錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 他人に変わってほしければ、自ら率先して変化の原動力となるべきだ 〟




No.20 『拮抗』ー決断ー

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 

 

 

 もう、2人とも手紙を受け取っただろうか。

 自室でくつろぎながら、私はポストに入っていた手紙を弄んで、そっと溜息を吐いた。

 カチ、コチ、と無機質に鳴る時計の音が静かな部屋に満ちる。コテージ周辺には誰もいないのか、部屋だけではなくこの世界に1人だけ取り残されたような……そんな錯覚を覚えてしまうくらいに静かだ。

 片方の手をついたベッドのシーツがクシャリと皺を作る。

 

「3時にチャンドラビーチのビーチハウス、ね」

 

 小泉さんが呼び出されるのは何時だったか。

 学級裁判の内容もストーリーも覚えてはいるが、詳しい時間などは失念してしまっている。プレイ中も気にしたりはしなかったからな。

 基本的にメダルを集めるために1章と、生前は好きだった黒幕の台詞を聴きたいがために6章を回すくらいだったのだ。

 記憶自体は焼き付いて離れないので皆の好みや展開、台詞などはまったく問題ないが、証拠品の内容のようなかなり細かい部分は少し怪しい。

 

「今日、かぁ……あああー、昨日は忘れてたのになぁ……」

 

 昨日はあまりにも平和すぎて実感が湧かなかった。

 ゲーム初心者の罪木ちゃんに七海さんとゲームの楽しさを教えたり、終里さんとアイス巡りをしたり、弐大クンと日向クンと体力をつけるために特訓したり、弐大クンの〝 アレ 〟を受けて虜になってしまいそうになったり、女子で海水浴をする約束をしたり……

 思わずとろけてしまいそうで、そして素晴らしい日常は今日、終わりを告げるのだろうか。

少なくとも、誰かが止めに入ったりしなければ彼女は止まらないだろう。いや、もしかしたら止めに入られても止まらないかもしれない。

 彼女は他の皆とは違い、〝 今 〟の記憶の時点で既に人を殺したことがあるはずだ。私の過剰防衛とは違い、全ては大切な人のために。

 

〝 私は―― お嬢様、人を殺めてしまったのです 〟

 

 思い出すのは、やはり私の大切な人の声。私が赦した行い。そして、見て見ぬ振りをした罪。

 重ねてしまう、どうしても。それが2人ともに失礼なことだと分かっていてもだ。

 

「私は……」

 

手紙に書かれた文字は見つめていてもなにも変わらない。分かりきったことを再確認して私は時計へと視線を移した。

 そして、時計に刻まれる午後2時の文字をじっと見つめながら昨日の提案を思い返していくのだ。

 

「みなさんで親睦を深めるために海水浴などいかがでしょうか?」

 

 ソニアさんの提案で翌日、ようは今日の夕方行われることになった海水浴。あのときのメンバーはゲームで見た不穏な疑心暗鬼を払拭し、気分転換には最適だと大手を振って賛成したのだ。

 

「あ、あのね、アタシちょっと体調悪くて…… 今日は部屋で休んでいようと思うの」

「私泳げなーい! だから精々楽しんでくれば?私牧場でありたん潰してるからさー!」

 

 だけれど、普段はこういうイベントに積極的に参加しそうな小泉さんが断り、次いで西園寺さんも断ったことで、ああ避けられないのだなと諦観を覚える。

 

「えっと、私はほら、怪我があるし…… 用事もあるから今回はパスするよ」

 

 当然、私も断るしかなかった。

 そう、翌日……つまり今日は彼女が殺される日。

 そして、そんな中に1つだけ投入されたイレギュラー。

 

 私が受け取った手紙は何度見ても3時指定だ。

 

「…… そろそろ、行こうかな」

 

 自由行動にも出ずに1人、部屋で手紙を眺めていた私は意を決して現場へ行くことにした。

 しっかりと手に馴染む伸縮式鉄パイプを流れるように太腿のホルダーへと通し、いつものコートを羽織る。左手は相変わらず包帯に覆われたままだが、なんとかなるだろうか。

 大丈夫、殺されるくらいなら殺せばいい。

 大丈夫、怖いのなら見逃せばいい。

 そうやってざわつく心を落ち着けて深呼吸する。

 なんで私、わざわざ殺害現場なんかにのこのこと行こうとしてるんだろう?そんな疑問が首をもたげて私に覆いかぶさるが、答えは1つしかない。

 

 〝 坊ちゃん 〟

 

 彼女のせいだ。彼のせいだ。

 あの2人の関係性を改めて認識しなければきっとこんなに悩まなかった。こんなに息苦しい思いをすることもなかったのに。以前の自分ならば絶対にやらないことをしてしまおうとするほどに、あの言葉は私を内側からゆっくりと壊していく。

 私が死なないなら、別に誰が死のうと知ったこっちゃない…… はずなのにどうしてこんなに苦しい?

 長年かけて築かれてきた砦が内側からボロボロに溶けていく気がする。ああ、なんて気持ち悪い。

 

「……」

 

 眉をしかめて手紙をぐしゃりと握りつぶす。

 これにもう用はない。丁寧な字で書かれたそれをゴミ箱に投げ入れて時計を確認した。

 もう行かなくては。後悔がやってくる前に。

 

 静かにコテージから抜け出て、不思議と誰ともすれ違うことなく第2の島へと向かう。きっと皆海水浴の準備中なのだろう。

 これがなければ皆の水着姿を是非拝みたかった。私も、新入荷された水着を買って泳ぎたかった。きっと怪我にしみるけれど。

 そんな小さな後悔だらけで重い足を引きずる。

 人生にはなにがあっても、そう、死があったとしても続きがある。

それを知ってしまった私はしかし、もう2度と死ぬ恐怖を味わいたくなくて現実から逃げ出した。

 たとえば、私と同じような立場の人がいたとして、その人が心の強い人なら道筋を辿りながら全員を救おうと思うのも当然のことだろうと思う。

 生前の私ならば間違いなく、迷いなく皆を死なせないように努力しようとできただろう。でもだめだ。だめなのだ。

 頭上に落ちてくる死。瞬間的な痛み、骨が押しつぶされる感触、そして心の中が死にたくないという恐怖一色に染まり上がる感覚。

 いつだって鮮明に思い出せてしまうあの恐怖を味わいたくない。

 思い出すだけでぶるりと震える体は正直だ。

 

 それでも、今私はその恐怖に向かって歩いている。

 異常だ。異質だ。狂ってしまったんじゃないかと自分自身さえ信じることができない。

 それもこれも、全部全部彼女のせいだ。

 責任転嫁などということは分かっている。でも私を狂わせたのはあの一言が原因であることは間違いない。

 

 聞かなければよかった。

 知らなければよかった。

 そうすればきっと、もっと楽だったろうに。

 

 変わるのが怖い。変わっていく自分が怖い。その先になにが待っているのかと考えるだけで恐ろしい。

 もしかしたら屈辱の死が与えられるかもしれない。もしかしたら無念の死になるかもしれない。

 

 そんなもの、受け入れたくない。だから、発想を転換する。

 これは、この歩みは彼女たちのためなんかではない。殺される彼女でも、殺す彼女でも、取り残される彼でもなく、そう、自分のためなのだ。

 この先、彼が成長することは知っている。だが、足並みが揃っている今、それを崩されてしまえば一気に絶望側へと落ちていく。タガが外れ堰を切った小さな殺意は増幅していき、爆発する。

 そうなっては誰が誰に殺意を向けるのかなんて、予想すらできないのだ。それは困る。万が一私にそれが向けられたら困ってしまう。だから自己満足に行動して、勝手に平穏を掴もうとしている。

 ―― ほら、間違いなく私のためじゃないか。

 だからなにも心配することはない。私は変わってなんかいない。変わってなどやるものか。そうやって自己暗示をする。

 

 大丈夫。怖くなったら引き返せばいいのだから。

 

 ビーチハウスの前に着き、時計を確認する。

 2時55分。

 怒鳴り声が聞こえるのでまだ中に3人はおり、そして事件も起こっていないらしい。

 

「この女は、この写真に写ってる血塗れの女は俺の妹なんだよ…… おい、だから本当のことを話せよ!」

 

 ゲームのクリア特典の話だろう。

 ゲームを最初にクリアしたものには特典が1つ配られるのだ。

 だけれど全員でクリアしたので皆その内容は知っている。罪木さん、澪田さん、西園寺さんなどがどこかの玄関前で撮影されたと思われる写真。これは希望ヶ峰学園の制服を着た3人が写っていたので恐らく小泉さん撮影だ。

 そして、もう1枚は金髪の女の子が血塗れになっている写真。床も大きく映され、倒れた水槽と撒き散らされた砂利がしっかりと写っている。窓の下もかろうじて見えるので、ゲームの証拠品としては完璧な代物だ。記憶と少し写真の内容が違う気がするがそこはあれだ、いわゆる1つのバタフライエフェクトとやらだろう…… 多分。

 ともかく、その写真に九頭龍クンは酷く動揺していたのを覚えている。

 私もそのとき、2度現れた〝 コマエダ 〟の文字に大分動揺していたため詳しくは覚えていないが、あのときは九頭龍クンも一旦頭を冷やして怒鳴りつけはしなかったはずだ。

 だからこそ、わざわざ事件の関係者である私たちを1対1で尋問しているのだろう。

 

「あんたの…… 妹…… ?」

 

 ビーチハウスのトンネル側にある裏口に軽く耳を押し当て、中の様子を探る。震える小泉さんの声がよく聞こえる。どうやら防音性は特にないようで安心した。

 

「そうだ……なあ、なんでオレの妹が写ってんだよ…… なんであいつが血塗れなんだよ…… 説明しろ…… こんな写真偽物だよな…… ? なんでこんなもんが…… 記憶のねぇ2年間になにがあったって言うんだよ!」

「だ、だから知らないって! 記憶がないんだよ? あんたもそうでしょ!?」

 

 聞き耳を立てる必要もなく既に会話が漏れ聞こえている。

 私は、中にいるであろう辺古山さんに気づかれないよう息を殺し、なるべく敵意を持たないように意識をしながら動かずに徹した。

 

「この写真はテメーが撮ったってモノクマが言ってただろーが!」

「そんなの知らないわよ!」

「テメー知ってて証拠を隠滅したんだろ!?」

 

 ヒートアップしていく口論にしかし、いるはずの辺古山さんは反応しない。もしかしたら、クローゼットにでも隠れているのだろうか? いるのが分かっていれば小泉さんもなんかしら反応を示すだろうし。

 

「あんた、ほんっとう最低ね……」

 

 吐き捨てるように小泉さんが言った。

 

「んだと?」

「っ、確かに! …… この写真は、アタシがあえて外したアプローチに似てる…… この写真は人物を追ってない、状況を押さえてるだけ…… 多分、状況証拠とか、説明のために撮ったんだと思う……」

 

 泣きそうな声で言う彼女は、苦しげに言う。

 

「あんたの妹さんを殺した犯人を、見つけるためにした、んだと思う……」

 

 そうは言うが、ゲーム内での彼女は友達のためにその証拠写真を隠滅したのだ。彼が信じようはずもない。

 

「なに言ってんだ」

「写真家、だもん。自分の撮った写真の意味くらい、分かるわよ……」

「でも、それをしなかったのはテメーだろうが! 結局証拠隠滅して、犯人を庇って! 信用できるわけねーだろ!」

「っ、あいつの作ったゲームなんて信用しちゃダメ! …… 最初の方に十神も、凪ちゃんも言ってたでしょ? あんたはアタシたちよりも黒幕を信じるの? 信頼しろなんて言わないわよ! でも、少しくらい考えてくれたっていいじゃない……」

「……」

 

 あれ、もしかして丸く収まりかけてるのかな?

 そう、思ったときだった。バタンと、クローゼットを開く音が聞こえた。

 

 同時に、反射的に体が動くのを、私は止めることができなかった。

 

「ペコ!?」

「え?や、やあぁぁぁぁ!?」

 

 扉を蹴り開けて素早く滑り込むと、ちょうど辺古山さんが金属バットを振り上げたところだった。

 その意図を察した九頭龍クンが叫び、辺古山さんの殺意に気づいてしまった小泉さんは悲鳴を上げてしゃがみこむ。

 そして、私に感じられるもの全てがスロウになっていき、考える暇もなく駆け出していた。

 

 1歩進む。

 

 辺古山さんがこちらに気づき、驚いたのか一瞬動きを止める。

 

 1歩進む。

 

 私は捲れ上がったスカートの下から鉄パイプを手にし、下に振るうようにして縮めていたそれを思い切り引き伸ばす。

 

 1歩進む。

 

 再び辺古山さんの視線が小泉さんへと向けられる。

 振り下ろされる金属バットが風を切る音がした。

 

 ダンッ、と踏み込んだ足が床を軋ませる。

 

 なにが私を動かしたのか…… そんなもの分からない。

 ただ、あえて言うのなら体が勝手に動いていた。

 だからこそ、私はこの恐怖に立ち向かっていったのだろうか。変化する自分を思考の中では認められないまま、小泉さんと辺古山さんの間に割り込む。

 

「狛枝、なぜ止める?」

「ペコォ!馬鹿、なにやってるんだよ!」

 

 盛大な金属音を鳴らしながら2つの武器が拮抗する。

 当然、受け手であるこちらはあちらよりも力が必要だ。火事場の馬鹿力でも出ていなければきっとあっさり押し切られて殺されていただろう。現に、火事場の馬鹿力が出ている今の状態でも額に鉄パイプが当たってすごい音を立てた。

 じりじりと両手で持った鉄パイプがさらに押され、血が流れてくる。今更のように左手がズキズキと痛み、包帯が赤く染まっていく。

 しかし退くことはできない。

 

「聴いちゃったんだ、キミたちの会話」

「なに?」

 

 拮抗したまま会話に興じる余裕があるとはさすがだな。

 私なんて今にも殺されそうで焦っているというのに。

 

「な、凪ちゃん……」

 

 軽く横目で見てみると、小泉さんは泣いていた。

 あまりの衝撃に膝をついてしまった私を、後ろから彼女が支えてくれている。脇腹からお腹に回された手が、妙に暖かい。

 

「〝 坊ちゃん 〟」

 

 そう私が言うと、動揺した彼女の力が、一瞬緩まる。が、すぐに先ほどよりも強い力でこちらを押してきた。

 さすが、暗殺をしていただけはある。殺すことに躊躇はないようだ。

 

「目撃されたからには、もうお前のことも見逃すことはできない」

「…… 小泉さん、逃げなよ」

「え、待って、待って、坊ちゃんって? な、なんでペコちゃんが? な、凪ちゃんのこと置いて行けるわけないでしょ!?」

 

 せっかく逃してあげようってのに。

 それに、彼女が逃げてくれなくちゃ私が死んじゃうかもしれないじゃないか。

 

「私を殺したくないのなら、逃げて人を呼びなよ…… もう、皆が海水浴に来る時間が近いんじゃない?」

「凪ちゃ…… ん、分かった」

 

 抱きしめられた手が離れていく。

 

「ペコ、やめろって!」

 

 九頭龍クンが彼女の手を抑えているおかげで逃げていく小泉さんは安全だ。

 彼が殺意のようなものを持っていたのは確かに感じたが、それは既に霧散しているようだ。

 しかし、少しはマシになっているが、もはや私の手の感覚は死んでいる。

 最初に支えきれず、額に擦り付けられた鉄パイプが金属特有の嫌な音をあげながら軋む。視界の端で、擦られた額からたくさん血が流れていくのが見えた。さっきよりも酷い。これは大怪我だな。

 

「ねえ九頭龍クン。彼女を早く止めないと、彼女死んじゃうんだよ?早く命令しなよ。やめろって。そうしないと、彼女止まらないよ?」

「な…… なんでテメーそんなこと知ってんだよ…… ! おかしいだろ!?」

 

 混乱しているところ悪いけど、早くしてくれないかな?

 痛い。痛い痛い痛い。

 このままだとまずいって。

 

「ぐ、ぅ…… く、分かるよ、キミの気持ち…… だって一緒だから」

「…… 坊ちゃん、惑わされないでください」

 

 小泉さんは逃げたのだから、私を殺したとしても彼女の生存は絶望的だ。だが、その方が彼女にとって都合がいいのかもしれない。

 だって彼女の目的は、九頭龍クンをクロと言い張って生き残って外に出てもらうことなんだから。彼女が犯人だと分かっていたほうがかえってその計画は実りやすい。

 

「キミたちの呼称から、すると、主従なんでしょ? ほら、私と一緒」

 

 だから、私が生きるためには全力で言いくるめるしかない。

 

「私もね、自分の…… メイドさんが、いるんだよ? これでも大病院の娘だもんね…… だから」

 

 目に血が入りそうだ。でも拭うわけにはいかない。

 喋っていると力が抜けてしまいそうだ。

 

「私は、きっとあの子が死んだらきっと立ち直れない。それは九頭龍クンも同じだと、思う……」

「……」

「坊ちゃん、聴いてはなりません!」

「っ…… 私はっ! キミたちの会話を聴いてからずっと、辺古山さんのことをあの子に重ねて見てた…… ! 私のことをお嬢様って呼んでくれる、あの子に! だから私は知ってるんだ。離れ離れになっていいことなんてない。キミたちにはっ、離れる理由なんてないはずでしょ!?」

 

 いつの間にか、血とは別に、頬に暖かいなにかが流れ落ちていく。

 ああそうか、私は離れたくなかったんだ。だから一緒にいられて、尚且つ関係のやり直しをしようとしてた九頭龍クンが、羨ましかったんだ。

 

「私の幸運は大切な人が死んでいく…… だから私はあの子を遠ざけるしかなかった…… ! キミたちには、そんな障害ないはずでしょう? なのになんで積極的に離れようとするんだよ!」

 

 私はあの子を殺さないために離れる選択肢しか選べなかったけれど、彼らには別の選択肢がある。それが、羨ましかったんだ。

 そんな選択肢があるのに、それを選ぼうとしない彼女に、きっと私は変わって欲しかった。

 

「羨ましいよ! 私はあの子を避けるしか方法がなかったのに、キミたちは一緒にいられる! なのになんですれ違ってるんだよ! どうして大切な人を見殺しにしようとしてんだよ!? …… だから命令しなよっ、そうしないと止まらないなら、ねえ、九頭龍クン!」

 

 人に変わってもらうためには、きっと自分が変わらなくちゃいけないんだね。

 手に滲む汗が鉄パイプを滑らす。金属バットの力は随分と緩まっていた。

 

「ペコ、やめろ」

「坊ちゃん………… それは、命令ですか?」

 

 静かに彼女が言った。

 

「いいや違う。これは命令じゃねぇ」

 

 ああ、彼女自身の意思で選ばせたいのね。

 まったく、頑固な彼女はこれで動いてくれるかな? そろそろ意識が飛びそうなんだけど。

 柄にもなく必死に叫んじゃったりしてるから、体力のない私にとっては辛い。火事場の馬鹿力もそう長く続くもんじゃないしね。

 

「……」

「ペコ」

 

 静かに九頭龍クンがその名前を呼ぶ。

 そして、金属バットをだらりと垂らし、俯いた彼女が震える声を漏らしながら1歩、2歩と下がる。

 

「…… あなたを、無事に島の外へと…… それが私という道具の使命だと、そう、私は……」

「違うっ!」

 

 そんな彼女の正面に立ち、九頭龍クンが真っ直ぐとその視線を合わせて彼女を揺さぶる。

 そう、私は気づかせるだけでよかった。

 最後には自分の手で、自分自身の意思で前に進む。だからこれでいい。2人は2人の意思で未来を作るんだ。

 

「ずっと言ってただろっ…… オレは、道具としてじゃない、お前自身を必要としてるんだって!」

「ぼっ、ちゃん……」

 

 ああ、眩しいな。

 なんで私は、こうなれなかったんだろう。

カラン、と血に塗れた鉄パイプが手から滑り落ちる。

 膝立ちで支えていた体は力が抜け、ペタンと床に座り込むことになった。

 そうだ、この2人の、こんな関係が、見たかったんだ。

 この世界の外側から見ていたときに望んだ光景がここにある。

 どうでもいいと切り捨てていた希望がここにある。

 私が諦めていたものがこんなにも近い場所でキラキラと輝いている。これが希望? いや、それとも未来?そんな言葉で言い表せない〝 輝き 〟が羨ましい。

 

 あえていうのならそれは、〝 羨望 〟か〝 渇望 〟の現れだろうか。

 希望のように大袈裟じゃなくて、もっと俗っぽい望み。それが、それこそが私の心に溢れている言葉だ。

 

 私も、メイとこうなれたのかな?

 今からでも遅くはないだろうか。

 変わるのは怖い。怖いけれど、変わって輝く彼らを見たらそれも薄れていくような気がした。

 

「メイ…… メイは、私を許してくれるかな」

 

 小泉さんがダイナーから人を呼んで来たのだろう。

 次々となだれ込むようにして入る人波を眺め、私を泣きながら抱きしめる罪木ちゃんと小泉さんの肩に頭を預ける。

 病院を所望する罪木ちゃんの声と、それに応えるように現れたモノミに、安心した私はゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 章タイトルの通り、全ては自己満足に進み、自己満足に終わります。

 変化とは怖いものです。しかし全ては移ろい、そうして進んで行きます。それは無情で残酷なほどに平等です。優しさすらあるかもしれません。
 変化を恐れるか、遅れることを恐れるか、それともただ愚直に進むか、どれを選ぶのかは当事者次第。ですが、後悔だけはしたくないものです。

・周回プレイ
 効率的なのはずっと1章回る方法ですね。私はストーリーを見たいがために3〜5章を回ることが多いです。6章? ロジカルダイブ…… 初ゲームオーバー…… うっ、頭が!

・写真
 2の舞台台詞を引用していますね。写真家らしい発言が気に入っているので、会話はゲームのほうじゃなくそちらに沿うようにしてみました。気になる人は舞台のDVD買おうね! (ダイマ)

・拮抗
 究極の生存本能と、火事場の馬鹿力がなければ恐らく頭をかち割られて死んでいたでしょう。剣道家であり、暗殺者である彼女を相手にして受け手に回って無事で済むわけがない。

・成長?
 悩んで迷って、ときには現実逃避をしながら言い訳だらけで前に進みます。情けなくとも、それが人間というものですよね。

 苗木は引きずり歩き、日向は這いつくばってでも進み、そして宗方が踏み越えて進むのなら、凪は背を押されながらゆっくり進む。そんな感じでしょうか。
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