シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第2話 【帰還】 その5

 アーエルが指差した先には、祭壇と思しきものがあった。

 当然、テンプスパティムが祭られている。とばかり思っていたネヴィリルには見つけられなかった訳だ。

 その巨大な石の祭壇の上には、大きな車輪のついたピラミッドが祭られていた。

 車輪は七重の輪でできていて、輪の中に七つの渦巻き文様が刻まれていた。

 その下の台座に、輪を指し示す4人の巫女らしき人物のレリーフが刻まれ、さらにその下に、10人の巫女らしき人物がいて、その回りを、これまた大勢の巫女のような人々が取り巻いていた。

(これは何を表しているんだろう?)ネヴィリルは近くに寄って、そのレリーフを見つめた。

「ネヴィリル。この模様、何だか翠玉のリ・マージョンによく似てない?」

 アーエルが、七重の輪の中にある渦巻き模様を指差しながら言った。

(確かに…言われてみればそうだ。これは翠玉のリ・マージョンだ。でも、なぜ七つも?)ネヴィリルは不思議に思った。

 台座の下の方には、何か碑文のようなものが刻まれていた。

「何が書いてあるんだろうね?ネヴィリル」

「えぇ、何かしら?…見た事もない不思議な文字だわ」

 その文字は、アーエルもネヴィリルもまったく見た事がない…まるで、どこかの別世界の文字のようだった。

(この神殿は、いつ頃からあったのだろう?…もしかしたら、まったく別の世界から来たのかも知れない)

 ネヴィリルは、昔コール・デクストラがこの遺跡で、無理な翠玉のリ・マージョンの訓練をしたために、時空がとても不安定になっている…と、聞いていた事を思い出した。

 

 その時、ズズ~ン!と、地鳴りのような音が上から聞こえて来て、足元がグラグラと揺れた。

 天井からは、バラバラと石のかけらが床に落ちて来た。

(そうだった。遺跡は爆撃されているんだった)

 アーエルとネヴィリルは、夢から覚めでもしたように、ハッ!と我に返った。

 段々と足元の揺れが大きくなり、列柱の石にはひびが入って、神殿の大広間は音を立てて崩れ始めた。

「まずいよネヴィリル。逃げよう!」

「そうね、回廊の方に出ましょう」

 アーエルとネヴィリルは、急いで回廊に跳び出ると、出口を探して走り始めた。

 古代神殿が崩壊する音を後ろに聞きながら、二人は無我夢中で回廊の中を走り抜けた。

 走って、走って、ようやく、上に登って行けるらしい石の階段を見つけた二人は、懸命にそこを駆け上がった。

 階段は途中で途切れたが、アーエルとネヴィリルは互いに支え合いながら、暗いトンネルを上へ上へとよじ登った。

 やっと光が見えて来て、二人は地上に転がり出た。そこは、最初に入ったのとはまったく別の洞窟だった。

 どうやら爆撃は止んだらしく、空に高速シミレの機影はなかった。アーエルとネヴィリルは何とか助かった。

 息がすっかり途切れて、もう立っていられなかったので、二人はそのままごろりと横になった。

 そして、アーエルとネヴィリルは、あの時の事を思い出していた。

 

 戦いに敗れ、アルクス・プリーマで囚われの身となっていたアーエルとネヴィリルは、宮国のシムーン・シュヴィラを尊敬する嶺国の巫女に助けられ、やっとシムーンに乗って空へ飛び立った。

「行きましょう、アーエル。自由になれる場所へ…」ネヴィリルが言った。

「そうだね。ネヴィリルと二人で…」アーエルも答えた。

 しかし、すでに後ろからは、4機の嶺国の古代シムーンが迫ってきていた。

「追いかけて来るよネヴィリル。急がなきゃ捕まってしまう!」

 アーエルは、ネヴィリルにそう言いながら、シムーンの速度を上げた。

 ところが、アーエルとネヴィリルを追ってきた古代シムーンは、ふいに翼をひるがえすと、空に航跡を描き始めた。

「待ってっ!…あれは朝凪のリ・マージョン」

 それは旅立って行く友を送るために、空に描く友情のリ・マージョンだった。

 アーエルとネヴィリルは、心で結ばれた同じ少女たちに見送られながら、空に幾重もの螺旋模様を描き始めた。

 それは『翠玉のリ・マージョン』…宮国に伝わる謎に包まれた伝説のリ・マージョンだった。

 シムーンのヘリカル・モートレスの回転は極限にまで達し、時間と空間は次第に融合して行った。

 そして、ついに無限なる異空間への扉が開いた。

 すべてを飲み込むものすごい閃光と共に、辺り一面が真っ白い世界に変わった。まるで何もない無の世界に。

 それは、ただアーエルとネヴィリルだけが存在する世界だった。

 二人の乗ったシムーンは、その白い世界の中を、ただひたすらに突き進んで行った。

 眼下には、地上の景色が見え隠れした。違う世界の様々な町や村が、山や海の風景が…

 そして、それらの景色は、矢のようなスピードでまたたく間に通り過ぎて行った。

「アーエル…アーエル…」どこかから、懐かしいリモネの呼ぶ声がした。

(あぁ、ドミヌーラと一緒に、どこかの世界に行ってしまったリモネの声がする…どこだろう?)

 しかし、アーエルとネヴィリルの意識は、徐々に遠のいていった。

 

第2話【帰還】終了 → 第3話【花叢(かそう)】へと続く

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