シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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嶺国のシムーンシュヴィラ(巫女)ハイデローゼは、パル(相棒)のイリス(ボーイッシュな少女)と共に、無敵ノルムンド艦隊の空母に乗って、敵の礁国を爆撃するために、仲間の少女達と一緒にシムーンの編隊を組んで出撃する。ところが、彼女達の行く手には思いがけない運命が待ち構えていた。


シムーン第二章 第1話 【散華】 その2

 言われるまでもなく上空では、すでにオーバス・ガルトルートがシムーン隊に指示を出していた。

「かたまっていちゃぁやられるわ。みんな散開して爆弾を捨てなさい!味方の艦隊の上に落とさないようにね」

 だが、すでにシムーン隊は、多数の敵の高速シミレに取り囲まれてしまっていた。

 たちまち、数機のシムーンが抵抗するいとまもなく、敵の銃弾の犠牲になって落ちて行った。

 敵に包囲されたままで艦隊上空から出られない。ここでは爆弾も捨てられない。

 追い詰められたウサギのような少女たちに、敵の高速シミレは容赦なく銃弾を浴びせた。

「キャー!」

「あぁ~!」

「もう、だめぇ~!」

「助けて~!お母さ~ん」

 少女たちの悲痛な叫び声が空にこだました。

 ただでさえ、礁国の高速シミレのスピードはシムーンを上回る。

 ましてや、重い爆弾を抱えて動きの鈍ったシムーン隊は、敵にとって格好の標的になった。

 だが、それでも少女たちは生き延びようと懸命だった。

 ハイデローゼはコール・ムントのメンバーを励ましながら、何とか突破口を見い出そうとした。

 どこをどんな風に飛び回ったのかまったく分からなかったが、イリスが、偶然雲の切れ間を見つけてくれた。

「ハイデ、見て見てっ!あそこに雲の隙間が…」

(よくやったイリス、さすがは私のパル)と、ハイデローゼは喜んだ。

「みんな、私たちについて来てっ!」ハイデローゼはそう言うと、ただちに雲の切れ間に飛び込んだ。

 抱えていた爆弾を、空の上から見える海上に捨てると、気持ちがいくらか落ち着けた。

 しかし、冷静になって気づいて見ると、コール・ムントのシムーンは、たった3機だけしかいない。

「他のみんなはどうしたの。マルギットとイルマは?クラリスとモーンは?誰か知らない?」

 先頭に立って突破口を探そうと、懸命にもがいていたハイデローゼには、後ろを振り返る余裕はなかったのだ。

「マルギットはとイルマは死んだわ。ちょっと離れた隙に敵に襲われて、抱えていた爆弾が破裂してバラバラになっちゃった」アンネリースがそう言った。

「クラリスとモーンもやられたんじゃないかしら?ヘリカル・モーターが火を噴いたまま遠ざかって行ったもの…」カメリアも言った。

「ブリュムヒェンはどこへ行ったのかしら?」

 ハイデローゼは、可愛がっていたブリュムヒェンがいないのが気掛かりだった。

 すると、ナルテッセが「ハイデのお尻にくっついているは見たけど…あの子、甘えんぼのお姉さんっ子だから…どっかはぐれちゃったのかな~?」と言う。

「すぐに探しに戻りましょ!」ハイデローゼがそう言うと、ナルテッセは「いやよ!だって怖いもの」と怯えた。

(ナルテッセの臆病風は筋金入りだ。怖い話をするとすぐに震え上がる。よくシムーン・シュヴィラなんかになれたものだ)

「ここに居てもすぐに敵に見つかるわよ。だって、周りは取り囲まれているんだから…」

 ハイデローゼは叱咤したが「ひとまず、アルヴァクに帰ろうよ」と、いつもは臆病なナルテッセを励ます、サジッタのカメリアまでが尻込みをしていた。

「だめよ!きっと空母だって敵の攻撃を受けているわ。海の上だってここと一緒よ。そんな所へ降りられる?」と、言うと「いっそ雲の中に隠れながら、陸地まで逃げるってのはどうかな?」と、アンネリースのサジッタを務めるベルダまでがそう言う。

「ベルダ、正気っ!周りはみんな礁国領よ。捕まったらどうなるか聞いてるでしょ」

 ハイデローゼの一言で、少女たちの脳裏を恐ろしい戦慄がかすめた。

 シムーン・シュヴィラが敵に捕まったらどんな事になるか…

「わかったわ、じゃ私たちだけでも行きましょ…イリスいい?」ハイデローゼは仕方なく、イリスに同意を求めた。

「そうだね。どっちみち敵に見つかるのは時間の問題だしね。軽くなったから、いざと言う時は何とか戦えそうだ」

 イリスが承諾したので、ハイデローゼは機首を返した。

「いやぁ!置いてかないで~…一人じゃ怖いからぁ~」

 ナルテッセとカメリアはしぶしぶ従った。アンネリースとベルダも、ハイデローゼたちについて来た。

 

 空の上では、古代シムーンと高速シミレの壮絶な戦いが展開されていた。

 爆弾を捨てて身軽になったシムーンが、あちらこちらでリ・マージョンを繰り出して、敵に反撃を試みている。

『竜巻のリ・マージョン』空に描かれた螺旋の航跡が、大きな光の渦巻きとなって敵に向かっていった。

『蒼弓のリ・マージョン』引き絞られた弓のような紋章からは、無数の光の矢が敵に対して放たれた。

『波濤のリ・マージョン』勇敢にも敵の編隊に正面から立ち向かったシムーンが、スピンしながら敵機の周りに航跡を描いた。

 しかし、シムーンが放つ最後の切り札リ・マージョンは、ことごとく敵にかわされてしまった。

 礁国の高速シミレは、空に描かれる航跡を見たとたんに、加速してチリジリに散ってしまう。まったく届かないのだ。

『鉄のリ・マージョン』編隊を組んだ生き残りのコールが、上空まで一気に上昇、反転下降しながら、6機で空に大きなジグザグ文様を描いて行く。

 最大の破壊力を持つ『鉄のリ・マージョン』の航跡ができ上がるかに見えた。

 とたんに、リマージョンの軌跡に割って入った敵の高速シミレが、光の航跡をかき乱してしまった。

「ああっ!鉄のリ・マージョンの航跡がかき消されてしまう」

 愕然とするシムーン・コールに、高速シミレの編隊は、霰のように銃弾を浴びせ掛けた。

「グゥエ~~!」

「ギャアァ~!」

 少女たちの断末魔の叫びが空にこだました。

 全身を銃弾で打ち抜かれた少女たちは、血まみれになってシムーンと共に落ちて行った。

 礁国の高速シミレは、特殊なターボエンジンを搭載している。

 通常のスピードもシムーンより速く、加速力においては、シムーンとは比べものにならない早さを持っている。

 元々、祭祀が目的である生のヘリカル・モートレスと、兵器にするために模造したヘリカル機関の違いはどうしようもないのだ。

 ただし、シムーンは運動性が高く、アリメンタを必要としないのに対して、高速シミレの動きは直線的で、大量のアリメンタを消費する。そのために飛行時間は短く、黒くすすけた航跡を後に残す。

 

 すでに辺りの空には、敵に抵抗しているシムーンは残り少なくなっていた。すると、敵は新たな戦法を使い出した。

 逃げ惑うシムーンを大勢で取り囲み、じわじわといたぶり始めたのだ。

 まるでタチの悪い男たちが、大勢でか弱い少女をなぶるようにして…そうして、機関銃で威嚇されて逃げ道をふさがれ、追い詰められたシムーンに、鉤の付いた牽引索が次々に打ち込まれた。

 高速シミレのハッチから身を乗り出した敵兵たちが、獲物を舐るように眺めながら口々に言った。

「おい、あれが男をたぶらかす嶺国の魔女か?」

「ああ、間違いない。嶺国の悪魔の娘だ」

「なかなかの別嬪だけどなぁ…」

「気をつけろ!可愛い顔はしてるが、どんな魔術を使うか分からんぞ」

 それは魔女狩りだった。あちらこちらで敵に捕らえられたシムーンが、牽引索で引かれて行った。

 礁国に連行された少女たちは、魔女裁判に掛けられ、火あぶりにされる運命が待っている。

 考えてみれば、北部の山間部を除いては、国民の大多数が無宗教の礁国で、魔女裁判とはおかしな話ではある。

 だが、それが現在の礁国の実情を如実に物語っていた。

 科学の発達に伴う工業化により、大気や水・土壌の汚染が深刻化し、加えて貧富の差が拡大している礁国では、国民の不満が鬱積している状態にあった。

 礁国が執拗に宮国を狙ったのは、宮国に秘匿されているシムーン(無公害で省エネルギーのヘリカル・モートレス)の技術と、汚染されていない清浄な領土の獲得が目的だった。

 しかし、長年の戦いの末、手に入れたシムーンは、信仰を持つシュヴィラにしか動かせない事が判明し、もくろみは頓挫してしまった。

 そこで、卑劣にも礁国は『巫女は、魔術を使ってシムーンを飛ばす魔女に違いない』と国民に喧伝した。

 自分たちの失策を棚に上げて、嶺国のシムーンシュヴィラを…言わば国民の不満をそらすスケープゴートの対象にしたのだった。

 

 ハイデローゼとイリスは敵に挑まれない限り、できるだけ戦闘を避けてあちこちを飛び回った。

 今は戦っている場合ではない。仲間を探す事が何よりも大切なのだ。

 けれども、いくら血まなこになって探しても、ブリュムヒェンが乗っているシムーンを見つける事はできなかった。

(ブリュムヒェンがどこにも居ない。もう撃ち落されてしまったのだろうか?それとも、まさか敵に…)

 おぞましい想像がハイデローゼ頭をよぎった。礁国に捕らえられたブリュムヒェンの哀れな姿が…

(ああ、そんな、そんな…ブリュム、敵に捕まるくらいなら、いっそ死んでいて欲しい)

 ハイデローゼには、そんな事を考える自分がとっても情けなかった。

 そこへ、見覚えのある一台のシムーンが、ふらふらしながら、ハイデローゼとイリスの方に近寄って来た。

 風防ガラスは割れ、機体には無数の弾痕があり、ヘリカル・モーターからは煙が出ていて、片方の翼には爆弾が引っ掛かったままになっている。

(よくこんな状態で飛んでいられるものだ)ハイデローゼとイリスは、そのシムーンの傍らに近寄った。

「ああ、ハイデローゼ、イリスも無事で…生きていたのね。良かった」

 そのシムーンのサジッタ席には、大怪我を負ったガルトルートが座っていた。

 口から血を流し、負傷した頭に着衣を裂いて鉢巻をして、目に血が滴るのを防いでいたが、流れ出す血が頬まで伝わっている。 前のアウリーガ席にいるオルティラは、すでに血に染まって、仰向けのままで死んでいた。

 それでもなお、サジッタ席からシムーンを操る嶺国12神将の一人、ガルトルートの気力はすごいものだった。

「隊長、ひどいお怪我を…」ハイデローゼは、ガルトルートを気遣った。

「無理をしないで下さい。僕たちが隊長のシムーンを牽引します。任せて…」イリスも心配そうに言った。

 ガルトルートは、気を使わなくていい、と言うように首を振り、それから辛そうに言った。

「たくさんの子たちを死なせてしまったわ。パルのオルティラも死んでしまった」

「気を落とさないで、ガルトルート。まだまだ生き残っている仲間もいるはずですから」ハイデローゼは言った。

「僕たちもブリュムヒェンを探しているところです。でも、どこにもいなくって…」

 イリスがそう言ったとたん、ガルトルートが苦しそうに血を吐いた。

「ガルトルート、しっかりして!私が必ず空母まで連れて帰りますから…」

「いいえハイデ。空母なんてもうないわ」

 ガルトルートにそう言われて、海に目をやったハイデローゼとイリスは、一瞬我が目を疑った。

 

~続く~

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