「自分の子供を捨ててどこへ行こうと言うのですか?」
「希望の大地を探しに…でも、とても危険な旅になるので赤ん坊を連れては行けないんです」
希望の大地…パライエッタは、小さい頃にそんな夢のような話を聞いた事があった。
誰も行った事のない遠い海のかなたに、希望の大地と言うこの世の楽園があるそうだ。
大地に花が咲き、小鳥が空を飛びながら歌い、甘い果物が実る木があって、人は死ぬ事なく永遠の少女でいられる。
そんな話を聞いた子供の頃は、夢のような理想郷にあこがれてぜひ行ってみたいと思ったものだった。
けれども、大きくなって色んな現実を知ると、希望の大地などと言うものはただの作り話にすぎないと分かった。
だから、ありもしない夢みたいな幻想を追い掛けて、わが子を捨てる母親の気持ちは理解できなかった。
パライエッタは懸命に母親を説得しようとしたが、母親は彼女を振り切って逃げ出していってしまった。
残された乳飲み子を抱いて、呆然と立ち尽くしたままパライエッタは考えた。
何がそうまでさせるのか?親が幻想を信じて子を捨てなければならないほど礁国の人々は生活が苦しいのだろうか?
でも、戦勝国の礁国は豊かなはずではなかったのか?なぜ、戦争に勝った国が難民などを出すのだろうか?
考えれば考えるほど、パライエッタには訳が分からない事だらけだった。
パライエッタには普通の少女のような青春はなかった。ただシムーン・シュヴィラとして戦争に明け暮れる毎日だった。
元来シムーンは、テンプスパティウムの神に捧げるリ・マージョンを大空に描くための神器であるはずだった。
そして、その神の乗機であるシムーンは、神聖な神の巫女の資格を持つ少女たちにしか扱えなかった。
だが隣国である礁国の脅威を感じた司政院と司兵院は、宮国の伝統を破り司宮院の反対を押し切って戦闘艇にしてしまった。
礁国と言う大国に対する兵力不足を補うためとは言え、神聖な神の巫女である少女たちを戦う兵士にしたのだった。
パライエッタたちは、テンプスパティウムの巫女でありながら宮国の兵士にされた最初のシムーン・シュヴィラだった。
だが、宮国の政治家たちの神を冒涜する行為はたちまちテンプスパティウムの大きな怒りを買ってしまった。
宮国では、神聖な神の巫女を輩出する家柄は名家だった。そこの少女たちが不慣れな戦闘で次々に戦死してして名門が絶えた。
昨日まで一緒に笑いながらお喋りした仲間が、明日はいなくなる。今朝、挨拶を交わした友だちが飛び立ったまま帰ってこない。
戦火に焼かれる家や、悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。戦闘で瓦礫が散乱した街や、無造作に打ち捨てられた幼児の遺体。
多感な少女だったパライエッタは、そんな戦争の惨たらしさを嫌と言うほど見せ付けられてきた。
だから、もう人々が苦しむ姿も嘆き悲しむ姿も見みたくはなかった…これ以上の悲劇はもうたくさんだった。
いても立ってもいられなくなったパライエッタは礁国に行く決心をした。
礁国がどうなっているのか?礁国で何が起きているのか?行って確かめなければならない。
もし、不幸な出来事が起きているのなら、止めなければならない。人々を救わなけれなならない。
かって、神に仕えたシムーン・シュヴィラだった者として自分にはその義務があると思った。
~続く~