ハッピーエンド至上主義()になってきている気がする今日この頃。
「ごめんね、今日は一緒に帰れないんだ」
眉を寄せて両手を胸の前で合わせて私は言う。
茶色のブレザーが風に任せて少し揺れていた。
「そ、そうですかぁ…… 残念ですぅ……」
「そんなこと言ってないでさっさと行きなよー? いちいちゲロゲロの百合なんて見せないでくれるー?」
それをあの子はとても残念そうに言って、西園寺さんはいつものようにうげぇ、と表情を顰めて辛辣なことを言うのだ。
「えー? 唯吹はそういうのむしろウェルカムなんすけど!」
「ん、はい、今日の1枚。どう? 綺麗に撮れてる?」
夕闇に沈む場所でそんなやり取りをして、皆はもう1人が到着するのを待っていた。
ゲームの内容は―― のことだから大分曲げられているのだろう。私たちは大抵玄関前でなく、予備学科の使う門の前でたむろして集団下校していたから。
そもそも、本科と予備学科は相いれず、本科生徒が予備学科に入ることはできても、予備学科生徒が本科の建物に入ることはできないのだ。
だから私たちは予備学科生に絡まれないようにしながら門の前で彼女の友人を待つことにしていた。
それでもサインだとか、CDが欲しいだとか、写真を撮ってほしいだとか、どんな風にスカウトされたのだとか、まあいろいろお願いされたり訊かれたりするのだ。
最初の方は私がいることで人除けになっていたが、人畜無害なことが分かったのか遠慮なく寄ってくるようになっている。
多分親しみやすく接しているからだろうけれど、騙されちゃダメだよ? 平和な状態だからこうなのであって、サバイバルとか人狼ゲームとかパラノイアだと生き生きと人を騙す側に回るからね。
「えっと罪木ちゃん、時間は分かってるよね?」
「はい……夜8時、ですよねぇ」
こっそりと耳打ちをしてうん、と頷く。
その日は、私にも約束があって一緒に帰ることは叶わなかった。
過去通えなかったからと通信制の高校で勉強を初めていたらしいあの子から接触があったのが1ヶ月前。
私のメイドとして正式に雇い、スカウトを受けたのは3日前。
そして来春、なぜか私の後輩として学園に入学することになったと報告を受けたのは昨日……
本名を頑なに隠していた彼女の秘密を知り、主従としてではなく―― として気安く接してほしいと言っているのにあの子は頑として譲らなかった。
今日は織月やうつろちゃんとあの子と、あともう1人の夢仲間で希望ヶ峰学園スカウトの記念でパーティをするのだ。
そのための迎えが来ているので、予備学科生の彼女を待つ余裕はない。なにせ主催として色々用意しなければならないのだから。
花村クンから色々と教わっていて助かった。
七海ちゃんは毎日彼と逢いびきと洒落込んでいるので一緒に帰ることはないし、辺古山さんは道場だし、九頭龍クンはそれに付き合っている。弐大クンや終里さんはトレーニングで毎日どこかの施設を壊している。ああ、今日は噴水が猛烈な水飛沫を上げているのが見える。
きっと水道管がなにかが破裂したんだね。学園側も直す才能持ちも大変だ。あと、いちいち確認次第叱りにいく先生も……
「じゃあまた後でね」
「は、はい…… 病院に寄っていくので少し大変ですけど、遅れないように頑張りますぅ」
「転ばないようにねー!」
「ふぇぇぇん! し、心配してもらえるなんてぇぇぇ!」
大泣きする彼女に手を振って別れる。
今日はメイド服以外の彼女を見られるのだ。なんて楽しみだろう!
「――――」
「おまたせー! さ、このまま買い物に行っちゃおうか」
前は大分悩んでいたけれど、それも先生のおかげで吹っ切れることができた。辺古山さんたちもそこら辺の事情は解決しているようだし、なんなんだろうあのチートな先生。
あの人のことは知らないから私のいなくなった世界でなにか進展があったのかもしれないけれど、知らないからこそわくわくするよね。
七海ちゃんがいる時点でもう目が点だったけど、ゲームの話で結構盛り上がった。
七海ちゃんは版権ゲーム。私はフリーゲームで意見交換しながら遊び、2人ともに知っているゲームは彼にプレイを任せて眺めることに徹する。特に彼は突出した才能がないだけで大体のことができるバランスのいい能力を持ってるからさくさく攻略してって見ていて面白いのだ。
同じ予備学科でもキャラの濃い、田中クンに負けず劣らずの〝厨二病〟患者もいた。しかも同類だったからビックリだ。
しかもあんまり才能に固執してない女の子だった。親に過剰な期待をされて入っただけな上、親を嫌っているから入寮してずっと帰っていないらしい。おかげで別に患っていた心の病も緩和され、今日も元気に勇者になったり魔王になったり吸血鬼になったりしている。
是非とも田中クンに引き合わせたい。魔王と勇者で遊び始めるかもしれないし。
ともかく、今日は同類たちとお祝いだ。さっさと買い物へ行こう。
「――」
「え、窓?」
上を見上げたとき、〝 割られた窓の隣 〟の部屋から、陶器の割れるものすごい音が響いた――
◆◇◆
沈黙が場を支配した。
始まりは、夕方にあったモノクマの放送だった。
ジャバウォック公園に集まれという言葉に皆嫌々と集まると、ゲーム機が用意されていた。
ゲームセンターにあるような箱型のゲーム機で、隣にご丁寧にも大型モニターまで用意されている。
皆でやることも想定されている今回の〝 動機 〟なのだ。
「そのゲーム機が…… 動機?」
七海さんの顔がすっごい不満そうだ。
ゲームの才能を持つ彼女にはまあ、許せないことだろう。侮辱されているようなものだもんね。
「実はね、このゲームのテーマは〝 ミッシングリンク 〟なんだ。ほら、ミステリーではお馴染みの題材でしょ? 隠された関係ってやつだよ!」
ミッシングリンク。隠された関係。
これは辺古山さんと九頭龍クンのことだろうと思う。
関係を隠している人なんて現状ではあの2人以外には思いつかないし、私の知識で該当するのはそれくらいだ。
私の人間関係なんてメイくらいしか該当者はいないし、そもそも彼女は避けているからこの島に関係あるはずがない。
「そ、それどういうことですかぁ?」
「まあまあ、気になるならほら…… やってみ!」
反応した罪木ちゃんにモノクマがどうぞどうぞ、と手をゲーム機に向ける。
「はぁい!」
「ダメだよ、断わんなきゃ! 罠なんだからさ!」
素直すぎる罪木ちゃんに小泉さんが注意する。
「つーか、それが動機になるならプレイしなけりゃいいだけじゃね?」
「ガッハッハ! その通りじゃのぉ! 弩えれぇ冴えてるじゃねーか!」
左右田クンと弐大クンは見ることに消極的だ。
でも、プレイするたびに思っていたけれど、モノクマが説明するように誰かがゲームをしてしまったらおしまいだ。
それにこれには初めてゲームクリアした人への特典があるし、原作通りに九頭龍クンが狙い撃ちにされてしまったら誰も気づけなくて、クロになる。それが誰かは別としてね。
「待って」
だから私は、皆の消極的な姿勢を変えてみようと思った。
死ぬか生きるかにおいて皆が見ない選択をするのならば、私はきっと見るだろう。内容を知っていたとしてもだ。だけれど誰がいつ、どんな思いでゲームを見るのかは分からない。
ならば、少しでも生存確率を上げるには全員で警戒し合える方に賭けたほうがよっぽどいい。
イレギュラーがないとも限らないし、警戒できなければ防ぐこともできないのだから。
「ああ、見ない方向で決めるのは軽率だ」
私が何かを言う前に十神クンが口を出した。
「……」
「……ふん」
一瞬だけ交差した目線で彼が私と同じ考えを持っていることに気がつき、頷く。
なぜこんなにも以心伝心なのか分からないが話しやすいのは確かなので流れに乗ることにしよう。
「あのさ、皆が約束を守って見ない…… なんて果たして言い切ることができるのかな?」
「お、おい狛枝! なに言ってんだよ!」
焦って日向クンが私の話を止めようとするが、今回十神クンは私の味方なので話は強引にでも続けることにしよう。
「言えるよ…… 皆のこと、信じてるもん」
七海さんが頬を膨らませて抗議してくる。
あーあ、主人公とヒロインにこうも反撃されるとやり辛いね。まるで皆を悪い方向へ誘導しようとする悪役みたいじゃないか。
ま、そんなの私の知ったこっちゃないけどね。
「……信じる。信じるって素敵な言葉だよね? でもさ、無条件で信じるなんて言ってもそれは信じることの放棄だよ。ただ先延ばしにしているだけ…… 信じたいのなら疑わなくちゃいけないんだ」
裁判のときのように手を大きく広げて演技調の態度。
本当は〝 信じたいから疑う 〟って言葉は七海さんの受け売りなんだけど、今はまだそう思えるほどの意識はないのかな?
心の片隅でそう思いつつ、声は大きく、尊大に、目は細めて恐怖を煽るように。意味深な雰囲気を醸し出して皆の反感をわざと買う。
そうすることで十神クンがやりやすいならば私はいくらでも悪役になってあげる。
皆を納得させるように、精々上手くやってよね。
そういった意味で目線を送り喉の奥でくつくつと笑う。
また伝わった。
「お前たちは月の裏側に兎がいるという言葉を信じるか?」
現実主義の十神クンが言った言葉に、にわかに皆が騒ぎ出す。
「まあ! あのお話は本当だったのですか! 十神さんは見たことがあるのでしょうか! 気になります!」
「ふっ、その話は機密事項になっているのではなかったか? 人間どもに知られてはいけないことだろう?」
真っ先に反応したのは、目をキラキラと輝かせたソニアさんと厨二病全開な田中クンだ。まあ、予想はついていたから別にいいけれど。
「待て待て! なんでそんな話に飛躍してるんだよ! 意味分かんねーって!」
「はー? そんなもんいるわけないじゃーん! 月に兎ってのは風流の話で、実際にいるわけじゃないしー」
うん、左右田クンと西園寺さんの言葉の方が大多数の人は同意するだろう。そんなオカルトめいたお話は普通信じられない。
でも、だからこそ〝 ある 〟ことと〝 ない 〟ことのお話にはもってこいなのだ。
「ふん、ただの例え話だというのに大袈裟な……」
「皆はさ、〝 悪魔の証明 〟って知ってるかな?」
交互に話を進めていく。
そうすることで信用が地に落ちている私の話も受け入れられやすくなるのだ。
「これは哲学の話で、まあいわゆる屁理屈みたいなものだし、この話を使えば〝 存在しないもの 〟がなくなっちゃうわけだけど……」
「お前たち愚民にも分かるように簡単に説明してやろう」
私は回りくどく分かりづらい言葉で説明しているので自然と十神クンへと視線が集まる。
モノクマは飽きたのか懐から別のゲームを取り出して隅っこに座っている。憎たらしい。
「もう1度、今度は狛枝に聞こうか。月の裏側に兎がいるかどうかを知るためにはなにが必要だ?」
「実際に確かめているかどうかを証明する。それしかないよね?」
単純に兎がいるか、いないか、どちらか片方を証明することができればいいわけだ。
「悪魔の証明とは、つまり〝 ないことを説明するより、あることを説明するほうがより良い 〟という話を表現したものだ」
〝 ある 〟ことを積極的事実。〝 ない 〟ことを消極的事実と表し、事実の有無を立証するには積極的事実を証明させるほうがより妥当であるという哲学の話だよ。
「たとえば、モノクマはモノクマという生物であり、この世界のどこかにもしかしたら群れで生息しているかもしれないって…… ほら、嘘だっていうなら〝 生物として存在しない 〟って証拠を出してみなよ?」
茶化しながらそう言うと、モノクマが唐突に 「ドッキーン!」 と言いながら 「っふ、野生の血が騒ぐぜ」 などと口走り始めた。
大丈夫、私は信じてないし。ただの例え話だから。
「いる、いないの真意が曖昧な話によく出される証明だ。そうだな…… アイルランドに蚊はいない…… では想像し辛いか」
「北海道にゴキブリがいないって話は?」
私がそう言うと、澪田さんが 「いきなり分かりやすくなったっす!」 と声をあげた。
「ふん…… では〝 北海道にゴキブリがいない 〟ことを証明するのに必要なのはなんだ?」
「北海道全域を調べるとかか?」
日向クンが困惑の表情を見せている。
「調べたところで本当にいないって断言できるの? もしかしたら1匹だけいて、移動してるから見つからないだけかもしれないし、調査漏れがあるのかもしれないよ? 本当に証明するなら、全ての箇所で同時に調べないといけないよね? 現実的に無理なんじゃない?」
にやにやと笑って嘲る。
ちょっと楽しくなってきた。
「逆に、いることを証明するのはもっと簡単だ。調査中に1匹でも見つけることができればそれでクリアだからな。だからいることよりいないことを証明するのは不可能だ」
「つまりなにが言いたいのよ?」
一見関係のない話だからこそ小泉さんが顔を顰める。
でも、だ。これは必要な話しなのだ。
「ねえ、〝 自分はゲームをしてない 〟って証明できるはずないのに、本当にしないの?」
それが私たちの言いたかったこと。
ゲームをしていないかを証明するには24時間一睡もせず、尚且つ全員がこの場にい続けて互いの無実を証明し続けるしかないのだ。
そんなの無理に決まっている。ならばいっそ全員で内容を把握して対策に務めた方が良い。そういうことだ。
「すごいなぁ、皆一睡もしないで互いを監視し続けることができるの? 私にはとてもできないや」
「おい、さすがに白々しいぞ」
ヘンペルのカラス理論だと数学の考え方が混じってくるし色々と複雑だから利用しない。そもそも実行できないし。ともかく今は〝 ないことの証明は不可能である 〟ということが分かればいいんだから。
「……」
そうそう、そうやって不安に思う気持ちは大切だ。なぜならその気持ちが私たちの言葉の後押しになるんだからね。
「見た、見てないって主張するだけじゃあ平行線になるし、本当に見てないのかも証明できないなら、全員で見ちゃって対策を講じるほうが現実的だと思わない? ほら、リーダー様もそう言ってるし」
我ながら胡散臭いね。
「まあ、反対されてもお前たちの反応を見る限りだと強行したほうがよさそうだ。そんなに疑心暗鬼になられていたらなにが起こるか分からないからな」
疑心暗鬼にさせたのは私たちだけどね。
この十神クンなんだか黒いなと思いつつ、だけれどそれもいいかもしれないと思い始めている私がいる。澪田さんの言ったように、太ってなければ惚れていたかもしれない。別に太っているのが悪いわけじゃないけどね?
「でー? 結局見るのー? 見ないのー?」
モノクマがものすごくつまらなそうにしている。ざまあみろ。
「…… 分かった」
相変わらず決断が早いね、日向クン。
そうしてプレイヤーは七海さんが担当し、私たちはイレギュラー混じりのトワイライトシンドローム殺人事件を見ることになったのだ。
その中では私も出演していて、そして私の知らないもう一人の出演者も出ていた。私を迎えに来ていたあの人は誰だろうか。
クリア特典を見て騒ぐ九頭龍クンや、他の皆の声が段々遠のいていく。ああ、見ることをノリノリで勧めたのは私だというのに、なぜここまで心を揺さぶられなければならないのか。
なぜ私は、この動機に自分が含まれないと、思っていたのだろうか。
イレギュラーが起こることは予想していたのに、どうして私は想定していなかったんだ?
しかし、なぜ、スタッフロールに〝コマエダ〟の文字が2つ並んでいたのだろうか。
私には、分からなかった。
あの子の名前は最初から決めていたし、絶対絶望〇〇でヒントは出ていたし…… 同類だけの集まりなのにあの子が遅れて来るのも意味があるのですよね。
それと、アニメではうやむやなトワイライト事件でしたが、この小説ではある程度ゲームに沿ってます。具体的に言うと、小泉さんが友人とご飯を食べるためお昼に抜けるので皆でついていった結果下校も一緒に…… という感じ。
多分あのゲームは動機を発生させるために嘘でない範囲で適当に作られてるんだろうなぁ。
うろつきとうそつきと、あの子と、あともう1人の厨二病患者だけはここで言うと『夢、所詮妄想』のかみつきちゃんです。可愛いよね、彼女。え、エンディング前のステータス?
だってあれは部屋に引きこもった彼女の行く未来ですよ。その部屋から脱出して入寮という形で逃げているのでああはならないんじゃないかなぁ。
気になる人は短いし、プレイするかプレイ動画を見ることを進めますよ!