錆の希望的生存理論   作:時雨オオカミ

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〝 何も後悔することがなければ、人生はとても空虚なものになるだろう 〟


BOX55

「な、なんだよこれ…… 凶器も事件があった時間も分からないのか……?」

 

 日向クンが呆然と呟くが、それを覗き込んだままに私は 「いいや、死亡推定時刻くらいは分かるんじゃないかな?」 と言った。

 軽く左の袖を折りながら立ち上がったときにわりと胸が痛んだが、その確認よりも先に彼へアドバイスしておこうと思ったのだ。

 パーカーのポケットに入れていたクローバーの手帳を取り出し、後ろの方のページから先ほどの情報を書き込んでいく。

 コトダマ管理は大事だからね。

 

「死亡推定時刻…… 分かるのか?」

「そりゃそうだよ。だって昨日十神クンのことは皆見かけたりしたでしょ? なら夜時間の間に事件があったとしか思えないじゃない。それにさ…… ここに決定的な証人がいるんだよ…… ?」

 

 自分を指差してニヤリと笑う。

 すると、日向クンは 「それもそうだな」 と言って頷いた。

 これで夜時間に事件が起きたことは証明できるね。そもそも、私が生き証人となるわけだから、死亡推定時刻を誤魔化すためにタワー内を暑くしたのだとしたら、皆にとっても犯人にとっても無意味になってしまうし。

 いや、私が熱中症で死んでたら無意味ではなかったかな? …… まあいいや。それはありえないし。

 

「その辺は学級裁判で議論するとして…… 今は証拠の確認を進めたほうが……」

「ちょ、ちょっと待ってくださぁい!」

 

 そうしてさらに調べようとすると、罪木ちゃんに止められた。

 

「ん、どうしたの?」

「先にその怪我を治療させてくださぁい! 血だらけじゃないですかぁ!」

 

 …… あ、そういえば私刺されていたんだったか。

 あまりの痛みに気絶するくらいの傷だが、どうやら暑さと長時間傷口を晒し続けたことで感覚が麻痺しているようだ。

 先ほど起き上がった時に痛んだのはそのせいか。

 包帯も新しいのが欲しいし、ついでに貰おう。左手はいつもしているからともかく、右手は飾り扉をガンガン叩いたときについた傷やらなにやらいろいろと見せられない状態だからね。包帯で隠してしまおう。

 相変わらず着替えはないので左脇腹から胸にかけての辺りが血塗れだが、まあ仕方ないだろう。

 

《コトダマ 熱中症だった狛枝》

 

 …… ということで、右手の傷は隠しつつ包帯も貰ったし、胸…… というより脇腹? の傷も応急処置してもらったから多少動くくらいなら大丈夫だろう。

 いつも怪我したまま動き回っているし、何度目かの飛行機事故のときなんかは骨折した状態でサバイバルしたりしてたからね。痛みに関係なく動けるって便利だ。

 …… 痛いのは嫌いだっていうのに、なんで慣れちゃってるんだろうね。悲しいなあ。

 

「じゃあ、罪木ちゃんは引き続き検死のほうよろしくね。あとは……」

「あ、証拠品がなにか見つかったらアタシに声をかけて。キッチリ証拠写真を撮るからさ!」

「わたしは小泉おねえと一緒にいるよ。そういうの向かないしー」

「うん、なるべく2人1組のほうがいい…… と思うよ」

 

 小泉さん、西園寺さんは一緒に行動。

 七海さんはどうやら捜査に積極的なようなので日向クンや私と一緒に証拠集めかな?

 

「唯吹は皆から昨日の夜のこと訊いてみるっすよー!」

 

 弐大クン、終里さんは現場で見張っていて、他の人も動き出してるみたいだ。

 

「万が一のこともあるし、お互いを見張る意味も含めて複数人で行動したほうがいいね」

「では、わたくしは十神さんの個室に向かってみます。どなたか一緒に来ていただけますか?」

 

 お、ソニアさんはいいところに目をつけるなあ。

 

「はいはい! オレがお供……」

「ぼく、行ってもいいかな」

「な、なんだとォ!?」

 

 左右田クンがやっと2人きりになれると意気込んでいたが、その野望は真面目モードっぽい花村クンに阻まれてしまった。

 俯いている彼だけれど、十神クンを見て、私を見て、そして目を逸らす。まだまだ信じられないのか、勇気が出ないのか…… 声は震えているように思える。

 

「十神くんをこんな風にしちゃった犯人を、ぼくも見つけたいんだ! でも今はまだ心の整理がつかなくて…… 十神くん自体を見るのはできそうにないし、先に周りから調べようと思ったんだ」

 

 ……そっか。

 なら、今のうちに心の整理をしといたほうがいいかもしれないね。

 彼を殺した〝 犯人 〟は、必ずこの中にいるのだから。

 そして、その憤りと遣る瀬無さを思いっきりぶつけてやってよ。

 …… それが犯人のためだよ。

 

「それでは、一緒に参りましょう。そうして、十神さんのために手がかりを見つけましょう!」

「うん…… !」

「は、入り込めねー…… だと…… !?」

 

 いやいや、2人以上で捜査すればいいんだからついていけばいいのに。

 タワー内に機械はないし、エレベーターも壊れてないんだから、精々いつも通りの振る舞いで場を和ませてあげてよね。

 

「それじゃあ、私たちもやろうか」

「ああ……」

「そうだね……」

 

 

 

 ── 捜査 開始 ──

 

 

 

 まずは死体の確認からかな。

 既に検死を開始している罪木ちゃんのそばに寄り、覗き込む。

 

「…… う」

「大丈夫? 日向クン」

「ああ……」

 

 私は見慣れているけれど、それでも身近な人の死は堪えるものだ。

 しゃがみこんで全体を観察する。

 

 十神クンは心臓をひと突きにされたわけだから…… 左胸付近に小さな風穴が空いている。これが致命傷で間違いないだろう。

 私も一緒に串刺しになっていたわけだが…… 思い出したくもない。

 即死かどうかは分からなかったが、即死であってくれと願うばかりだ。こんなことになってしまってなんだけど、あんまり痛い思いをしてほしくなかった。

 …… 私のせいで。

 いつも疑問に思っていたけれど、私の周りの人ってなんで痛い死に方をしなくちゃいけないのだろう。見るこちらも辛いのにさ。

 それが幸運の代償みたいなものか…… いや、今回は考えても無駄だな。

 

「あれ…… なんだか違和感がある…… かも?」

「どうしたの? 七海さん」

「うーん…… なんだろう。血の流れ方がおかしい…… 気がするような……」

 

 七海さんが言う血の流れ方を見てみる。

 確かに、いくら仰向けになっていたからといって、〝 背中側だけ 〟に大量の血溜りがあるのは不自然かもしれない。彼の服の前面はあんまり血で汚れていないみたいだし、全て背中から流れ落ちているようだ。

 

「罪木ちゃん、どう思う?」

「ええと、可能性があるのは凶器が栓をして血が吹き出さなかったから…… とかですかねぇ」

「そうか……」

 

《コトダマ 不自然な血溜まり》

 

「あ、それとですが…… やはり死亡推定時刻は前後してしまいますねぇ。夜時間のどこか、としか言いようがありませぇん」

「それはなんでだ?」

「あ、あの…… えっと…… 死体が温められているからですぅ…… それで死後硬直が遅れて、具体的な死亡推定時刻が分からなくなってしまっているんですよぉ」

 

 おお、なんだかサスペンスドラマみたいだ。

 さすがは罪木ちゃん。

 

「そういえば…… 今は少しマシになってるけど、タワーに来たときはすごく暑くなってたな」

「犯人の目的は死亡推定時刻を誤魔化すこと…… なのかな?」

 

 2人がそう言うが、罪木ちゃんは目を伏せて否定する。

 

「そ、それは断定できませぇん。それを誤魔化して意味があるのは数日かけた殺人だけですし…… アリバイ作りのために行うのが普通ですから、今回のこれは無意味でしかありません……」

「そうか、夜時間には多分皆アリバイがないよな。…… まあ、それは後で聞き込みしてる澪田に訊いてみるしかないか」

「なにか別の目的があったのかもしれませんねぇ」

 

《コトダマ 異様に暑いタワー内》

 

 別の目的かぁ…… 部屋を暑くする目的って言ったら、先ほど言った死亡推定時刻の誤魔化しと、もう1つあるよね。この場に〝 凶器 〟らしきものはないのだし。

 もしくは、私を殺すため…… とかが皆に思いつく可能性かな。

 

「凶器らしいものはやっぱりないか……」

「…… あの鉄パイプが凶器だとは思わないんだね」

 

 日向クンが刃物が凶器であることを前提に話しているので、そう訊いてみる。別に疑われたいわけではないが、こうも犯人から除外されているとそれはそれでもやもやするんだよね。

 

「いや、十神の傷は胸部だけだろ? あれはどう見ても刺し傷だし、鉄パイプは関係ないだろ…… ?なんだ……? おい、狛枝。そんな不安そうにするなよ」

「不安…… ? 私が…… ?」

 

 私はそんな顔をしているのか?

 

「それにほら…… 十神くんの頭にも体にも外傷はないみたいだし、そこはモノクマファイルに書いてある通りだと思う。だから鉄パイプで殴打したような跡もないし、致命傷は胸の刺し傷であってるはずだよね。そうでしょ? 罪木さん」

「は、はい! 致命傷は刺し傷で間違いありませぇん! ただ、少しだけ気になるのは十神さんの顔色ですねぇ。即死にしてはかなり青ざめているようですし…… 覚えておいたほうがいいかもしれませぇん」

 

 即死なのに苦しんだように青ざめている…… ね。

 

《コトダマ 苦しんだ十神》

 

「あー、にしても腹減ったなー」

「っわ! どうしたの終里さん!」

 

 くんくん、と匂いを嗅いでいるように終里さんが死体のそばにしゃがみ込んだ。彼女が覗き込んで来たのでびっくりして思わず尻餅をついてしまい、そのまま包帯の下にある傷に響いた。

 

「いったぁ……」

「大丈夫か?」

 

 そう言って手を差し出してくる日向クン。

 

「…… え? あ、うん…… ありがとう」

 

 あまりに自然に手を取られたから驚いたが、そのまま彼に引っ張り起こしてもらった。ちょっと恥ずかしい。

 

「それで、終里さんはどうしてこっちに?」

「なんか…… 十神から甘い匂いがするような…… ?」

 

 くんくん、と匂いを嗅ぎながら終里さんが探り当てたのは十神クンの襟元だ。

 

「なんだ、食い物持ってたわけじゃねーのか」

 

 がっくりと肩を落とす彼女の視線の先を覗く。

 

「黄色っぽい…… シミ、か?」

「変だね…… 十神くんはこういうのに敏感だから汚れがあるなんておかしいよ」

 

 彼の襟元に、僅かながら黄色っぽいシミができているようだった。

 

《コトダマ 襟元のシミ》

 

「匂いの発生源はこれなのかな…… ?」

「あー、なら狛枝。なんかお菓子とか持ってねーか?」

「え、なんで私? …… 持ってないよ」

「おっかしいなぁ…… オメーなら持ってると思ったんだけど……」

 

 なんか、妙に確信していたように感じたけれど、ちょっと怖かった。

 捲った袖をぎゅっと握りしめながらぶるりと震える。

 こんなことをしている場合じゃない。ちゃんと捜査しなくちゃね。

 

「…… ん」

 

 十神クンのポケットを探るとすぐになにか紙のようなものが掴めた。

 引っ張り出してみると、どうやらメモ書きのようである。

 なんの特徴もないメモ用紙に一言、 「12時にマスカットタワーにて」 と書かれている。

 なるほど、これを持っていたから十神クンはここに来たのか。キッチリメモまで持って来ちゃって。〝 あの人 〟が来なかったのは、そもそもメモを見ていなかったからだったか。

 

「狛枝、それなんだ?」

「呼び出しのメモだね」

「十神が呼び出されたのか……」

 

 さて、どうしようかな?

 呼び出し状を書いたのが私であると言うのがいいか、悪いか…… ま、それは裁判で言えばいいか。

 

《コトダマ 呼び出し状》

 

「む、蜃気楼の金鷹ジャンPよ、知将たる貴様が騒ぐとは何事だ…… ?」

 

 田中クンは珍しくソニアさんと一緒にいずにこちらに残留している。

 そんな彼がジャンガリアンハムスターの一匹と会話しながら十神クンのそばに寄った。ちなみにもう一匹マガGというジャンガリアンがいるはずだが、今はストールの中にいるようで見ることができない。

 

「行け! そして俺様に貴様の出した答えを見せるがいい!」

 

 シュバッ! と効果音がつきそうな勢いでハムスターが十神クンの下からなにか紙のようなものを咥えて田中クンの肩に再び登っていく。

 

「ふはははは! これが貴様の答えか!」

「ちょっと見せてもらってもいい?」

 

 気になったのか、七海さんがジャンPクンから紙を受け取る。

 

「っふ、またつまらぬことをしてしまった。行くぞ破壊神暗黒四天王よ。消費したマナの補給に向かうとしよう」

 

 あ、ハムスターのご飯はまだだったんだね。

 ということは…… 今後彼に会うにはストロベリーハウスの3階にある公園に行かないといけないね。あそこには唯一向日葵が咲いているから、ハムスターたちの食事だけはちゃんとできるのだ。

 じゃないとハムスターって共食いもするんだっけ? 田中クンとの絆で繋がってるあの子たちは大丈夫なような気もするが、万が一のこともあるだろう。

 

「それ、なんだ?」

「うーん…… ザラザラしてるね。それに、これにもちょっと血がついてるみたい」

「ちょっと見せてもらってもいいか?」

「うん」

 

 そう言って七海さんが日向クンに紙を渡す。

 裏表をじっくり見て、触っていた彼は 「ああ、これか」 と呟いて結論を出した。

 

「これ、ヤスリだな」

「ヤスリ…… ?」

「ああ、木とかの柔らかい素材の角を丸く整えたり、削ったりする道具だ。なんで血がついてるのかは分からないけどな」

 

《コトダマ 血痕のついたヤスリ》

 

「へえ……」

 

 興味深そうにヤスリを見る七海さん。

 もしかして知らなかったのかな? ゲームにヤスリが出てくることってあんまりなさそうだし、それ以外に知識を吸収する術もないから知らなくて当然かもしれない。

 季節行事なんかも知らないことが多いみたいだし、本来学校で教わることはあんまり知らないのかもね。

 

「十神クン自身を見て分かることはこれくらいかなぁ」

「ああ、そうかもしれないな」

「あとは罪木さんの詳しい検死結果待ち…… かな」

「もうちょっとなので待っていてくださぁい…………」

 

 ならばそのもう少しの間にできることをやるか。

 

「さっきも話題に上がったけど、一応鉄パイプも調べたほうがいいんじゃない?」

「ああ、それもそうだけどな…… なんでこれがこっちに落ちてるんだ? お前の護身用だったんだろ?」

 

 おっと、とうとう証言をしないといけないのか。

 

「…… 落としたんだよ。十神クンに突き飛ばされちゃってさ。それでタワーの、あの位置までよろけて…… 気がついたら目の前に十神クンがいて、刺されて、なにがなんだか分からないうちに一緒に倒れてたんだ」

 

 鉄パイプは入り口近くに落ちているわけだから間違いではない。

 血に濡れている理由にはならないけれど。

 普段は半分の15㎝程度に縮めてスカートに隠しているが、いつも持ち歩いているのは辺古山さんとの一件以来皆が知っていることだ。

 

「だから誰に刺されたのかは見ていないんだよ」

 

《コトダマ 狛枝の証言》

 

「この鉄パイプ、外側は血に濡れてないけど、内側は結構血がこびりついてるみたい」

「本当だな…… でも、なんで内側だけなんだ…… ?」

 

《コトダマ 血塗れの鉄パイプ》

 

「あと気になるのは、この落ちてるビンだよね」

 

 私が言って持ち上げると、中の錠剤がザラリと動いた。

 

「えーとなになに…… ?」

 

 七海さんが持ち上げられたビンのラベルを読んで、段々顔を険しくさせていく。

 その反応で、この錠剤の正体が日向クンにもなんとなく分かるようだが、一応私も訊いておく。

 

「なんて書いてある?」

「えーっとね……」

 

 

 

 モノクマ特製睡眠薬

〝 安らかな眠りをアナタに 〟

 

 概要

 ・ 1粒でぐっすりとよく眠れます。

 ・ 2粒で寝付きの悪い人も安心です。

 ・ 4粒で誰にも邪魔されず10時間ほどずっと眠れます。

 ・ 8粒で昏倒するほどの驚くべき効き目になります。

 ・ 永遠におやすみしたい方は10粒ほど一気に飲み込みましょう。

 

   とてもよく眠れます。

   永遠に眠れます。

 

 

 

 謳い文句が酷い。

 

「これ、要するに危険な薬じゃないか!」

「10粒で致死量…… 毒薬と言ってもいいんじゃないかな」

 

 その通りだよ。

 

「モノクマ特製ってだけでも嫌なのにさ…… 日向クン、減ってるかは分かる?」

「…… いや、元々何粒入っていたか書いてないし、使っていたとしてもあまり使ってないんじゃないか? そんなに、一気に減っているようには見えないしな……」

「キミの見解だと使われたかどうかは不明……か」

 

 ビンいっぱいに入ってるもんね、薬。

 

《コトダマ モノクマ特製睡眠薬》

 

「あ、あの…… 結果が……」

 

 そうこうして死体周辺を調べ終わったとき、罪木ちゃんからお呼びがかかった。

 私たちは小泉さんと彼女に教わりながらカメラを構える西園寺さんに撮影を任せ、再び罪木ちゃんの方へ向かった。

 

「なにか分かった?」

「はい…… まずですね、致命傷は刺傷で間違いありません。それから、即死であることも間違いありませぇん。直径5㎝から8㎝程度で、長さは30㎝くらいの凶器ですねぇ。恐らく槍や、杭のような形状だと思います。胸部を貫通しているのですが…… そんなことができるような人は限られていますし、恐らく倒れたときに貫通したのでしょうねぇ。手で貫通させたのなら相当力がないと無理だと思いますぅ。あと、私が気になったのは血の量が少し…… 多すぎるような気がすることですねぇ」

 

《コトダマ 罪木の検死結果》

 

「血が多すぎるっていうのはどうしてだ?」

「その…… 2人ぶんの血液にしては多すぎると言いますか…… 狛枝さんは失血死していませんし、この量だと2人とも失血死していてもおかしくありません。だから不自然だなぁっと思ったんですけど…… あ、あの勘違いかもしれませんし……」

 

 自信なさそうに目を伏せる彼女に日向クンが首を振って応える。

 

「そんなことないぞ、罪木の見立てなら間違いないだろ?」

「うん、そうだよね」

 

《コトダマ 多すぎる血の量》

 

 罪木ちゃんだもの。彼女は自信が足りないだけだから結果は確かなはずだ。

 

「罪木さんのこと、皆信頼してるからあんまり気負わないでね……」

「は、はい…… その、ありがとうございますぅ……」

 

 嬉しそうにモジモジとしている彼女を微笑ましげに見てからふと考える。

 もし、私が死んでしまっていたら、彼女のこんな笑顔はもう見れなかったかもしれない。

 …… なおさら死ねないな。夢の中なら、意思を強く保たないと。

 

「ええと、それと…… 専門的なことなので分かるかどうかなのですが……」

「聞くだけ聞いとくよ?」

 

 罪木ちゃんがこう言うってことは本当に専門的なことなのかな?

 

「血液凝固の仕方が…… 変なんですぅ」

「…… は? 血液凝固?」

「はい……」

 

 それはまた素人には分からなそうな……

 

「ええと、血液というものは酸素に触れると凝固を始めるのですけど…… 床の血は殆ど乾いてますが、大量に流れ出たために重なり合った部分など、中心の方はまだ固まっていないんです。ですけど、ほとんど空気に触れないはずの、十神さんの傷口の中は既にカチコチに固まっているんですよぉ…… 変ですよねぇ?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ…… つまりどういうことだ?」

 

 傷口の…… それも深い傷の場合はなかなか血が固まらないだろう。それは血が流れ続けているからだ。そして床に流れて空気に長時間触れている箇所は固まるのが早い。床の血が完全に乾くまでに十神クンの傷口が完全に固まっているのは不自然だって言いたいのかな?

 なにせ、凶器が栓になって空気に触れていなかったはずなのだから。

 凶器が栓になっていれば傷口から血は流れ続けるし、固まることはない。

 ならなぜ先に固まっているのか? 彼女はそれが疑問なのだろう。

 

「さっき、凶器が栓になって血が吹き出さなかったって結論になったよね? なら、外に流れ出て空気に触れた血より中の方が先に凝固してるのは不自然なんだよ。凶器で塞がれてちゃあ、傷を塞げないからね」

 

 死んでいるにしても細胞や血の性質は変わらないわけだから。

 

「もしかしたら私の血が混ざっちゃったのかな…… ?」

「た、確かに狛枝さんにも軽い拒絶反応は見られましたけれど、そこまで強いものではありませんし、そんなに混ざってしまったとは思えませぇん!」

「そっか」

 

 私はO型。十神クンはB型。

 献血とかする人にはピンと来るかもしれないが、私の血が十神クンの血と混ざってもそこまで拒絶反応は出ないはずだ。

 逆に彼の血が私の血と混ざるとものすごい拒絶反応が出るはずなのだけれど…… それがあったら私はこんなに平然としていられないのでそれはないと断定できる。

 この凝固の問題は現時点だと謎としか言えないだろうね。

 

《コトダマ 罪木の証言》

 

「タワー内で調べられることといったらこれくらいかな…… ?」

「そうだな」

「うーん、分からないことだらけだね…… あとは、十神くんの使ってた部屋かな」

 

 そう言う七海さんに 「いや……」 と静止して思案するフリをする。

 

「十神クンの使ってた部屋にはソニアさんたちが行ってるんだよね?」

「う、うんそうだけど……」

 

 だって、私がこれを言わないと誰にもこの事件は解決できそうにないんだもの。

 

「じゃあ、誰も行かないだろうし…… ファイナルデッドルーム(FDR)に行ってみない?」

 

 絶句した2人に、告げる。

 

「この2つのタワーのどこにも電源盤も冷暖房装置もなかった…… なら探していないのはあと一箇所だけ。そうでしょう?」

 

 悪魔の囁きのように誘導する。

 そして、いつものようにニヤリと笑って 「どうする?」 と、選択権を私は投げたのだ。

 

 実質一択だけの、選択を。

 

 

 

 




・メモ書きの時間
 仕様です。間違いではありません。

・血液凝固
わけわかめな人は捜査パート終了まで待っていてくださいませ!
例によって例のごとく、キチンとコトダマ整理のための一覧を用意いたします。そのときに詳しくご説明致しましょう。

 タイトルは無印の捜査BGMパロディかつ、ダンガンロンパの初期タイトル案が 「55番目の箱」 であり、原作狛枝のパーカーに55とロゴが刻まれているため。

 狛枝誕生日おめでとう! 番外編書けなくてごめんね!
 誕生日ついでにちゃんと明かしておきます。
 ダンガンロンパお馴染み、対称的なテーマは本作において 「夢と現実」でございます。
 それと同じくして、何度も出てくるほど意識している裏テーマのようなものは「渇望と後悔」です。

 「先にできる後悔なんて、どこにもないんだよ」
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