No.17 『開放』ー災難ー
午前5時。私はイライラしていた。
私が最後だったからなのか、やけに長ーいモノミの説教が2時間前に終わり、やっと眠りについたところだったのだが…… 無遠慮に響くノックの音で無理矢理覚醒させられてしまったのだ。
「早朝に男2人で女性の部屋に訪ねに来る…… うん、なかなかに危険なシチュエーションだよね?」
文字通り、寝不足でイライラしていた。
そのために据わった瞳と貼り付けたような笑みでチグハグな様相をしながら彼らを睨み上げ、言葉は裏腹にふざけるように吐き出されていく。
「キミたちにそういうことをするなとは言わないけどね、ちょっと非常識だと思うんだよねぇ…… 私としては」
さすがの私も2時間の睡眠では深く眠り込み過ぎて夢も見られないし、体力の回復などできるはずがない。
今は太腿のホルダーから外されている鉄パイプの置き場所を確認しつつ流すように視線を2人に向けた。
「あのね、私は死にたくないって言ったよね? 私を害することがなければ別にキミらに手を出すことなんてないんだよ? …… むしろ、そんなものを手にして、こちらに向けた時点で本当は返り討ちにしてやりたいところなんだよ」
彼らの持つ金属バットが後ろ手に隠される。
女性相手にそこまでする度胸はないらしい。
「見逃してあげるからさっさと帰ってよね」
言って、扉を勢いよく閉める。
その向こう側からは 「うおっ」 という短い悲鳴が聴こえたが無視をして瞼を擦った。
「……………… ふぁ…… あー」
そういえば寝間着のままだったな。女性として失格だが今はそんなもの関係ない。
無意識に出てくるあくびと眠気に従い、私はイライラを抑えるように再びベッドへと身を沈めた。
「あー、殴られなくて…… 良かった……」
簡単に堕ちていく意識の最後に独りごちる。
あれ、目覚ましセットしたっけ? そんな疑問を抱きながらも睡魔には逆らえず、そのまま私は気絶するように眠りについた。
◇◆◇
薄暗い闇の中、私は周りを赤色の地獄に囲まれた教室にいた。
他にいるかつてのクラスメイトたちは次々と連れ出され、地獄の中へと消えていく。
1人1人消えていく彼らの行く末と自身の末路を想像しながらひたすらに順番が来るのを待った。
私の順番になり、先生だという誰かに呼ばれて歩き出す。足は勝手に動き、逃げ出すことも抵抗することももはや叶うことはない。
おどろおどろしい、真っ赤な光に照らされた地面がぬらぬらと光りこちらの廊下をじんわりと侵食しようとしている。
左を向いてみれば遠くに沼のようなものが見えた。その中には突き落とされ、沼に浸かった瞬間からドロドロと溶け出していく人物とその悲鳴が響き渡ってくる。まさに血の池、と言ったところだろうか。
右を向けば巨大な大穴が空いていて、そこに並んだ人影が押されながら落ちていくのが見える。穴からギラリと光る巨大な針が覗いており、そのあまりの太さに刺さってしまった人間は自重によって真ん中から2つに裂けていく。針山地獄のようなものだろうか。
後ろを振り向けば私の出てきた場所が牢獄であったことが分かる。
内装は私の記憶にある教室そのものであったが、外装は完全に牢屋である。よく見れば周りにも沢山の牢獄が存在している。
前を向けば見えてくる死神のような大鎌を持った二人の人物。
そしてその真ん中には見上げるような断頭台が備えられている。
ああ、そういえばそんなオブジェクトがあったなぁ。
漠然と考えながら勝手に動く足を見つめる。
ワープと同時に前の私は死んで、新しい私が構成されるのだ、なんてね。
「そう……」
目を伏せて断頭台に登る。
その間に入った瞬間、私は死んだ。
「………… さ…… ん!」
ノックの音がする。
「…… え…… ださぁん!」
ゆっくりと浮上する意識。
暑さ故か足で挟むようにして抱きかかえている柔らかな布団を確かめるように探る。足を移動させるたびにひんやりとした冷たさを体に伝えてくるために、一層穏やかな睡魔が私を誘うのだ。
「んぅ…… ?」
私はそのまま寝返りを打って…… 再び眠りにつこうとしてから、ようやくその声に気がついた。
「狛枝さぁん! うぅ、無視はいやですよぉ…… ! わ、私がいけないんですね。私が嫌いだから? う、うぅ…… やっぱりお友達だなんて私の思い込みだったんですねぇ…… 勘違いだっ…… ひっく、うぅ」
女の人の声、か?聞き覚えのある……
「……………… え?」
間抜けな声をあげてから段々と弱々しくなる声に罪悪感を抱き、瞼を開くことすら億劫にも思えるほど襲いかかる睡魔を押しのける。
そして薄っすらと目を開き、カーテンの外がすっかり明るくなっているのを確認した。
「…… あれ?」
細長く巻かれた布団をばっと払いのけ、時計を見た。
AM 08:10
「あああっ!?」
完全なる遅刻である。
「ままま、待って罪木さん! 今起きた! 起きたから!」
大声で叫びながら今にも帰ってしまいそうな弱々しい声をあげる彼女に待ったをかける。
「嫌いになったわけじゃないから! あんまり寝れてなくて、それでええっと…… !」
言い訳をしながら服もそのままに扉に勢いよく手をかける。
「き、気づかなくてごめんね!」
「………… あ」
扉を開けてから綺麗に腰を45°に曲げて顔の前で両手をパンッと合わせる。我ながら見事な謝り体勢である。
なんならジャンピング土下座でもかまそうと思ったがキャラじゃないし、なによりそれじゃあ罪木さんが困ってしまうだろう。これ以上困らせるのは起こしに来てくれた彼女に失礼だ。
「…… よかったですぅ」
彼女の小さな呟きが聴こえた。
「あの、狛枝さん…… その、お洋服が……」
そして言われた言葉にはたと気がつく。
変わらずに曲げられた姿勢のまま視線だけを自身の体を滑らせるように見ていく。
Tシャツに半ズボン、髪はボサボサ。眠気眼で背後には這い出た後のベッドと落ちたタオルケット。
完全なる寝起きの格好。だらしない部屋。
女の子が見られたら恥ずかしさで死ぬような有様である。
「あ…… っと、えっと…… ごめん。ちょっと待っててね…………」
みるみるうちに赤面していくのが分かる。
そうか、これが顔から火が出るというやつか。全く知りたくなかったよ。
尻すぼみに伝えて扉を閉める。
それから無言で頭を両手で抱えてイナバウアー。 「あああああっ!」 という心の叫びを漏らさぬように暫くその場で悶えて洗面台に向かった。
まずは身支度からだ。
清潔にし、いつもの服を用意。それからベッドメイクを施して朝食は摂らずに飲み物だけペットボトルのお茶で済ませる。
ああなんてだらしない。友達になったばかりの子とするようなシチュエーションじゃないぞこれ!
平常心平常心……
そして心をある程度落ち着かせてから扉をゆっくりと開ける。
「いや、ごめんね待たせちゃってさ」
「え、あ、はい?」
何事もなかったかのように振る舞う私に戸惑う罪木さんは曖昧な返事をして首を傾げた。
「えっと、朝食はもう終わったよね。なにか進展あった?」
そういえば、こうやって私に話しかけてくれるというのはかなりラッキーなことではないだろうか。
普通あんなことがあったばかりじゃ腫れ物を扱うような状態になるというのに。なんというか、本当に懐かれてしまったんだな。
慕われて嫌な気分にはならないけれど。
「モノミさんがモノケモノをやっつけて2の島に行けるようになったって言っていました…… 十神さんもこちらの島でやることはあまりないからそちらを探索するそうですぅ。他の皆さんは脱出方法がないか探すと早速向かって行っちゃいましたね。勿論、狛枝さんを心配する声もあったんですけど…… 島の探索に人員が必要だからと、私が代表でここに…… あ、私なんかじゃ迷惑でしたよねぇ。やっぱり日向さんとか小泉さんが…… !」
「ううん、罪木さんが来てくれて嬉しいよ。じゃあ私もその探索とやらに向かおうかな…… どうせなら一緒に探索しない?」
頬を掻きながら提案をすれば彼女は花が咲くようなあどけない表情でふにゃりと笑った。
喜んでくれてなによりである。
「えっと、じゃあ中央の島に行ってみようか。もう皆はそっちに行ってるんだよね?」
「は、はい! 日向さんも先程出て行きましたし…… あ、でも小泉さんと西園寺さんはぁ……」
私が一歩出ると、罪木さんが思い出しながらそう言った。
しかし小泉さんのコテージへと目線を移動させて、言いかけた彼女は突如 「きゃあっ!」 と声をあげて私の視界から消えていった。
「えっ」
慌てて視線で追うと、彼女の長い髪がばさりと揺れながら置き去りにされていく。
その足はずるりと踏み外されてコテージ脇の水路へと向かっていた。
反射的に出た悲鳴と、咄嗟に瞑られた目。その状態で前に突き出された手が泳ぎ、助けを求めるように私の長いパーカーの裾を掴んだ。掴んでしまった。
「っく」
ぐん、と引っ張られる感覚がしてよろける。どうにか踏ん張ろうとも試みたが、やはり人一人分の重さをもやしの私が支えきれるわけもなく同様に下へと落ちていく。うん、知ってた。
その時点で既に諦めの境地に至った私はせめて溺れない程度の深さであればいいなぁと思いながら僅かな浮遊感を楽しんだ後に無事、着水。
水位は低く、足首くらいしかなかったので溺れることはなかったが、仰向けで水に浸かっている罪木さんの上に私が重なるように着地してしまった。
かろうじて彼女にダメージを与えることはなかったが、重なり合って倒れているためか二人ともになかなか起き上がれない。
さらに服が水を吸って透けているうえに罪木さんの顔は上気している。
おい、なんで興奮してるんだよ。
「お、おい大丈夫………… か………… ?」
暫くすると、頭上から声が聞こえた。
初めの方は勢いよく滑り出していた言葉はこちらに近づくにつれて尻すぼみになっていき、とうとうこちらを覗き込んだ彼と目が合うと沈黙する。
「…… あ、ごめん!」
彼、日向クンが顔を赤くしながら目を逸らす。
「へ……」
「きゃあぁ! み、見ないでくださぁい!」
なんだこのラッキーイベント…… ああ、主人公だからか。
自身と罪木さんの透けた服装を見比べながらため息を吐く。
しかし彼は女子コテージの方から来たようだった。それにポケットに入ったあの三角の形をした膨らみ…… どうやらイベントのお楽しみをした後だったらしい。連続でこんなラッキーイベントに遭遇するのは日向クンが日向クンだからか。顔を赤くしてそっぽを向きながらも別に顔を手で覆ったりしないあたりに男を感じる。
「…… 引き上げてくれるかな?」
「えっ、はぁ!? …… いや、そ、そうだよな……」
さすがに胸のあたりにあるコテージの床によじ登るのは面倒だ。
まずは泣きながら 「見ないで」 を連呼している罪木さんを立たせて慰めながら腰を支えて持ち上げる。
力があまり入っていないためか私でもあっさりと持ち上げることができた。
その状態の彼女の手を日向クンが取り、引っ張り上げる。
私はその間に同じようによじ登ろうとするがお腹まで上がったあたりで息切れを起こした。なぜだ。いくらなんでも力がなさすぎるだろう。
「おいおい無理すんなって」
「……」
なんか悔しい。
むすっとしたまま引き上げてもらい、濡れたパーカーの端をぎゅっと絞る。このままではいくら常夏の島だとて風邪をひいてしまうだろう。医師が風邪をひくなど以ての外だろうし、私が風邪をひいて罪木さんのお世話にはあまりなりたくない。
医者としての腕は信用しているがヤンデレ状態の彼女に治療されるのは、体力こそ回復するだろうが精神力がごりごり削られていきそうだからだ。
「…… 着替えてから探索に行こうか」
「はいぃ!」
「風邪ひかないようにしろよ…… って罪木には余計なお世話だったかな」
先に探索に行くらしい日向クンと分かれてそれぞれのコテージに入る。
軽くシャワーを浴びながら先程の出来事を振り返ると、あの恥ずかしさを思い出して顔が紅潮するのが鏡に映った。
「うわぁ、見苦しいなもう……」
一つだけ幸いだったのは、濡れてくっきりとそこにあるのが分かるようになっていた鉄パイプの存在に2人ともが気づいていなかったことだろうか。
現在は午前9時だ。
レストランに集合していた皆は7時から8時くらいまでに探索に出発したのだろう。遅れた分きちんと探索しなければ。
「絶対薬局とかあったら罪木さんは留まるだろうしなぁ…… 図書館とかないかな……」
こういうとき、あくまで零す言葉は推測である。
断言していないのだから口に出しても勘がいいだけで終わるはずだ。どこで誰が見ているか分からないから、その対策だ。
もろもろの準備を終えてコテージから出る。
しかしまだ罪木さんは準備中のようだ。コテージの中からなにやらひっくり返すような音や小さな悲鳴と盛大に転ぶ音が聞こえてくる。
「はあ……」
私のミスも勿論あったわけだが…… まったく、探索はいつになることやら。
・男のマロンイベント
日向クンは前回頑張ったのでイベントシーンに1つ追加です。想像力をフル動員してください。
1枚絵描ければなぁ…… 水に濡れた服の絵とか、難易度高いなぁ……
技術力が追いついたら活動報告に載せるかもしれない……?
・罪木さん
マジヒロイン
・探索?
ごめんなさいまだなんだ!
今回は短いです。そして日常パート書くのが難しいのですよ…… (非日常パート書くとスラスラ進むくせにね)