私の家にやって来たネヴィリルとアーエルは、まるで罪を犯した者のように縮こまっていた。
アーエルはうつむいたまま私の目を避けていたし、ネヴィリルはしょんぼりしたまま突っ立っていた。
「どうしたんだい?二人とも…嶺国本土への爆撃を防いだそうじゃないか。立派な手柄を立てたんだからもっと胸を張って」
私がそう言って励ますと、ようやくネヴィリルが消え入りそうな声で言った。
「申し訳ありませんグラギエフ…私たちはアヌビトゥフを殺しました」
「アヌビトゥフを殺したって…何か悪い夢でも見たんじゃないのか?」
私が取り合わずにはぐらかすと、やっとアーエルも顔を上げて言った。
「私たちが撃墜した礁国の飛空母艦には、アヌビトゥフが乗っていたんです…でも、その事を全然知らなくて」
私の頭は、一瞬ハンマーで殴られでもしたかのように真っ白になった…事実を受け入れるにはかなり時間が掛かった。
「そうか…そうだったのか」私は、それだけ言うのがやっとだった。
「お詫びのしようもありません」ネヴィリルとアーエルは深々と頭を下げた。
「いや、君たちに責任はない。すべては戦争のせいだ」私はやっと冷静さを取り戻してそう言った。
「でも、アヌビトゥフは私たちのシムーンを見たからなのか撃ってきませんでした…なのに私たちは」
ネヴィリルはしゃくり上げるようにして泣き出した。アーエルの目からも涙が流れていた。
「いかにもアヌビトゥフらしいな~…彼が礁国に徴兵されて去った日からいずれこんな事が起きるような予感がしていたよ」
「でもアヌビトゥフはあなたにとって、とても大切な」
ネヴィリルはそう言い掛けたが、妻の方を見て言いにくそうに口ごもってしまった。
「いや、気にする事はないよ…マーテルには悪いが、確かにシムーン・シュヴィラだった頃は私はアヌビトゥフと恋仲だった」
私がシュヴィラだった時代の恋を告白すると、聞いていた妻は笑いながら言った。
「あらあなた、少女時代には誰だって好きな人の一人や二人はいるわよ…私だってアムリアが大好きだった」
「へぇ~、君がアムリアを好きだったとはねぇ~…それは初耳だ」私も場を和ませようとして笑った。
「ネヴィリルに取られちゃったけどね~…でも、片想いでもいいかなって…だからあの事故はとってもショックだったの」
「それでシュヴィラをやめたの?…知らなかったわ。だけどグラギエフは」ネヴィリルは言った。
私は少し戸惑ったが、いっそこの際すべてを正直に白状する事にした。
「そうだな~…あの当時、私はパルだったアヌビトゥフを深く愛していた。いつか一緒になって暮らそうと思っていた」
「なぜ一緒にならなかったんですか?…あ、ごめんなさいマーテル」
アーエルは妻を気にしてそう言ったが、妻は逆に私をけし掛けて来た。
「泉に行く年になった時、アヌビトゥフは男を選ぶと言った。彼が男になるなら、私は女になって一生彼の側にいようと思った…しかし、彼は飛空士になる道を選んだ。私よりも空に恋をしていたんだよ…それで仕方なく私は男になった」
「そうだったんですか~…そんな事とは知らずに私たちは」
ネヴィリルが話を聞いて余計に辛そうな顔をしたので、私は自分自身をも慰めようとして言った。
「いや、空で死ねたのならむしろアヌビトゥフにとっては本望だった事だろう」
泣き止んでいたネヴィリルとアーエルがまたしゃくり出してしまった…妻がそんな二人をやさしく抱きかかえた。
(なぜ我々大人は、こんないたいけない少女の、小さな胸を痛めるような戦争をするのか?その昔、私が愛したアヌビトゥフを殺した罪は、欲望のために戦争に血道を上げる我々大人の方にあるのだ)
私はアヌビトゥフの死よりも、少女達に平和を与えてやれない自分や大人たちの不甲斐なさを嘆くしかなかった。
~続く~