かつかつ、とヒールの音がその場に響く。
モニタールームに滞在している他の5人は、暫く外と連絡をとっていた彼女の登場に視線を向けた。
そして連絡の結果よりも先に、豊かな銀髪を揺らして彼女は彼に声をかけた。
「状況はどんな感じかしら?」
「…… ううん、拮抗状態かなぁ? あっちもボクとの勝負に応じてくれているみたいだし、暫くはモノミにも頑張ってもらえそうだねぇ。防衛セキュリティは幾ら突破しても構築されてくけど、それを解くのも、ちょっと楽しくなってきちゃったよぉ…… 不謹慎かもしれないけどねぇ……」
モニターに次々と映し出されては流れて消えていく文字列から目を離さず、彼はくしゃりと笑う。
その手は止まることなく目の前にあるキーボードを叩き続けているが、どうしても人間限界はあるものである。パチリ、パチリと目を瞬かせて 「目薬お願いしてもいいかなぁ?」 とモニターを見つめていたクラスメイトに声をかけた。
「あんまり無理しないでよ? ボクは見てるだけしかできないけど、手伝いくらいはいくらでもするし……」
「ふん、お前がやれることなんてほとんどないじゃないか」
「まあ、そりゃあ…… そうだけどさ……」
そんなクラスメイト3人のやりとりを聴きながらふ、と笑った彼女は先程とった連絡内容について話しだした。
「そう…… こちらの撹乱は一応上手く行っているみたいよ。ただ、切れ者の生徒会長さんがいるから時間の問題かもしれないけれど…… でも、まだ最悪の状況ではないのよね」
その言葉に、1つのカプセルの前で祈るように佇んでいた女性がピクリと反応した。
「当たり前ですわ、あの子が頑張っていますもの。あんな風になってしまってもあの子はやはり、優しい子ですから……」
そう言って懐かしむように目を細め、彼女の後ろに垂らした三つ編みはうな垂れるように肩の前へと落ちていく。
「あの子がああなってしまったのは私の責任です。どんな手段を講じてでもあの子の居場所を探ろうとしたのがいけなかったのです…… それが、あの子を絶望させてしまうことになってしまったのですから」
自身を責めるようにエプロンドレスをきゅっと握る彼女に、同じくカプセルの前に立っていた茶髪の女性が肩を叩く。
「ほらほら、落ち込んでてもなにも出来ないって。結果的にそうなっちゃったんだとしてもさ、今はこうして会えてるんだからあんまり責めちゃだめだよ。彼女が起きたときに存分に責めてもらえばいいじゃない?」
「…… 許して、もらえるでしょうか」
「先のことは後で考えればいいよ。それは彼女次第なんだからさ…… さて、もう1回潜るよ。今度こそ気づいて貰えればいいなぁ」
犬耳のような髪をかるくかいて、彼女は壁に身を預ける。
そしてその色素の薄い目をゆっくりと閉じていき、夢の散歩へと、旅立っていった。
「お嬢様……」
彼女の見つめるモニターには、一体誰が映っているのか。
「……んぅ、う?」
壁に身を預けていたはずだが、いつの間にか彼女に膝を貸してもらっていた。額に置かれた手がひんやりとしていて心地良い。
「えっと…… ありがとう、罪木
名残惜しくも思いながらその手を退かし、礼を言う。
「…… さん……」
しかし彼女は少しだけ残念そうな顔をして呟いた。
「う…… その、まだ慣れてないから…… ちょっと恥ずかしいんだよ。だから暫くは〝 ちゃん 〟付けは勘弁してほしい…… かな」
あの時はひどく安心してしまっていて気が緩んでいたのだ。
しかしうつろちゃんや織月のようにそう簡単にはいかない。あれは付き合いが長いから…… 罪木ちゃんとは、精々数日の付き合いであるし、言い慣れしていないから暫くは心の中で呼ぶに留めるとしよう。
なぜこんなにも心を許してしまうのか。分からない。
どうしてこんなにも〝 親近感 〟を感じるのかが分からない。
同情しているのだろうか…… 「こんな私を
私にはそんな自分を受け入れてくれる人がいたけれど、罪木ちゃんにはきっといなかったのだろう。だからこそ、あの方とやらに傾倒してしまったのだ。
「そ、そうですよねぇ…… 私もいきなり名前で呼ばれるのは、その…… 慣れていないので……」
じっと見てみると残念そうなのは変わらないが、同時にほっとしていることも伝わってきた。もしかしたら、私がちゃん付けをしたら自分もそうしなくてはならなくなると思っていたのかもしれない。
確かに彼女にはさん付け以外の想像がつかないし、ついても違和感がある。
「お腹空いたよね。ちょっとだけダイナー寄ろうか」
私が話題転換にと腕時計を見ようとして宙を手が彷徨う。
そうだった。腕時計は罪木ちゃんに……
「ええと…… 狛枝さんは朝食を摂っていないんですよね。確か弐大さんや終里さんがいましたよね…… 今もいるでしょうかぁ……」
彼女がさり気なく手にした腕時計を愛おしいものに触るように撫ぜ、こちらに向ける。返してくれようとしたようだが、これは彼女に持っていて貰った方がいい。なんとなくそう思い、受け取ってから彼女の左手に付け直す。
「い、いいんですかぁ?」
控えめに聞こえたその声に微笑んで 「うん」 と言う。
「この島から出るまで、持っていて貰えるかな? その代わりに罪木さんの包帯を一巻き貰えるかな?」
そう私が言うと、不思議そうな顔をした罪木ちゃんが私の左手をチラと見て首を傾げた。
「えっと、包帯を巻くのでしたら私がしますけれど……」
「ああ、そうじゃなくてね。御守り代わりに、かな。キミって言ったら包帯かなって思って。暫くは左手に巻いたままになるだろうし、治った後も付けさせてもらうよ」
「は、はわわわ……」
罪木ちゃんは言われたことを徐々に理解していったのか、みるみるうちに頬を赤くして顔を覆ってしまった。
それから暫く綺麗な浜辺を視界の端に歩き、洞窟を抜けてダイナーへと入った。
中にはいまだすごい勢いで食事している2人がいるようだ。
「や、お2人ともさっきも見たけど食事中?」
「ふぉうーほへふらいもー」
「ガッハッハ! 一汗かいた後にシャワーでもと思ったがどうやら今は故障しておるようでのぉ! 代わりに飯にすることにしたんじゃあ!」
っと、情報だね。
日向クンじゃないから誰からこういう情報が聴けるのかは分からないんだよね。シャワー室は故障中、とメモ帳にさらりとペンを滑らせる。
「なるほど? じゃあ、あそこは入れないのかな」
「モノミが着替えも禁止と言っていたぞ! ルールと同じ扱いのようじゃから気をつけるんじゃぞぉ!」
「わ、分かりましたぁ…… ! 情報感謝いたしますぅ!」
罪木ちゃんも目をきゅっと瞑って大袈裟なお辞儀をしている。大分皆と接するのも慣れてきているのだろうか? 隠れて私のパーカーの裾を握っているが、それでも人を信用しようと頑張っているのかもしれない。
「終里さん、オススメはあるかな?」
「ん」
食べながら指差したのはメガ盛りなハンバーガーとポテトの山だ。
どうやら、ファーストフード系が多く、美味しいらしい。
なら、私はチキンも追加で頼みつつメダルを消費しますかね。スーパーマーケットの食品やホテルの食事は無料だがこういう場所の食事はどうやら無料にはならないらしい。
なぜか自動でカウンターから出てくるそれらを受け取って2人の前に座る。
それから遠慮なくほいほいとチキンを攫っていく終里さんに対抗して向こうのポテトを摘まみつつ、島の話をした。
終里さんは黙々と食べ続けているが、弐大クンはどうやらお喋りな模様。島の周辺は泳ぎながら確認していたらしいのでどこに何があるのかも知っているようだ。
しかし文字通り泳ぎながら外観を見ただけなので、外観でどのような建物か分からない場合もたまにあるそうだ。
彼が分かったのはドラッグストアと図書館。遺跡は廃墟かな?と言っている。まあ、普通あれが遺跡だとは思わないだろうね。
「ドラッグストア…… ですかぁ!」
「図書館か」
「おお! 食いつきが良いのぉ!」
やっと暇潰しできる場所ができて嬉しいんだよ。本を読むのは嫌いじゃないし、私は乱読派だからなんでも楽しめるからね。でも、距離的に先に行くのはドラッグストアだろうか。うーん、私が言うのもなんだけれど、長くなりそうだなぁ。
さしてブランドに興味のない女性でも買い物は長いけれど、それが医師の卵。それもドラッグストアなんて組み合わせじゃあどれだけかかるか分からない。
「あ、あの…… 狛枝さんは図書館が気になる…… んでしょうかぁ?」
「ん? うん、私はそうだね。でも、罪木さんはドラッグストアに行きたいんでしょ?」
これは別行動するのが1番良いのかもしれない。情報収集ならばそれぞれに合った場所に行った方がいいだろう。
「なら…… 先に図書館に行きましょうかぁ……」
あ、なんだかしょんぼりしてる。
じゃなくて、いやいやいや! なんでこの子は遠慮してこようとするのかなぁ! 献身的すぎて逆に怖いくらいだよ!
「情報収集だけなら別行動の方がいいかもしれないよ? ドラッグストアはできればキミに把握してほしいし、私は本を読むのが早いからなるべく図書館の中身を把握できるように頑張るよ。この島のこととか、外のこととか、いろいろ調べられるようにするからさ。その間は、万が一のことがないために医療関係をしっかり固めておかないとね?」
ただ別行動をしようと言うだけだと彼女は落ち込んでしまうからね。そうならないために幾つかフォローしつつ言葉を重ねてはいるけれど、それでも罪木ちゃんは残念そうだ。
一緒に調べないのは自分のそばにいたくないからなんじゃないかという視線が刺さる。
これはもう一押しした方がいいのだろうか。
「キミならすぐにでもドラッグストアの中を把握できると思うよ。そう、〝 信頼 〟してる。ああ、私の方が多分時間がかかるから終わり次第図書館に来てくれると助かるな」
「しん…… らい………… えへへ、分かりましたぁ! ドラッグストア内のお薬は錠剤で見分けられるくらいまできちんと把握しますねぇ!」
よしよし。こういう言い回しは〝 信頼 〟を盾に脅しているみたいで嫌だけれど、彼女の場合そうじゃないと納得してくれないからなぁ。
いやしかし、これはチョロすぎるのではないだろうか。この子の将来が心配である。…… 既に手遅れな気もするが。
「じゃあ、情報ありがとうね弐大クン。終里さんも」
「ん!」
「応、気をつけるんじゃぞぉ!」
結局チキンは2つしか食べられなかったな。おかしいな、6個入りのやつを頼んだはずなんだけど。まあポテトも摘めたし、お腹は満たされたから別にいいかな。
罪木ちゃんもファーストフードは健康がどうのと言いつつ、きちんと食べられたようだし十分だろう。…… どうやったら罪木ちゃんのように胸に栄養が行くのだろう。少食のようなのに不思議だ。
「近いのはドラッグストアだよね。そっちに寄ってから分かれようか」
「そ、そうですねぇ…… ふゆぅ、緊張しますぅ……」
伏せ目がちにしているが目は輝いている。
薬を目にできるのをとても楽しみにしているのだろうね。
「えへへ、これで狛枝さんの怪我を早く治せますねぇ……」
予想外の答えに目を見開く。
本当に嬉しそうに、そう言った彼女は頬を赤く染めながら無意識ながらに私の左手を取って包帯の上から傷口を優しくなぞってくる。
それはさながら心臓を撫ぜられているようで、痛まないように加減されているのが分かるのに、そのまま傷口にずぷりと指先が入ってきそうな狂気的な危うさがあった。
私は、それにぞわりとしたなにかを感じながら乾いた笑いを浮かべて誤魔化すのだ。
やはり、この献身っぷりは空恐ろしい。
メイとはまた違ったアプローチ。彼女ならきっと思っていても口に出さずに黙って手当をするだろうし、なんだか新鮮でもあり恐ろしくもある。
あまり優しくされすぎるのも心臓に悪いものだ。
「あ、あの罪木さん…… くすぐったいから……」
「あ、ご、ごめんなさぁい! つい……」
しゅんとする彼女は可愛らしいが、やっぱり恐怖心は薄れない。
それを悟られないように泡だつ肌を押さえつけ、彼女の視線をそこから逸らすように 「ほら、見えてきたよ」 と遠くを指差した。
「わぁ…… !」
上手く誤魔化されてくれたようでなによりである。
目の前には大きく、そして清潔そうなドラッグストアが建っていた。中は明るく、そして花村クンや小泉さんなどの姿がチラホラと見える。
花村クンがなにを探しているのか非常に気になるが、私がいると逃げてしまいそうなので着いていくのはやはり遠慮することにする。
「じゃあ、あっちに図書館があるようだからそっちで合流しようね。キミが来るまで私も情報収集しておくから」
「はい! なるべく早くに行けるようにしますねぇ……!」
そう言って、わりとあっさり別行動を取れた。
説得って結構大切なんだね。もう少し粘られると思っていたけれど、彼女が素直でなによりである。
手を振り合って2手に別れ、今度は1人で図書館へと向かう。
図書館にはソニアさんや十神クンがいるイメージがあるから、情報収集も案外早く終わるかもしれない。
そして時間にして20分程歩き、ようやく図書館らしき建物を見つけた。
館のような煉瓦造りでレトロな雰囲気を醸し出している。こういう外観の古い建物はイギリス辺りの綺麗な建物に似ていてなんだか好きだ。
突風が吹いたり、窓ガラスが突然割れてこないことを確認して中へと入る。
1度こういう建物の前を通ったときに、中で暴れる子供が本で窓を叩き割る場面に遭遇したことがあるのだ。十神クンやソニアさんはそんなことには絶対ならないだろうが、ソニアさんに付いて回っている左右田クンは機械弄りをし始めて暴発させそうだし、やはり注意をしておいて損はない。
「あら? 狛枝さん、起きてきたのですね」
建物の中に入ると、扉の音に気が付いてかソニアさんがこちらを振り向いた。その手の中にはなにやらパンフレットのようなものがあるので、この島のことを調べていたのだろう。
周りにはモノクマの銅像と、その下にラクガキした上で蹴落とされているウサミの銅像があるが、それらを邪魔そうに避けながら十神クンがこちらに向かってくる。
「ふん、寝坊だぞ。ここに来たからにはきっちり働いてもらうからな。そら、そっちの棚を調べておけ」
彼の手には何語かも分からない大量の本と…… お菓子の入った袋。
しっかりと袋からトングが見えるので、マナーは悪いが本を汚さないようにはしているらしい。
そんな彼が指差したのは2階部分の奥の棚だ。
「2階は手をつけてないの?」
「ああ、さすがに2人だけでは手が足りなくてな。もう1人くらいいれば捗るんだがな…… 英語以外がダメな奴らが多すぎる」
苦虫を噛み潰したような表情でそう言う彼の視線は、私が英語以外もできると確信したような真っ直ぐさがあった。勘違いかもしれないけれど。
「と言っても、私英語とドイツ語とフランス周辺の言葉しか分からないよ? ラテン系は…… あんまり旅行に行かなかったから微妙かな。英語もクイーンズ・イングリッシュとアメリカ英語くらいは見分けがつくけど、他はできれば辞書が欲しいところかな」
英語とドイツ語は医療機関にいたからメイに教えて貰っていた。他の知っている言語は基本、2人目の両親と旅行に行っている間に覚えた常用言語くらいが限界だ。
いくら〝
今度2人から各国の言語について教えてもらうのもいいかもしれないな。
「それだけ分かれば十分だ。このジャバウォック島にある蔵書の多くは英語だからな。あと多いのはスペイン語か…… ならそっちはこの辞書を使え。他に分からない言語があれば俺かソニアに訊け。分かったな?」
ふん、と鼻を鳴らして分厚い辞書を手渡してくる十神クンに笑顔で受け取る。やっぱり面倒見が良く、優しい人だな。
ともかく、これで私のやることが決まったので2階に上がるとしようか。
「じゃ、ありがたくこれは使わせてもらうね」
手を振って2階に向かう。
それから1番近い位置からざっと表紙を眺め、英語のタイトルが多いことを確認して島の情報を得られそうな本を探していく。
パンフレットや島の概要、神聖な5体の動物についての由来。ジャバウォック島周辺の海洋調査書。生体調査書。はたまた娘のイグアナに関する伝説や伝記の類まで乱雑に並べられているようだ。
また、地質調査の書類を纏めたものや自然保護区に設定された際の条約など法律関係についてもあり、島と島を繋ぐ橋の建設企画はこの〝 地質的問題 〟と〝 自然保護区認定 〟により、島の生態を著しく変化させる恐れがあるとして白紙に戻っている。
そのため、現在でも島間の行き来は連絡船を使用していると、そんなことが分かる。
つまり、この島に橋がかかっているのはおかしいということだね。
まあこの事実をどう捉えるかは皆次第だけれど、確かこの情報って下のパンフレットにもなかったっけ。
ついでに海洋調査によると周辺にはサメもいるみたいだね。いや、いたみたい、って言ったほうがいいのだろうか。モノミの〝 安全平穏な島 〟っていう言葉が嘘になってしまうからね。
先程泳いでいた弐大クンも、海の中は綺麗なもので、危険な生物はいないようだったって言っていたし。
とまあ、英語で分かるのはこのぐらいだろうか。
他にある分厚い本やらは皆単語を見た限りラテン系っぽいし、スペイン語だろうか?全部十神クンに任せるわけにはいかないし、タイトルだけ辞書で調べて気になったものだけを持って行こうか。
「ん?」
あれ、なんだか奥の棚が光ったような…… ?
いや、そんなゲームみたいなこと、この世界であるはずがないよなぁ。でもやはり、気になるものは気になるのだ。
幸いまだ見ていない棚だったし、こちらも調べてみようか。
「光って見えたのは、これか」
1冊の本を手にとってみるが、特に変わったところもない…… わけないか。
紫と淡い群青の格子模様の表紙だが、しかし、タイトルがないようだ。なんだか見覚えのあるような模様の表紙だが、なんだろうか。思い出せない。
一先ず好奇心に身を任せて表紙を開いてみる。
そこに書いてあったのは、微妙に見覚えがあるような、そんな文章だった。
『日照り猿の飼い方』
・ 日照り猿は雑食ですが、水分の多いものを食べさせるとお腹を壊すことがあります。
・ ゲージには、おかくずを敷き詰めましょう。新聞紙を細かく裂いたものでも可能です。
・ ゲージを掃除する際には、日照り猿を一度水の張った桶に移した方が良いでしょう。
・ 日照り猿は、決してつがいのまま飼ってはいけません。
・ 日照り猿は、飼い主であるあなたの行動を真似る習性があります。愛情を持って育てましょう。
・ 日照り猿が言葉を覚えたら、すぐに毒を飲ませて
「なに、これ……」
見覚えがある。しかし思い出せない。
本から目が離せなくなり、そして一定のリズムで響いていた紙の捲る音が聞こえなくなる。無音。耳に痛い程の無音。
鼓動が早くなり、頭が痛くなる。
無理矢理頭の中に誰かが押し入ってくるような、普段眠っているときならばそれもあっさり受け入れられるそれを、こうして〝起きているとき〟にされるのは受け入れ難い。
痛い、痛い、痛い。目がくらむ。ページを捲る手が、止まらない。
やだ、怖い。まだ、待って。
『ころんだら、 「脳」 すりむいちゃった』
頭の中で、誰かの囁き声が聞こえる。
誰かの笑い声が聞こえる。
ぐわんぐわんと頭が揺れて、そして思い出す。
「り、づき…… ねえさ…… ん?」
頭が痛い。やめて、無理矢理入ってこようとしないで。
待って、お願い、 もう少し待って。
「…… は、ぁ………… っ」
背中に流れる脂汗と明滅する視界、立っていられなくなり彷徨った手が何かを掴み、それに体重をかけてバランスを取る。
痛いほどの静寂に、誰かの手が後ろから肩を掴んで、反射的にその手を弾いた。
「っ、やめて!」
「お、おい大丈夫か?」
そして、弾いた手が誰のものだったかに気が付いて、傷ついたような寂しい顔をする日向クンの表情を暫し目を見開いたまま見つめる。
「狛枝、もう大丈夫ならいい加減離れろ」
静寂は打ち破られ、目の前にも誰かがいることに気が付いてそっと視線を上げる。身長差で上にある顔には眼鏡の奥底でひやりとするような視線がこちらに向けられている。
私の手はそんな彼の、十神クンの服の裾を苦し紛れに握り混んで縋り付いていた。
「えっ、あっ、ご、ごめん!」
「はあ、まったくなにをやっているんだ……」
驚きでばさりと落ちた本を目で追うと、その表紙は〝彼女〟の格子模様ではなくなっており、 『化学』 の文字が踊っている。
「元素記号、こういうのが苦手なのか?」
ああ、純粋に疑問に思って訊いてくるのはやめてよ日向クン!
まさか白昼夢を見ることになろうとは……
「元素記号と言ったら意味が分かると怖い話ですね! 暗号! 遺言! あれは素晴らしい出来です!」
「そ、ソニアさーん? 今はその話じゃないと思うんですけど…… あ、いや、嫌とかではなくてですね……」
なんだか、彼らのやり取りを聴いていると息が抜ける。
どうやら安心してしまったようだ。
「はぁ…… 大丈夫、目眩がしただけだからね……」
「体調が悪いならそうと言え。無理をする前に罪木に見てもらうんだな」
「あ、えっと…… 罪木さんとはここで待ち合わせだから、暫く下で休ませてもらうよ」
結局、十神クンやソニアさんに殆ど任せっきりになってしまった。これでは罪木ちゃんに会わせる顔がないや。
「お、おい狛枝足元気をつけろって!」
「え、あ……」
もはやお約束なのだろうか。ええ、勿論足を踏み外しましたとも。このまま一直線に突っ込めば本棚が倒れてくるおまけ付きだ。
ああ、なんというか…… ごめん、あとはよろしくね、罪木ちゃん。
そしてそのまま、物凄い衝撃と圧迫により視界は暗転していった。
・冒頭
一人称小説で三人称にする必要がある部分を入れることに抵抗を覚えましたが、あまり想像がつかなさすぎるのもどうかと思い入れることになりました。ね、ハッピーエンド前提でしょう?
さて、誰が誰でしょう?
最初に帰ってきたある人を含めてこの場には6人います。
・狛枝スペック
忘れてはいけない。彼女の頭は 「少し弄っただけで高機能ハッキング銃を弱体化改造」 したり 「モノクマの隙に付け込んで重要なヒントを捥ぎ取って」 きたり、 「自作の爆弾装置を作った」 りするヤツと全く同じスペックなのだと。
・図書館
ゆめにっき派生で図書館と言ったら?
「マージナルビビットワーカー」 と 「脳みそ擦りむいちゃった子」 ですね。プレイ済みの方なら図書館と言ったらこの2つを瞬時に思い浮かべるでしょう。私なら追加で空飛ぶ雛人形の首とまるうま(だったっけ)が思い浮かびます。
今まで誰かに呼ばれていたのは……?