焼け付くようなの空の下、礁国の北部に広がるシャムオ砂漠を南に向かって歩く一人の女がいた。
砂埃にさらされて服は汚れ、履いているサンダルは砂熱で焼けて足は腫れていたが、それでも女は歩みを止めなかった。
肩にキーラと言う独特の民族楽器を担いでいる所を見ると、どうやら彼女は宮国から来たらしかった。
何のためにこんな炎天下に辛い旅をするのか?その訳を知る者は誰もいない。
けれど、ひたすら砂漠を歩むパライエッタには、どうしても礁国の征都ゴンハイに行かなければならない理由があった。
事の発端は、第一次シムーン戦争が終わった後にパライエッタが開いた戦災孤児院に始まる。
小国の宮国と、大国である礁国・嶺国連合の戦争は、コール・テンペストの奮戦も虚しく宮国の敗北に終わった。
アルクス・プリーマに乗り込んできた礁国と嶺国の代表は、講和条件として宮国のシムーン・シヴュラの還俗を要求した。
彼らにとっては、両国軍を苦しめたシムーンとシムーン・シヴュラは戦後の脅威だったからだ。
だがそれは、コールテンペストの解散だけでなく、宮国のシュヴィラ体制の終焉を意味する事実上の無条件降伏だった。
そうして、永遠の少女を捨て去る事を拒否したアーエルとネヴィリルは、いったんは離れ離れに幽閉された。
しかし、二人は宮国のシュヴィラを「神に最も近い乙女」として尊敬する嶺国の巫女に助け出され、水碧のリ・マージョンによって遠い世界へと旅立って行った。
アーエルとネヴィリルの旅立ちを見送ったコール・テンペストのメンバーは、聖なる泉でそれぞれが男女の性別を選んで還俗した。
もし、ネヴィリルがいたならば、パライエッタは男になる事を選んだだろう。生涯ネヴィリルを守ると心に誓っていたからだ。
けれどもネヴィリルがいなくなった今、ネヴィリルの分までこの世界で生きようと思って女になる事を選んだ。
シュヴィラの任を解かれて普通の人になったコール・テンペストのメンバーは、それぞれが思い思いに散っていった。
パライエッタも、いったんは北部の故郷に帰ろうとした…しかし、もう故郷に守るべきネヴィリルはいないのだった。
長い戦いの果てに敗れた宮国は、家を失い、仕事を失い、親兄弟や、夫やわが子を失った人々であふれていた。
そんな民衆の惨状を尻目に、戦争を指導してきた司政院の議員や司兵院の軍人たちは礁国と嶺国に取り入る有様だった。
パライエッタは無力感に打ちひしがれた…聖なる巫女の資格を失った彼女は、もう人々に手を差し伸べてはやれなかった。
ネヴィリルならどうしただろう?…きっと自分が無力でも、何もなくても、弱い者を一人でも二人でも助けようとしただろう。
ならば遠い世界へ去ったネヴィリルの代わりに、私が弱い人々を助けなければならない。それが聖なる巫女の努めなのだから。
そう決心したパライエッタは、故郷へ帰るのをやめて戦争の災禍が最もひどかった南部に向かった。
そこには戦争で親を失い、家を焼かれて、住む家も食べ物もなくさまよい歩いているたくさんの戦災孤児がいた。
彼女は、コール・テンペストの元メンバーで大地主の娘でもあるロードレアモンの協力を得て、小さな孤児院を開いた。
そうして、宮国人の孤児も礁国や嶺国から来た移民の孤児も、人種や民族の分けへだてなく引き取って育てる事にした。
それがパライエッタにできる事であり、心ならずも戦争に加わった贖罪だった。
~続く~