錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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クリスマス 「九頭龍 辺古山 日向」

 ウサミ先生が旅行に来た日にちを教えてくれるのは、なぜだろう。

 確か11月の半ばくらいが今回のスタートだったか。

 今回の、と私が言っているのはこれがアイランドモードであるがゆえに、何度も周回しているんじゃないかと考えているからだ。記憶は勿論ない。私にとっては今回が1回目だ。だが、季節を考えるとありえないと感じるのだ。

 ウサミ先生は 「学園周辺は今寒いでちゅから、暖かい気候のこの島に旅行しに来たんでちゅよ!」 と説明していたし、確かにそのような実感がある。

 皆とある程度親しくなっているのも、初対面ではないと認識できるのもそのせいだろう。だが、学園での記憶は一向に思い出せる気配がない。

 皆そのことに違和感を覚えているはずだが、誰1人として疑問を浮かばない。あの十神クンですら…… だから、このことを知っているのはきっと私1人。いや、もしかしたら日向クンなら分かっているかもしれない。でもそれを確かめる術はない。

 

 まあ、それはともかくとして修学旅行は50日間。

 12月に入って折り返し地点に入った今日、課題達成のためにマーケットで資源探しをしていたときのことだ。

 辺古山さんと2人で必要な乾電池や水、接着剤などの種類を的確に揃えながら静かに作業をしていた。

 豪語してしまったこともあり、普段は掃除が多く、たまに課題に必要な物を集めるときも、こうして比較的体力を使わないような場所を指定してくれる日向クンには感謝しかない。

 スケジュール管理があまりにも完璧なために、今や第2のリーダー扱いだ。

 

 さて、暫く静かに作業していたが、真面目な2人でやっていたためか思ったよりも早く終了してしまった。

 そこで私がマーケット内で自由にしていればいいと提案したとき、辺古山さんは少し躊躇ってから話を切り出したのだ。

 

「少し、相談してもいいか?」

「勿論だよ」

 

 それは見事な即答だった。反射的と言っても良いかもしれない。

 

「狛枝…… 手芸や洋裁はできるか…… ?」

 

 躊躇いがちに訊かれた言葉に面食らって首を傾げる。

 

「できるよ? もしかして、辺古山さんもやるの?」

「いや、やったことすらない…… しかし、ほら、もう12月だろう?」

「そうだね」

 

 なんとなく話を察した私は先に必要なメダルの数を頭の片隅で計算し始める。ウサミ先生に直談判してみることも念頭に入れつつだ。

 

「坊ちゃんにプレゼントをしたいのだ。この島の気候は暖かいが、本土に戻ったときはきっと寒いだろう? だから、クリスマスにでも暖かいマフラーや手袋を差し上げたいと思っているのだ。協力…… してくれないか?」

 

 勿論です。というかむしろ協力させてください!

 なんだよその可愛い動機は!

 思わず緩んでくる表情を隠しきれずに明るく 「断るわけないでしょ?」 と笑った。

 

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 

 

 

 

 12月24日のことだ。

 

「おい狛枝…… ちょっといいか?」

 

 お昼を済ませて外に出ると、なんだかそわそわしている九頭龍クンに呼び止められた。

 皆に関係がバレて以来、辺古山さんと一緒にいないのは大変珍しいことなので私が驚くと、素早く近くの旧館へと押し込まれてしまった。

 

「なにか用かな?」

 

 ま、まさかそんな展開が!? 辺古山さんというものがありながら!? ということは冗談でも言えないので、心の中だけで叫んでおく。彼に限ってそんなことはありえないと断言できるから。

 

「あー、なんていうかよ…… その、前にペコが作ってきたかりんとう、テメーが教えてやったんだろ?」

 

 めちゃめちゃ言いにくそうに、だがそわそわと落ち着きなく目を泳がせながら話す彼は常より可愛らしさが出てきている。こんなことを言ったら怒られちゃうかな。

 まあ、怒られるだけで済むのは仲が良いってことだから、悪くはないけど。

 

「そうだね。辺古山さんったら健気なんだから、キミが羨ましいくらいだよ。今日も…… あ、いや、なんでもないや」

「そ、そうか……」

 

 その言葉だけで背後に花が見えるような錯覚を覚えるほど、とっても嬉しそうだ。言葉には決してしないけれど。

 私がうっかり漏らしそうになった言葉も、照れている彼には聞こえなかったようだ。よかったよかった。

 

「で、だ…… ペコの好きなモンって、なにか心当たりはねーか…… ?」

 

 彼が辺古山さんの好物やら好きなものやらを知らないとは考えにくい、よね。

 

「…… それってつまり、なにをプレゼントするか迷ってるってこと?」

「な、なんで分かった!?」

 

 もうなにこの主従尊い……

 

「あっはは…… なんとなくというか、私だったらそれで悩むかなって思って」

 

 同じ主だし、私も昔はメイになにを贈るか迷った経験があるからね。

 そのときは姉さんたちや橙子ちゃんによく相談したものだ。

 うーん、こういう話題って女子がするものだと思ってたけどなぁ。

 ほら、ドラマとかでよくあるやつ。プレゼントの相談をしてるだけなのにデートと勘違いされて修羅場になるあれだ。

 …… って、これ辺古山さんに見られたらまずいのでは? いや、大丈夫か。もし勘違いしたとしてもあの子、 「坊ちゃんがそう望むのなら」 って引き下がるようなタイプだし、そもそも皆と遊び歩くのはよく見る光景だし、大丈夫…… だよね? ヤンデレになったりしないよね? あの子がヤンデレ化したら圧し斬られる未来しか見えないよ?

 

「…… よし、じゃあマーケットに行ってみようか」

 

 語尾が若干震えていたのは気のせいだ。きっと。

 

「あんま来たことねーから知らなかったが、結構いろんなもんがあるんだな」

 

 そう言って商品を見渡す彼。

 マーケットには誰もいないようだ。

 

「で、なにをあげればいいかだっけ…… ?」

「ああ。情けねーとは思うが、オレはあんまりペコのことを知らねーんだよ。だからさ、なにを選んでも結局違う気がして決まらなくって、こんな日になっちまったんだ」

「なるほどねぇ」

 

 大丈夫大丈夫。そんなの、これから知っていけばいいんだからさ。

 そのための修学旅行なんだ。だから今は存分に悩んでしまえばいい。離れ離れになることなんて、この旅行ではないんだから。

 平穏で幸せで、らーぶらーぶなこの世界に恐ろしいことなんて、なにもないはずだから。

 

「ならさ、こういうときは自分が貰って嬉しいものをプレゼントするものだって相場は決まってるよ! だからじっくり商品を見ていこう?」

 

 正直言うと、こういう方面に詳しそうなソニアさんでなく私を相談相手に選んでくれたのはとても嬉しい。

 ソニアさんだったらもっと上手く言えたのかもしれないし、良き相談相手になったのかもしれない。でも、選んでくれたからには全力でキミたちの間柄を応援しようと思う。

 きっと辺古山さんは、九頭龍クンからの贈り物だったらなんでも喜ぶと思うけど、自分の好きなものを好きな人が選んで贈ってくれたらもっともっと嬉しいよね。

 

 だから私は、それを手に取った九頭龍クンを意外に思うこともなく、少しだけ恥ずかしそうにしている彼に 「きっと喜ぶよ」 と言った。

 原作の通信簿でも思ったことだが、やはり彼は〝 それ 〟が好きらしい。

 迷わず会計に行く彼を見送り、私も後を追いかける。

 杖の一振りで可愛らしいプレゼント包みをするウサミ先生を前に、九頭龍クンの横顔はうっすらと微笑んでいるように見えた。

 

 

 

 

 

 そしてクリスマスイブの夜。九頭龍クンに協力して、待ち合わせの場所だけ教えてもらった私は、チャンドラビーチの木陰に隠れて2人が来るのを待っていた。

 

「坊ちゃん、このようなところで本当に良かったのですか?」

「ああ、ここでいい」

 

 辺古山さんはうまく私に気づかずにいてくれたようで、静かにその光景を見ることができる。野次馬のようで少し心苦しいが、片方の許可を貰っているし、誰にも話す気はない。乱入なんて以ての外だ。

 

「ペコ…… メリークリスマス」

 

 口をぱくぱくとさせながら最後まで言い切った彼は、勢いよく背後に隠していた包みを差し出す。

 それにびっくりした辺古山さんが一瞬硬直し、それから恐る恐る手を出して受け取る。

 彼女の顔は夜なのでよく分からないが、きっと嬉しさで真っ赤に染まっているだろう。

 俯いて包みと、その中にある可愛らしい〝 アンティークドール 〟を目にした彼女は胸の前でぎゅっと抱きしめる。

 それから、片手でそれを持ったまま辺古山さんが自身の用意してきたマフラーをそっと、九頭龍クンの首に垂らした。

 巻きはしない。ここが南国だからだ。

 

「一緒に、必ず帰りましょう。そのときには坊っちゃん…… これをお使いください」

「ははっ、きっとあったけぇな……」

 

 お互いがお互いに、泣きそうな震えた声で言う。

 手を取り合える距離で、首にかけられた、丁寧に編まれているマフラーを握り俯く九頭龍クン。

 

「坊っちゃん………… これからも、私を道具だと思ってお使いください。私は貴方の剣となり、盾となり……」

「ちげぇだろ。テメーは道具なんかじゃねぇ。オレの大切な相棒だ。ペコも大概頑固だな」

「……」

 

 辺古山さんは一瞬黙り込み、しかしすぐに泣くまいと堪え、震えた声で言った。

 

「貴方がそう望むのならば…… 訂正、します。いえ、違いますね。これは…… 私の意思だ。坊っちゃん、これからも私と共にあってくれますか?」

「あたりめーだ!」

 

 言い放った九頭龍クンの声は、とっても嬉しそうだった。

 そうして認め合う彼らの頭上にふわり、と白い欠片が降ってくる。

 

「なっ、南国に雪だと…… !?」

「へへっ、風流じゃねーか。きっとウサミが祝ってくれてんだろーよ」

「そう…… ですね。ウサミならこういうこともできてしまいそうです。まったく、粋なことをするものですね」

 

 ちっとも寒くはないのに降ってくる雪に感心し、私はその花弁を1枚手に取る。

 するとそれはキラキラと輝く希望のカケラとなり私の心を暖かくしてくれるのだ。

 2人が去った後で、すっかり九頭龍クンにも忘れられていることを苦笑してチャンドラビーチから出る。

 するとそこには、訳知り顔で佇む日向クンがいた。

 

「あれ、なんでこんなところにいるの? 日向クン」

「こんな夜中に、部屋を訪ねていなかったら心配にもなるだろ?」

 

 その言葉に目を丸くして 「え、あ、ごめんね?」 と反射的に口にする。

 すると彼はふっ、と微笑んでから 「帰るぞ」 と言う。

 

「うん……」

「あ、そうだ狛枝」

「なに? 日向クン」

「メリークリスマス」

 

 偶然目に入った時計を見ると、丁度午前0時を回ったところだった。

 あまりにも爽やかに言われてしまったものだから顔が熱くなる。こんなんだから彼は皆から好かれるのだ。

 不意打ちにも程があるだろう…… まったく。

 

「メリー、クリスマス」

 

 仕方ないなぁ。

 わざとゆっくり歩く私に合わせて、一緒にコテージまでの道を歩む。

 そういえば元旦は彼の誕生日なんだよね。

 もうすぐ今回の50日間は終わってしまうけれど、次はきっと彼の誕生日を祝ってあげよう。たとえ、覚えていないとしても。

 

 彼と見る南国に降る奇跡は、素晴らしく美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、部屋の中から予備のパンツが一枚消えていた。

 

 

 

 




・アイランドモード
 アイランドモードでは掃除と採集に分かれ、ウサミの出してくる課題をこなしていくことになります。その中で自由行動時に皆の通信簿埋めとデート (遊びに行く) をすることになります。
 狛枝は掃除が得意ということもありいっつも掃除ばっかりになってしまいますねw 1人だけレベルカンストが早かったです。
 狛枝は好感度上がる選択肢が分かりやすくていいですよね。とにかく危険じゃなさそうなの選べばいいし…… でも軍事施設は全部アウトw 嫌がる狛枝が見たくて戦闘機ばっかり選ぶのは私です。
 狛枝と図書館で勉強したりソニアさんとオカルトで盛り上がりたい。

・九頭ペコ
 尊い!
 原作からして、あげると大喜びするプレゼントが共通してアンティークドールって可愛いすぎか!

・日向
 「日向クンは大変な物を盗んでいきました、私のパンツです」 って題名で澪田さんが作曲してくれそう (小並感)
 あ、一応言っておきますが日向クンが盗んだわけではないですよ。希望のカケラが全部集まると自動的に消える仕様です。つまり全部ウサミ先生の仕業だったんだよ!
 ※ 恋愛はないんだよ! ないったらないんだよ! 澪田さんや辺古山さんみたいに狛枝は友情エンドしか用意されてないよ!

・ウサミ
 本編じゃないのでモノミじゃない。杖の力も使えるので奇跡の1つや2つはお手の物である。

 突発的に描いた狛枝&罪木の絵


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