ネヴィリルとアーエルのシムーンが、鮮やかな飛行を見せながら、大聖堂のエアポートに着陸した。
かってはアルクス・プリーマが係留されていたドックは、今はシムーンのエアポートになっていた。
(見事な飛行。そつのない着陸…あんなに巧みにシムーンを操るなんて、一体誰だろう?)
物陰からそれを見ていた一人の少女がつぶやいた。
彼女こそ嶺国12神将の一人で、占領下にある首都ソムニアの空を守るシムーン隊長、シュヴィラ・ブリュンヒルデだった。
嶺国の宮守エルフリンデは、私に連れられて部屋に入って来たネヴィリルとアーエルを、ジロジロと眺めた。
私は二人を彼女に紹介し、ネヴィリルとアーエルは、エルフリンデにあいさつをした。
「すでにグラギエフからお聞きの事と思いますが、嶺国大法院は、あなた方をシムーン・シュヴィラの教育係に採用いたします」
「はい、謹んでお受けさせていただきます」ネヴィリルとアーエルはそう答えた。
「あなた方にはここで、各部隊より選抜されたシムーン・シュヴィラを訓練していただきます。特にリ・マージョンをね」
「はい、分かりました。ただ、一つだけお願いがございます」ネヴィリルは言った。
「何ですか?」エルフリンデは、半ば警戒気味に聞いてきた。
「私たちのシムーンは、構造が複雑で整備がむずかしいのです。ワポーリフと言う宮国のベテラン整備士が、そちらに徴用されていると聞きます。呼んでいただきたいのですが」
「分かりました。手配しましょう…どっち道、訓練に使う新しいシムーンも整備が難しいと聞いています。ベテラン整備士がいた方がいいでしょうから」
「訓練に使う新しいシムーンって?」アーエルが怪訝そうな顔をして尋ねた。
「礁国の高速シミレに対抗するために作られたプロトタイプのシムーンです。今、訓練生たちが本国に取りに行っています。それから、訓練隊の宿舎ですが…」エルフリンデがそう言い掛けた時、一人の少女が入って来た。
「あぁ、紹介します。ソムニア防空隊長のオーバス・ブリュンヒルデです。こちらは…」
「宮国のシムーン・シュヴィラ、ネヴィリルです」
「同じくネヴィリルのパルのアーエルです」
二人は自己紹介をして、ブリュンヒルデに握手を求めたが、彼女はそれを無視してエルフリンデに言った。
「新しい部隊が来るんですか?でも、宿舎は私たちの部隊で一杯です。新しい人を入れる余地はありません」
「分かってるわ、ブリュンヒルデ。この人たちには、地下の倉庫を改造した部屋で寝泊りしてもらいます」
「何ですってっ!仮にもネヴィリルは元宮国のアウレア…それではあまりにも」私はエルフリンデに抗議をした。
「お黙りなさいっ!グラギエフ。ここはもう嶺国領です。二人にも我々のやり方に従っていただきます」
私は戦いに破れた者の悲哀を噛みしめた。いかに理不尽な待遇でも、それを受け入れる他はなかった。
「私たちは、昔から宮国のシムーン・シュヴィラを尊敬するように教えられて来ました。でもそれは戦争前の事で、今は違います」
ブリュンヒルデは、心の中にある葛藤を断ち切るように、そう言って部屋を出て行った。
大聖堂のエアポートに次々とシムーンが舞い降りて来た。見た事のない機種が5機、後の一つは古代シムーンだった。
タラップを降りて来た少女たちは、もの珍しそうに辺りを見て、それぞれが思い思いにお喋りを始めた。
「さぁさぁ、みんなこっちに集まって整列しなさい」エルフリンデにそう呼ばれて、少女たちは整列した。
「今日からみなさんを訓練していただく教官を紹介します」
「シュヴィラ・ネヴィリルです」
「同じくアーエルと言います」
アーエルとネヴィリルが挨拶を終えると、少女たちはそれぞれ自己紹介を始めた。
「西部戦線で戦っていたディステルと言います。空中戦でシムーンを落とされて、こちらに来る事になりました」
「パルのファイルヒェンです。私が未熟でディステル姉さまに迷惑を掛けてしまったので、もっと腕を上げたいと思います」
「中部戦線から来たトルペです。こっちはパルのレーヴェン。私たちのコールは全滅しました。二人が最後の生き残りです」
「アルボル防空隊にいたオルヒデです。街が陥落して部隊が解散したので、こちらに配属される事になりました」」
「私もアルボル防空隊のキルシュです。街を守れなかったのが悔しくて、もっと強くなりたいと思っています」
「私はハイデローゼ。オーバス・ガルトルートの元で戦っていました。死んだ仲間の仇を取りたいと思っています」
「ハイデローゼのパル、イリスです。傀市沖では散々な目に遭いましたが、何とか生きて帰って来ました」
「私はナルテッセ。コール・ムントではハイデローゼの同僚でした。部隊は私たちを残して全滅しちゃったけどね~」
「ナルテッセと一緒にシムーンに乗っているカメリアです。私も傀市沖海戦の生き残りです」
「すごいっ!艦隊が全滅した戦いで生き残ったなんて…それって英雄じゃない。きっと、たくさんの敵機を撃墜したんでしょ?」
トルペとレーヴェンが、尊敬するような目でナルテッセを見た。
「まぁ、それほどでも~…ほんのちょっとばかりね」ナルテッセは少し得意気だった。
(よく言うよ~…逃げ回ってばかりいたくせに)ハイデローゼは、思わず吹き出しそうになった。
「そちらは…自己紹介がまだだったわね」
エルフリンデが目を向けたのは、5機の新型シムーンとは別に、1機だけの古代シムーンに乗って来た二人だった。
「私は自己紹介なんかどうでもいい」ふて腐れるようにその少女は言った。
「そんな事言わないで…ね、バルザミーネ。あ、私はネルケ。彼女は私のパル、バルザミーネです」
なだめようとするネルケをよそに、バルザミーネはむっつりと不機嫌そうな顔をしていた。
アーエルとネヴィリルは、何だかその二人の様子が気になって仕方がなかった。
~続く~