「明日はクリスマスですね!」
「ん?うん、そうだね」
第2の島、図書館で適当な推理小説をパラパラと捲っているときだ。唐突に上から声が降ってきて、その弾むような声に私は生返事気味に答えた。
あまりに嬉しそうだから誰かデートにでも誘うのだろうか。そう思って本を片手に2階へ上がる。
そこには様々な動物の本と、オカルトな本を広げて同時読みを繰り広げているソニアさんがいた。
片方は英語、片方はドイツ語と同時に読んでいたら言語がごっちゃになってしまいそうなラインナップだが、彼女はなんなく頭に入れているようで次々とページを捲っている。
この王女様非常にハイスペックである。
「ソニアさんの国もクリスマス、やるの?」
「わたくしの国では色々な宗教派閥が争っているので中々公にはできませんが、一部ではマカンゴがソリを
いや、だからマカンゴってなんだよ!
婚姻のときに見せ合ったり、動物のようだったり、いろんな種類がいるようであったり、やはりマカンゴの正体が分からない。どんな動物なのか気になる次第である。
原作では、この島の名前がジャバウォックだったりすることからマカンゴはスナークみたいなものだと思っていたけど、これでますます分からなくなってしまった。
欧州の文化は複雑怪奇です……
「さ、サンタはプレゼントをしていくのかな?」
「いえ、我が国でのサンタクロースは金色の衣装を纏って、飾ってあるパンツに現金をねじ込んでいきます」
突っ込みどころしかない件について。
「恋が始まりそうなときは本人のパンツに直接現金をねじ込んでいくとか……」
本当にこの人の国はどうなってるんだ。
そんな現金なサンタ嫌だよ。子供の夢をなんだと思っているんだ。
「しかし、良い子でなければ黒服を着て臓物をプレゼントしていくサンタクロースも世の中にはいるとか…… なかなか奥が深いものです!」
そう言う彼女の手元には英語の本。
あれは都市伝説特集のようだ。黒服サンタは確かにオカルト話で存在しているけれど、聖夜にそんな物騒なことをされたらと思うと怖すぎる。
恐らく口裂け女のように、子供に良い子でいてもらうための方便かなにかだろう。
「まさか臓器提供までするサンタがいるとは思いませんでしたね! ビックリです!」
違う、そうじゃない!
明らかにホラーな話なのにどうやったらそんな解釈になるんだ?
それにあの話では臓器プレゼントのために前の子供の臓器を抜いているって話だし、どちらにせよホラー映画的なサンタには変わりないんだよ。
「そうそう、日本ではあの○ックの教祖が、改宗しようとするとベッドの下から這い出てきて粛清されるのですよね!」
「それ以上いけない!」
やめて! その話はいろんな意味で危なすぎるからやめて!
「そ、それよりさ…… ソニアさんは誰かにプレゼントしたりするの?」
「わたくしですか? そうですね…… 田中さんのハムスターさんたちにプレゼントを贈ろうかと思っています。いつも可愛らしいお姿を見させてもらっていますから」
そ、そこは田中クンにプレゼントをあげるわけではないんだ。あれ、意外とソニアさんって天然か? もっと田中クンのこと好きなんだと思っていたけれど、今はそうでもないのかな。
左右田クンに関しては言わずもがなだけれど……
「田中クンにはなにかあげないの?」
「…… そうですね、なにか差し上げても、いいのでしょうか」
ハムスターにプレゼントをあげるのは良くて、なぜ主人の方にあげるのは迷うのだろう?
これは、なにか秘密がありそうだね。
「ほら、日頃の感謝とか。ソニアさんって結構田中クンと一緒にいるから、てっきりあげるものだと思っていたな」
「そう、思われてしまいますか?」
「うん? どういうこと?」
ソニアさんはどこか物憂げな表情で目を伏せている。
震える金色の睫毛が芸術的で、なぜだか人を逸脱しているような感覚を抱いてしまうほどだ。
触れたら折れてしまいそう、とはこのことなのか。
普段の元気な姿からは想像もつかない高嶺の花然とした姿に、私はなんとなく彼女の考えを察してしまった。
「悲劇にはならないと思うけどな」
その言葉に反応した彼女は、大きな不安を抱えているようだった。
「つまり、立場違いで引き裂かれてしまったら可哀想だと?」
「っ違います! 確かに、少しだけ距離は置いていますが、それはわたくしのためなのです」
そうか、引き裂かれるのが嫌なのは彼女の方なのか。
同世代の〝 友達 〟という立場の人間ができたのは、この島に来てからが初めてなんだったっけ。島に来てからがあまりにも楽しくて、友達として好きになって、離れたくないんだね。
そうか、そうだよね…… あと少しで今回の修学旅行は終わる。
今の彼女にとっては、初めてで、最後の修学旅行になるかもしれないわけだ。
仲良くなってしまったら、離れがたくなってしまったら、もし、恋でもしてしてしまえば、待っているのはロミオとジュリエットのような結末。悲劇あるのみ。きっとそんな不安を抱えているのだ。
だから距離をとって、特別を作らないようにしている…… とか?
だから自分のため、なのか。
「もしかして、左右田クンに対してツレないのもそのせいだったりする?」
「…… 悪い方ではないんですけど、あの人、わたくしのことを見てくれないじゃないですか」
一瞬だけ目を伏せ、すぐに困ったような笑みを浮かべる彼女に、既に憂いは見えない。本当に憂いが消えたのか、それとも王女様お得意のポーカーフェイスなのか。答えなど、言わずとも分かってしまうというものだろう。
「ああ、左右田クンはソニアさんのこと、王女様として持ち上げてばっかりだからね」
「わたくしはクラスメイトです。クラスメイトには上下関係など存在しないはずですよね? そういうドラマティックな関係も憧れますが、わたくしは皆さんと平等に扱って欲しいんですよ」
そのわりには、たまに王女様的言動が出てくるけどね。そちらは癖だと思うけれど…… ずっとやってきた言動はなかなか直すことはできないものだから仕方ない。
「やらない後悔よりも、やる後悔なんじゃない? 行動を起こさないよりは起こしてしまった方が気も楽だし、もしかしたら吹っ切れちゃえるかもよ?」
いつも元気で、良い意味で空気を壊してくれるソニアさんに、そんな悲しい顔は似合わないよね。
こう言うとなんだか私がタラしみたいだけれど、私のクラスメイトったら皆可愛くて性格も良いんだから、甘くなってしまうのも仕方ないと思う。
「それにね……」
そんな風に思い悩むのもいいけどさ、その姿って……
「そういう悩みってさ、凄く王女様らしいよ?」
「っそ、それは!」
王女様扱いされたくないって話なのに、本人が王女様モードじゃ説得力がないかなぁ?
「ふふ…… 図星だね?」
普通の女の子という生き物は素直に実直に、そしてときには1人で突っ走ってしまったりするものだ。
それでもときには悩んだりするだろう。だけれどそれは 「どうしたら喜んでもらえるか?」 だとか、 「迷惑じゃないだろうか?」 とか、行動を起こすことを前提としたものだ。
「立場の違いで悲しませてしまうのでは? 苦しむのでは?」 なんて悩みは二の次でいいんだよ。
「ソニアさんはもっと素直になればいいんだよ。後悔は後からしかやってこないんだから、今から構えてどうするのさ?」
悩める乙女な姿は相手の
友達だから相談には乗るけれど、私としてはそんな悩みがあることこそが少し羨ましいところである。
引き離したことを後悔したことはあるけれど、私はメイを好きになって後悔したことなんてないからね。
「そう、ですね。力を入れすぎていたみたいです。よおし! なら早速田中さんに贈るものを考えなくては!」
そう言って本を片付け、図書館を飛び出していくソニアさんを笑顔で見送りハッと気づいた。
「あ、左右田クンを応援したつもりだったんだけど……」
失敗してしまった。ごめん左右田クン。
◆◇◆
あれから、少し。
どうやらソニアさんに火がついたらしく、すぐに田中クンと出かける切っ掛けを作ったようである。なんて行動の早い子だ。
そんな2人組と1の島の砂浜ですれ違い、私は誰を誘って遊ぼうかと考えていたところであった。ヤシの木から手が生えて、引きずり込んで来たのは。
「ひいい!? とうとうおばけにまで目をつけられっぐぅ!」
首が!
「オレだよオレ! 妖怪扱いするんじゃねーぞ!」
「あ、オレオレ詐欺は間に合ってるよ」
「ちげーよ! オレだよ! 左右田和一だっつーの!」
うん、今日もツッコミお疲れ様です。
「ところで、そんなにヤシの木に引っ付いてどうしたの? 妖精にでもなった?」
「なんでそーなるんだよ! ほら、あそこに麗しい姿でソニアさんが散歩してんだろ? …… 余計なのもいるけど」
その視線の先には、相変わらず楽しそうに牧場の方へ向かうソニアさんと、いつも通り難しい言い回しを平然としている田中クンの姿。
田中クン自身は、家畜という存在を憂いている部分があるからか牧場を好かないようだが、ここの島ではわざわざ屠殺せずとも食材が手に入るので悲しい動物の姿は見ずに済むし、たまに向かっては餌付けしているようだ。
今日はそれにソニアさんもついていくのだろう。
ハムスターにプレゼントと言っていたから、それもあるだろうし。
「おっと、狛枝ァ、ちょっと協力してくれねーか?」
「え」
まさか巻き込まれるとは。
「…… で、田中クンだけ引き離して欲しいと」
「ああ」
「無理だよね、きっと」
「な、なんでだ!?」
いや、そんな意外! みたいな顔をされてもねぇ……
「そりゃあ、私で田中クンが釣れるはずないしね。キミが頑張ってソニアさんを誘うか、空気読まずにあの中に突っ込んでくればいいじゃない?」
「おい、なんでオメーはオレにだけ辛辣なんだよ」
「はあ……」
思わず呆れたような目を向けてしまって急いで取り繕い、首を振る。
「そもそも、今のキミじゃあソニアさんは振り向いてくれないよ? 考え方が違うし」
左右田クンってチャラい見た目なのに、喋ると残念なところが目立つから余計になんというか…… いじりたくなってくるよね。まあ、相談くらいはちゃんと乗るけど、そういうのは
「ど、どういうことだァ?」
「いや、それは自分で考えるべき…… あ」
「ん?」
後ろを振り向きそうになる彼に、慌てて静止の声をかけ、こちらに集中してもらう。
「いや、なんでもないよ…… ほら、キミっていつも王女様王女様って言ってるからさ…… もしかして彼女のことが好きなんじゃなくって、王女様だから尻尾振ってるだけなんじゃないの? って」
「っちげーよ!」
思っていたよりも大きな声で反論されてびっくりしてしまった。
それは彼の後ろにいる〝 人たち 〟も同じようで、ジャリと砂を擦る音がする。
しかし、私の言葉で火がついてしまったらしい左右田クンは止まらない。
「ソニアさんはソニアさんだろ! 王女様じゃなくったってオレはついてくっつーの! ただなんつーか、いつもキラキラしてるし、喜んでくれると思ってだな…… !」
「ふっ、不器用な奴だ。彼のハシビロ公でも貴様よりは分かりやすいぞ?」
「んなぁ!? なんでオメーがここにって、そ、ソニアさん!? なぜここにいらっしゃるんで!?」
ともかく、ニュアンスが違ったけど、ハシビロコウだよね? 公じゃなくて。あ、違うか、もしかして敬称の意味での公? 鳥に?
いや、威圧感ある鳥だけどさ……
ようやっと真後ろに来ていた2人に気がつき、左右田クンが顔を真っ赤にしている。そりゃあ、あれだけ大声を出していたらバレるってもんだよねぇ。
それにしても、彼の顔の赤さは怒り故か、それともさきほどの告白のような言葉を聞かれて恥ずかしいが故か…… 答えは1つだけか。
「左右田さん……」
「は、はいっ! なんでしょう!」
「よきにはからえ! です」
普段よりも王女様然とした顔でするりと手を伸ばし、厳かに言い放った彼女に思わず私まで膝をつきそうになる。なんで田中クンは平然としていられるのだか。
左右田クンは呆然としていたからか、膝をつくこともなかった。
「…… え? え?」
「遊ぶのなら皆で、の方が楽しいですよね。付いてくるのであればお好きにどうぞ」
「貴様1人増えたところでやることは変わらん。これからサタニマスとして魔界フェスタを開くのだ。さぞや恐ろしい宴になるだろう!」
えっと、今回のは翻訳できないや。サタニマスはなんとなくクリスマスの言い換えだと思うけれど、魔界フェスタってなにさ。
うわあ、気になる。
「あ、私も行ってみていいかな? ほら左右田クンも」
空気を読まずについて行ってみることにした。
「そ、ソニアさんが…… ソニアさんが……」
そうだね、デレてくれたね。
感極まっている彼を引きずって一緒についていき、もふもふフェスティバルを楽しんだのは別の話……
・凄く王女様らしいよ?
絶女の、 「それって、すごく大人っぽいよ?」 みたいな台詞に寒気を感じたのは私だけじゃないはず。モナカちゃん怖い。
アニメじゃあそんな部分見えなかったけど、ゲームのモナカちゃんは素直に怖いと思う。
・田中クン
背景解釈が難しい上に口調も難しい。彼で人狼RPできるるる鯖民は凄いと思います (小並感)
・サタニマス
クリスマスの語源がクリスはキリスト、マスはミサ(礼拝)の意味なので突発的に作った造語。侮辱の意味は特になし。ほら、田中クンって天使も堕天使で例えちゃう人ですし……
あんまり出番がないキャラは、後々自由行動回のようにメインになる可能性があります! それぞれのファンの方は少々お待ちくださいませ。
逆に既に自由行動をした相手 (花村とか) は出番が少なくなっているかもしれません。