シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第3話 【花叢(かそう)】 その3

 次の日は、何だか周りのみんながあわただしそうにしていた。

 もう一度、エイスに会おうと考えていたアーエルとネヴィリルの所にルキアがやって来た。

「アーエル。ネヴィリル。小さき魂の塊様たちがシムーンの発着場でお待ちになっているわ」

 (ちょうどよかった)と思った二人は、ルキアに連れられてシムーンの発着場へ行った。

 そこにはエイスと二人の老人、他にも大勢の少女たちがいて、アーエルとネヴィリルのシムーンが置いてあった。

「お別れじゃな…わしらは今から旅立つ」エイスは、アーエルとネヴィリルに唐突に告げた。

「エイス様、私たちは連れて行ってはもらえないんでしょうか?神の世界へ」ネヴィリルはエイスに頼んだ。

「ならん!お前さんたちの手は血で穢れすぎておる」まるで豹変したようにエイスは冷たく言い放った。

 その言葉を聞いたアーエルとネヴィリルは、その場に凍り付いたように立ち尽くしてしまった。

(言われる通り、私たちは大勢の人の命を奪った。神の世界に迎え入れてもらえる資格なんかはないのかも知れない)

 ネヴィリルは唇を噛みしめた。アーエルはうつむいたまま、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

「申し訳ありません、エイス様。私が心得違いをしておりました。でも、なにとぞ私たちも」

 泣き付かんばかりのネヴィリルの手を取って、エイスは手に何かを握らせた。それは小さな光る石だった。

「これはお別れの印じゃ…達者にしておれば、また会える日も来よう。さぁ、行くがよい」

 エイスに突き放されたアーエルとネヴィリルは、重い足を引きずりながらシムーンに乗った。

 そうして、たくさんの少女たちに見送られながら、二人のシムーンはピラミッドを離れた。

「良いのですか?お二人にあのような事を言われて…だってあの方々は」側にいたディオが、そっとエイスにささやいた。

「分かっておる。だがあのお二人は、まだお目覚めにはなっていない。やがて時至れば、ご自身の意思で我らが元においでになろう。それまでお待ち申し上げるのじゃ」エイスはそうディオに答えた。

 

 アーエルとネヴィリルは、少し離れた小高い丘の上に降り立って、動き出したピラミッドを見ていた。

 巨大なピラミッドが土埃を巻き上げながら、徐々に空に浮かんでいった。

 周りの建物がゆっくりと崩れ落ちて、まるで遺跡さながらになっていった。

 完全に空中に浮いたピラミッドの底には、四つの大きなヘリカル・モーターが回っていた。

 ピラミッドの発着場から、7機のシムーンが飛び立って行くのが見えた。

 2機が先頭に立ち、5機のシムーンがそれに続き、その後を、ゆっくりと巨大なピラミッドが山の向こうに飛んでいった。

 突如、山の向こうにまばゆい閃光が走った。周囲が輝く光に包まれたかと思うと、山の上には大きな虹が掛かった。

 そして、しばらくすると虹は空に溶けるように消えてゆき、後にはいつもの青い空が残った。

「行っちゃったね、ネヴィリル」アーエルがつぶやくように言った。

「ええ、旅立ってしまわれたわね。神の世界に」

「また二人っきりになっちゃったね」

「寂しくない?アーエル」

「うぅん…ネヴィリルが側にいてくれたらそれでいい」

 アーエルとネヴィリルは、寄り添い合ってお互いの手を握った。

 

「お~い、ネヴィリル。お~いっ、アーエル…二人とも無事かぁ~?」

 グラギエフの呼ぶ声に、アーエルとネヴィリルは我に返った。

「ここだよ~…グラギエフ」アーエルが洞窟の入り口に出て叫んだ。

「そこに隠れていたのか。良かった~…二人とも無事で」

 ネヴィリルとアーエルは、洞窟から降りて、私の側に駆け寄って来た。

「危なかったなぁ~…小屋にいたら今頃は」

 三人は小屋の方を見た。アーエルとネヴィリルがいた小屋は、爆撃で完全にペシャンコになっていた。

「ここに来る途中で、遺跡が爆撃されているのが見えたから、心配になって大急ぎでとんで来たんだ」

 私が胸を撫で下ろすように言うと、アーエルが憤慨してこう言った。

「何だって礁国は遺跡なんかを壊そうとするのかなぁ~…もうとっくに崩れているのに」

「怖いんだよ。シムーンが…」私は一息入れてからそう言った。

「科学で解明できないものは恐怖の対象でしかない。彼らにとっては…これ以上シムーンが掘り出されるのを防ぐためだろう」

 

未知なるものや理解できないものに出会うと、人はどちらかの行動を取る。受け入れる(崇める)か。排除しようとするか。

人の意識は偏狭だ。自分たちと違う人を嫌い、違う文化や思想や、違う宗教を排除しようとする。

そのために、どれほど多くの血が流され、数限りない人や生き物や、幾多の文明が犠牲になった事か。

 

「どうしよう…住む所がなくなっちゃった」ネヴィリルとアーエルは困った顔をして言った。

「どっち道、ここには長くは住めなかったからな…まぁいい、私の家へ行こう」

 私がそう言うと「家へ行っても大丈夫なんですか?だって私たち…」ネヴィリルは心配そうに言った。

「あぁ、もう指名手配なんかじゃない。話はつけて来たよ。詳しい事は、私の家で話そう」

「でも、シムーンはどうしたら…」

「このまま洞窟に隠しておいても大丈夫だろう。これだけ壊せばもう爆撃はしないと思う」

 私は、アーエルとネヴィリルを止めてあったヘリカル車に乗せて、遺跡を後にした。

 

 首都のソムニアは、ネヴィリルたちがいた時の姿を留めていた。ただ、通りを闊歩する嶺国兵の姿だけがやけに目立っていた。

 私の家は、中心街の雑踏から少し離れた住宅地にある。すでに日は西に傾き、辺りは暮れ掛かっていた。

 家に着いた私は車を車庫に入れ、アーエルとネヴィリルを降ろすと、玄関のドアを開いた。

「ただいま~、お客さんを連れて来たよ」

「は~い、あなた。お帰りなさ~い」家の中から声がして、妻が出てきた。

「あっ!シュヴィラ・マーテル」ネヴィリルは妻を見るなり、驚いて言った。

「いらっしゃい、ネヴィリル。本当にお久しぶり」妻はネヴィリルの手を取って、うれしそうに言った。

 妻は、アムリアを始め多くの仲間を失ったあの時、泉へ去っていったアルクス・プリーマのシムーン・シュヴィラの一人だった。

「こちらはシュヴィラ・アーエル。ネヴィリルのパルをされている」

 私は妻にアーエルを紹介した。アーエルは軽く妻にお辞儀をした。

「グラギエフも人が悪い。最初そうに言っておいてくれれば…いつ二人は?」ネヴィリルが半ばうれしそうに言った。

「だって、特に聞かなかったじゃぁないか。一緒になったのは…そう三年前かな」私は照れながらそう答えた。

「さあ、どうぞ。お二人とも上がってちょうだい」

 マーテルはそう言って、アーエルとネヴィリルを居間に招き、お茶を出しながらネヴィリルに言った。

「あの時はごめんなさいね。私とっても怖くって…もうシムーン・シュヴィラを続けられないと思ったの」

「いいのよ、マーテル…目の前で多くの仲間が死んだんですもの。誰だって怖いわ」

 四人が椅子に腰掛けて話をしようとした時、奥の部屋から小さな女の子が出て来た。

「ママァ~」女の子が目をこすりながら言った。

「あら、マミーナ。起きて来たのね」妻はそう言うと、幼いマミーナを抱き上げた。

「マミーナ…って?」ネヴィリが尋ねて来た。

「あぁ、君と嶺国の巫女をかばって死んだあのマミーナだよ…何だか忘れられなくてね。名前をもらったんだ」

「あなた、ちょっとマミーナを寝かしてきます。お二人ともゆっくりしていって下さいね~」

 そう言うと妻は、幼いマミーナをあやしながら、奥の部屋へと入って行った。

 三人だけになって落ち着くと、私は話を切り出した。

「さて、君たちの事についてだが…嶺国の巫女たちに、色々と教えてはもらえないだろうか?」

「嶺国の巫女たちに?…何を教えればいいんですか?」ネヴィリルがいぶかしそうに尋ねて来た。

「リ・マージョンやシムーンの戦い方なんかを…嶺国は、君たちをシムーン・シュヴィラの教育係に採用したいと言っている」

「いやですっ!私はもう戦いたくない。人を殺したくないんです」アーエルが突然立ち上がって言った。

 アーエルは変わった(『戦争をするために来た』と言っていたアーエルに、どんな心境の変化があったのだろうか?)

「気の進まない話だとは思うが…今はブルングム狐の皮を被ってでも生きていかなきゃならない時代だ。私もそうだが」

 ネヴィリルとアーエルは、しばらくの間考え込んでいたが、私は話を続けた。

「それに嶺国のシムーン・シュヴィラたちが、礁国のシミレ相手に苦戦している」

「シムーンがシミレに苦戦しているんですか?そんなはずは…」

「いや、それが現実だ。嶺国の巫女たちはまだまだ未熟なんだよ。大勢のシムーン・シュヴィラが死んでいる。だから助けてやると思って…」

(あの時、自分たちを助けてくれた嶺国の少女たちが、かっての自分たちと同じように苦しんでいる)二人は顔を見合わせた。

「分かりました。でも私たち二人は戦いには出ません。それでよければ…」

「嶺国も君たちが戦う事を望んではいないと思う。ある意味恐れられているからね。宮国のシムーン・シュヴィラは」

「恐れられているって…私たちは最初から戦争なんか望んでいませんでした。ただ、空に祈りを捧げたかった」

「そうだね…こんな戦争は早く終わった方がいい。その時は、宮国と嶺国の宗教の橋渡しをしたいと思う。彼らみたいに強制的にじゃなく…今はその時のための勉強をしている思っている」そう私は言った。

「嶺国の人たちは悪い人じゃないよ。だって、私とネヴィリルがいた時とってもお世話に…」

 アーエルが何か言い掛けたが、ネヴィリルがそれを止めた。

「悪い人はいないと思います。戦争が人を変えたんだと…戦争前によく来ていた礁国のキャラバン隊はいい人ばかりでした。いつの日か、礁国にも神の教えが広まればいいと思います」ネヴィリルはそう言った。

「さあ、もう遅いから食事を取って休もう。その前にシャワーを浴びて来るといい。随分汚れてしまったからね」

 こうして、ネヴィリルとアーエルは、何日か私の家に滞在する事になった。

 

~続く~

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