シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第5話 【正邪】 その1

 その日の午後、占領地全権総督・アルハイトが、不機嫌な顔をしてエルフリンデの宮守室に入って来た。

「これはわざわざアルハイト様…お顔がすぐれぬようですが、どうかなさいましたか?」

「フェレスの街を礁国軍に奪われてしまった…あそこは西部戦線の重要な要だったのだが」

「そうでしたか。とうとう…何ぶんにも敵は数が多うございますからね~」

「物量に勝る礁国軍の前には、嶺国軍の貧弱な兵力など役に立たんようだ…戦術を転換せねばならんな」

「戦術を転換…と申されますと何かお考えでも?」

「うむ、各地の町や村にゲリラ部隊を送り込んで、敵を撹乱しようと考えておる…もちろん、敵の占領地にもだ」

「それはあまりにも危険が多いのでは?…住民がゲリラと間違えられて敵の攻撃を受ける事もあるやも知れません」

「却って都合がいいではないか…礁国がゲリラと間違えて、町や村の住民を殺せば礁国を憎む者が増えるからな」

「何て事をおっしゃいます…住民を人間の盾にされるおつもりですか?」

「住民が何人死のうと、我が方に有利になるなら構わんよ…戦争は勝つ事が第一だ」

「しかし、民を巻き添えにするような事は神の教えに反します」

「神の教えか…覚えておるかエルフリンデ。わしがお前にアウレアの位を譲って男になった日の事を」

 

アルハイラ(アルハイト)は嶺国北部の没落貴族の家に生まれた。

彼女の父は家門の没落を嘆きながら若くして病に倒れて死んだ。

貴族とは名ばかりの召使い一人いない貧乏貴族だったので、母は懸命に働きながら幼いアルハイラを育てた。

母の苦労を見て育ったアルハイラは神に誓った「アニムスの巫女になろう。そして、出世して家を再興するんだ」と。

それからアルハイラは寝る間も惜しんで猛勉強をし、嶺国大法院・シュヴィラ神学校に入学した。

念願叶って巫女になると、たちまち持ち前の美貌と才覚を発揮して黄金の巫女であるアウレアの座に登った。

美貌と知性を兼ね備えたアルハイラは、まさに王が膝を屈するに相応しい黄金のアウレアだった。

人々は、アルハイラのあまりの美しさと気高さを讃えて、彼女を『嶺国に咲いた白百合』とさえ呼んだ。

そうして、やがて人々に惜しまれながらアウレアを退位して男になった彼女は、王立議会議事堂の門をくぐった。

「これで没落した家門を再興できる…死んだ父の無念も、母の苦労も報われる」アルハイトはそう思った。

だが、出世を目指して国会議員になったアルハイトを出迎えたのは、居並ぶ議員たちの嘲笑と好色の眼差しだった。

彼は『お飾り』『男娼』と嘲られた…王でさえ膝を屈する黄金のアウレアの威光は、政界ではまったく通用しなかった。

アルハイトは出世のために恥ずかしい事もし、屈辱も耐え忍んだ…そして、議会のNo.3シュヴァイン侯爵に取り入った。

彼は、スケベで、太っちょで、美食家のシュヴァイン侯爵の側で忍従の日々をすごしながら出世の機会をうかがった。

やがて、立て続けに戦争が始まると、彼はこの家柄だけの無能な侯爵の代理として政界で手腕を振るうようになった。

第一次シムーン戦争の時、アルクス・プリーマで開かれた宮国と嶺国の和平会議を妨害したのも彼アルハイトだった。

嶺国の巫女たちを操り、テロを仕掛けて和平を決裂させたのは、宗教界に通じる元・黄金の巫女ならではの陰謀だった。

その後、傀市沖海戦の大敗の責任を取って前政権の総裁と副総裁が失脚すると、シュヴァイン侯爵が総裁となり、アルハイトは副総裁となったのだった。

 

「はい、アルハイト様のご苦労はよく存じ上げております」

「ふん、苦労か…神の教えなどと言っているお前に、わしの苦労は分からんよ…それより、新型シムーンの配備は進んでおるのか?」

「はい、量産が始まってからはとどこうりなく最前線に配備されつつあります」

「そうか。あれで空の戦局はだいぶん変わるはずだ…礁国軍のシミレは、我が方の新型シムーンに振り回されるぞ。あぁ、それから」

「それから…何でございましょうか?アルハイト様」

「あの訓練コールに武装を命じておけ。そろそろわしのために働いてもらうとしよう」

「はぁ…あのコールにはリ・マージョンの訓練をさせるのでは?」

「わしがただの訓練のためだけに、宮国のシュヴィラなんぞ雇ったと思うか?最初っからわしの手駒にするために決まっておろうが」

「しかし、アルハイト様…それではお約束が」

「約束もへちまもあるかっ…わしも色々複雑な立場があるのでな。自由に使えるシムーン・コールが欲しかっただけの事だ」

「なるほど、どうりで…最初っからそう言うお考えだったのですね」

「どうせみんな寄せ集めだろうが…使い捨てても文句を言うヤツはおるまい。死んだら英霊としてアニムスの靖国霊廟に祭ってやる」

 そう言うとアルハイトは、薄笑いを浮かべながら宮守の部屋を出て行った。

(あの気高く美しかったアルハイラ様は、すっかり人が変わってしまわれた。怖いくらいに)とエルフリンデは思った。

 

 あれからコール・ブルーメの少女たちがいる遺跡の練習場は、妙なにぎわいを見せていた。

 訓練コールの少女たちが、リ・マージョンで礁国軍の飛行爆弾を防いだ…と言う噂を聞きつけて、各地の戦場から少女たちがリ・マージョンを教えてもらうためにやって来るようになったのだ。

 最前線で戦う少女たちは、僅かな非番の間をぬってたとえ一つでも有効なリ・マージョンを覚えて帰ろうと必死だった。

 みんな悔しかったのだ…自分たちの仲間が次々と礁国軍の高速シミレにやられて死んで行くのを見るのが。

 ハイデローゼやイリス、オルヒデやキルシュも、自分たちの訓練よりもやって来た少女たちにリ・マージョンを教えるのに忙しかった。

 もうすっかり教師気取りのナルッテッセやレーヴェンは、地面に図を描いて集まった少女たちにリ・マージョンのやり方を教えていた。

「こうしてね…ここでターンして、それから」

「よぅ、ナルテッセ先生。今日は生徒さんが多いね~…商売繁盛で結構、結構」

 イリスは、得意気に少女たちを教えるナルテッセをからかって遊んでいた。

「これはこれはレーヴェン教授。講義熱心なのはいいけど…そこ、ちょっと間違ってるよ」

「あら~、私とした事が…ごめんなさ~ぃ」

 そう言いながらあわてて照れ笑いをするレーヴェンを、アーエルも面白がっていた。

 そんなある日、遺跡での練習を終えて大聖堂のエアポートに帰ると、ワポーリフたち整備士が一斉に寄って来た。

「どうしたんですか?ワポーリフ」

 重そうな機関銃を抱えているワポーリフを妙に思ったネヴィリルは尋ねた。

「シュヴィラ・ネヴィリル。シュヴィラ・アーエル。あなたたちのシムーンを武装するように命じられました」

「えっ!私たちは訓練するためのコールなのになぜ?」

「多分、この前の飛行爆弾が襲来した時のような緊急事態に備えての事でしょう」

 アーエルとネヴィリルのシムーンには、取り外されていた機銃が再び取り付けられた。

 シュミットシムーンの胴体にも、飛び出した角のような機銃が左右に二門取り付けられた。

 オルヒデやキルシュ、ディステルやファイルヒェンは武装したシムーンを見て喜んだが、アーエルとネヴィリルは嫌な予感がした。

 

~続く~

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