各部隊から選りすぐったはずのメンバーは、みなシムーンが壊れたり、仲間を失ったりして、戦えなくなった少女たちばかりだった。
考えてみれば、激戦が続く前線部隊が精鋭を手放すはずもない。お荷物になった彼女たちは、厄介払いされたのだ。
役に立たなくなって、部隊から追い払われた寄せ集めの少女たち…それが訓練部隊の実態だった。
(こりゃぁ、この先が思いやられるな~)と、アーエルとネヴィリルはそう思った。
(それに、彼女たちが乗って来た見た事もないシムーン…プロトタイプだと嶺国の宮守は言っていたが)
上下に並んだ二つのヘリカル・モートレスの中間に膨らんだ部分があり、そこから、まるで蝶の羽根のような大きな翼が出ている。
その膨らみに追いやられたアウリーガとサジッタの席は、シムーンのぎりぎり前に設けられ、前部にはカバーがない。
後ろにはカメレオンの尻尾のような巻き込まれたテールがあり、機体は全体的に高く、胴体から出た昆虫のような足で立っている。
多分、いらなくなった少女たちは、この新しいシムーンのテストを兼ねた実験要員としても使われる事になったのだろう。
そんな事情を考えると、何だかやりきれない思いがして来た。
いつの間にか少女たちは、アーエルとネヴィリルのシムーンの周りに集まって、お喋りをしていた。
「これ宮国のシムーンでしょ。でも、宮国にはもうシムーン・シュヴィラはいないんじゃなかったっけ?」
「でもあの二人は、何だか宮国のシュヴィラみたいよ。それよりもあれ見て!」一人が機体にある白百合の紋章を指差した。
ハイデローゼは目を疑った(これはあの逃避行の時、空で見たシムーンではないのか?いったいあの教官たちは何者なのか?)
「白百合って黄金の巫女のシンボルだわよね。まさかあの教官たちって、元は宮国のアウレア様たちなのかな?」
「かなり高位の巫女だと思うよ。だって二人が着ている巫女装束って、嶺国産の羽衣絹だもの…それも古い時代の。今じゃ貴族だってなかなか手に入らない高級品だよ」
イリスが持ち前の知識を披露すると、トルペが感心したように言った。
「へぇ~…詳しいのね」
「実家が仕立て屋だったからね」
そのやり取りを聞いて、ハイデローゼは考えた(なぜ宮国の巫女が、嶺国産の古い時代の羽衣絹を着ているんだろうか?)
彼女が抱いた様々な疑問が解けたのは、さらにずっと後になってからの事だった。
「そっか~…私たちって、すごいシムーン・シュヴィラに教えてもらうんだ」
「だったら楽しみだね~。訓練を受けるの…でもいいなぁ、花のマークって」
レーヴェンは白百合の紋章が気に入ったようだった。
その様子を見ていたネヴィリルが少女たちに言った。
「じゃぁ、いっそみんなも好きな花をシムーンに描いてみたら」
「えっ!いいんですか?アウレア様」
「いいわよ、それに私はネヴィリルって呼んでもらって構わないわ」
「うれしいっ!ネヴィリル様…私、何にしようかな」
「私も整備の人に描いてもらおう~っと」
みんなはそれぞれ、整備士を呼んで自分たちのシムーンに好きな花を描き始めた。
「アーエルも、描いてもらったら、白百合の横に」
「いいよ、そんなの」
「遠慮しないで…人には何か思い出に残っている花があるそうよ」
アーエルは思い出した。そう言われれば、妹とよく遊んだ丘にはひまわりの花が咲いていた。
それぞれが乗って来たシムーンには、様々な花が咲き乱れた。
ディステルとファイルヒェンのシムーンには、アザミとスミレの花が。
トルペとレーヴェンのシムーンには、チューリップとたんぽぽの花が。
オルヒデとキルシュのシムーンには、ランと桜の花が。
ハイデローゼとイリスのシムーンには、野バラとアヤメの花が。
ナルテッセとカメリアのシムーンには、水仙と椿の花が。
バルザミーネとネルケのシムーンには、鳳仙花となでしこの花が。
そして、ネヴィリルの白百合の隣には、アーエルのひまわりが咲いた。
みんな戦争を忘れてはしゃいでいた。少女たちには血生臭い戦争よりも、花の方がよっぽど似合う。
その内、誰かが突然言い出した。
「ねぇねぇ、私たちのコールの名前、ブルーメにしない」
「いいねぇ~、それ。僕賛成」イリスが真っ先に手を上げた。
「でも、訓練のための一時的なコールでしょ。訓練が終わったらすぐ解散しちゃうんだし~」
「構わないじゃない。たとえ短い間でも…」
「それじゃあ、コール・ブルーメで決まりね」
こうして、コール・ブルーメは結成された。
後にこのコールが世界の運命を変える事になろうとは…この時は誰も知る者はいなかった。
第3話【花叢(かそう)】終了 → 第4話【境遇】へと続く