シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第3話 【花叢(かそう)】 その1

 あれからどのくらい経ったのだろうか?

 アーエルとネヴィリルは、長い眠りから覚めたかのように、ようやく意識を取り戻した。

(ここはどこだろう?…まったく違う世界のようでもあり、自分たちがいた同じ世界のようでもある)

 青い空と白い雲…ただ一つ異なるのは、目の前に巨大なピラミッドがそびえ立っているという事だった。

 まるで神が創造したようなそのピラミッドは、外壁が金属のような物質で覆われ、所々がキラキラと光彩を放っていた。

「ネヴィリル、見て!見てっ!すごいよ。あんな大きな建物…今まで見た事もない」

 アーエルとネヴィリルは、感歎のあまり、ただピラミッドに見とれていた。

 しかしネヴィリルは、何となく周囲の景色に見覚えがあった。

「そうね、建物と言うより山だわ…だけどアーエル、周りの風景に見覚えはない?」

 それは古代遺跡の周りの風景だった。だが、ピラミッドの周りの建物は遺跡ではなく崩れ落ちてもいなかった。

 太古の昔、宮国には『神の民』が住んでいたと伝えられている。

 彼らは人々にたくさんの事を教え、いずこともなく去って行き、後にはたくさんの遺跡が残った。

 それらの遺跡から発掘されるシムーン=ヘリカル・モートレスは宮国の宝であり、信仰の基盤ともなっている。

 

「どこぞの世界からシムーンがやってきましたぞ」

 ピラミッドの中から外を見ていた『小さき魂の塊・ディオ』は『小さき魂の塊・エイス』にそう言った。

「ふむ、迎えを出して入れてやってくれ」エイスはそう答えた。

 ピラミッドの壁の一部が開いて、2機のシムーンが空に舞い上がって来た。

 

「ネヴィリル、中からシムーンが出てきたよ。古代シムーンと…あれっ?宮国のシムーンが並んでこっちにやって来る」

「不思議ね~…ここでは宮国と嶺国は戦争していないのかしら?」

「どうする…逃げようか?ネヴィリル」

「待って…あれは連環のリ・マージョンだわ」

 やって来た2機のシムーンは、空に歓迎の意を表す連環のリ・マージョンを描くと、付いてくるように合図をした。

「ついて行きましょ、アーエル。あの中に入れてくれるらしいわ」

「大丈夫かな~?…だまして捕まえたりはしないよね」

「大丈夫よ。敵意は全然ないみたいだわ」

 アーエルとネヴィリルは2機のシムーンについて、ピラミッドの…どうやら、シムーンの発着場らしいデッキに着陸した。

 二人がタラップを降りると、それまで遠巻きに見ていた大勢の少女たちが、一斉に傍らに寄ってきた。

 嶺国の巫女装束の少女もいれば、宮国の衣装を着た子も、全然見た事のない国の衣装の少女もいた。

 全員が、形も色もまったく違う服を着ていて、まるで民族衣装の博覧会を見ているようだった。

 そうして、少女たちは口々にアーエルとネヴィリルに何か聞いて来るのだが、まったく言葉が通じない。

 二人が困っていると、宮国の巫女らしい少女が進み出てきて、アーエルとネヴィリルに言った。

「どんな世界から来ましたかって?…みんな聞いているよ」

「あ、私たちはね…」

 アーエルが答えようとした時、少女たちの後ろからやって来た老人が、みんなをたしなめるように言った。

「ほらほら、みんな~…お客さんが困ってるじゃぁないか。お話はバルネアに一緒に入った時でもゆっくりできるだろ」

「は~い、小さき魂の塊のエイス様」

 老人にそう言われた少女たちは素直な返事をして、それぞれが思い思いに散らばって行った。

 その背が高く、白髪で、白いトーガをまとった老人は、アーエルとネヴィリルを見ると、とても驚いたような顔をした。

「やれやれ、可愛い子たちじゃが、好奇心が旺盛でな…さて、お二人さん。私について来なされ」

 そう言うと老人は先に立って、アーエルとネヴィリルを金属の扉の前まで案内した。

 老人が扉の横についている光るボタンに触れると、扉は音もなく開いた。

「さ、中に入りなされ」と、老人は二人を促して言った。

 アーエルとネヴィリルが、老人と箱のような物の中に入ると、扉は勝手に閉まった。

「あっ!」アーエルが驚いたような声を上げた。

 落ちて行くような気がしたのだ…でも、そんな気がするだけで、実際には落ちてはいなかった。

 やがて三人の乗った箱は静かに止まり、また勝手に扉が開いた。目の前には両側を金属の壁で囲った通路があった。

 老人は箱の中から通路に出て二人を招いた。アーエルとネヴィリルが通路に出た途端に、通路が勝手に動き出した。

「ああっ~!」歩こうとしていたアーエルは、転びそうになった。ネヴィリルもバランスを崩した。

 それを見て、老人はやさしく二人の手を取った。

 しばらく行くと、通路は一つの部屋の扉の前で勝手に止まった。

 老人は、また光るボタンに触れて扉を開けると、アーエルとネヴィリルを部屋の中に招き入れた。

 そこはとても綺麗な部屋だった。テーブルと椅子と、鏡のような物があるだけで、特に装飾はないが、清潔で居心地が良かった。

「まぁ、座りなされ。何か飲み物でも出そう」そう言って老人は、アーエルとネヴィリルを椅子に座らせた。

 二人が椅子に腰掛けると、老人はテーブルの端にある光るボタンに触れた。すると、途端に飲み物が目の前に出て来た。

 それはとてもおいしい飲み物だった。蜂蜜のようでもあり、味わった事のない甘い果実のような味がして、たちまち疲れが取れた。

 老人は微笑みながらアーエルとネヴィリルの様子を見ていた。

 

(宮国の言い伝えでは、翠玉のリ・マージョンを行ったシムーン・シュヴィラは、みんなテンプスパティウムのお側に仕えたと聞く)

 ネヴィリルは、ここに来てから心に思っていた事を、思い切って老人に尋ねてみた。

「失礼ですが…もしかしたら、ここはテンプスパティウムの宮殿なのですか?」

「テンプスパティウム?何じゃねそれは…人の名前か?」老人は怪訝そうな顔をして言った。

「いぇ、神の御名です」ネヴィリルはそう答えた。

「神?…はて?神とはなんじゃ?」老人はネヴィリルの言っている意味が、理解できないようだった。

 ネヴィリルは思った(考えてみれば、神が自らを神と名乗るのも変だ…でも、ここに来てからの出来事は、全部神でなければできない奇跡ばかりだった)

「では、あなたは何とおっしゃるのでしょうか?あ、私はネヴィリルと申します」

「ネヴィリルか。良い名じゃのぅ~…わしは、いや、わしたちは『小さき魂の塊』と呼ばれている」

「小さき魂の塊?…ですか」

「そうじゃ。成り立ちは異なるが、お前さまも小さき魂の塊には違いない。まぁ、区別するためにエイスと呼んでくれればよい」

「それではエイス様、私とここにいるアーエルを、あなたのお側に置いていただけますでしょうか?」

「う~ん…それは困ったのぅ。我々はまもなくこの世界から立ち去るつもりでおるからの」

「えっ、それはまたなぜでしょうか?」

「この世界の人々が、我々が教えたものを戦争に使い始めたからじゃ…すでにお互いに殺し合いを始めておる」

「みんなが戦争を始めたのですか?」

「すぐに彼らは、シムーンとシュヴィラを戦争の道具にするだろう。そんな事をすれば世界は破滅する。だから、そうなる前に立ち去るのじゃ」

(私たちの世界でもシムーンが戦争に使われていた…でも、シムーンが世界を破滅させるとは、一体どう言う意味なのだろうか?)

 ネヴィリルはしばらく考えた。アーエルは緊張続きで疲れたのか、大きなあくびをしていた。

「さあ、もう遅くなった。夕食を取ったら、みんなとバルネアに入って休むと良い…廃晶もだいぶん溜まっておるようじゃしな」

 エイスがそう言うと、ドアがスーッと開いて、さっきの宮国のシュヴィラらしい少女が入って来た。

「あぁ、ルキアや。このお二人を部屋までご案内して、食事を差し上げてくれんかの」

「はい、小さき魂の塊のエイス様」

 ルキアはそう答えると、アーエルとネヴィリルを動く通路に連れ出した。

 二人はルキアに案内されて、別の部屋に入った。そこもとても気持ちのいい部屋だった。

 ルキアがテーブルを操作すると、夕食のメニューの画像が出てきた。どれもこれもおいしそうなご馳走ばかりだった。

「画像に触ると本物の食べ物が出て来るから、好きな物を選ぶといいわ。夕食が済んだらまた迎えに来ます」

 そう言ってルキアは立ち去った。アーエルとネヴィリルは言われた通りにして、久しぶりの豪華なディナーに舌鼓を打った。

 

~続く~

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