイレへ行ったことになっていたので一応そちらにも寄り、誤魔化すように長居している。そのせいで弐大クンに例の台詞を言われそうになったが、そこは省略。

 

 いつの間にか大広間の中心にあったテーブルのクロスが取っ払われ、小さなテーブルは壁際に積み上げられている。

 勿論、証拠となる奥のテーブルと私が隠れていた丸テーブルはそのままになっているが、2つのテーブルを横に並べたその場所には人数分のスイッチが置かれている。

 どうやら椅子はないようなので立ったまま討論することになるのだろう。

 そしてその並べられたテーブルの前には何処から持ってきたのかさっぱり分からない教壇が置かれ、そこに置かれた椅子に1人…… 1匹? 楽をしてモノクマが座っている。

 裁判長が持つような木槌が側に置かれており、本来は学級裁判用の道具だったのだと分かった。

 

「では、最初に学級闘論の簡単な説明をしておきましょう」

 

 そう前置きして、モノクマはグルリとその場にいる全員を見渡していく。

「学級闘論では 『誰が殺人未遂の犯人か?』 を話し合い、その結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できればそのまま軽いペナルティを課して修学旅行が続行されますが、もし間違った人物をクロとした場合…… 殺人が成立したと解釈し、被害者がおしおきされ、クロ含む他全員は修学旅行を続行します」

 

 改めてモノクマの口からルールを説明していく。

 うん、いつ聴いても理不尽だね。

 

「本当はそれ専用の施設があるんだけど…… 今回は怪我人がいるからね。ボクが頑張って投票機械なんかを持参してきたよ! はい、オマエラはテーブルに置かれた機械を1人1つ、持っていてくださいねー!」

 

 テーブルの前に立ち、スイッチを見る。

 どうやら左右のスイッチで顔ドットが切り替わるようになっているらしい。これで犯人だと思う人の顔ドットに切り替えて、一際大きな赤いボタンを押せば投票されるようだ。キチンと説明書がついていた。

 こんなところだけなぜかやたら親切だ。

 

「始まる前に訊いておきたいんだけど……」

 

 で、まずは言質を取らないとね。

 

「裁判長、いや議長かな? であるモノクマは公正に判断してくれるんだよね? ほら、キミの考えで殺されたらたまらないしさ」

 

 最初の余裕のあるうちは嘘も吐いてこないだろうし、大丈夫だとは思うけど一応ね。

 

「ま、そう思うよねー。大丈夫です! この闘論は100%公正に判断するよ! ボクって贔屓とか不正が……モノミの次に嫌いなんだよね!」

「そのモノミはどこにもいないみたいだけど?」

 

 事実だ。

 ゲームでは縄でグルグル巻きにされて宙ぶらりんになっていたが、今はどこにも見当たらない。

 それを指摘するとモノクマは面白いくらいに落ち込んだ。ブルーな表情を作り、体からキノコが生えている姿まで幻視できるくらいだ。

 

「まったく不出来な妹だよね…… さっきから見当たらないし、放送はしたんだからそのうち来ると思うけどね…… 来なかったら…… 今夜の夕食がウサギ鍋になるだけだよ……」

「えっ! アイツって食えんのか!?」

「っだー! 目輝かせるな! 食えるわけねーだろ、ヌイグルミだぞ!?」

 

 モノクマの言葉に食いついた終里さんと、その発言に突っ込みを入れる左右田クン…… うん、この会話で皆の余計な緊張は取れたみたいだね。ガッチガチになってても冷静にものを考えるなんてできないし…… いい感じかも。

 あんまりコントが続くと時間制限とかで切り上げられてしまう可能性も一応あるし、気をつけないといけないんだけどね。

 

「質問はもうないかな? ないなら、さっ、そろそろ始めましょーう!」

 

 そう言ってモノクマが〝 学級闘論 〟の開催を宣言した。

 

「は、始めろって言われても…… なにをどうしたらいいんですかぁ?」

 

 暫し沈黙が落ちてから、きょろきょろと目線を移動させていた罪木さんがそう言った。

 

「四の五の言ってねーで拳で決めちまえばいいんだよ!」

 

 終里さんはいつも通り……

 

「ルール訊いてたんか!?」

「そうだよ! これは殴り合いは殴り合いでも、精神的な殴り合いだからね!」

「応、選手たるもの、メンタルが弱くてはやってられんからのう!」

「だ、だからそれは違いますってぇ!」

 

 モノクマがもっともらしく言うと、流れるようなコントが発生していく。罪木さんが突っ込みをするとは…… まったく、終里さん恐ろしい子ね!

 

「今は討論しなきゃならないんでしょー?人の命がかかってるのによくふざけられるねー?」

 

 えーと、捜査中ふざけて小泉(お母)さんに雷落とされていたのはどこのお嬢さんかな?

 いや、議論を進めてくれるのは素直に嬉しいんだけどさ。

 

「あ、ああそうだよな…… 人の命が…… かかってるんだよな……」

 

 左右田クンが頭に手を当て、落ち込んだ声を出している。目線はこちらに向いているのでやはりこういう状況は好ましく思っていないんだろう。当たり前だけど。

 まったく、なんで左右田クンが罪悪感を感じてるんだか。

 空気が重たくなっていく。

 

「あはは、まさか左右田クンに心配されるなんてね。キミは私のこと嫌いだと思ってたんだけど…… らしくないんじゃない?」

 

 にやにやと口元に手を当てて笑いながらそう言うと左右田クンは不服そうに口をきゅっと噤んでから静かに 「うっせーよ……」 と言った。

 

「キミがそんなんだと、なーんか調子が狂うんだよね。ツッコミキャラなんだからツッコミしてもらわないと」

 

 西園寺さんのようにわざときつい物言いをしてみてるけど、効果はあるかな?

 

「っだー、もう! オメーのために討論しようとしてんだろーが! 怪我人は黙ってろ!」

「はーい」

 

 よしよし、元気がない左右田クンはただのモブだからね。酷いって? ここまで言わないと立ち直らないビビりが悪い。

 ようやっと元気になってくれたし、私はご希望に応えて笑顔で黙っていようか。

 

「ひとまず、討論というくらいなのだから議題を決めた方がいいのだろう?」

 

 会話の区切りまで待っていたらしい辺古山さんが話を切り出す。

 それに十神クンが反応して話し出す。こちらも待っていてくれたようだ。

 

「討論と言っても実際には〝 肯定 〟と〝 否定 〟で分けられる問題でもない。普通に議論と言ったほうが有意義だろう」

「じゃあさ、被害者は凪ちゃんなんだし議題は凪ちゃんにお願いしてもいいかな? アタシはなにから話せばいいか…… 迷っちゃってさ」

 

 って、丸投げかーい!

 左右田クンには悪いけど、議論にはちゃんと参加しないといけないみたいだね。

 

「ええと…… なら一番大きな議題はモノクマの言ってた〝 殺人未遂をしたのが誰か 〟ってことになるんじゃないかな?」

「それが分かんねーから困ってるんだって!」

 

 終里さんがツッコミをする…… だと!?

 そんな珍しい光景に驚く私を置いて、黙って静観していた九頭龍クンが痺れを切らしたように言い始めた。

 

「狛枝は旧館の大広間で刺されたんだろ? だったら、怪しいのはそこにいた連中じゃねーか」

「はいはい、自分は犯人じゃないって言いたいわけね?」

 

 呆れたように言う小泉さん。

 その言葉を気にせず九頭龍クンはそっぽを向きながら続けた。

 

「あたりめーだ。テメーらが勝手に殺し合いを始めただけだろ。オレには関係ねーよ……」

「は? なによそれ」

 

 2人の会話でまたも不穏な空気に逆戻り。

 私はそんな2人の空気に顔を引き攣らせつつも、必死に笑顔をとり繕いながら細かい議題をどうするか、話し合うことにした。

 皆、私のことを深刻に考えてくれているわりには議論はあまり進める気がないよね。そうなると困るのはこっちだし…… 議論を潤滑にするためには議題を投げるのが1番かな?

 

「ええと、とりあえずさ。まずは事件について気になる点があればそれを話し合うのはどうかな?」

「1番気になる点か……」

 

 よかった、日向クンがちゃんと話題に乗ってくれた。

 皆油断するとすぐ話題が逸れていくからね。

 

「気になる点というと、結構あるからのう……」

「うーん…… じゃあ狛枝さんが刺されたのはどこか…… っていうのはどうかな?」

 

 七海さんがそう言うと、それまで顔色を悪くして黙っていた花村クンが嬉々として話し始めた。

 

「それだとやっぱり、狛枝さんが見つかったエアコン近くの、丸テーブルの付近じゃないの? 血がどっぱどっぱ出てたしね! それはもう! 月……」

「ふんっ、そうではないだろう! 黙れ」

 

 おっと、十神クンの反論が入る。

 正直遮ってくれて大助かりである。いくら変態発言がデフォルトの花村クンでもその発言はちょっと……

 

「狛枝はなにか分からないのか?」

 

 あ、私か。ええと、嘘を吐かずに乗り切れるかな?

 

「なにせあの暗闇だったし…… 私もなにも見えなくって手探りで歩いてただけだからなんとも言えないんだ。ごめんね」

 

 日本語って便利だよね。なんというか、モノクマと同じというところに不服を感じるが、まあ仕方ない。

 

「それでしたら、〝 奥の大きなテーブルの下 〟ではないでしょうか」

「祭壇で生贄を捧げようとしたのだろう。それも失敗に終わったようだが…… っは、笑止」

 

 ソニアさんに田中クンが同意の声をあげる。

 預けたままにしていた私の手帳を読みながら日向クンが考え込んでいる。それから、終里さんにチラリと視線を移してから賛成の声をあげた。

 

「ああ、ソニアの意見に賛成だな。ほら、終里もあそこから血の臭いがするって言ってたし」

「臭いだと?」

 

 その場にいなかった辺古山さんと九頭龍クンは、終里さんが現場を発見する場面を見ていない。それを忘れていたのか 「そういえば見てないのか」 と日向クンが呟く。

 

「ああ、あの惨状は元はと言えば終里がいきなり臭いを嗅ぎ出して発見したものだからな」

「鼻ひくひくさせちゃって…… まるで犬だねー?」

 

 くすくすと笑いながら西園寺さんが言う。

 あれは完全に馬鹿にしている目だ。だが終里さんは気にしていないし、小泉さんが少し咎めるような目をしている以外は誰も反応していない。皆、彼女の毒舌には既に慣れているようだ。

 いや、終里さんは多分分かっていないだけだと思うが、それが彼女らしいところだろう。

 

「ふむふむ、お宝の山じゃなくって〝 血生臭い現場 〟を見つけちゃったってことっすね! ここ掘れわおんわおーん?」

「それだ…… その血生臭いってところが気になるんだよ。なんか、違和感がないか?」

 

 日向クンが首を傾げる。

 すると七海さんも同じ方向に首を傾げて口に人差し指を当てる。シンクロしている2人を写真に収めたいところであるが今は闘論中だ。空気は読もう。

 

「…… 違和感………… それって、終里さんが言ってた〝 路地裏のラクガキ 〟みたいな臭いのこと?」

「そういえば、そんなことも言ってたわね……」

「ならば先に、あの赤い液体がなんなのかを話し合った方がいいだろう」

 

 分かっている癖に。

 でもこういう答えは全員で出さなければ意味がない。

 納得させなければ私は死ぬ。安全策を考えれば口を出すべきではないだろうな。ま、こんな簡単な問題ならすっ飛ばしてもいいんだろうけれど一応ね。

 

「赤い液体か…… あのテーブルの下のだろう? 普通に考えると、血ではないのか?」

「あ、あんなに大量に出血していたら…… 出血多量で死んじゃいますよぉ!」

 

 辺古山さんが大広間の隅、真っ赤なテーブル下を眺めて言う。

 しかしその言葉に勢いよく罪木さんが叫んで反論した。その勢いに押されたからなのか、それとも納得したのか辺古山さんが引き気味に 「ああ、確かにそうだな」 と返事をする。

 

「だるそうにはしてるけど、凪ちゃんはピンピンしてるっすよ!」

「丸テーブルの陰で見つけたときも、結構血が出てたと思うんだけど……」

 

 澪田さんが疑問気に呟き、小泉さんは眉を顰めて痛ましげにこちらを見てくる。罪木さんの〝 死んじゃう 〟という言葉が堪えたのだろうか。

 しかし心配しなくても大丈夫だ。ちょっと貧血にはなったが命に別状はないのだ。病院のない今の状態で大怪我なんてしたらちょっと怖いからね。

 

「ああ、あれは額の細い血管を切っちゃったから大袈裟に血が出てただけだよ。手の平の傷とは別物。それに、罪木さんの処置で大分楽になってきたから私は大丈夫だよ…… さ、議論を続けようか」

 

 パッパと議論を進めて事件を解決してもらわないとね。

 私の心配をしてくれるなら早く議論を進めてほしいんだよ。心配してもらうのが嫌ってわけじゃないけどね。

 

「こんなときでもいやに冷静だな。お前、怖くないのか?」

「…… 怖いよ? って、前も言ったっけ…… 私はただ、早くこのくだらない闘論が終わらせられるようにしたいだけなんだ」

「くだらないって…… テンション下がるなぁ〜」

 

 モノクマが落ち込もうがなんだろうが私には関係ないからね。むしろもっと落ち込んでしまえ。記憶にはないが、モノクマの中の人に私は絶望させられたんだろうし、好く必要なんかないだろう。

 

「あの液体はどうやら粘性があるらしいな。ふっ、雑魚の出来損ないが」

「…… スライムベス、かな?」

「そういえば、スペインじゃトマトを投げ合う盛大なお祭りがあるんだけど……」

「おお、花村さん! それはトマティーナですね! あれはベリーワンダホーです!」

「そ、ソニアさーん? なんだかとってもお詳しいんですね……」

 

 田中クンと七海さんはゲーム脳だし、花村クンとソニアさんは別のことで盛り上がってるし、左右田クンはツッコミだし…… 真剣に釘を刺してみても結局こうなるんだよね。まあ、この方が皆らしくていいのかもしれないけれど、混ざれないこちらとしてはなんだか複雑な気持ちだ。

 

「路地裏のラクガキって言ったらスプレーじゃろう」

「シンナーの臭いがするというと…… やはりそちら方面だろうな」

 

 見かねたのか、それとも普通に考えてくれていたのか、弐大クンが例としてスプレーをあげて十神クンが賛成する。

 するとどうだ、十神クンが言った言葉で 「ぽくぽくぽく……」 と考え込んでいた澪田さんが勢いよく手を挙げた。

 

 

「はいはいはい! ならペンキはどうっすか! あんな感じにねとーってしてて、血にも見えるよね!」

「俺は、澪田の意見に賛成だ。俺達と一緒に捜査してた狛枝や罪木も分かってると思うけど……」

 

 日向クンは私の手帳を片手に罪木さんや私へ視線を滑らせる。

 それからテーブルの下の液体を眺めている。

 

「…… 倉庫に赤いペンキの缶と、蛍光塗料の缶があったんだよ。だからあれは大部分がペンキだと思う」

 

 その言葉に素早く反応したのは、小泉さんと左右田クンだった。

 

「倉庫にペンキの缶があったの!?」

「あー? 確かにありゃァペンキか。なるほどなー」

「おにいは怖くて近づかなかったもんねー? 近づいてたら早くペンキだって分かったんじゃないのー?」

「うっせうっせ! 仕方ねーだろ!」

 

 まあ、あんな大量の血に見えるものがあったら近寄りたくはないよね。普通あんなになっていたら血だって思うよ。私だって怪我をしていたわけだし…… 先入観って怖いよね。

 あれに躊躇いなく近寄る十神クンとか、躊躇いながらも捜査していた日向クンは凄いんだよ。

 

「路地裏のラクガキの臭いが…… ペンキだってことが分かったから、あれは血じゃないってことでいいんだよね?」

 

 七海さんが確認するように言う。しかし、それに捜査協力していた罪木さんが控えめに手を上げて言った。

 

「で、でもぉ、終里さん…… 血の臭いも少しするって言っていましたよねぇ?」

 

 なんだか罪木さんよく喋るな。

 ゲームだと診断結果1つ出すのにもどもって、更には皆の声でそれを言うのを止めようとしちゃったくらいなのに。

 ここにも、小さな違和感。

 

「丸テーブルが倒れていた所と…… 大きいテーブルの下両方に血の臭いがしたのか……」

「あの場所には怪しく光る銀のナイフもあったな…… 狛枝はあそこで犯人と鉢合わせしたのだろう」

 

 うん、なんだか信頼されてるみたいでいいよね。

 

「あの暗闇であそこに辿り着くのは困難ですからね…… 偶然そこにいたから狙われてしまったのでしょうか……」

 

 だって誰も私が完全な被害者だって信じて疑わないんだもの。

 にやつく口元を手元で隠して議論を見やる。

 ああ、この信頼関係を自分からぶち壊してしまうだなんて絶望的だね。でもこれは必要なことだったのだ。多少皆の反感を買おうが、やらなければならなかったんだ。

 そう、ただでさえ私のせいで多く発生するイレギュラーを少なくするために。そうでもしないといつどんなときに危ない目に遭うか分かったものではないからね!

 口元とは別の手でそっと体を抱きしめて震えを抑える。大丈夫、まだ大丈夫。まだ皆との信頼を噛み締められる……

 

「じゃあ倉庫のペンキはなんのためにあったのよ…… ?」

「ええと…… 狛枝さんが装飾に使おうとしていた…… とか…… ?」

 

 チラリと罪木さんがこちらを見てくる。伏せ目がちのおどおどとした顔はこちらを伺うように上目遣いにされているようだ。

 

「うん、まあね。壁とか床とか塗り直そうと思ってたんだけど…… 赤いのしかなかったから諦めたんだよね……」

「…… ?」

 

 ちなみにペンキは家具コーナーのリストに書いている。だがリストには〝 ペンキ類 〟と書いて色については意図的(・・・)に書き洩らしているので、私がなにかを企んでいた証拠にはならない。

 日向クンがなにか違和感を覚えたような顔で考え始めたが、十神クンはどうやら助け舟を出すつもりはないらしい。

 そんな2人の関係が、なんだか助手の成長を促す探偵のように見えて少しだけもやもやとした気持ちを自覚した。

 どうして私はあちら側に立てないのだろう。こんな、敵対するようなことをして、覚悟はしてるというのに、揺ぎそうになる…… そんな小さな嫉妬心。

 

「どうしたの? 日向クン」

 

 笑顔を取り繕って余計な気持ちにそっと蓋をする。

 そうだ、同じ立場で、仲間としてクロに立ち向かっていたら彼らと勝負するなんていう貴重な体験はできない。

 だからこそ、少し楽しみだった部分もあるのだ。

 

 さて、十神クンと日向クンはどうするかな?

 

「なら、停電を仕掛けた人が犯人ってことじゃないの!?」

 

 どんな反論が来るかとわくわくしていたというのに、慌ててその話題を切った花村クンに邪魔されてしまった。

 花村クンの必死の妨害も微笑ましいものがあるが、私にとっては日向クンとの勝負のほうが魅力的である。ちょっと不服だ。

 負けたクロにもおしおきがあるならば、私との生存欲勝負となって少しは燃えることができるのだが…… 相手は軽いペナルティだけというぬるい処置しかない。

 その理不尽さに冷め切っている私としては、なぜ未だに自身の罪をこちらになすりつけようとしてきているのかが理解できない。

 私が死んで秘密を守ったとしても、モノクマは〝 犯人を公表せず修学旅行続行 〟なんてことは一言も言っていないのにね。

 まったく、笑えるよ。

 

「あの停電は偶然ではなかったんかぁ!?」

「あれは偶然などではない…… 午前1時30分に設定された二台のエアコンタイマー…… そして倉庫に放置されていたつけっぱなしの3台のアイロン…… 停電には十分だ。ここまで来ればもう偶然とは言い難いぞ」

 

 ようやく十神クンが話し始めた。

 だから私は、〝 ゲーム 〟と同じ状況にして彼らとの勝負に持ち込むために誘導する。

 

「うーん、なら停電を起こした怪しい人物を特定するのが先かな? あんまり議論が進んだと言えない所が難しいね……」

 

 そう、私の計画が暴かれることなんて百も承知だ。

 むしろ、私のしたことがそうやって暴かれることこそが私の計画(・・)の本懐なのだから。

 

「そうですよね…… この議論には狛枝さんの命がかかっていますから……」

「胡散臭いモノクマのことだし…… 時間制限くらいありそうだよね……」

 

 「偏見はんたーい!」 と可愛らしく叫ぶモノクマのことを無視して議論は進んでいく。

 

「そうだよな…… んじゃあ怪しい奴っていやァ…… パーティに参加してなかった九頭龍だろ!」

「はぁ!?」

「いや、現場は旧館の中だ。パーティに参加しなかった九頭龍には犯行が不可能だろう」

 

 左右田クンの推理に、火の粉が飛んでくるとは思っていなかったらしい九頭龍クンが素っ頓狂な声を出す。あれは完全に油断していた声だ。キレて今にもテーブルを飛び越えて胸ぐらを掴みに行きそうな彼を、辺古山さんが静止するように反論する。

 しかしそれでも左右田クンは納得しない。

 

「じゃあ最初から旧館に潜んでたんだ! それなら停電を起こしてこっそり殺しを狙えるだろ!」

「だから不可能だと……」

 

 辺古山さんと九頭龍クンの視線が交差する。

 しかし彼女にはなかなか言い出せない。だってそれを言ってしまったら関係のリセットが意味なくなってしまうからね。

 

「九頭龍クンにはできないはずだよ」

 

 だから私から助け舟を出すことにした。

 

「おいおい、それを被害者のオメーが言うのかよ」

「だってパーティ中九頭龍クンが外にいたのは、辺古山さんも七海さんも目撃してるんだよね? あと、モノミもさ」

「ああ…… そう言ってたな」

 

 一緒に捜査していた日向クンが頷くと左右田クンは頭をかいて大声を出す。

 

「っだー! マジか! なら…… パーティ中にいなかったのなんて辺古山くらいしかいねーんじゃねーか?」

「…… 私か?」

 

 驚く辺古山さんに、澪田さんが少女漫画ばりの驚愕ポーズで大袈裟に引いてみせている。

 

「えっ、ペコちゃんが凪ちゃんを!? 白髪と銀髪が似てるからって!?」

「…… 私は犯人ではない」

「犯人じゃねーってさ!」

「んな簡単に信じてどーすんだよ!」

「私はずっと…… 動けなかったんだ…… だから…… 私には不可能なのだ」

 

 九頭龍クンのときとは打って変わって反論の声が小さい。

 それだけ、自分のことに関しては頓着していないということだろうか。

 

「…… 辺古山の話は本当だろうな」

「立っちゃったすか!? フラグが立っちゃったんすね!? ぎゃぴー! 白夜ちゃんったら意外ー!!」

 

 仕方ないとばかりにそう言った十神クンに、澪田さんが目をキラめかせて言う。皆はそんな2人に視線を集めているから気づいていないだろうが、何気に九頭龍クンの顔が怖いことになっている。

 おいおい極道さん。なに間に受けちゃってるのよ。

 

「え? 立っちゃったってナニが?」

「きーもーいーよー! 絶対いやらしい意味で言ってるもーん!」

「いや、そういうことじゃないだろ。ほら、弐大の証言がアリバイになるんだよ!」

 

 日向クンに名指しされた弐大クンはきょとんとして自身を指差して 「ワシか?」 と確認している。それに頷いた日向クンが 「ほら、証言のときに言ってただろ?」 と話を促すと弐大クンも考えながら口を開く。

 

「心当たりがあるといったら、11時頃からずっとトイレが何者かに占領されていたことぐらいじゃが……」

「それは事件が起こって暫くも続いていたのだろう?」

 

 ここで十神クンの援護が入るのか。

 

「そうじゃなぁ…… 事件が起こって、暫くしてからようやっと解放されたからのう」

「あっ、もしかしてそのときトイレに入ってたのって……!」

 

 そこで全員が察したようだった。

 数人が気まずそうにしている。

 

「だって、辺古山と見張りの当番以外は11時以降もちゃんと大広間にいただろ?」

「そっか、それからずっとトイレにこもってたとすると辺古山おねぇとしか考えられないんだねー」

「………… そ、そういうことに…… なるな」

 

 物凄く言いにくそうに辺古山さんが肯定の返事をした。

 

「に、2時間も便所に篭ってたのか? それなら最初から言えっつーの!」

「言えるわけないじゃん。アンタってデリカシーってモンがないの?」

「それだけ長いということは…… 間違いなくクソじゃな…… ガッハッハ! 言えんわなぁ! そら、クソしておったとは言えんわなぁ!」

「ねぇ、デリカシーって習わなかった? 男だらけの国にでも住んでたの?」

 

 この流れるような追撃、嫌いじゃないよ。

 自分が同じ目に遭いたいかって言われたらNOだけど。

 

「なんで皆さん放っておいてあげないんですかぁ!」

「無ッ、すまなんだ!」

「い、いいんだ…… それより…… この話題はやめにしないか?」

「だが、匂いはさほど強烈ではなかったぞ! お前さんのすぐ後に入ったワシが保証しよう!」

 

そしてトドメである。

やめたげてよぉ!

 

「…… も、もういいだろうっ!」

「ええと、あまり言及するのはよろしくないのですが…… お腹を壊してしまったのでしょうか…… ?」

 

 ソニアさんが凄く言いづらそうにしているが、それは確認しなければいけないところだろう。

 

「そうだよ…… 誰かが下剤を盛ったとか、そういうのは考えられねーのかよ!」

「しかし料理は全員食べただろう。料理が原因でない以上、辺古山の不調は偶然ということになるな」

 

 九頭龍クンが花村クンを睨んだが、それを十神クンが否定する。

 

「ねぇ、用を足しているときに暗くなるのってどんな気分? 逆に興奮するとかはある?」

「俺が話題に出しといてなんだけどさ…… もう、やめとけって……」

 

 日向クンが物凄い申し訳なさそうにしている。

 それに応えてか、田中クンが元の話題に戻して話し出した。

 

「しかし、生贄を捧げる儀式をできた者など、他には宴を企画した十神くらいではないか? 静観などしてないで、なにか言ったらどうだ」

 

 まあ、ここはいつも通りに喧嘩を売っておこう。

 

「そういえば…… 十神クンは暗視スコープを持ってたんだよね? それでブレーカーを上げたって言ってたけど……」

「そっか、停電の中…… あのテーブルまでいけるとしたら暗視スコープを持ってた十神くらいなんだ」

 

 私の言葉に誘導されてくれた小泉さんがそう言う。

 

「あれだけリーダーリーダー言ってたくせに、殺人を企むなんてとんだ詐欺師だよねー?」

 

 その言葉を聴いた瞬間、僅かに十神の眉が跳ね上がった。

 

「それは違うぞ! 十神は…… !」

 

 日向クンが慌てて十神クンの援護に走ったが、それを本人が手で制した。

 

「いい…… パーティを企画した理由はある………… 言いたくはなかったが…… 仕方ないな」

 

 そう言って十神クンは懐から折りたたまれた紙を取り出した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「………… え?」

 

 それを見て、私はそれ以上言葉が出なかった。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!?」

「こ、これは…… !」

「な、なんだ…… これ……」

「はあ? どういうことだよ、これ」

 

 様々な反応が波のように広がっていき、そして、小泉さんがその紙に書かれた言葉を呆然と呟いた。

 

「…… 明日夜…… 十神白夜は………… 死ぬ…… ?」

 

 震え声で言われたその言葉に私はもう言葉が出なかった。

 見覚えのありすぎる文字で書かれたそれに、自分の記憶を疑った。

 

 それは、その紙に書かれた字は……端が伸びていて、止めの部分がまるで滑ったように線を貫いているその字は、私が崩して書いた字に…… とてもよく似ていた。

 




・闘論なのに議論
 コトダマとコトノハのように気分でモノクマが名称を変えただけでございます。
 そもそも闘論と言っているのはモノクマだけですし。

・モノミ
 不在です。モノクマもなにをしているのかは知らない模様。

・花村
 どの程度の下ネタなら投下していいのか悩むところ。

・緊張は解かせたいけどコントはしてほしくない心情
 緊張を解いて話し合った方が解決に繋がりますが、あまりゆるーくコントを続けられると時間制限が来そうで焦れるジレンマですね。矛盾ではありませんよ(震え声)

・蛍光塗料と夜光塗料
 ゲームでは夜光塗料でしたがこちらでは蛍光塗料と言っていますね。舞台では蛍光塗料でしたし、これで統一します。
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