「なぁに?…あの二人って」「何か、感じの悪い子たち」
コール・ブルーメの少女たちは、双胴のシムーンに乗ってきた二人の態度が気に入らなかった。
そこへ、ワポーリフが何人かの整備士を連れてやってきて双胴のシムーンの点検を始めた。
「暗視装置と電波探知機を重点的に点検してくれ」ワポーリフは部下たちに指示を出した。
(本来、時間と空間を制御するヘリカル・モートレスは対でなければならないはずなのになぜ?)
双胴のシムーンの構造を奇妙に思ったネヴィリルは、ワポーリフに尋ねた。
「変わったシムーンね。ヘリカル・モートレスが三基もあるなんて…どうやって動かしているのかしら?」
「この双胴のシムーンは、ナセルに付いている電動機で強制的にヘリカル・モートレスを回しているんですよ」
「強制的に回すって…そんな事ができるの?本当にヘリカル・モートレス?シミレじゃないの」
「いぇ、双胴のシムーンに取り付けられているのは本物のヘリカル・モートレスですよ」
ネヴィリルは『信じられない』と言う顔をした…ワポーリフはネヴィリルの顔を見て説明を付け加えた。
「僕が嶺国の兵器工廠にいた経験では、シュヴィラは別として嶺国の人にはあんまりヘリカル・モートレスの知識はないみたいでした。整備も僕たち宮国の整備士の助けを借りていたし…現にシミレ一つ作れない。練習機だって宮国から押収したものをそのまま使っています。彼らにとってはヘリカル・モートレスもシミレも同じ機械なんでしょうね」
「神の乗機であるシムーンをただの機械だなんて何て事!…きっと神がお怒りになるわ」
「そうですよね…でも現にこの双胴のシムーンにはシムーン宮がないんです」
「それじゃぁ、シミレとまったく同じじゃないの!」
「多分、時間制御の意味するところが理解できない彼らは、だだスピードを増して高空を飛ぶために三基のヘリカル・モートレスを取り付けたんでしょう…胴体が二つあれば戦車砲などの重武装もできますから」
「神に祈りを捧げるためじゃぁなくって、戦争のためだけに作られたシムーンなのね」
「悲しい事ですがそれが現実です…シュヴィラ・ネヴィリル」
ワポーリフの説明を聞いたネヴィリルは悲しかった。
シムーンは決して戦争の道具ではない…神の巫女が空に祈りを捧げるための乗物であるはずなのだ。
ハイデローゼたちコール・ブルーメは、深夜に大聖堂のエアポートを出発した。
目指すは礁国の支配地域にある宮国南部のラクリマ渓谷…そこに掛かる鉄橋を爆撃して破壊するのが今回の任務だ。
ハイデローゼとイリス、アーエルとネヴィリルのシムーンの翼には重い爆弾が吊り下げられていた。
ディステルとファイルヒェンのシムーンが先頭を行き、オルヒデとキルシュ、ナルテッセとカメリアが左右に付いて、バルザミーネとネルケがしんがりで後方を警戒する。
「えっ!私たちまた一番後ろなの?」
「しんがりを守るってとっても大事な役割なのよ。あなたたちの古代シムーンは一番頑丈なんだから…いざと言う時は頼りにしてるわよ」
出発前にバルザミーネはぶつぶつ文句を言っていたが、ネヴィリルはそう言ってなだめた。
暗視装置を装備したプランケとアルラウネの双胴のシムーンは、上空に上がって夜間飛行のための誘導信号を送ってきた。
双胴のシムーンに備え付けられた装置は、かすかな光や敵の発する電波を探知する事が可能だった。
コール・ブルーメの少女たちは、双胴のシムーンが発する誘導信号を頼りに敵の警戒網をすり抜けてラクリマ渓谷までたどり着いた。
両側を切り立った崖に挟まれたラクリマ渓谷の暗がりを飛行するのはどんなアウリーガでも至難の技だ。
谷に覆いかぶさる様に生えている木や、わずかに飛び出た岩に接触しただけでもシムーンはバランスを崩してしまう。
だが、アーエルとネヴィリルの訓練の賜物かファイルヒェンの才能は見事に開花していた。
双胴のシムーンから送られてくる誘導信号とディステルのナビを頼りに、巧みにシムーンを操りながら先頭を切って渓谷をさかのぼって行った。
~続く~