錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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歌え、虚ろなる渇望を

 ジジ、ジジ――

 

「な、なんだ……?」

 

 困惑した表情を見せる彼はそのモニターを食い入るようにジッと見つめていた。

 

「あ? それで連絡取るんじゃなかったか?」

 

 その隣には日向をコテージにまで起こしに行っていた終里の姿。彼女もどうやら状況が掴めないなりに考えているようだが、突然の出来事に困惑しているようだった。

 

 昼頃に大歓迎を受けながら左右田と共に通信機の説明をしに来た日向は、朝と夜の放送が鳴った30分後にモーテルへと泊まっている左右田他、皆へ連絡を取ることになっていた。

 病院側として看病に回った罪木、狛枝、小泉、日向と、病気予防のためにモーテルへと避難している他の皆が無事に連絡できるようにと、左右田が電気街で拾ってきた盗聴・盗撮装置を改造して通信機として使えるようにしたのだ。

 だが、家庭用の機械故に限界があり、その電波範囲は病院からモーテルへは届かず、モーテル側の皆は病院の20分程歩いた位置に存在する〝 ライブハウス 〟を連絡場所としていた。

 

「ライブハウス…… だよな? 左右田聞こえてるか?」

 

 通信機が設置された翌日、日向は病気が治ったと言う終里を連れて病院まですぐさまやってきた。

 その時には既に通信機の受信ランプが点滅しており、彼はすぐに連絡を取ろうと応答ボタンを押したのだが…… 映し出されたのは、真っ暗なライブハウスの映像だった。

 

 コツ、コツ

 

 通信機の中から微かな靴音が聞こえ、映像にぼんやりとした明かりが映る。

 通信機の斜め前にロウソクが置かれたようだった。

 そして次に浮かび上がったのはライブハウスのステージの様子だ。

 まるでなにかの儀式をするかのように円状に置かれたロウソクが次々と灯っていき、それが映し出された。

 

 ギイ、ギイと床を鳴らして歩く黒く長いパーカー。

 暗闇のためかいつもよりも強調された白髪頭は俯かれ、その表情はおろか、彼女の正面すらロクに見えない状況だ。

 

「狛枝…… ?」

 

 呟いて日向は猛烈に嫌な予感に駆られた。

 

 ギイ、ギイ

 

 彼女の行く先には脚立と、天井から吊り下げられた円状の縄がぶら下がっている。

 

 ギイ、ギイ

 

「お、おいマズイぞ! 終里、ライブハウスに急ごう! 走れば間に合うかもしれない!」

 

 実際、彼の足ならば走って迎えば間に合うかもしれない。

 すぐさま飛び出していく彼に終里は 「あ、おい待てよ!」 と言いながらモニターをチラリと見やる。

 

「まだメシも食ってねーのに!」

 

 飛び出して行った彼を追いかけ、終里もその場から駆け出して行った。

 

 ギイ、ギイ

 

 モニターに映し出された映像は、脚立の上に上がった彼女が首に輪をかけると同時に一斉にロウソクの光が途切れ、真っ暗闇となった。

 

 ジジ―― ジ――

 

 モニターの通信は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 

 

「開かない!?」

「おら日向どけ!」

 

 10分程して、ライブハウスに辿り着いた2人はその扉を開けようと四苦八苦していた。

 

「あ、あれあんたたちどうしたのよ?」

「あ、終里さんこんなところにいたんですねぇ……」

「小泉、罪木、ちょっとこの扉を開けるの手伝ってくれ!」

「は? どういうこと?」

「説明は後でする! 早くしないと狛枝が自殺する…… ! いや、もしかしたら手遅れになるかもしれないんだ!」

 

 小泉と罪木が連れ立ってやって来て、扉をこじ開けようと皆が必死に揺らすが、やはりなにかが詰まっているようで開かない。

 

「あの、私狛枝さんといなくなった終里さんを探していたのですが…… 狛枝さんになにかあったんですかぁ?」

「あたしはこの近くで探し回ってるこの子にお願いされて一緒に探すことになったんだけど」

 

 手は休ませず、困惑気味の彼女たちが言う。

 

「通信機に狛枝が自殺しようとしている映像が映ってたんだ!」

「ええ!?」

「開かない…… 仕方ない、壊すくらいの勢いで行かないとダメだ!」

「モーテルの皆に応援を……」

「そんなことしてたら手遅れになるだろ!」

 

 焦った様子の日向が 「全員で一斉に蹴り破るぞ!」 と提案する。

その場にいるのは女子だけだが、緊急事態のため小泉はなにも言わずに同意した。

 

「行くぞ…… 、せーの!」

 

 日向、終里、小泉、罪木の蹴りによりバキバキと不吉な音を立てながらゆっくりと扉が開いていく。

 

「電気、電気はどこだ?」

「ここですぅ!」

 

 …… そしてその中に、彼らは見た。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 ギイ、ギイ……

 

 そこには、天井からぶら下がる縄。そして、それの下に吊り下げられた、力無い狛枝の姿が、非現実的な光景が広がっていた。

 

「あれ? なんでオメーらまでここに…… ひぎゃあああああ!?」

「そ、そんな…… !?」

 

 そしてタイミングよく、モーテルに泊まっていたメンバーが朝の連絡のために訪れた。訪れて、しまった。

 おかげで彼らは、病院にいる十神、西園寺を除いて全員が彼女の変わり果てた姿を発見してしてしまったのだった。

 

「ドキドキワクワク…… あー! ワクワクが止まらねー!」

 

 ボヨン、といつものようにどこからともなく現れたモノクマが皆の前に立つ。そして、ゆっくりとぶら下がった狛枝に近づいて行った。

 

ギイ……

 

縄はつい先ほど〝 それ 〟があったように微妙に揺れ続け、そしてゆっくりと回転しながら、狛枝の体が正面を向き始める。

 

「ひっ!?」

 

 誰かが息を飲んだ。

 

「……」

 

 そして、真横に向いたあたりで勢いよく狛枝の頭が持ち上がり、正面を向いた頃にはしたり顔をして笑顔を向けていた。

 

「死体が発見されました! …… なんちゃって」

 

 左手をあげて笑みを浮かべたまま狛枝が手を振る。

 

「…… おどろいた?」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「…… はあ?」

 

 しまった! 皆の冷ややかな視線…… 私の発言力ゲージが下がってしまったようだ!

 日向クンの冷たい声に思わずぶるっちゃうぜ!

 

「これは…… どういうつもりなのかな?」

 

 七海さんが普段のようにのんびりとした口調で言うが、逆にそれが責められているようで怖い。

 なんというか、胃が痛いよね。お腹に縄を回して吊っているから別の意味でお腹が痛いけれど。

 

「あ、罪木さん。ちょっと脚立直してくれない? 降りられないからさー」

「へ? は、はぁい!」

「もうそのままでいいんじゃないか?」

 

 まったく日向クンは冷たいなあ。

 まあ、腹を立ててるキミの反応は間違っちゃいないんだけれども。殴りたくなるくらい怒らせられたのなら万々歳だよね。

 …… それに、モノクマも驚いてくれたみたいだしね?

 

「なーんだ、つまんねーのー」

 

 おい、驚いてた癖にそんなこと言わないでよ。これでも結構頑張ったんだからさ。ペナルティとか嫌だよ?

 

「このままだとお腹が苦しくてさ……」

 

 背中から伸びた縄のフックを天井の丸い縄から外して脚立に降りる。

 

「な、なな、なんのつもりだよオメー!」

 

 それからパーカーを脱いでゆっくりと結んだ縄を解いていると、涙目の左右田クンが叫んだ。

 

「あはは、ちょっとしたドッキリだよ。病気で皆緊張してるし、和ませてみようかと……」

 

 白々しくそう言うが、どんどん私の発言で空気が悪くなっていくのを感じる。

 モノクマとの取引きのことは話すつもりなんてないし、話す必要もないと思っている。だってモノクマに頼み込んで皆を治す薬を貰うために芝居を打ってるなんてさ、なんか格好悪いし。

 生き残るために云々演説かましといて皆のために行動してるとか、大馬鹿者もいいところだ。

 だけれど、覚悟はしていたがすごく胃が痛い。あとで罪木ちゃんに胃薬貰おう。

 

「おいおい、さすがに悪趣味すぎるぞ。テメー、そんなことするやつじゃねーだろ」

「応、和ませるどころか…… 逆効果じゃあ」

「…… はあ」

「あ、でも吊られてる狛枝さん…… 結構……」

「ちょっと、変な扉開かないでよ? 花村」

 

 1番傷つくのは辺古山さんのため息だよね! 間違いない!

 あと花村クンはやめてよ? ネクロフィリア的ななにかに目覚めちゃったらもう手遅れだからね?

 

「さて、と…… あれ? 終里さん治ったの?」

 

 今しがた気がついたように言う。

 

「あ? なにいってんだ。オメーが…… もがもご!」

「そうなんですぅ…… 日向さんと一緒にいたみたいですけど、一体どういう経緯でここに来たんですかぁ?」

 

 危ない危ない。

 

「ああ…… 終里が病気が治ったからって俺のコテージに来てたんだよ。で、朝の放送も近いし病院に一緒に向かったんだ。そうだよな、終里」

「んぐんが…… あー、そうそう。起こしに行ったんだよ」

 

 終里さんに協力してもらったのは失敗だったかな?

 でもこれで少しはストレス発散に…… なってない気もするなあ。ちゃんと見てないとモノクマに特攻しそうでまだ怖いよ。

 

「うーん、30点!」

「えっ」

 

 え、嘘、なんでそんなに低いの!?

 

「ちなみに合格ラインは?」

「90点!」

「……」

 

 取り引きした私とモノクマにしか分からない会話だが、はたから見れば偽死体の出来についてとか、ドッキリの点数に聞こえるだろう。

 まさか私がペナルティを受けるとは誰も思わないだろう。

 絶望だぁ…… なにされるか分からないってすっごく怖いんだ……

 

「あ、でもオマエのコテージが直ったらしいから部屋を整理してきてからでもいいよ? ほら、ボクって優しいクマだからね!」

 

それって長期的になにかされるって宣告されてるようなものなんだけれど…… 余計怖くなってしまった。

 

「あのさ…… 狛枝さんは暫く病院には行かないでおいたほうがいいと思う……」

「どういうこと?」

 

 七海さんが少し怒ったようにこちらを見ている。

 

「これ以上混乱させてほしくないんだよ…… だから、あと3人の病気が治るまでは大人しくしていてほしいんだ。そうしないと、皆も多分納得できない…… と思う」

 

 周りを見渡すと、確かに険しい表情をした人物ばかりが目に入る。

 

「はいはい、いう通りにしておくよ…… 和ませるのには失敗しちゃったし」

「パーティのときといい、オメードッキリ下手くそかよ! つーか、本気でドッキリになるとでも思ってたんか!?」

 

 思ってないけど。

 だって悪意あるし。

 

「とにかく…… あ、小泉さん、日向クン、病院の荷物をコテージまで運ぶの手伝ってくれない?」

「お前なあ、どの口で……」

「貴様でワープゲートでも作り出すんだな……」

「それくらい自分でやれって」

「え、でもあたし手伝うわよ?」

「それだと狛枝さんの罰にはならないよ。やっちゃいけないことだったって分かってもらいたいもん」

 

 おっと、七海さんがかなりのご立腹だ。

 さすがに偽コロシアイはそれを止める立場にある彼女にとって嫌なものだったらしい。

 しかしそうか…… 私が全部運ぶのか……

 

「あ、あのぉ…… 私が……」

「残念ですが、罪木さんは皆さんの看病がありますし……」

「ご、ごめんなさぁい……」

 

 不安気に揺れる彼女の瞳がこちらに向けられる。

 

「あ、じゃあ大荷物持ってウロウロしてても気にしないでね」

 

 それに心配ないよ、という意味で言って私はライブハウスから逃げるように飛び出した。

 泣いてなんか、ない。自分でやるって決めたことなんだから。

 

「うぷぷぷぷ」

 

 結局、30冊近くある本や着替えをコテージに全て移動し終えるまででお昼になってしまった。

 ぐう、と鳴ったお腹に少し考えたが、その足はレストランではなくスーパーに向かわせることになった。

 いくつかの食料を買い、非常食を少しだけポケットに入れてその他に気分転換になりそうなものを探す。

 とりあえず造花を買い、目に付いたペンキと日めくりカレンダーも買い物袋に入れた。

 前模様替えしたコテージは跡形も無くなってしまったのでもう1度模様替えすることにしたのだ。

 

 そしてコテージに帰り、花瓶に紫色のアネモネを飾ってテーブルの上に置く。紫って落ち着くいい色だよね。

 それから本棚に収めきれなかった借りた本を同じくテーブルの近くに置いて、後でスペースを作ったときにすぐ片付けられるようにしておく。

 なぜスーパーにあったか分からない日めくりカレンダーを眺めながら皆の誕生日に1つ1つ花丸をつけていき、ベッド脇の窓に画鋲で留める。

 ペンキは大量に余ったので後で旧館にでも押し付けに行こうかな。

暫く匂いが取れないだろうがまあ、寝るぶんには大丈夫だろう。

 

 …… と、そこで来客を告げるインターホンの音が響いた。

 

「誰かな?」

 

 そうして無防備にも扉を開けた私は首を傾げる。

 

「…… あれ? 誰も――」

 

 白黒のなにかが足元をすり抜けたのを確認したときには既に遅かった。

 背後からドン、と押されて1歩、2歩と前につんのめるように進んでしまう。

 それから大きな影が私を覆い隠し、頭上になにかがいることを悟った私が慌てて逃げようとすると、冷たい金属の足がしっかりと私の肩を掴んでしまった。

 

「…… あ」

 

 顔が青冷めて行くのが分かる。

 鉤爪のような金属は肩に食い込むようにして私を固定した。

恐る恐る見上げると、そこには大きな鳥型モノケモノ…… 通称トリケモノと、それに乗り込んでニヤニヤと笑うモノクマの姿。

 

「狛枝凪さんのペナルティを開始します! それでは、張り切って行きましょう!」

 

 直後、私は生身のまま大空へと連れ去られた。

 

「あぐ……っうあ」

 

 肩が……!

 

「あああああ!?」

 

 ぐるぐると視界が回り、スピードの圧と空気の薄さで段々と脳に酸素が行き渡らなくなり、視界が明滅する。完全におしおき並みのヤバさで、このまま殺されるのかと思うくらいに酷い空中散歩だった。

 

「…… っ! うっ…………」

 

 視界の端にジェットコースターのような物が見えた。観覧車のようなものまで見えて、さらにはお城らしきものも見えたが、そこから先は覚えていない。

 情けないことに、ここまできて私の脳は気絶することを選んだのだった。

 

 そして、眼が覚めると私は1人、建物の中にいた。外れた肩はいつの間にかはめ直されたようだった。

 ピンク色のドギツイ壁や床、イチゴ模様の悪趣味な建物……知っている場所だ。

 

「オマエのペナルティは1日断食だよ!」

 

 嘘つけ。

 どうせ明日にはこの〝第4の島〟を調べに来た日向クンたちがやって来るだろう。そうしたらコロシアイが起きるまで絶食じゃないか。

つまり、私に餓死の危機が一足早く訪れたということで……

 そうか、これが私の動機ってことか。だってこれが私の動機になり得る1番の状況だもんね。

 〝 死にたくない 〟っていう願望しか動機にならないのなら、無理矢理死の危険に晒すしかない。これは私へ狙い打った動機提示なのだ。

 

「じゃ、ボクは他のヤツらのところに説明しに行くから自由に過ごしてね! この密室になったドッキリハウスでさ!」

 

 そうして、モノクマはいなくなってしまった。

 

「…… とにかく、寝れる場所探さないと」

 

 1日だけならば普通は寝て過ごすことを選ぶだろう。

 なので2階にある客室を順に調べ、豪華な客室のある場所に滑り込み、腰を下ろした。

 実はスーパーで買った携帯食料がポケットの中にあるんだなあ。

 うん、メモ帳もペンも無事だ。しかし、ヘッドフォンは室内だったので置いてきてしまった。ホイッスルやロケットペンダントはいつも身につけているから問題ないが、ちょっと寂しい。

 

「…… ん?」

 

 なにかおかしなところはないかと室内を軽く見渡していると、違和感に気がついた。気がついてしまった。

 

「モニターに…… 溝?」

 

 ちょうどなにかを通すように空いている溝がある。

 しかしカードリーダーにしては溝が太い。もっと別の……

 

「あ、もしかして電子生徒手帳?」

 

 勘でしかないが、思い当たるとすればこれくらいだろう。

 そう思って迂闊にも生徒手帳をスッと通す。思いついたこの方法で1発で通った。思わぬラッキーだが、果たして…… これは私にとっての不運に他ならなかった。

 

 ジジジ……

 

 突然起動したモニターにビックリして私は後ずさる。

 そして、映し出されたその光景に……絶望することとなったのだ。

 

『ザザ――』

 

 そこは、どこかの放送室のようだった。

いや、私はこの場所を知っている。そこは、その場所は、希望ヶ峰学園の放送室……江ノ島盾子が根城にしていた場所だった。

 そこにある光景に、私は思わず硬直して目を逸すこともできず、〝 それ 〟を見た。

 

『ザザザ――』

 

 モノクマの目の前で足を揃え、静かに頭を下げている女性の姿。

 青と白のメイド服に、白のカチューシャ。ゆったりした長い黒髪を1本の三つ編みにして後ろへ流している彼女。

 その目は見えないが、きっと充血で少し赤いのだろう、よく見知ったはずの、女性。

 

『……』

 

 嫌だ。見たくない。そんなの、見たくない。

 やめてよ。彼女が、メイが、モノクマに頭を下げてる光景なんて見たくない。

 

『私の主人はこの世でただ1人でございます』

 

 モノクマに頭を下げたまま、彼女が言った。

 

「あ、あ……」

 

 映像はそこで途切れ、モノクマのニヤニヤ顔が画面いっぱいに映し出される。

 

『狛枝凪さんの義理のお姉さん…… 狛枝明海(あけみ)さんはこのように、ボクに忠誠を誓ってしまいました!』

 

 お姉さん? メイが?

 脳裏に思い出されるのは、トワイライトシンドローム事件のゲームで並んでいた、2つの〝 コマエダ 〟の文字。

 そうか、そういうことだったんだ。でも、こんなところで、知りたくなんてなかったよ。

 

『さて、なぜこのようなことになったのか…… そんなの明白だよね! だって、子供ができないからって引き取られた子供なのに、子供ができたら次々とそのメイドにされちゃったんだからさ! 恨んで当然ですよね! ふざけんなって話ですもんね! ブヒャヒャヒャヒャ!』

 

 やめて

 

『だって捨てたのはオマエなんだから! ボクが拾ったってなんの問題もないでしょ?』

 

 やめてよ

 

『オマエは誰からも必要とされてないんだよ!』

 

 やめてってば!

 

 耳を塞いで、目を瞑って、だけれどガンガン響くモノクマの声はそんなものおかまいなしに私の脳を侵食していく。

 

「っ!!」

 

 そんな光景から逃れたくて部屋を飛び出した先で、また私は絶望した。

 

『私の主人はこの世でただ1人でございます』

『私の主人はこの世でただ1人でございます』

『私の主人はこの世でただ1人でございます』

 

 そこら中にあるモニターが次々と起動して先ほどの映像を流し始める。

 

「やめて、やめて、やめてってばぁぁぁぁぁ!」

 

 逃げても逃げても、逃げられない。

 どこに行ってもメイからの否定の言葉が木霊する。

 足をもつれさせながら走り回り、階段から落ちて怪我をしても、壁をガンガンと叩いて手に血が滲もうと、誰も助けてはくれない。

 私がここにいることなど、誰も知らない。

 

「出して! 出して出して出してよぉぉぉ! 嫌だ嫌だイヤだイヤだよ! もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

『私の主人はこの世でただ1人でございます』

『オマエは誰からも必要とされてないんだよ!』

『私の主人はこの世でただ1人でございます』

『オマエは誰からも必要とされてないんだよ!』

『私の主人はこの世でただ1人でございます』

『オマエは誰からも必要とされてないんだよ!』

 

「もう…… イヤだ……」

 

 壁を叩き続けて、血塗れになろうとまだ殴り続けた。

 爪が剥がれたって構わない。頭を叩きつけて額が割れたって構わない。

 

 むしろ、このまま死んでしまったほうがマシなんじゃないか?

 

 そんな悪魔の囁きを脳裏に焼き付けながらボロボロの体でズルズルと壁にもたれかかる。

 

「ここから、出してよ……」

 

 視界が揺れる。

 ポツリ、ポツリと涙が滴っていく。

 

「助けてよぉ………… 十神、クン…… っ」

 

 泣きながらもう1度壁を叩く。

 

「そばにいてよぉ…… 罪木ちゃん……」

 

 響き渡る音の全ては私を取り囲んでいるようで、延々と再生され続けている。

 

「…… 迎えに来てよぉ……日向クン、さっきのことは謝るから……お願いだから見捨てないでよ……もう虚勢なんて張らないからっ、だからっ、だから1人にしないで……!」

 

 誰も、来ない。

 誰も助けてくれない。

 

「あはは……どの口が〝 助けて 〟なんて言うんだ……突き放したのは、私なのに……馬鹿みたいだ」

 

 こんな私なんか、誰も必要としてくれるわけないじゃないか。

 一瞬、罪木ちゃんの顔が脳裏によぎったが、それは映像の言葉によって粉々に打ち砕かれてしまった。

 私なんて、いらない。

 そうでしょう? 頭では分かっている。けれど、信じたくなかったんだよ。

 

「教えてよ…… っ…… もう、分かんないんだよぉ!」

 

『オマエは誰からも必要とされてないんだよ!』

 

「…………」

 

 そしてわたしは、かんがえることを、ほうきしました。

 

 

 





・「おどろいた?」
 日向クンは殴っていい

・ペナルティと動機
 おしおきが物理的と精神的な絶望が備わっているので、殺してはいけないペナルティでは精神的に徹底的に抉る仕様になっています。
 ちなみに、遊覧飛行では肩を掴まれて攫われた時点で肩の関節が外れます。これもうおしおきなんじゃないかな……

・絶望病
 そのうち治るんじゃないかな?
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