シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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嶺国のシムーンシュヴィラ(巫女)ハイデローゼは、パル(相棒)のイリス(ボーイッシュな少女)と共に、無敵ノルムンド艦隊の空母に乗って、敵の礁国を爆撃するために、仲間の少女達と一緒にシムーンの編隊を組んで出撃する。ところが、彼女達の行く手には思いがけない運命が待ち構えていた。


シムーン第二章 第1話 【散華】 その3

 敵の爆弾で火災を起こした空母アルスヴィズが、焼けただれた残骸となって海の上を漂っていた。

 ハイデローゼたちの乗っていた空母アルヴァクも船体が折れ曲がり、すでに沈没しかかっている。

 横倒しになっている戦艦もあり、煙を噴き上げながら燃えている巡洋艦や駆逐艦もたくさんあった。

 そんな中で、傷だらけの装甲戦艦グレンデルだけが、途切れ途切れに砲火を打ち上げている。

 主を失ったこの『海の怪物』は、のた打ち回りながらも、最後の抵抗を見せていた。

(何と言う事だろう。あれだけ海を埋めていたノルムンド艦隊が全滅してしまうなんて…)

 ハイデローゼとイリスは愕然とした。艦隊は消滅したのだ。自分たちの帰る場所はなくなった。

 ブリュムヒェンもいない。今の状況ではガルトルートも助けられない。自分たちの行き場さえないのだ。

「ひとまずここから脱出しましょう。ガルトルート」

 無駄だと分かっていても、ハイデローゼにはこのままあきらめる事なんてできなかった。

 ガルトルートは、そんなハイデローゼを見ながら首を振った。

「私はもうだめよ。でも、あなたは生きてハイデ…生きて残った子たちを連れて帰って」

「そんな気の弱い事を言わないで!ガルティ」

「ここから北西に敵地を横断すれば、嶺国の前線基地にたどり着けるわ。飛行時間はぎりぎりだけど、あなたならきっとやれる」

「そんな…ガルティ姉さまを置いてなんて、私、行けません!」

「いい事、ハイデ。あなたは私の後輩の中で一番いい子だった。だから私の最後のお願いを聞いてちょうだい」

「でも、そんな…」

「敵に囚われたシムーン・シュヴィラの運命を考えて…あなただってあの子達をそんな目に遭わせたくはないでしょ」

 ガルトルートにそう言われると、ハイデローゼは何も言えなくなった。

「私が敵の注意を引き付けるから、その隙に…お願いね。さようなら、私の可愛いハイデ」

 ガルトルートはそう言い残すと、傷ついたシムーンをふらふらと操りながら、敵の編隊の方に向かって行った。

 たちまち、手負いの獲物を見つけた猟犬のように、敵の高速シミレがガルトルートを取り囲んだ。

「私はお前たちに囚われて、火あぶりになんかならないっ!」

 そう言うとガルトルートは、抱えていた爆弾ごと、油断している敵に体当たりした。

 大きな爆発音と共に辺りは爆煙に包まれ、彼女のシムーンは多数の敵を巻き込んで飛び散った。

「あぁっ!ガルトルート。ガルティ姉さまぁ~~!」

 敵はさすがに狼狽した。完全に怯んで立ちすくんでしまった。

「ずるいよ。そんな、そんな…一人で逝っちゃうなんて…」

 

 だが、ハイデローゼには泣いている暇も、悲しんでいる暇もなかった。

 彼女は、すぐに無線で生き残りのシムーン隊に呼びかけた。

 今ではどのシムーンにも、第一次シムーン戦争で同盟を結んだ礁国から技術供与された無線器が装備されていた。

 何人かから応答はあったが、ハイデローゼたちの元に集まって来たのはたったの4機だけだった。

 いたる所に弾痕のある機体、ひどく破損している機体、パルの片方が怪我を負っているシムーンもあった。

 その中には、途中ではぐれたナルテッセとカメリアがいた。

(きっと敵を避けて二人で逃げ回っていたのだろう。彼女たちらしい)でも、その時は心から彼女たちの無事を喜べた。

 ひとまず、みんなで手分けして、応答のあったシムーンを探す事にした。

 

 ハイデローゼたちは、敵に囲まれて魔女狩りに遭っているシムーンを見つけた。

 すぐさま『鮫のリマージョン』を放って、敵を追い散らした。当たりはしなかったが、目くらましにはなった。

「大丈夫?今すぐ助けてあげるから待ってて」

 ハイデローゼが傷ついたシムーンに呼び掛けると、弱々しい返事が返って来た。

「ありがとう。でも私たち二人とも怪我をして、もうシムーンを動かす事ができなくって…」

「心配しなくて大丈夫よ。私たちで動かすから…イリス、牽引索を用意して…」ハイデローゼはイリスに指示を出した。

「うん、姿勢を同期させたらすぐに打ち出すよ」イリスは牽引索を射出する用意をした。

 だが、そうしている間に、また敵の高速シミレが寄って来て、彼女たちに一斉に銃撃を浴びせ掛けた。

 ガン!ガン!と激しい衝撃音がして、ハイデローゼとイリスのシムーンは被弾した。

「だめだハイデ!これじゃ僕たちもやられてしまう」イリスが叫んだ。

「お願い、お姉さんたちは早く逃げて…私たちはもういいから…」動けないシムーンからか細い声がした。

「くそっ!」ハイデローゼはエンジンを目一杯に噴かせて、窮地を脱出した…いや、脱出するしか仕方がなかった。

(また助けてやれなかった。仲間たちを救えなかった…なんて私は無力なんだ。悲しい)

 

 ハイデローゼたちが生き残ったシムーンを探している間に、空中戦はどうやら一段落していた。

 敵の高速シミレも、飛行時間に限界が来たのか?あまりいない、辺りの空はまばらになって来ていた。

 互いに連絡を取り合いながら、生き残りのシムーンはそれぞれ戦場を離れて、安全な場所に集合した。

 みんなひどくやられている。無傷のシムーンは一台もない。損傷した機体が戦闘の激しさを物語っていた。

 動けない2台のシムーンを、ナルテッセたちと別の部隊から来たシムーンに牽引してもらう事にした。

 どうにか自力で飛べそうなシムーンを横に2機、後ろにも2機付けて、ハイデローゼたちが先頭に立った。

 これから遠く北西の彼方、嶺国の前線基地を目指し、敵の真っ只中を横切って飛ばなければならない。

 戦いに敗れて多くの仲間を失い、傷ついて生き残った少女たちを連れて帰るのが、最期にガルトルートから託された任務なのだ。

「各自、全方位監視。敵を発見したら、すぐ私に報告してね」と、ハイデローゼが言うと「ナルテッセ、カメリア、みんなもはぐれないように、しっかり僕たちに付いて来てね」と、イリスも言った。

 イリスのナビゲーションに従って、ハイデローゼは正確に北西に向かって進路を取った。

 傷ついたみんなを連れて、無事に敵の領地を横切れるか?すべてはハイデローゼたちに賭かっていた。

 

 この戦いで、144機の古代シムーンが故郷を後して、生き残ったのはたったの9機…実に270人の少女たちの尊い命が失われた。

 戦場に散った少女たちは、どんな思いを抱きながら死んだのだろうか。

 

~続く~

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