シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

20 / 39
シムーン第二章 第4話 【境遇】 その4

 アーエルとネヴィリルは、格納庫で仕事をしていたワポーリフをバルザミーネとネルケの古代シムーンの前に連れて来た。

「お願いしたい事があります。ワポーリフ」

「何でしょうか?シュヴィラ・ネヴィリル。それにシュヴィラ・アーエル」

「この古代シムーンをチューニング・アップしてもらえないでしょうか?少しでもシュミット・シムーンに近づくように」

「多分、それは難しいと思います」ワポーリフの返事は意外なものだった。

「なぜです?バルザミーネとネルケは身分が低いために、シュミット・シムーンをもらえなかったんです…だからせめて」

「シュヴィラ・ネヴィリル。シュヴィラ・アーエル。お二人ともここをご覧下さい」

 ワポーリフはそう言いながら、古代シムーンの機首の下を指差した。そこには古代文字が刻印してあった。

「これはっ…霊廟に奉納してあったシムーンだわ。するとバルザミーネとネルケの古代シムーンは」

「戦争に使うために嶺国が下ろして来たんでしょうが、機体が古いので、身分の低いシュヴィラに与えたのだと思います」

「これは神の魂が宿る本物の『神の乗機』なのね…どうりで神業みたいな事が」

「そうです…おそらくシムーンの完全な原型です。何千年も前に『神の民』の元にあったものでしょう」

 アーエルとネヴィリルは、古代の大空陸で『神の民』に出会った事を思い出した。

「時を経ても錆びる事のない金属で作られ。頑丈で安定性が高い…これ以上のシムーンは我々には作れません」

 古いシムーンを与えられて、身分の低さを嘆くバルザミーネとネルケは、思わぬ宝を手にしている事を知らなかったのだった。

 

人は外見を見て、人や物事を判断しようとする。だが神は、常に真意を奥に隠して人を試されるのだ。

外見だけで判断して、人の心や、物事の真相を知ろうとしない者はただの愚か者でしかない。

 

 いよいよ、本格的なリ・マージョンの練習が始まった。

 コール・ブルーメは、全員で隼のリ・マージョンを行った。

 空に6つの連続した三角錐の図形が完成し、閃光が放たれた。

 次に、アーエルとネヴィリルが、単機で隼のリ・マージョンを行った。

 二人が描いた航跡がどんどん輝きを増し、6機のシムーンでやったものよりはるかに大きな閃光が空にひらめいた。

「すごいっ!あんなに広い範囲までリ・マージョンが届くんだ~」

「それに描いた航跡がキラキラ輝いてたわよ。私たちのと全然違う!」

「どうしたらあんなリ・マージョンが描けるのかなぁ~」

 少女たちは、口々に感心したり、不思議がったりして、アーエルとネヴィリルが描くリ・マージョンに見とれていた。

「祈る事よ…パルが二人で心を合わせてシムーン宮に祈るの」ネヴィリルは、少女たちにそう言った。

「そうだよ…願いを込めて祈れば、必ずシムーンが答えてくれる」アーエルもそう言った。

 ハイデローゼはハッ!と思った。それまでの教官には『気合を入れてやれ』とか『相手を圧倒しろ』とか言われて来た。

 けれども、死んでしまったガルトルートだけは違っていた。

『いい事、ハイデ。シムーンにしっかり祈りなさい。そうすれば、あなたの願い通りにシムーンは動いてくれる』

(この教官たちはガルトルートによく似ている。何だか好きになれそうな気がする)

 しかし、ハイデローゼが思うより早く、イリスは確信に気づいたようだった。

 信心深い土地柄の嶺国南部で育った彼女は、小さい頃から、時には親に反発しながらも祈る事が習慣になっていた。

(アニムス様、どうか良い服が作れますように)そう祈ったら、必ず出来栄えのいい衣装を作る事ができた。

 本来、シムーン・シュヴィラが空にリ・マージョンを描く行為は、神に捧げる祈りの証なのだ。

 戦うためだけにリ・マージョンを教えられた少女たちは、肝心の神への祈りを忘れてしまっていた。

 アーエルは言った「祈りのないリ・マージョンは、ただの図形になってしまうよ…神にも相手にも届かない」

「それに、一歩間違ったら事故の元になるわ。大切なパルを傷つけてしまう」ネヴィリルは、アムリアの事故を思い出して言った。

 さすがに『神に最も近い』と言い伝えられる宮国のシムーン・シュヴィラの言う事は違う…と少女たちは思った。

 

 だが、思う事と行う事は違う…それからの少女たちには本当の試練が始まった。

 トルペとレーヴェンは、お互いに何でも言い合える仲だったので、アーエルとネヴィリルの言葉が理解できた。

 ナルテッセとカメリアは、何だかんだ言っても、お互いに切っても切れないパルなので、まずまず訓練について行けた。

 シュヴィラ神学校からの長い付き合いをして来たバルザミーネとネルケも、良く息が合っていた。

 そんな少女たちの中で、リ・マージョンの上達が一番早かったのは、ハイデローゼとイリスだった。

 生真面目なハイデローゼと遊び心のあるイリスは、まったく正反対の性格だった。

 しかし、お互いが相手を理解しようといつも努めて来た。その努力が実を結んだのだ。

 異なるからと互いに反発するだけでは何も解決しない。それでは、いくら祈っても神にも相手にも届かない。

 神に祈ると言う事は、神を愛する事だ…それは置き換えれば、人を愛する事に繋がる。

 お互いを思いやる気持ち…それが昇華されて神への祈りとなる…祈りは争いとは対極にあるのだ。

 その事がなかなか理解できない二組のパルがいた。

「どうしたのよ、オルヒデ。全然みんなみたいにならないじゃない…替わろうか?」

「少し黙ってて、キルシュ!今やってるところだから」

 シムーン・シュヴィラきっての精鋭だったと言う自負の強い二人は、どうしても自分の力に頼ってしまうのだ。

 アウリーガとサジッタを交代してもどうにもならなくて、練習を終える度にいつもへとへとになっていた。

「何でなのよ~…教えられた通りにきちんとやっているのに」

「そぅそぅ、スピードも私たちが一番早いし、ターンだって正確にやってるわ。なのに、なぜ上手くいかないの?」

 見かねたハイデローゼとイリスが、オルヒデとキルシュの所にやって来た。

「二人とも自分だけの力に頼ってない?呼吸が合ってないように見えるけど」イリスは言った。

「普段は仲良さそうに見えるけど、もしかしたら、お互いに遠慮し合ってるんじゃないの?」ハイデローゼも言った。

「だって、私たち二人とも気が強いから、もしぶつかったら…」オルヒデは言い訳をした。

「だめだよ~…トルペとレーヴェンみたいに言いたい事を言って喧嘩しなきゃ」イリスは笑いながらそう言った。

「あら、私たち喧嘩なんかしてないわよ。ね~…レーヴェン」それを聞いていたトルペが言った。

「そうよ…トルペと私は、お互いに言いたい事を言い合ってるだけだもんね~」とレーヴェンも言った。

「それでいいと思うわ。口に出して言った方が相手の気持ちがよく分かるもん」そうハイデローゼは言った。

「それじゃ、私たちも派手にやりあっていいのね」キルシュは乗り気のようだ。

「構わないと思うよ…でも、関係ない人に八つ当たりするのはやめてよね」

 イリスはそう言ってみんなを笑わせた。どうやらオルヒデとキルシュには理解してもらえたようだった。

 しかし、もう一組のディステルとファイルヒェンの場合は深刻だった。

「ほらほら、ぐずぐずしないでファイル…さっさとやっちゃいなさいよ」

「でも、ディステル姉さま。まだターンの体勢が」

「何言ってんの!…そんなんだからいつまで経っても一人前になれないのよ」

「はい、ごめんなさい」

 そんな調子で、なかなか効果的なリ・マージョンが描けないでいた。

「ありゃぁ~…あの二人。また上手く行かなかったよ。ネヴィリル」アーエルは苦笑いした。

「決断力のあるディステルと、操縦の才能があるファイルヒェン…いい組み合わせなのにね~」

 ネヴィリルは少しばかり思案してから、アーエルの顔を見て言った。

「そうだっ!アーエル。私にいい考えがあるわ」

 

~続く~

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。