シムーン第二章 ~乙女達の祈り~   作:佐渡 譲

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シムーン第二章 第2話 【帰還】 その3

 シムラクルム大聖堂にある嶺国総督府は、ここ数日あわただしかった。どうやら大幅な人事の刷新が行われたらしい。

 情報筋から得た話では、礁国本土への攻撃に出撃した嶺国の艦隊が全滅し、たくさんのシムーン・シュヴィラが死んだとか。

 嶺国の宮守・エルフリンデに会えたのは、だいぶん経ってからの事だった。

 

「私は忙しくしてるから、用件は手短にしてちょうだい。グラギエフ」会うなり、エルフリンデはそう釘を刺してきた。

「負け戦だったそうですね。シムーン・シュヴィラもたくさん死んだとか」私は話を切り出した。

「どこでそんな話を…」

「隠したってすぐに分かりますよ。あれだけあちらこちらで大騒ぎしていちゃぁね」

「そんな事を言いに来たの。グラギエフ」どうやら、エルフリンデは機嫌を損ねたらしい。

「いえ、当面の苦境を打開する策をお耳に入れたくって」

「そんなのあるの?上位の巫女が4人も死んだのよ。一線級のシムーン・シュヴィラ…12神将の内の4人までもがっ!」

「失礼を承知で申し上げるなら、あなたの国のシムーン・シュヴィラは一線級とは言えません。まだまだ未熟です」

「何ですってっ!」急にエルフリンデの顔色が険しくなった。

「聞く所によると、礁国の高速シミレに負けたとか。いかに相手が速かろうと、シムーンがシミレに負けるはずはない。宮国のシムーン・シュヴィラなら…ですが」

「一体、何が言いたいのグラギエフ!嶺国のシュヴィラを侮辱する事は私が許しませんよ!」とうとうエルフリンデは怒り出した。

「シムーンだけが使えるリ・マージョンが完璧にできていない。だから敵につけ込まれる。でも、あなた方のシュヴィラに完璧なリ・マージョンをお教えできる人物を私は知っています」

「そんな人がどこにいるって言うの…まさか今更」

「そのまさかです。あなたが先代からお聞きになっている五年前の一件を不問にしていただけるなら…」

「二人のシムーン・シュヴィラが、みんなの見ている前から消えたとか言う?」

「宮国の最もすぐれたシムーン・シュヴィラ。ネヴィリルとアーエル」

「ふざけないでっ!二人はまだ指名手配中でしょ…まさか、あなた匿っているんじゃぁないでしょうね?」

 その時、ふいに蒼い目の金髪紳士が部屋の中に入って来た。

「まぁまぁ、そう怒鳴らんでもいいじゃないかエルフリンデ…なかなか面白い話だ。聞こう。グラギエフと言ったか」

 端正な顔に含み笑いをたたえ、鷹のような鋭い目をした紳士は、エルフリンデを諭すと、そう私に言った。 

「これはこれは、アルハイト様。いつこちらへ?」エルフリンデは、即座に腰をかがめて、その紳士にお辞儀をした。

「今しがた着いた。王立議会の副総裁に就任してな…早速総裁に命じられて、わしがここの総督になった」

「それはそれは…おめでとうございます」

「めでたいか…祝うのは礁国に勝ってからの事だ。本国で聞いたが、我が方の巫女は負け続けてばかりおるそうだな」

「はい、誠に申し訳ございません」エルフリンデは、すっかりアルハイトに恐縮していた。

「な~に、お前一人の責任でもなかろう。先代の宮守が、少し巫女たちを甘やかし過ぎとったからな」

「はっ、宮国国境に近い南部のご出身でしたから、冷徹にはなれなかったのかと…」

「今は一人でも優秀な人材が欲しい。お尋ね者であろうとなかろうと戦争に勝つ事が第一だ。そうだろう、エルフリンデ」

「はい、アルハイト様のおっしゃる通りでございます」

「そこでだ。グラギエフとやら…その二人は、わが国の頼りないシムーン・シュヴィラを一線級に鍛えてくれるのかね?」

 新総督になったアルハイトは、私の方に向き直ってそう尋ねて来た。

「はい、お許しいただければ、すぐにでも手配いたします」私はアルハイトに答えた。

「よろしい。逃亡の件は不問にする。君の提案は承知した」

「ありがとうございます。総督閣下」私はアルハイトに礼を言った。

「戦時中でもある。何事も急がねばならん。その二人に至急連絡を取るように」

「承知いたしました総督閣下。下級官吏である私の提案をお受けいただいた事を深く感謝いたします」

 

 アルハイト総督は満足そうにしていた。私は思わぬ助け舟に恵まれた事を神に感謝して宮守の部屋を出た。

 それから総督府を出ると、止めてあったヘリカル車に乗り、ネヴィリルとアーエルが待っている遺跡へと急いだ。

 後ろを振り返ってみたが、大丈夫…後をつけてくる者は誰もいない。

 だがその頃、遺跡では大変な事が起こりつつあった。

 

~続く~

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