シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第2話 【帰還】 その4

 アーエルとネヴィリルは、大空陸に帰ってきてから、やっと人心地がついた思いがしていた。

 二人の仮住まいは、嶺国の発掘作業員が使い捨てた粗末な作業小屋だったが、ひとまずは雨露もしのげたし、何よりも追われる心配をせずに過ごせるのがうれしかった。

 この日、二人は泉で入浴を済ませ、身体の汚れを綺麗に落として着替えをしていた。

 グラギエフが持ってきてくれた着替えは、奥さんのものらしいが、アーエルには少し大きかった。

「やだぁ~…これブカブカだよ。ネヴィリル」と、アーエルは不服そうな顔をして言った。

「あら、私にはちょうどいいわよ。早く大きくなりなさいアーエル」ネヴィリルは笑いながら、アーエルをからかった。

「子供みたいに言うなよ~」アーエルはちょっぴりむくれた。

 それから、二人で笑い合いながら作業員が使っていた粗末なベッドに座り、足を伸ばしてくつろいだ。

「ねぇねぇ、ネヴィリル…グラギエフの奥さんってどんな人かなぁ~」アーエルが言い出した。

「そうねぇ、結婚してるとは知らなかったわね。子供もいるらしいけど…気になる?」ネヴィリルは、逆にアーエルに聞いた。

「うん、会ってみたいね~…それに、結婚生活ってどんなんだか興味沸かない?ネヴィリル」

 どうやら、アーエルは結婚生活に、とっても興味があるようだ。

「さぁ、私は小さい頃から、ず~っと立派なシュヴィラになる事を父に教えられて来たし、考えた事もなかったわ」

 ネヴィリルは、そう言ってはぐらかそうとしたが、アーエルは「でもさぁ…いつかシムーン・シュヴィラをやめて、ネヴィリルと一緒に暮らせたらいいな~」と、真剣な目をして言った。

「アーエルったら、気の早い事…私はまだ相手を決めてないわよ」

 ネヴィリルはそう言いながらも、そっとアーエルに顔を近づけた、そして、二人は照れくさそうに愛を確かめた。

 

 その時、急に遠くの方から何かが近づいて来るような音がした。それは、次第にはっきりと二人の耳に聞こえて来た。

「ネヴィリル、空の上から何かが来るよ!」アーエルが言った。

「何かしら…?」ネヴィリルも不審に思った。

 アーエルとネヴィリルは、窓を開けて空を見上げた。

 空には黒い航跡を引きながら、遺跡の方に向かって飛んで来る、礁国の高速シミレの一団が見えた。

 近付いてきた高速シミレは、ヒュ~!ヒュ~!と、何かを遺跡に落とし始めた。

 ドド~ン!ドド~ン!と、たちまち遺跡のあちこちで爆発音が鳴り響き、もうもうと土煙が上がった。

「伏せてっ!アーエル。爆撃されているわ」ネヴィリルが叫んだ。

「くそっ!礁国は何だって遺跡なんかを…」

 そう言って、アーエルがかがみ込んで伏せようした時、シムーンを隠してある洞窟の辺りに爆弾が落ちた。

「ああっ!シムーンが…シムーンがっ!」アーエルは、それを見るなり、慌てて外に飛び出した。

「待って、アーエル、今出て行っちゃぁ危ないっ!」ネヴィリルは、アーエルを引き止めようとして叫んだ。

 だが、すでにアーエルは洞窟に向かって、まっしぐらに駆け出していた。ネヴィリルも急いで後を追い掛けた。

 爆弾が振りそそぐ中を、アーエルとネヴィリルは懸命に走って、シムーンを隠してある洞窟にたどり着いた。

 ハァハァと息が切れていたが、とにもかくにも、シムーンが無事かどうかを確かめるのが先だった。

 よく見ると、二人のシムーンは爆撃の土砂をかぶってはいたが、幸いにどこも破損はしていなかった。

「危ないじゃないのっ!アーエル。もし怪我でもしたら…」

「だってネヴィリル。シムーンが壊れたら私たち…」

 アーエルがそう言い掛けた途端、すぐ上で爆発音がした。とっさに頭を抱えたアーエルとネヴィリルの上に土砂が降り注いだ。

「ここは危険だわ。もっと奥に隠れましょ」

「うん、そうしよう。ネヴィリル」

 アーエルとネヴィリルは、暗い洞窟の中を手で探りながら、奥へ入ろうとした。

 その時、ふいに二人の足元が崩れた。アーエルとネヴィリルは、土砂と一緒に暗闇の中に転がり落ちた。

 

 どのくらい気を失っていたのだろうか。二人が気がつくと、ボ~ッとしたエメラルド色の光が辺りを照らしていた。

 目を凝らすと、ぐるりを壁に囲まれ、ズラリと石の柱が立ち並ぶ何かの回廊のような場所にいる事がわかった。

「ネヴィリル大丈夫。怪我はない?」起き上がりながら、アーエルはネヴィリルに尋ねた。

「えぇ、何とかね…それより、ここはどこかしら?」ネヴィリルも起き上がった。

「洞窟の中じゃないね。何だか周りがエメラルド色に光ってる…向こうはもっと明るそうだよ。行ってみよ」

 アーエルとネヴィリルは、よろよろしながら、列柱をくぐりぬけて広い場所に出た。

「石の柱がボ~ッと光ってるよ。それにここは随分広そうだね」アーエルは、薄明かりの中で辺りを見た。

「きっとシムーン宮と同じ発光石だわ。私があの時もらったのもそう…それに、古代の神殿はエメラルド色に光っていたって言い伝えもある」

 確信はなかったが、ネヴィリルがそう言うと「そうか~…じゃぁ、ここは古代の神殿なんだ」と、アーエルは言った。

「そうかもね…でも、遺跡の地下にこんな神殿があるなんて、聞いた事もなかったわ」

 ようやく薄明かりに目が慣れて来ると、ネヴィリルは、もう一度周りを確かめた(ここはどうやら神殿の大広間らしい)

 床一面には、装飾された大理石が敷き詰められ、大広間を取り囲むように、発光石がはめ込まれた何本もの石柱が立っていた。

 回廊の壁一面には、様々な鳥や獣、海の生き物や、人々の生活の様子が、浮き彫りにされている。

 そして、石でできた丸い天井には、まるでリ・マージョンをかたどったような幾何学文様がいくつも刻まれていた。

(遺跡の建物がまだ建っていた頃は、こんな風だったのかな…でも、祭壇はどこに?)ネヴィリルは考えた。

「ねぇねぇ、あれ見てネヴィリル」アーエルが何かを見つけたようだった。

 

~続く~

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