あれからどのくらい経ったのだろうか?
アーエルとネヴィリルは、長い眠りから覚めたかのように、ようやく意識を取り戻した。
(ここはどこだろう?…まったく違う世界のようでもあり、自分たちがいた同じ世界のようでもある)
青い空と白い雲…ただ一つ異なるのは、目の前に巨大なピラミッドがそびえ立っているという事だった。
まるで神が創造したようなそのピラミッドは、外壁が金属のような物質で覆われ、所々がキラキラと光彩を放っていた。
「ネヴィリル、見て!見てっ!すごいよ。あんな大きな建物…今まで見た事もない」
アーエルとネヴィリルは、感歎のあまり、ただピラミッドに見とれていた。
しかしネヴィリルは、何となく周囲の景色に見覚えがあった。
「そうね、建物と言うより山だわ…だけどアーエル、周りの風景に見覚えはない?」
それは古代遺跡の周りの風景だった。だが、ピラミッドの周りの建物は遺跡ではなく崩れ落ちてもいなかった。
太古の昔、宮国には『神の民』が住んでいたと伝えられている。
彼らは人々にたくさんの事を教え、いずこともなく去って行き、後にはたくさんの遺跡が残った。
それらの遺跡から発掘されるシムーン=ヘリカル・モートレスは宮国の宝であり、信仰の基盤ともなっている。
「どこぞの世界からシムーンがやってきましたぞ」
ピラミッドの中から外を見ていた『小さき魂の塊・ディオ』は『小さき魂の塊・エイス』にそう言った。
「ふむ、迎えを出して入れてやってくれ」エイスはそう答えた。
ピラミッドの壁の一部が開いて、2機のシムーンが空に舞い上がって来た。
「ネヴィリル、中からシムーンが出てきたよ。古代シムーンと…あれっ?宮国のシムーンが並んでこっちにやって来る」
「不思議ね~…ここでは宮国と嶺国は戦争していないのかしら?」
「どうする…逃げようか?ネヴィリル」
「待って…あれは連環のリ・マージョンだわ」
やって来た2機のシムーンは、空に歓迎の意を表す連環のリ・マージョンを描くと、付いてくるように合図をした。
「ついて行きましょ、アーエル。あの中に入れてくれるらしいわ」
「大丈夫かな~?…だまして捕まえたりはしないよね」
「大丈夫よ。敵意は全然ないみたいだわ」
アーエルとネヴィリルは2機のシムーンについて、ピラミッドの…どうやら、シムーンの発着場らしいデッキに着陸した。
二人がタラップを降りると、それまで遠巻きに見ていた大勢の少女たちが、一斉に傍らに寄ってきた。
嶺国の巫女装束の少女もいれば、宮国の衣装を着た子も、全然見た事のない国の衣装の少女もいた。
全員が、形も色もまったく違う服を着ていて、まるで民族衣装の博覧会を見ているようだった。
そうして、少女たちは口々にアーエルとネヴィリルに何か聞いて来るのだが、まったく言葉が通じない。
二人が困っていると、宮国の巫女らしい少女が進み出てきて、アーエルとネヴィリルに言った。
「どんな世界から来ましたかって?…みんな聞いているよ」
「あ、私たちはね…」
アーエルが答えようとした時、少女たちの後ろからやって来た老人が、みんなをたしなめるように言った。
「ほらほら、みんな~…お客さんが困ってるじゃぁないか。お話はバルネアに一緒に入った時でもゆっくりできるだろ」
「は~い、小さき魂の塊のエイス様」
老人にそう言われた少女たちは素直な返事をして、それぞれが思い思いに散らばって行った。
その背が高く、白髪で、白いトーガをまとった老人は、アーエルとネヴィリルを見ると、とても驚いたような顔をした。
「やれやれ、可愛い子たちじゃが、好奇心が旺盛でな…さて、お二人さん。私について来なされ」
そう言うと老人は先に立って、アーエルとネヴィリルを金属の扉の前まで案内した。
老人が扉の横についている光るボタンに触れると、扉は音もなく開いた。
「さ、中に入りなされ」と、老人は二人を促して言った。
アーエルとネヴィリルが、老人と箱のような物の中に入ると、扉は勝手に閉まった。
「あっ!」アーエルが驚いたような声を上げた。
落ちて行くような気がしたのだ…でも、そんな気がするだけで、実際には落ちてはいなかった。
やがて三人の乗った箱は静かに止まり、また勝手に扉が開いた。目の前には両側を金属の壁で囲った通路があった。
老人は箱の中から通路に出て二人を招いた。アーエルとネヴィリルが通路に出た途端に、通路が勝手に動き出した。
「ああっ~!」歩こうとしていたアーエルは、転びそうになった。ネヴィリルもバランスを崩した。
それを見て、老人はやさしく二人の手を取った。
しばらく行くと、通路は一つの部屋の扉の前で勝手に止まった。
老人は、また光るボタンに触れて扉を開けると、アーエルとネヴィリルを部屋の中に招き入れた。
そこはとても綺麗な部屋だった。テーブルと椅子と、鏡のような物があるだけで、特に装飾はないが、清潔で居心地が良かった。
「まぁ、座りなされ。何か飲み物でも出そう」そう言って老人は、アーエルとネヴィリルを椅子に座らせた。
二人が椅子に腰掛けると、老人はテーブルの端にある光るボタンに触れた。すると、途端に飲み物が目の前に出て来た。
それはとてもおいしい飲み物だった。蜂蜜のようでもあり、味わった事のない甘い果実のような味がして、たちまち疲れが取れた。
老人は微笑みながらアーエルとネヴィリルの様子を見ていた。
(宮国の言い伝えでは、翠玉のリ・マージョンを行ったシムーン・シュヴィラは、みんなテンプスパティウムのお側に仕えたと聞く)
ネヴィリルは、ここに来てから心に思っていた事を、思い切って老人に尋ねてみた。
「失礼ですが…もしかしたら、ここはテンプスパティウムの宮殿なのですか?」
「テンプスパティウム?何じゃねそれは…人の名前か?」老人は怪訝そうな顔をして言った。
「いぇ、神の御名です」ネヴィリルはそう答えた。
「神?…はて?神とはなんじゃ?」老人はネヴィリルの言っている意味が、理解できないようだった。
ネヴィリルは思った(考えてみれば、神が自らを神と名乗るのも変だ…でも、ここに来てからの出来事は、全部神でなければできない奇跡ばかりだった)
「では、あなたは何とおっしゃるのでしょうか?あ、私はネヴィリルと申します」
「ネヴィリルか。良い名じゃのぅ~…わしは、いや、わしたちは『小さき魂の塊』と呼ばれている」
「小さき魂の塊?…ですか」
「そうじゃ。成り立ちは異なるが、お前さまも小さき魂の塊には違いない。まぁ、区別するためにエイスと呼んでくれればよい」
「それではエイス様、私とここにいるアーエルを、あなたのお側に置いていただけますでしょうか?」
「う~ん…それは困ったのぅ。我々はまもなくこの世界から立ち去るつもりでおるからの」
「えっ、それはまたなぜでしょうか?」
「この世界の人々が、我々が教えたものを戦争に使い始めたからじゃ…すでにお互いに殺し合いを始めておる」
「みんなが戦争を始めたのですか?」
「すぐに彼らは、シムーンとシュヴィラを戦争の道具にするだろう。そんな事をすれば世界は破滅する。だから、そうなる前に立ち去るのじゃ」
(私たちの世界でもシムーンが戦争に使われていた…でも、シムーンが世界を破滅させるとは、一体どう言う意味なのだろうか?)
ネヴィリルはしばらく考えた。アーエルは緊張続きで疲れたのか、大きなあくびをしていた。
「さあ、もう遅くなった。夕食を取ったら、みんなとバルネアに入って休むと良い…廃晶もだいぶん溜まっておるようじゃしな」
エイスがそう言うと、ドアがスーッと開いて、さっきの宮国のシュヴィラらしい少女が入って来た。
「あぁ、ルキアや。このお二人を部屋までご案内して、食事を差し上げてくれんかの」
「はい、小さき魂の塊のエイス様」
ルキアはそう答えると、アーエルとネヴィリルを動く通路に連れ出した。
二人はルキアに案内されて、別の部屋に入った。そこもとても気持ちのいい部屋だった。
ルキアがテーブルを操作すると、夕食のメニューの画像が出てきた。どれもこれもおいしそうなご馳走ばかりだった。
「画像に触ると本物の食べ物が出て来るから、好きな物を選ぶといいわ。夕食が済んだらまた迎えに来ます」
そう言ってルキアは立ち去った。アーエルとネヴィリルは言われた通りにして、久しぶりの豪華なディナーに舌鼓を打った。
~続く~