しばらく経ってからやって来たルキアに案内されて、二人は広々としたドームにたどり着いた。
そこは一面にミルクのようなお湯が漂う大浴場で、たくさんの少女たちが、にぎやかに入浴をしていた。
アーエルとネヴィリルは、ルキアに誘われるままに服を脱いで、彼女と一緒にお湯の中に入った。
(何て気持ちのいいお湯なんだろう。それに、このミルクのような液体は一体何だろう?とても疲れが取れるような気がする)
心地のいい気分に浸っていた二人の身体からは、金色の結晶のような物が染み出して、ミルクの中に溶けて行った。
それを見たアーエルが驚いて言った「何だか身体からキラキラ光るものが出て来たよ。ネヴィリル」
「何かしらこれは?…前にオナシアの身体から、同じような物がこぼれ落ちるのを見た事があるけど…」
それは老化した廃晶だった。ミルク状のお湯は、身体にたまった古い老廃物を取り除く…言わば不老の仙湯だったのだ。
一緒に入浴を楽しんでいた大勢の少女たちは、アーエルとネヴィリルを見掛けると、たちまち周りに群がって来た。
好奇心旺盛な目をキラキラさせて、口々に何か耳慣れない言葉を喋っている。
宮国のシュヴィラであるルキアが、少女たちの言葉を通訳してくれた。
「みんな、あなたたちの事を知りたがってるわ。どんな世界の人かって…」
アーエルとネヴィリルは自分たちの事と、自分たちがいた世界の事を話した。
国と国とが戦争をしている事。自分たちがシムーンに乗って戦っていた事などを…
するとそれを聞いた少女たちは、とても驚いたような顔をした。
「シムーンに乗って戦争するなんて信じられない…って、みんな言ってるわ」と、ルキアは言った。
「でも本当の事なの…たくさんの仲間が戦って死んだし、私たちも敵を大勢殺してきたわ」
ネヴィリルがそう言うと、ルキアはしばらく考えてからこう言った。
「あなたたちが来る少し前に、小さき魂の塊のトレイス様が言っていた。昔シムーンとシムーンが戦った世界が滅んだって…だから、それを避けるために旅立つんだって…」
「行っちゃうのみんな…どこへ?」アーエルはルキアに尋ねた。
「小さき魂の塊様たちの世界に帰るんだって…私たちも一緒に連れて」
(それは神の世界なのだろうか?私とアーエルも連れて行ってもらえるのだろうか?明日、エイス様に頼んでみよう)そうネヴィリルは思った。
お風呂から上がったアーエルとネヴィリルは、鏡を見て驚いた。びっくりするほど若返っていたのだ。
顔が何年も前の自分と同じになって、背が少し低くなってはいたが、肌は生き生きと輝いていた。
「子供みたいに見えるわよ、アーエル」ネヴィリルはアーエルをからかった。
「子供、子供って言うな~」アーエルはむくれながらも、若くなった自分を見てうれしそうにしていた。
翌日、朝食を済ませたアーエルとネヴィリルは、ルキアに聞いてみた。
「エイス様はどこにいらっしゃるの?」
「たぶん管制室だと思うわ。ここ数日、すっとあそこにいらっしゃるから…いいわ、案内してあげる」
アーエルとネヴィリルは、ルキアに案内されて、ピラミッドの頂上にある管制室までたどり着いた。
そこは辺り一面が見渡せる広い部屋だった。
中央には大きなシムーン宮があって、それをぐるりと取り巻くようにテーブルが置かれ、何か機械のような物が並べられている。
大勢の少女たちが椅子に座って、その機械を操作していて、周囲の壁には大小たくさんの鏡が取り付けられていた。
小さき魂の塊・エイスは、鏡の前で自身によく似た二人の老人たちと、何か話しをていた。
「各地の撤収作業は順調に進んでおるのか?」エイスがもう一人の老人ディオに尋ねた。
「アルゲントゥム地域の撤収が遅れているようです。あそこの住民は、この世界では最も進歩していますが、なまじ悪知恵が働いて…すでに我らの動きが察知されて、妨害工作に遭っているやも知れません」
「ふむ…しかし攻撃されても断じて応戦してはならんぞ。一人も傷つけてはならぬ。金剛石のリ・マージョンで守って、撤収作業を進めるよう伝えよ。分かってはおるだろうがな」
エイスがそう言うと、三人目の老人トレイスがエイスに言った。
「他の地域はすべて撤収作業を終えました。ただ、辺境では手が足りず、シムーンを穴の中に埋めたり、洞窟に隠したりしましたが」
「ブルングムじゃな。あそこはテラ川から北へは行けなんだ。言葉もなく、文字もない原始地帯だったでのう」
「極寒の地ゆえ、食べる事に精一杯で文化が遅れたのでしょう。しかし、それが救いになるやも知れません。無知と言う事は素直であり、小賢しい者共が企む戦争にも組せず、平和に暮らしてゆける」
「そうじゃな。なまじ知恵を持つと人は小賢しくなる。欲に駆られて争い始める。むしろ物事を知らぬほうが幸せかも知れん」
「もしかしたら、この世界の希望の鍵になるのは、ブルングムかも知れませんなぁ~」
「まぁ、いずれにせよシムーンを見つけても、シュヴィラがいなければ動かせんじゃろう。シュヴィラ・システムがなければな」
アーエルとネヴィリルはじっと立ったまま、老人たちの話を聞いていた。
その時、機械の前にいた一人の少女が告げた。
「傷ついたシムーンがやって来ます。どうやら戦争に巻き込まれて、パルの片方を失ってしまったようです」
「何じゃとっ!すぐに映し出してくれんか」エイスは言った。
大きな鏡に古代シムーンが映し出された。ふらつきながらも、かろうじて空を飛んでいる。
アウリーガの座席が鏡にアップされた。そこに乗っていたのは、もうろうとして意識を失いかけている一人の少女だった。
「アングラスじゃぁないか!ブルングムからきた娘だな。すぐに救援を出してやれ」エイスは言った。
「アングラスだって…まさか!」アーエルが叫んだ。
鏡に映し出されたのは、間違いなく、かってアルクス・プリーマで自爆テロを行って死んだあの嶺国のアングラスだった。
別の鏡には救援に飛び立って行くシムーンが映し出された。
しかし、アングラスの乗ったシムーンは、周りにあった塔の上にぶつかり、バウンドして、洞窟のある谷間に落ちて行った。
「アングラスのシムーンが、時空の裂け目に落ちてしまいましたっ!」機械の前にいた少女が叫んだ。
「おぉ~!何と言う事じゃ、可哀そうに。この世界の人々が起した戦争の犠牲になるとは…もう、一刻の猶予もならん。みんな出発準備を急いでくれ」
エイスはそう言い残すと、足早に管制室から出て行った。
(あの時、遺跡で見たアングラスはここで死んだのか?じゃあ、もう一人のアングラスは何者だったのだろう?)
アーエルとネヴィリルは、たった今見た事件に動揺するあまり、エイスに頼み事をするのを忘れてしまっていた。
そのエイスはピラミッドの地下深くにいた。目の前にはたくさんの古代シムーンが並んでいた。
「友よ、我らはシュヴィラを連れて立ち去る。この世界の人々がもっと賢くなり、我らの真意を悟り、平和が訪れ、真にともがらを必要とする時が来るまで、長き眠りに着くがよい」
並んでいる古代シムーンは、まるで返事をするかのように「ボォ~」「ピィ~」と言う音を立てた。
~続く~