けれども、敗戦後の宮国を共同統治する礁国と嶺国は、そんなパライエッタの小さな贖罪さえ許してはくれなかった。
思想も政治体制もまったく異なる両国は、戦後そうそうから宮国の統治権を巡って争い合いを始めた。
敗れた宮国の有力者たちは、礁国と嶺国の顔色をうかがいながらどちらに付いた方が有利かで意見が分かれていった。
そして、国民を巻き込んで小競り合いをした挙句、とうとう宮国は南部礁国派と北部嶺国派の二つに分裂してしまった。
礁国は嶺国との同盟を破棄し、南部の占領地域を一方的に自国に併合し、嶺国もそれに対抗して北部の占領地域を併合した。
北部と南部の間には国境線が引かれ、北部出身のパライエッタは故郷にすら帰れなくなってしまった。
互いに一歩も譲らない両大国の利権争いは、こうして小さな宮国を再び戦禍の中へと投じたのだった。
礁国と嶺国が宮国の国民を動員して始まった内戦は、科学力と物量にものを言わせる礁国側の優勢で進んでいた。
事実、パライエッタが目にする新聞には、相次ぐ礁国軍の勝利を伝える見出しが並んでいた。
にも関らず戦争は一向に終わる気配がなく、親を失った戦災孤児は増え続ける一方だった。
しかも妙な事に、いつごろからか孤児院の玄関に度々礁国人の赤ん坊が置き去りにされるようになった。
宮国や嶺国には古来からの宗教教義にのっとって、17才になるまでは子供を女の子として育てる慣習がある。
だが、古い時代に邪教教団による専制支配を受けて、苦難を舐めさせられた礁国人は宗教そのものを嫌っていた。
だから礁国では、産まれて間もない赤ん坊に手術を施して早くから性別を決定するするのが決まりになっている。
孤児院の玄関に捨てられていた赤ん坊にはその手術の跡があり、パライエッタには一目で礁国人の子だと分かった。
けれども、戦争に勝っているはずの礁国の人々が、なにゆえにわざわざ宮国にまで子供を捨てにくるのか?
パライエッタは、孤児院の玄関で泣いている赤ん坊を抱き上げながら不可解に思った。
赤ん坊を捨てなければならないほどの異様な事態か何かが、戦勝国の礁国で起きているのだろうか?
先の戦争に負けた後、大勢の宮国兵の捕虜が礁国に連れていかれた。家や財産を失って礁国に渡っっていった人もいた。
だが、誰一人礁国から帰ってきた者はいない…宮国の人々は礁国については何一つ知らされてはいないのだった。
そこで、思いあぐねたパライエッタは、孤児院の玄関を陰からそっと見張ってみる事にした。
そしてついにある日、自分の産んだ赤ん坊を捨てにきた礁国人の母親を見つけた。
その母親は、最期の別れをするように赤ん坊を抱きしめると、玄関の前に置いて立ち去ろうとしていた。
「お待ちなさいっ!」パライエッタは、後ろからその母親を呼び止めた。
驚いた母親は、力が抜けたように座り込むとそのまま泣き崩れてしまった。
「なぜ自分のお腹を痛めて産んだ子供を捨てるのですか?」パライエッタは母親に問うた。
「お願いです。見逃して下さい…どうか子供をお願いします」母親は泣きながらそう答えた。
「どうしてわが子を捨てるのか?と聞いているのです」
「詳しい事情は言えません。事情を喋ったら処罰されます…でも、私は夫と一緒に行かなきゃならないんです」
~続く~