シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第4話 【境遇】 その1

 コール・ブルーメの少女たちに割り当てられた宿舎は、大聖堂の地下にある倉庫だった。

 倉庫の入り口にある管理人室が、アーエルとネヴィリルが寝泊りする教官室になった。

 それは、ベッドがやっと二つ並べられるくらいの、狭くて汚い部屋だった。

「狭いね~…ネヴィリル。壁も大分汚れているし」仕方ないとは分かっていても、アーエルは不満そうだった。

「そうね…でも、やっと落ち着く場所ができたんだから我慢しましょ、アーエル」ネヴィリルはそう言ってなだめた。

 

 各地からやって来た訓練生の部屋は、倉庫を改造してベッドを並べただけの大部屋が割り当てられた。

 その大部屋に入るなり、少女たちはあれこれと不満を漏らし出した。

「ええっ!個室じゃないの~」

「やだぁ~…ここかび臭いじゃない」

「戦場よりはましだよ。血の臭いがしないだけ」レーヴェンがそう言った。

「そうそう、訓練してる間は戦わなくて済むんだし、それくらい我慢しなくっちゃね」トルペも言った。

 誰しも戦場で怖い思いをしたくはない。みんなまだ何も知らない少女なのだ。

「それに、食堂やシャワーがあるだけましよ」オルヒデが言った。

「戦場じゃぁ、いっつも狭い場所で食事して、シャワーなんて浴びた事なかったもんね」キルシュも言った。

「私は戦争がなくても狭い所で食事してた。一家全員で…家にはシャワーなんてなかったわ」

 バルザミーネがぶっきらぼうに言い出したので、ネルケがフォローに入った。

「あら、うちも狭かったわよ。家族が多くて…でも、みんなでする食事って楽しかったわ」

「だけど、食事とシャワーは、ブリュンヒルデ様の首都防空隊が優先だって宮守様が言ってたわよ」カメリアが言った。

「そっか~…私たち訓練が終わるまで戦場には出ないんだものね。仕方ないか」ナルテッセも言った。

「この地下って、元は倉庫だったんでしょ。何だかネズミが出そうな気がする」ディステルがそう言った。

「私はいつもネズミが出る部屋で寝てた。豚小屋みたいな家で…お嬢さん育ちには分かんないだろうけどね」

 バルザミーネがみんなを挑発するように言ったので、ネルケが慌てて話をはぐらかした。

「だけど、地下は防空壕みたいなものだから、万が一爆撃されても安全だと思うわ」

「アルボルじゃぁしょっちゅうだったけど、首都にも空爆があるのかしら?」キルシュが言った。

「そりゃあ、飛行爆弾なんかが飛んで来るんじゃない…防空隊が駐屯しているくらいだから」イリスはそう答えた。

「わぁ~、見て見てディステル姉さま。ロッカー大きくて広いよ~。色んなものが入りそう」ファイルヒェンが言った。

「さすが元倉庫ね。まあ住めば都だって…その内慣れるわよ」ハイデローゼはそう言って笑った。

 少女たちは、思い思いにベッドを決めて荷物を広げ、それをロッカーの中にしまい込んだ。

 それから、お互いに元居た部隊の事や、故郷や両親、明日から始まる訓練の話に花を咲かせた。

 

 その後何日かが過ぎて、ナップザックを肩に担いだ一人の男が、大聖堂のエアポートに降り立った。

 彼は、アーエルとネヴィリルのシムーンを懐かしそうに眺めてから、新型シムーンの前に立った。

「ワポーリフ、お久しぶり~」その人影をみとめたネヴィリルが声を掛けた。

「シュヴィラ・ネヴィリル、それにシュヴィラ・アーエルも、やはり帰っていらしてたんですか」

「五年ぶりだね~…胸小さくなって、完全に男になっちゃたんだね」アーエルが言った。

「あなたたちが僕を呼んだんですね。何だかそんな気がしてました。急にソムニア出向を命じられた時に」

「私たち、嶺国のシムーン・シュヴィラの教育係になったの。でも、みんながこの新型シムーンには苦労してるわ」

 ネヴィリルが嶺国の新型シムーンを見上げながらそう言うと、ワポーリフは答えて言った。

「シュミット・シムーンですね。ここに来てたのか~…僕は嶺国の兵器工廠でこれの整備をやっていたんですよ」

「じゃぁ、よく知っているのね…胴体は私たちのに似ているんだけど、こんな大きな翼のシムーンって、初めてで分からなくって」

「翼の根元の膨らんだ部分に制御機構があってね。翼を広げたり、たたんだり、自由に角度を変えられる仕組みになっているんです」

「へぇ~…私たちのシムーンは可変エンジンだけど。このシュミット・シムーンは可変翼って訳なのね」

「ええ、まるで蝶のように翼を操りながら、空をひらひらと飛ぶんです。あちらではアニムスの化身って呼んでましたけどね」

「アウリーガとサジッタの息が合わないと難しいでしょうね。そんな飛び方…でも、なぜそんなものを作ったのかしら?」

「多分、スピードでは礁国の高速シミレに勝てないので、運動性能を生かして接近戦をやるつもりなんでしょうね」

「大丈夫かしら?みんな飛びにくそうにしてるけど…」

「まだ試作の段階ですから不安定な所もあります…でも、その内改良されて実戦配備される事になるでしょう」

「古代シムーンに取って代わって、これに嶺国のシムーン・シュヴィラたちが乗るようになるのね」

「えぇ、嶺国はさらに新たなシムーンを製作しています。かなり大型で、重武装のシムーンを…」

「戦争のためだけにシムーンを作るなんて悲しいわね」

「僕もそう思います…だからね。お二人が旅立った後、残ったシムーンが戦争に使われないように細工をして置きました」

「ええっ!そんな事をしたの?」

「当然じゃないですか。シムーンを盗もうとしたのはあちらなんだから…何で動かないか誰にも分かりませんよ。僕だけにしかね」

 ワポーリフはいたずらっぽく笑いながら、アーエルとネヴィリルに言った。

「へぇ~…ワポーリフもなかなかやるもんだね」アーエルが『よくぞやってくれた』と言う風な顔をして笑った

「シムーンが動かずに四苦八苦してたから、僕が『テンプスパティムのお怒りだ!』って言ってやったら、嶺国の宮守が慌てて霊廟に運んで行きましたよ。お払いをするために」

 あの時、アルクス・プリーマにいた嶺国のお偉方たちの、困惑した顔が目に浮かぶようだった。

 そんな話をしている内に、三人とも腹を抱えて笑い出した。

「今は霊廟に眠っていますが、戦争が終わって平和になったら、モリナスの子供たちを乗せてやろうと思っています」

「ああ、モリナスと一緒になったんだってね。グラギエフから聞いたよ。子供も産まれたって…」アーエルはそう言った。

「ええ、今三人目の子がお腹の中にいます。お二人が帰ってきているのを知ったら会いたがるだろうな~…そうだ、一度家に遊びに来ませんか?」

「ええ、ぜひ行かせてもらいたいわ」ネヴィリルがそう言うと「私も会いたい。懐かしいなぁ…モリナス」と、アーエルも言った。

 こうして、三人は懐かしい思い出話に花を咲かせた。

 

~続く~

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