シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第4話 【境遇】 その2

 翌日、整備主任に任命されたワポーリフは、整備士たちに命じてシュミット・シムーンを調整させた。

「これでだいぶん操縦しやすくなるはずです。アウリーガとサジッタの連携部に手を加えたましたから」

「大丈夫でしょうか?」

 ネヴィリルが心配そうにワポーリフに言うと、彼は自信たっぷりに言った。

「ご心配なら、お二人とも一度シュミット・シムーンに乗ってみてはいかがですか?ええっと、誰か…」

 ワポーリフが周りにいる少女たちを見回したのを見て、ハイデローゼが進み出た。

「どうぞ、私たちのをお使い下さい」

「ありがとう、ハイデローゼ。じゃ、ちょっとだけ借りるわね」

 アーエルとネヴィリルは、ハイデローゼに礼を言ってシュミット・シムーンに乗った。

 アーエルがアウリーガ席の操縦桿を操作すると、シュミット・シムーンの翼が上下左右に動いた。

 ネヴィリルがサジッタ席のジョイスティックを動かすと、翼は開いたり閉じたりした…だいたいの操作方は分かった。

 二人はキスを交わし、シムーン宮に口づけすると、シュミット・シムーンでエアポートから飛び立った。

「随分長いテールね。普段は巻いてあるけど…どう、飛びやすい?アーエル」

 ネヴィリルは、後ろに長く伸びたテールを見て、それから前にいるアーエルに声を掛けた。

「うん、何だかコクピットの前がガラ空きだと落ちそうな気がする。視界は広くていいけど、正面から撃ち合ったら怖い感じがするだろうね」

「練習機だから武装はしてないわ。ちょっと上昇してみて…翼をたたんでみるから」

 アーエルが操縦桿を引くと同時に、ネヴィリルが翼をたたんだ。シュミット・シムーンは、急角度で上昇した。

 エアポートから、アーエルとネヴィリルの飛行を見ていた少女たちが感歎の声を上げた。

(すごいっ!私たちが苦労した新型機をあんなにスイスイと…これが宮国のシムーン・シュヴィラの実力か)

 ハイデローゼとイリスは、食い入るようにアーエルとネヴィリルの飛ぶさまを見つめた。

「これ、面白いシムーンだね。慣れたらやりやすいと思うよ、リ・マージョン…ちょっとやってみようか?ネヴィリル」

「えぇ、試してみましょう、アーエル」

 アーエルが急旋回して楕円を描き、再び急上昇すると、ネヴィリルがそれに合せて巧みに翼を開閉した。

 首都の空に、隼のリ・マージョンの航跡が描かれ、閃光がきらめいた。

「隼のリ・マージョンだよ、あれ…あんな綺麗な航跡は見た事もない」トルペが感歎して言った。

 リ・マージョンを終えたアーエルとネヴィリルは、少女たちの歓声に迎えられてエアポートに降り立った。

 だが、そこにはもう一人、怒りをあらわにしたブリュンヒルデが立っていた。

「誰が首都の空で勝手にリ・マージョンをやっていいと許可しましたか?」ブリュンヒルデは、迫るように二人に問い詰めた。

「あ、ごめんなさい。ちょっとシュミット・シムーンのテストをしていたので」アーエルはそう答えた。

「いぇ、私が悪いんです。許可がいるとは知らなかったので…お詫びいたします」ネヴィリルはブリュンヒルデに頭を下げた。

「首都の上空は、私たち防空隊の管轄です。今後は勝手なまねをしないように」

 ブリュンヒルデは吐き捨てるようにそう言うと、足早に去って行った。

「なぁに、あれ?」「ひどい言い方よね~」コール・ブルーメの少女たちは、口々に不満を漏らした。

 しかし、首都の上空でリ・マージョンの訓練ができない以上、アーエルとネヴィリルは練習場所を変えるしかなかった。

 

 アーエルとネヴィリルのシムーン。5機のシュミット・シムーン。そして、1機の古代シムーンが遺跡にやってきた。

 今日からここでシムーンの練習をする事になった…と言うより、ここしか練習場所がなかったのだ。

 かって、アーエルの祖父や、ドミヌーラが所属していたコール・デクストラは、翠玉のリ・マージョンを完成させるために、この遺跡で訓練を行っていた。

 しかし、失敗を重ねた末、数多くの犠牲者を出し、聖なる遺跡の時空を大きく歪める結果を招いてしまったのだった。

 アーエルとネヴィリルは、慎重に場所を選んで、少女たちの教練を始めた。

 整備主任のワポーリフが心血を注いで調整してくれたお陰で、シュミット・シムーンは随分操縦しやすくなっていた。

 アーエルとネヴィリルの親切な指導の甲斐もあって、ようやくそれぞれのパルが新型シムーンを問題なく飛ばせるようになった。

 ただ、古代シムーンのバルザミーネとネルケだけは、曲芸飛行のまねをして、みんなから外れた事をやっていた。

 

 それぞれのパルを指導している内に、アーエルとネヴィリルには、次第に少女たちの事が分かってきた。

 ディステルは貴族の娘で、性格は明るいのだが、どこかツンとしたところがあって、気分が変わりやすい。

 あどけなさを残している小さなファイルヒェンは、そんなディステルを姉のように慕っているようだ。

 トルペとレーヴェンは、しょっちゅう言い合いをしているように見える。

 でもそれは喧嘩ではなく、二人で意見を述べ合って、お互いが納得のできる結論を出しているのだ。

 それだからこそ、コールが全滅した激戦の中を生き抜いて来られたのだろう。

 アルボルの精鋭部隊にいたオルヒデは、事の外気位が高く、それに輪を掛けたようにキルシュも負けん気が強い。

 普段は衝突しないように、お互いに気を使っているが、片方に火がつくと片方も燃え上がるようだ。

 どうやら、二人はコール・ブルーメ最強のパルになるような予感すらする。

 何事にも真剣なハイデローゼは生真面目な性格で、イリスは社交的で色々と気配りができる。

 ナルテッセは、少し気取ったうぬぼれ屋さんで、カメリアはおっとりした気品のある娘だ。

 それぞれが、ブレイクやシザーズ、捻り込みなどの飛行技術をマスターした頃、アーエルとネヴィリルは模擬戦を提案した。

 その結果を確かめてから、いよいよ本格的なリ・マージョンを教えていこうと考えたのだ。

 

「さあ、みんな集まって~…これからみんなに模擬戦をやっていただきます」ネヴィリルが言った。

「5秒間、相手の後ろを取ったら勝ちだよ。判定は私たちがするから、みんな訓練の成果を見せてね」アーエルも言った。

 ディステルとファイルヒェン、トルペとレーヴェン、オルヒデとキルシュが飛び上がった。

 ハイデローゼとイリス、ナルテッセとカメリア、バルザミーネとネルケも続いて飛び立った

 それぞれの単機勝負がルールで、最後まで勝ち残った者が勝者となる。

 まずは、トルペとレーヴェン対、ナルテッセとカメリアの勝負になった。

 ナルテッセとカメリアは、いつものようにブレイクしながら相手を振り回し、疲れさせからて隙を突く作戦に出た。

 だが、トルペとレーヴェンはそれを読んで、す~っ!と谷間に隠れた。

「あれ~?後ろから追っかけてきていたはずなんだけど?」ナルテッセは、後ろに誰もいない事に気づいた。

「変ね~…急にいなくなっちゃった」カメリアは辺りを見回したが、トルペとレーヴェンはどこにもいない。

 二人がキョロキョロしている間に、谷間を迂回して出たトルペとレーヴェンが、ナルテッセとカメリアの後ろを取った。

「は~い。それまで」アーエルとネヴィリルの判定が下った。

「あらら~…負けちゃったわよ。ナルテッセ」

「もう、カメリアったらぁ~…あんたがぼ~っとしてるからよ」

 ナルテッセとカメリアは、まるで漫才コンビのようなパルだった。

 

 次はハイデローゼとイリス対、トルペとレーヴェンの勝負になった。

 双方ともパルの連携には長けた者同士だったが、ここは経験に勝るハイデローゼとイリスが戦いを制した。

 

~続く~

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