大聖堂のエアポートに、煙を吹き上げながら傷付いたシムーンが舞い降りてきた。
「お~いっ!担架を急げ~」「早く火を消し止めろっ!」救急隊や整備員たちがあわてて駆け寄った。
知らせを聞いて駆け付けたブリュンヒルデは、もうハッチによじ登って、怪我を負った二人のシュヴィラを助け出そうとしていた。
「アルテ。フリッカ…待っててっ!今すぐ助けてあげるから」
「シュヴィラ・ブリュンヒルデ。危ないですから下がって下さいっ!」
そう言って、救急隊は二人の負傷したシームーン・シュヴィラを担架に乗せて運んで行った。
二人が運ばれていくのを見ていたブリュンヒルデが、急にふらふらとよろめいて倒れそうになった。
駆け付けて来たネヴィリルがブリュンヒルデを抱き止めた。
無理もなかった。連日のように続く出撃。見えざる敵との戦いで増える犠牲者…ブリュンヒルデは疲労困憊していた。
礁国軍の攻勢を食い止めるために他のオーバスが率いるシムーン隊は、すべて南部の最前線に出払ってしまっていた。
いきおい広い北部一帯の防衛のために、ブリュンヒルデと首都防空隊には過酷な負担が掛かってしまっていたのだ。
しかも、目に見えない礁国のステルス・シミレが国境地帯にも出没して、嶺国本土を狙っていると言う情報も入っていた。
相手が見えないと言うのは厄介だ…ステルス・シミレは音もなくシムーンに近寄って突如として襲い掛かかってくる。
いかに機動性にすぐれたシュミット・シムーンと言えども、相手が見えないのでは手の打ちようがなかった。
(何か対策はないものか?)と考えたアーエルとネヴィリルは、整備主任のワポーリフに聞いてみた。
「礁国のステルス・シミレは、どんな方法を使って姿を隠しているのかしら?」
「僕が嶺国の兵器工廠にいた頃、昔漁船に乗って南の海で漁をしていた…と言う人からある話を聞いた事があります」
「漁船に乗って魚を獲っていた人ですか…それとステルス・シミレとどんな関係が?」
「南の海に小さなサメがいて、そいつは辺りの景色に溶け込みながら獲物が現れるのをじっと待っているとか」
「へぇ~…上手い手を考えたもんだね。まるでステルス・シミレみたいだ」アーエルが言った。
「そうなんです。皮膚の色が周りに合わせて変化するんですね…多分、礁国はそんな有機結晶を開発したのだろうと思います」
「有機結晶なのか~…でも、周りと同じ色に化けられたら見えっこないよね。いくら相手のスピードが遅くっても」
「そこです!…スピードが出ないのではなくて出せないのです。周囲の景色の変化についていけなくなりますから」
「ありがとうワポーリフ…いい話を聞いたわ」
「いぇ、どういたしまして…シュヴィラ・ネヴィリル。シュヴィラ・アーエル。何かの参考になりましたら」
確かに容易な相手ではない…しかもこのところ戦局は逼迫していて、訓練を続けられるほどの余裕はなくなっていた。
アーエルとネヴィリルたちコールブルーメは、少しでもブリュンヒルデの負担を軽くしようと哨戒任務を買って出た。
宮国と嶺国の間にまたがるアルトゥム山脈の国境地帯は、切り立った高い山々がそびえ立ち常に強風が吹き荒れている。
山と山に挟まれた谷間の細い回廊は、古い時代には宮国と嶺国のキャラバン隊が行き交う通商路であった。
アーエルとネヴィリルは、かってシムーンの飛行訓練でこの谷間の回廊を飛んだ事があった。
吹き荒れる乱気流の中でどうシムーンを操って飛ぶか…訓練生の少女たちにもそれを経験させておきたかった。
国境地帯での哨戒飛行を終えた帰り道、アーエルとネヴィリルは少女たちを連れて谷間の回廊に入った。
「ヒヤ~ァ!何っ…この強烈な風」
「全然シムーンがコントロールできないわ」
強風に翻弄されてあたふたしているコール・ブルーメの少女たちに、アーエルとネヴィリルが注意を促した。
「風に逆らっちゃぁだめだよ…みんな風をしっかりつかんでっ」
「もっと翼をたたんで…パルが呼吸を合わせないと風に負けるわよ~」
しばらくは風にあおられて、大わらわになっていた少女たちも徐々に風をつかむのが上手くなっていった。
そうしていた時、どこからともなく飛んできた銃弾がトルペとレーヴェンのシムーンを貫いた。
「あっ!誰かに撃たれた~!」レーヴェンが叫んだ。
「痛ぁ~っ!…足がっ」トルペもやられた。
少女たちはあわてて辺りを見回した。しかし周囲には何者の姿もない。
なのに再び銃弾が飛んできた…どうやら、コール・ブルーメの少女たちの上に何者かがいるらしかった。
「上に何かいるよっ!みんな」ファイルヒェンが言った。
「危ないっ!みんな散開してっ」ネヴィリルが叫んだ。
「敵だっ!礁国のステルス・シミレだ」イリスが注意を促した。
「いったいどこにいるの?全然見えないけど~」カメリアはキョロキョロと辺りを見回した。
また飛んで来た銃弾が機体をかすめた…少女たちはどこから撃ってくるか分からない相手に苦戦を強いられた。
「私に考えがある…私たちが相手を誘い出すから、みんなは少し離れて後ろからついて来て」
そう言うと、アーエルとネヴィリルはシムーンを上昇させて敵のいそうな場所まで行った。
獲物が自分の方からやって来たと思ったのか、敵はアーエルとネヴィリルのシムーンを狙って撃ってきた。
「さぁ、こっちへ来い」そう言って、アーエルとネヴィリルは飛んで来る銃弾を交わしながら下降した。
そして、谷間から立ち昇る霧に巧みに身を隠しながら、少しづつ複雑な地形の中に相手を誘い込んでいった。
その時、初めて後ろにいた少女たちに敵の姿が見えた…相手は2機いてその行く手には崖が立ちはだかっていた。
「今だっ撃て~!」コール・ブルーメの少女たちは、一斉に機銃を発射した。
とたんにアーエルとネヴィリルは、崖にぶつかるぎりぎりのところで反転して急上昇した。
コール・ブルーメの少女たちが放った機銃弾は、見事に一機のステルス・シミレを破壊した。
残るもう一機は銃弾を交わそうとして操縦を誤り、まともに崖にぶつかって砕け散った。
「やった~っ!2機とも撃墜したよ」
「見えない礁国のステルス・シミレを撃ち落した~っ!」
少女たちは初めての空中戦に勝った事に大喜びした。
「みんな危ないところだったわね~…トルペ。レーヴェン。怪我は大丈夫?」
降りて来たネヴィリルは、負傷した二人を気遣った。
「痛いよ~!血が出てるしっ」レーヴェンは肩を撃たれていた。
「ホバリングはできるけど、足を撃たれたんで全然前に進めないっ!」トルペも痛そうだった。
「バルザミーネ。ネルケ…トルペとレーヴェンのシムーンを牽引してあげて」
ネヴィリルは、バルザミーネとネルケにそう指示するとアーエルと相談した。
「早く帰って二人を手当てしなきやぁ…いったん戻って谷から出ようか?アーエル」
「でも、引き返すと遠回りになってしまうよ。このまま谷を進む方が早く首都に着くと思うけど」
「そうね…風は強いけど、一刻も早く帰らなきゃならないものね」
「みんな乱気流に気を付けて~…このまままっすぐ首都に向かうよ」
谷間の地形をよく知っているアーエルはそう言うと、先頭に立ってみんなを誘導しながら進んだ。
ところが、首都を目指して飛んでゆくコール・ブルーメの前に、突如巨大な影がぬ~っ!と現れた。
~続く~