アーエルとネヴィリルは、死んだバルザミーネとネルケの形見のロザリオを携えて泉に行った。
大宮煌・ユンが差し出した揺り篭の中には、ネヴィリルと嶺国の巫女たちをかばって死んだマミーナの遺髪が入っていた。
二人はバルザミーネとネルケの形見のロザリオを、その籠の中に一緒に納めた。
大宮煌・ユンは静かに揺り篭を天に掲げると、鎮魂の儀式をおこなってから言った。
「命なかばで手折られた二人の少女の魂は、天に昇っていった」
「バルザミーネとネルケの魂は、安らかにしているでしょうか?」ネヴィリルは尋ねた。
「二人の魂は、あなたたちを守れた事にとても満足していた」ユンはそう答えた。
「バルザミーネとネルケは貧しい家に生まれて苦労の多い少女でした。それでも懸命に生きようとしていたのに」
ネヴィリルは声を詰まらせた。アーエルも目頭を押さえながらうつむいていた。
「俺は…いゃ、私が受け継いだオナシアの記憶の中に、同じような境遇の少女がいた…生き方は違っていたが」
「どんな少女でしたか?私たちに聞かせて下さい」
「オナシアがまだコール・デクストラのレギーナだった頃、司兵院の者が一人の幼い少女をオナシアに預けた」
「それで?」
「その少女は移民の子で、とてもシュヴィラになれるような身分ではなかった…だが『水碧のリ・マージョン』を完成させるための実験台を探していた司兵院は、貧しい親からその少女を一切れのパンと引き換えに引き取った」
「たった一切れのパンと引き換えに親が我が子を売ったんですか?…移民がそんなに貧しかったなんて」
「オナシアは幼い少女にシムーンの乗り方を教えた。少女は綿が水を吸い込むように操縦を覚えてめきめき上達していった」
「その少女って、まるでリモネみたいだね」とアーエルは言った。
「やがてその少女はシムーンに魅入られた…ただ誰よりも強くなり、より高く、より早くシムーンを飛ばす事に夢中になった。そんな彼女を案じたオナシアは何度も諭したが成長した少女は頑として聞き入れなかった」
「その話ってどっかで聞いた事があるよ…まさかその少女って?」アーエルは心当たりがあるように言った。
「『私の教え方が間違っていたのだろうか?』絶望したオナシアは還俗する決心をして泉に行き、先代の大宮煌の前に出た…宮煌はオナシアに言った『何をしに来た?』オナシアは答えた『性別を選ぶために』宮煌は尋ねた『男か女か?どちらを選ぶ』オナシアは迷ったままでどちらも選べなかった」
「あぁ、それでオナシアは男にも女にもなれなかったのか~」アーエルは、以前にオナシアから聞いた話を思い出した
「そんなオナシアに宮煌は言った『お前は男にもなれず、女にもなれない。どちらも選ばず、また選べない。お前は少女である事に未練があり、大人になる事を恐れて人の魂を受け止める事ができない。人を許し…また人を真に愛する事ができない』」
(あのオナシアが、自分が育てた少女のためにそんなに苦しんでいたなんて)ネヴィリルは思った。
「本心を見透かされて戸惑うオナシアに宮煌は言った『私の側に来なさい。悩める愛し子よ』オナシアは宮煌の側へ行き、宮煌はオナシアを抱きしめた。そして、宮煌は結晶化して消えて代わりにオナシアが大宮煌となったのだ」
「その貧しい移民の少女とは、もしやドミヌーラでは?」ネヴィリルは思い切ってユンに尋ねた。
「その通りだ…ドミヌーラが幼いリモネを可愛がったのは、育ての親であるオナシアの影響なのだろうと思う」
「そうだったのか~…それで自分がオナシアに教えてもらったようにリモネを教えたのか」アーエルは納得した。
「『神の民』が封じたシムーンを復活させたのはドミヌーラだ。そのためにたくさんのシムーン・シュヴィラが苦しんでいる。だが、ドミヌーラはその罪を贖うために…多くの少女たちを救うために、再び大空陸に帰ってくるような気がする」
そう言うと、大宮煌・ユンはテンプスパティムの柱の向こうに立ち去っていった。
縁とは不思議なものでオナシアが立った同じ場所に、やがてドミヌーラも立つ事になる。
第6話【陰謀】終了