アーエルとネヴィリルは、格納庫で仕事をしていたワポーリフをバルザミーネとネルケの古代シムーンの前に連れて来た。
「お願いしたい事があります。ワポーリフ」
「何でしょうか?シュヴィラ・ネヴィリル。それにシュヴィラ・アーエル」
「この古代シムーンをチューニング・アップしてもらえないでしょうか?少しでもシュミット・シムーンに近づくように」
「多分、それは難しいと思います」ワポーリフの返事は意外なものだった。
「なぜです?バルザミーネとネルケは身分が低いために、シュミット・シムーンをもらえなかったんです…だからせめて」
「シュヴィラ・ネヴィリル。シュヴィラ・アーエル。お二人ともここをご覧下さい」
ワポーリフはそう言いながら、古代シムーンの機首の下を指差した。そこには古代文字が刻印してあった。
「これはっ…霊廟に奉納してあったシムーンだわ。するとバルザミーネとネルケの古代シムーンは」
「戦争に使うために嶺国が下ろして来たんでしょうが、機体が古いので、身分の低いシュヴィラに与えたのだと思います」
「これは神の魂が宿る本物の『神の乗機』なのね…どうりで神業みたいな事が」
「そうです…おそらくシムーンの完全な原型です。何千年も前に『神の民』の元にあったものでしょう」
アーエルとネヴィリルは、古代の大空陸で『神の民』に出会った事を思い出した。
「時を経ても錆びる事のない金属で作られ。頑丈で安定性が高い…これ以上のシムーンは我々には作れません」
古いシムーンを与えられて、身分の低さを嘆くバルザミーネとネルケは、思わぬ宝を手にしている事を知らなかったのだった。
人は外見を見て、人や物事を判断しようとする。だが神は、常に真意を奥に隠して人を試されるのだ。
外見だけで判断して、人の心や、物事の真相を知ろうとしない者はただの愚か者でしかない。
いよいよ、本格的なリ・マージョンの練習が始まった。
コール・ブルーメは、全員で隼のリ・マージョンを行った。
空に6つの連続した三角錐の図形が完成し、閃光が放たれた。
次に、アーエルとネヴィリルが、単機で隼のリ・マージョンを行った。
二人が描いた航跡がどんどん輝きを増し、6機のシムーンでやったものよりはるかに大きな閃光が空にひらめいた。
「すごいっ!あんなに広い範囲までリ・マージョンが届くんだ~」
「それに描いた航跡がキラキラ輝いてたわよ。私たちのと全然違う!」
「どうしたらあんなリ・マージョンが描けるのかなぁ~」
少女たちは、口々に感心したり、不思議がったりして、アーエルとネヴィリルが描くリ・マージョンに見とれていた。
「祈る事よ…パルが二人で心を合わせてシムーン宮に祈るの」ネヴィリルは、少女たちにそう言った。
「そうだよ…願いを込めて祈れば、必ずシムーンが答えてくれる」アーエルもそう言った。
ハイデローゼはハッ!と思った。それまでの教官には『気合を入れてやれ』とか『相手を圧倒しろ』とか言われて来た。
けれども、死んでしまったガルトルートだけは違っていた。
『いい事、ハイデ。シムーンにしっかり祈りなさい。そうすれば、あなたの願い通りにシムーンは動いてくれる』
(この教官たちはガルトルートによく似ている。何だか好きになれそうな気がする)
しかし、ハイデローゼが思うより早く、イリスは確信に気づいたようだった。
信心深い土地柄の嶺国南部で育った彼女は、小さい頃から、時には親に反発しながらも祈る事が習慣になっていた。
(アニムス様、どうか良い服が作れますように)そう祈ったら、必ず出来栄えのいい衣装を作る事ができた。
本来、シムーン・シュヴィラが空にリ・マージョンを描く行為は、神に捧げる祈りの証なのだ。
戦うためだけにリ・マージョンを教えられた少女たちは、肝心の神への祈りを忘れてしまっていた。
アーエルは言った「祈りのないリ・マージョンは、ただの図形になってしまうよ…神にも相手にも届かない」
「それに、一歩間違ったら事故の元になるわ。大切なパルを傷つけてしまう」ネヴィリルは、アムリアの事故を思い出して言った。
さすがに『神に最も近い』と言い伝えられる宮国のシムーン・シュヴィラの言う事は違う…と少女たちは思った。
だが、思う事と行う事は違う…それからの少女たちには本当の試練が始まった。
トルペとレーヴェンは、お互いに何でも言い合える仲だったので、アーエルとネヴィリルの言葉が理解できた。
ナルテッセとカメリアは、何だかんだ言っても、お互いに切っても切れないパルなので、まずまず訓練について行けた。
シュヴィラ神学校からの長い付き合いをして来たバルザミーネとネルケも、良く息が合っていた。
そんな少女たちの中で、リ・マージョンの上達が一番早かったのは、ハイデローゼとイリスだった。
生真面目なハイデローゼと遊び心のあるイリスは、まったく正反対の性格だった。
しかし、お互いが相手を理解しようといつも努めて来た。その努力が実を結んだのだ。
異なるからと互いに反発するだけでは何も解決しない。それでは、いくら祈っても神にも相手にも届かない。
神に祈ると言う事は、神を愛する事だ…それは置き換えれば、人を愛する事に繋がる。
お互いを思いやる気持ち…それが昇華されて神への祈りとなる…祈りは争いとは対極にあるのだ。
その事がなかなか理解できない二組のパルがいた。
「どうしたのよ、オルヒデ。全然みんなみたいにならないじゃない…替わろうか?」
「少し黙ってて、キルシュ!今やってるところだから」
シムーン・シュヴィラきっての精鋭だったと言う自負の強い二人は、どうしても自分の力に頼ってしまうのだ。
アウリーガとサジッタを交代してもどうにもならなくて、練習を終える度にいつもへとへとになっていた。
「何でなのよ~…教えられた通りにきちんとやっているのに」
「そぅそぅ、スピードも私たちが一番早いし、ターンだって正確にやってるわ。なのに、なぜ上手くいかないの?」
見かねたハイデローゼとイリスが、オルヒデとキルシュの所にやって来た。
「二人とも自分だけの力に頼ってない?呼吸が合ってないように見えるけど」イリスは言った。
「普段は仲良さそうに見えるけど、もしかしたら、お互いに遠慮し合ってるんじゃないの?」ハイデローゼも言った。
「だって、私たち二人とも気が強いから、もしぶつかったら…」オルヒデは言い訳をした。
「だめだよ~…トルペとレーヴェンみたいに言いたい事を言って喧嘩しなきゃ」イリスは笑いながらそう言った。
「あら、私たち喧嘩なんかしてないわよ。ね~…レーヴェン」それを聞いていたトルペが言った。
「そうよ…トルペと私は、お互いに言いたい事を言い合ってるだけだもんね~」とレーヴェンも言った。
「それでいいと思うわ。口に出して言った方が相手の気持ちがよく分かるもん」そうハイデローゼは言った。
「それじゃ、私たちも派手にやりあっていいのね」キルシュは乗り気のようだ。
「構わないと思うよ…でも、関係ない人に八つ当たりするのはやめてよね」
イリスはそう言ってみんなを笑わせた。どうやらオルヒデとキルシュには理解してもらえたようだった。
しかし、もう一組のディステルとファイルヒェンの場合は深刻だった。
「ほらほら、ぐずぐずしないでファイル…さっさとやっちゃいなさいよ」
「でも、ディステル姉さま。まだターンの体勢が」
「何言ってんの!…そんなんだからいつまで経っても一人前になれないのよ」
「はい、ごめんなさい」
そんな調子で、なかなか効果的なリ・マージョンが描けないでいた。
「ありゃぁ~…あの二人。また上手く行かなかったよ。ネヴィリル」アーエルは苦笑いした。
「決断力のあるディステルと、操縦の才能があるファイルヒェン…いい組み合わせなのにね~」
ネヴィリルは少しばかり思案してから、アーエルの顔を見て言った。
「そうだっ!アーエル。私にいい考えがあるわ」
~続く~