ディステルとファイルヒェンが、バルザミーネとネルケに勝負を挑んだ。
「さぁ、行くわよ~!ファイル…古代シムーンなんかに負けてたまるもんですか」
「は~い、ディステル姉さま。がんばりま~す!」
ディステルとファイルヒェンは張り切ってとび出した。しかし、二人が思っていたよりバルザミーネとネルケは強かった。
こちらは新型シムーン、あちらは古代シムーンとなめて掛かったディステルとファイルヒェンは、たちまち窮地に追い込まれた。
ピンチの連続が続いたが、ファイルヒェンは巧みに機体を捻り込んで、何度も難を逃れてみせた。
「なかなかやるね~…あのおチビさん」アーエルが感心して言った。
「才能はあるわね~…先が楽しみだわ」ネヴィリルもうれしそうに見ていた。
だが、サジッタのディステルがちょっとミスを犯した隙に、後ろを取られてしまった。
「は~い、それまで…ディステルとファイルヒェンはよくがんばったわね」ネヴィリルは二人の健闘を讃えた。
だが、勝負に負けて不満そうな顔で降りて来たディステルは、早速ファイルヒェンに小言を言い出した。
「何で交わせなかったのよ~…こっちは新型シムーンなのよっ!」自分のミスは棚に上げてディステルは言った。
「ごめんなさい。ディステル姉さま」それでも、ファイルヒェンは言い訳もせずに謝った。
ハイデローゼとイリスが、オルヒデとキルシュに勝負を挑んだ。
実戦経験の豊富なパル同士が技量を競い合うくんずほぐれつの空中戦が幕を開けた。
ハイデローゼとイリスは何度もオルヒデとキルシュに肉薄したが、その度にひらりと相手に交わされてしまった。
「う~ん…強いよ。あの二人」イリスは感心したようにハイデローゼに言った。
「アルボル防空隊は精鋭揃いって聞いたわ…隊長のオーバス・フリスト様が戦いで負傷し、街も陥落して解散したけど」
「どうりで強いはずだ。何とか相手の死角に回り込めない?ハイデ」
「ええ、やってみるわ」
ハイデローゼは、オルヒデとキルシュの死角に潜り込んでから後ろを取ろうとしたが、相手に逆手を取られて負けた。
「負けちゃったね、イリス」
「うん…悔しいけど、これが実力の差だね」
勝負には負けたものの、二人はあまり気落ちしていない様子だった。
最後のオルヒデとキルシュ対、バルザミーネとネルケの戦いは壮絶なものになった。
互いに一歩も譲らずポジション争いを繰り返し、いったんは機体で秀でたオルヒデとキルシュが優勢になったかに見えた。
だが次の瞬間、バルザミーネとネルケは、大技インメルマン・ターンを使って、オルヒデとキルシュの正面に出た。
眼前に迫る古代シムーン!…アウリーガの視界が良すぎるのが、逆にシュミット・シムーンの弱点にもなる。
オルヒデとキルシュは一瞬怯んだ。その間に勝負は完全に決まった。
降りて来た四人をみんなは拍手で迎えた。
「よくやったわ、四人とも…見事だったわよ~」ネヴィリルは四人をねぎらった。
「いやぁ、まさか土壇場で負けるとは思わなかったよ~」キルシュは感心したように言った。
「私もバルザミーネの操縦にはいつも驚かされるの」ネルケはうれしそうに答えた。
「よく古代シムーンであんなすごい技ができるね~」そう言いながらオルヒデは、バルザミーネに握手を求めた。
もちろん、オルヒデは相手を称えるつもりで言ったのだが、バルザミーネはムッ!としたようだった。
「私たちは身分が低いからね。新しいシムーンをもらえなかったのよ」
吐き捨てるようにそう言ったバルザミーネは、オルヒデの握手を拒んで立ち去ってしまった。
以前からバルザミーネとネルケの様子が気になっていたアーエルとネヴィリルは、二人を教官室に呼んだ。
「ねえ、バルザミーネ。ネルケ…あなたたちとっても身分を気にしているようだけど」
ネヴィリルは諭すようにやさしく二人に言った。二人はしばらくの間黙っていたが、やっとネルケが口を開いた。
「私たちは本物の巫女じゃないんです。他の人たちと違って、戦争がなければシムーン・シュヴィラにはなれなかったんです」
「関係ないよ。人は神の下に平等だって教えがあるでしょ…それとも嶺国じゃぁ違うの?」アーエルは逆に尋ねた。
「そんな教えは聞き飽きたわ。現実はそんなもんじゃない。私たち貧しい農民の子は」バルザミーネはムッ!として言った。
「あら、ここにいるアーエルだって農民の子よ。でも立派な神の巫女だわよ」ネヴィリルは、バルザミーネの言葉を否定した。
「そうだよ。シムーン・シュヴィラはみんな同じ仲間なんだから…辛い事があったらみんなで支え合わなきゃ」
アーエルとネヴィリルは、親身になって、バルザミーネとネルケのかたくなな心を解きほぐそうとした。
バルザミーネは、嶺国北部の辺境地域の農村で生まれた。家は貧しく、とても巫女になれるような身分ではなかった。
しかし礁国との戦争が始まり、嶺国はシムーンに乗って戦う多くのシムーン・シュヴィラ…つまり少女兵士を必要とした。
幼い頃から運動神経抜群だったバルザミーネは、村長の推薦を受けて、嶺国大法院のシュヴィラ神学校に入学した。
『とうとう私はあこがれの巫女になれるんだ』バルザミーネは胸をときめかせてシュヴィラ神学校の門をくぐった。
だが、継ぎはぎだらけの粗末な服を着て入学してきた田舎娘の彼女を、周りの少女たちは面白がってからかった。
バルザミーネが反発すればするほど、少女たちは彼女をいじめた。バルザミーネはすっかりいじけてしまった。
そんな彼女の様子を心配して、何くれとなく世話を焼いてくれたのがネルケだった。
ネルケは、たくさんの巫女を輩出している嶺国南部の生まれで、バルザミーネと同じ農民の子だった。
彼女もバルザミーネも戦時特例の巫女候補生だったが、大家族の中で育ったネルケは、やさしくて健気な性格をしていた。
家柄の良い少女が多いシュヴィラ神学校では、バルザミーネと同様にいじめられたが、笑って人の間に飛び込んでいった。
苦労の末にシュヴィラ神学校を卒業したバルザミーネとネルケは、パルを組んで戦場に出ると、たちまち輝かしい戦績を上げた。
だが、人の間に溶け込めないバルザミーネの度重なる独断専行は、周りのシムーン・シュヴィラたちの反感を買った。
そうして各部隊を転々とし、どこに行っても厄介者になった二人は、訓練部隊に追い払われたのだった。
農民の子から志願してシムーン・シュヴィラになったアーエルには、バルザミーネとネルケの気持ちがよく理解できた。
(私だって、戦争がなければシュヴィラになんかなれなかった。ネヴィリルと出会う事も…でも、今は戦争はいやだ)
(私も最初はアーエルが嫌いだった。何て礼儀知らずな子なんだろうって…でも、仲良くなるとアーエルの事が好きになった。人は家柄や育ちで判断するものじゃない)とアーエルとネヴィリルは思った。
二人は、同じシムーン・シュヴィラとして、バルザミーネとネルケのよい話し相手になろうと決心した。
~続く~