錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 人生は意義ある悲劇だ。それで美しいのだ。生き甲斐がある 〟


ウコロシア

 結果的に言うと、2つのタワーが同一の場所であることが確定した。

 ストロベリータワー側に回ってもきちんと七海さんの電子生徒手帳があったからだ。

 しかし、皆は勘違いをしている。

 2つのタワーは2つの建物の中心に存在し、扉は片方ずつしか開かない? そんなことはない。確かにこのタワーは同一の場所ではあるが、それは向き合った建物の中心に位置する場所ではないのだ。

 このタワーは床だけが動く特殊なエレベーターとなっている。そして、ストロベリーハウスとマスカットハウスは向き合った場所にもない。

 この2つの建物は横繋がりではなく、ストロベリーハウスを上にして縦方向に一繋がりの建物になっているのだ。

 つまり、マスカットハウスは3階建ての建物。その上にストロベリーハウスがあるために厳密に言えばストロベリーハウスは4階から6階の高所に位置する建物なのだ。

 ならば連絡エレベーターは? 本来ならばあれは横方向に移動するエレベーターで、それぞれの建物を繋いでいたのではないかと思っていただろう。実際、タワーが中心にあると思っている皆はそう思っている。しかし、それも間違いである。

 あのエレベーターはマスカットハウスから外周を回るようにゆっくりと上へ登り、最終的に正反対の位置へ移動するエレベーターなのである。巨大な建物に管状の物が巻きついているのを想像すればいい。エレベーターはその中を通るのだ。

 だからストロベリーハウスでは連絡エレベーターから見て左側にタワーがあり、マスカットハウスではタワーが右に位置するのである。エレベーター内でコンパスを見ればそれは一目瞭然なのだ。

 その建物の構造こそがドッキリハウスがドッキリハウスである所以である。横繋がりに見えて縦繋がりである。それがこの建物の秘密だ。

 だからタワー内の反対側に見えるお互いへの扉だと思っているのはただの飾り扉であり、あれが開かれることなんてない。

 だからそれを知りながらもあれに向かって爪を立てていた私はただの馬鹿である。冷静さを欠いていたとしか思えない。なんて恥ずかしい。

 本格的に出口がどこにあるのか分からない、とんでもない構造の建物なのだ。

 あるとすればマスカットハウスだろうが、見つかりやすい場所にモノクマが用意しているわけもなく、現在は本当に餓死の危機だ。

 一食分の携帯食料があったとはいえ、ほぼ2日飲まず食わずに過ごした私はヘロヘロである。

 断食で1番辛いのは2日目から3日目だと言われているし、頭もうまく回らないから手遅れになる前に手を打たなければ終わりだ。

 

「喉乾いた」

 

 大問題なのは水が一切ないことである。

 人間は断食だけでは約1ヶ月間生きることができる。

 急激に痩せることができるので3日間くらいを断食に費やして痩せるダイエットなんかもあるくらいだ。

 断食を利用して自身の命を懸けたデモなんかも存在する。

 しかし水もなしに断食をすることは普通ない。水は人体に必要な要素だ。水さえあれば断食しても生きていられるが、水がなければタイムリミットが大幅に減少する。耐えられる限界は4日か5日くらいか? その間にも体力を消耗し、考える思考能力も消耗してくることを考えると、先を見越して行動を起こす人間が1人でもいないと本当に全滅するかもしれない。

 

「私にできること…… 私にしか、できないこと…… か」

 

 マスカットハウスの粗末な客室で考える。

 

 部屋割りは私の希望通りに決まった。

 人数が多いために大半の人は2人部屋になるが、私はこうして1人で粗末な部屋に泊まることができている。

 原作通り、弐大クンやらがレディーファーストと言って建物を選ばせてくれたので女子はマスカットハウスだ。

 皆で相談した結果だ。真っピンクよりは緑のほうが幾分か目に優しいからね。

 服も部屋も緑にして閉じ込めると補色関係にある赤を見たくなって自傷し血を見るなんてリアリティあるホラ話もあるが、人間はそんなことで簡単に狂わないので、一応安全だと言える。

 同じ色ばかり見ていると気が滅入って来るのは確かだけれど。

 と、まあそんなことは置いておいて、具体的なメンバーはこうだ。

 

 『マスカットハウス』

 

 豪華な客室1 七海・ソニア (ラウンジ側)

 豪華な客室2 小泉・西園寺

 普通の客室 辺古山・澪田

 粗末な客室1 終里・罪木

 粗末な客室2 狛枝 (ラウンジ側)

 

 私が泊まっているのは、ラウンジの隣で1番階段に近い所に位置する粗末な客室だ。原作で日向クンが泊まっていた場所だとも言う。

 だが私がやろうとしていることを考えると罪木ちゃんと同室の方が都合がよろしかったかもしれない。まあ、それは仕方ないことなので相談は後にする。

 

 そして男子が泊まっているストロベリーハウスの部屋割りはこうだ。

 

 『ストロベリーハウス』

 

 豪華な客室1 田中(ラウンジ側)

 豪華な客室2 十神

 普通の客室 九頭龍・弐大

 粗末な客室1 左右田・日向

 粗末な客室2 花村 (ラウンジ側)

 

 お互いに話し合いした結果こうなった。

 花村クンはどうやら満場一致で1人部屋にされたらしい。

 同じ部屋だとなにされるか分からないからね、仕方ないね。

 豪華な客室に関しては十神クンが優先されたけれど、もう1つの部屋の方はジャンケンで決めていた。覇王が豪華な客室になったのは原作通りである。

 あとやはり左右田クンはまだ日向クンを疑ってはいないらしい。既にソウルフレンドになっていたようだ。

 代わりに裏切り者疑惑がある私がいるから、という理由もあるだろうが。

 今まで私の計画を暴いて来たのも日向クンと十神クンだし、この2人のことは結構信頼しているらしい。あの臆病な彼をここまで信頼させるだなんて素晴らしい友情だね。さすが日向クンだ。

 いや、原作通りとかパンツハンターだとかは関係なく〝 さすが 〟と言っている。彼の人となりは現実で見て、聞いて、実際に判断しているつもりだ。そこに多少先入観はあるだろうが、日向クンが信頼に足る人物であることは間違いない。

 最初は混乱し通しだったのに、テキパキと十神クンと共にチーム分けしたり、やることを提案したり、メンタルケアまでしているようにも思えるし…… いつの間にか頼もしくなっちゃってさ。

 ちょっと眩しいや。

 

 …… 私の集めている希望のカケラは停滞している。当たり前だ。あれだけ怪しい行動をしていたら集まるものも集まらない。

 九頭龍クンと辺古山さんは結構集まっているがこの建物内で集め切るのは不可能だろう。マックスまでいったのは後にも先にも罪木ちゃんだけになりそうだ。

 なぜか十神クンと日向クンのカケラがあと1つというところまで来ているが、日向クンはともかくとして十神クンのカケラが貰えることはないだろうな。

 彼のカケラは、コロシアイ時空では決してコンプリートできない仕様になっているのだし。

 

 部屋割りを決めて皆が体力温存のために眠りにつき、その翌日となった今日は色々あったが、それは割愛。

 現在皆にとっては2日目。私にとっては3日目である。つまり眠りについてから1日中、皆とはなにもなかったと言えるだろう。

 

 他に気になっていることといえば極上の凶器がなんなのか、かな。

 原作と同じならば、タワー内の高低差こそが凶器だったが、生体反応のセンサーがあるからそれが使えるかは微妙。あれはロボット弐大クンに生体反応さえ検出できなくなる〝おやすみスイッチ〟があったからこそ落下死させることができたトリックだ。

 もしかしたらファイナルデッドルーム(FDL)内にセンサーを切る装置があるのかもしれない。もしくは冷暖房装置こそが極上の凶器か…… いや、それはないな。

 だって、あれは〝 後から追加 〟されたものなのだから。

 

 とまあ、長々と情報整理していたことだが、それ全て現実逃避である。

 

「凪ちゃーん?」

 

 扉の外から小泉さんの声がする。

 私は億劫に思いながらも体を起こして、扉を開けた。

 

「小泉さん、どうしたの?」

「どうしたもこうしたも、今日どこにも見当たらなかったから気になって……」

 

 そりゃ当然だ。皆にとっての2日目の朝―― つまり今日の朝から夜時間になるまでずっと見つからない場所にいたのだから。いや、見つけられない場所といったほうがいいのか?

 つまり自由行動はボイコットしていた。

 原作でもいるだろう? 特定の章で絆を深めることができなくなる人物が。そもそも見つからなければ自由行動で拘束されないし、動きやすくもなる。このドッキリハウスではそれがしやすい。

 今までは島からの脱出を目指して積極的に絆を深めていたが…… 結局このドッキリハウス内でマックスにすることはできないと判断したから放棄したのだ。

 探し回っていたらしい日向クン、十神クン、罪木ちゃんなどには悪いが、私だって秘密の1つや2つあるのである。ちょっとくらい単独行動するのは許してほしい。

 3日目になればモノクマ太極拳が始まるので体力的に厳しくなるし、色々行動するのは今日が限界だったのだから。

 ロボ弐大クンがいれば飲み物には困らなかったのだが、彼をロボにするのは彼自身を冒涜するようなものなのでどうしても避けたかったし、仕方ない。仕方ないったら仕方ないんだよ。

 

「蜜柑ちゃんが心配してるから顔出したげてよね」

「うん…… 分かった。後で会うよ」

 

 ……夜中にね。その言葉は飲み込んで笑顔で別れを告げた。

 何度も思うが皆は2日目だが、私は既に飲まず食わずで3日目である。

 いいか、飲まず食わずだ。これは大きい。

 しかも1日目に大泣きしたり結構血を流しているから余計時間がない。

 初日の怪我は血が止まってちゃんと塞がっているが、罪木ちゃんから貰った包帯をこれで使い切っちゃったのも惜しいかな。

 そんな大切な物のことも頭の片隅に追いやるくらい今は切羽詰まった状況なのだ。

 明日にも倒れるかもしれない。死んでしまうかもしれない。僅かな恐怖と、倦怠感。体感的にタイムリミットはあと2日くらいだ。その前になんとかしないといけない。

 思考能力が低下していてはどうにもならなくなるし、私には時間がないのだ。

 

 大丈夫、大丈夫、私は死なない。

 たとえなにがあったとしても、死なない。

 心の強さを保て。でないと、本当に死んでしまいそうだ。

 それではアイツの思うツボだ。脳死に至ってしまえばアイツに利用されるだけ。江ノ島盾子の新たな肉体となって世界を絶望に染め上げるだけの存在になる。

 そんなの許さない、許せない。気持ち悪い。絶対に嫌だ!

 絶対に、絶対に、利用されてたまるものか!

 

 …… 私は、絶対に死なない。死んでたまるか。

 

 

 

 

 

 夜中。

 全員にモノクマから翌日7時にタワーに集まるようにとは言われたが、私は遠慮なく行動していた。

 明日の朝モノクマ太極拳をするためだろうが、そんなの関係ない。

 メモは残した。あと2日のタイムリミットのために、今日話を通しておく必要がある。

 〝 あの場所 〟にいたモノミにも、脱出の手助けをする代わりにお願いをしておいたし、時間さえ間に合えば問題ない。

 勝負は夜中の12時になる前の10分間。その間に話を通す必要があった。だからメモを用意し、呼び出しを行う。

 モノクマに勘づかれる可能性を含めると、これが最後のチャンスだ。さすがに不審に思われるので、10分間のアドバンテージはこれ以降もう使えなくなるだろう。だからこれで最後。最後は話し合いのためだけに使用する。

 

 今日はただ話すだけだから何の問題もないだろうし。万が一の時を考えて準備はしているが……大丈夫だと信じたい。

 差し当たっての問題は翌日の太極拳に遅れるかもしれないということだね。

 

 何の問題もない…… はずだった。

 

 マスカットタワーで暫し待つ。

 僅かな緊張によるものか、汗が流れる。少し、暑いな。

 ストップウォッチと時計を所持しているので時間を気にする必要はない。

 しかし、来たのは呼び出しをした人物ではなかった。

 

 それが誤算。

 それこそが最大の油断。予定外の出来事。

 しかしそれこそが、この事件の始まりとなったのだ。

 

 最初で最後の学級裁判。

 その幕が開ける。切っ掛けが今、訪れたのだ。

 

「え…… ? なんでキミがここに………… ?」

 

 

 

 

 

 ―― ジジ

 

 

 

 

 

 …… 私の意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「…… は?」

 

 午前6時40分。

 早めに起きたために男子の中で1人だけ彼はマスカットハウスへと移動し、同じく早起きした2人の人物と行動を共にしていた。

 雑談をしながらマスカットタワーに向かった彼―― 日向が見た光景はあまりにも信じ難かった。

 

「いやぁぁぁぁ!? こ、狛枝さぁん! 十神さぁん!」

 

 一緒に来た罪木が駆け寄っていく、折り重なった2人。

 仰向けに倒れた十神の、その下敷きになるようにぐったりとした狛枝が横たわっている。その2人の下には大量の血溜まり。

 十神の腹にはピンポン玉程の大きさの風穴が空き、顔はどことなく青ざめているよう。

 異様に〝 暑い 〟タワー内には、十神、狛枝2人の変わり果てた姿があった。

 

「嘘……」

 

 七海が呟く。

 日向はそれに心底同意したかった。しかしできない。

 目の前の光景がそれをさせない。

 

「こ、狛枝さんはまだ息がありますぅ! 誰かっ、誰かお水を! 血が足りない上に熱中症で脱水症状が…… ! 誰かぁ! 絶対に助けてみせますからぁ! だからお願いですぅっお水を! 誰かお水を!」

 

 錯乱する罪木。

 その直後、ここ2日間聞いていなかったアナウンスが流れ始めたのだ。

 …… 忌々しいアナウンスが。

 

『死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、学級裁判を行います!』

 

「なんだよ…… これ」

 

 日向が呆然としながら呟くが、目の前の光景は変わらない。

 罪木が言っているのは狛枝の生存のみ。つまり、その上に倒れている彼は……

 

『オマエラー! 速やかにマスカットタワーへ集合しなさい! いやー長かったね。本当に長かったね! オマエラよく粘ったよ。けど、その平穏もここまでだよ! そう、そうだよ。長らくお待たせしたコロシアイが始まったんだよ! ワックワクするね! ということで、捜査するオマエラが役立たずだと、困るから食料も用意してやるよ! やったね!』

 

 雑音とさえ取れるモノクマのアナウンスを聞き流しながら、日向はよろよろと歩いていく。

 

「な、ななな、なんでちゅかこれはぁぁぁぁ!」

 

 アナウンスによって素早くやってきたモノミが、悲痛な声をあげながら2人に走り寄っていく。

 異様に暑いタワー内。そして、2人の下に広がる不自然な程大量の血溜まり。まるで狛枝を庇うかのように手を広げ、仰向けに倒れている十神。

 その下敷きとなり、脱水症状で今にも死んでしまいそうな狛枝。

 側に転がった何かのビンと、僅かに血で汚れた鉄パイプ。

 

 嘘だと思った。

 夢であってくれと、願った。

 しかし、その場の光景は変わらない。

 

 

 そこにあったのは十神白夜の死と、瀕死の狛枝凪という状況。

 コロシアイ開始という最悪の事態が今、始まった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・ウコロシア
 やったね! オマエラお待ちかねの学級裁判だよ! ダンガンロンパはこれがないとね! タイトル? 狛枝と言ったらやっぱりエコロシアだしね!

・死体発見ムービー
 描きたかったけど描けなかった。さすがに難易度高すぎたので、捜査時に詳しく描写して補完いたします。

・絶望
 タイトル詐欺? そんなあなた様は4章のためだけに用意された注意書きを思い出してくださいませ。これはハッピーエンドへの道であると。

・事件
 オリジナル事件とトリックですが、構想当時から考えて改良して2年も温めてきたのに、犯人だけは一瞬で分かっちゃいそうです。推理物書くのって難しい。
 3ヶ月ほど前にトリックを変えるべきか悩んだけど、そうポンポンとトリックが出てくるほど頭は良くないんですよね。
 この事件は犯人、動機、トリック全てを当てるのは難しいんじゃないかなと思います。トリックはこれから推理材料をばら撒きますがそれ以外に関しては既にばら撒いたあとです。なるべく後出しはないようにしています。漏れがあったら申し訳ございません。
 感想欄での推理は止めませんのでご自由にどうぞ! それぞれの解釈や考察を見るのは私も好きなのです。
 ただし当たり障りなくしか回答はいたしませんし、他の方の迷惑にならぬようご配慮をお願いいたします。

 ※ 希望のカケラ状況は過去書いた活動報告に現時点のものを追記致しました。

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