かの京都アニメーションから、中二病でも恋がしたい!の短編です。あらすじは、またも勇太の家
に泊まることになった六花ちゃんと勇太のお話。ただただ二人で過ごす、そんなお話です。

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初上陸です。しがない小説書きですが、よろしくです。
ちなみにこれはpixivにも掲載しています。書いた時期が最終回前なので、細かい食い違いは気にしないでくださいな


中二病でも恋がしたい! 再来の…第二回お泊り(セカンド タイム ステイ)

 さて、どうしてこうなった。と、富樫勇太はこの状況を作り上げた原因を小一時間、いやもう二時間ほど誰でもいいから問い質したかった。

 

実際そんな人物はいないのだが、そうでもしないとこの緊張感を誤魔化せそうにないのだから、やり場のないこの感情を放出するための排水口が見つからずにもうかれこれ数時間経過していた。

 

 だが、原因とも言える存在、小鳥遊六花が今現在勇太の隣に居るのだからそれがまた勇太の感情を複雑にしていた。

 しかし、嫌では無い。今現在の時刻は午後六時五十分。リビングでテレビを見て、その隣に今現在勇太の恋人である六花が居る。これは思春期真っ盛りの健全な男子高校生たるもの、喜ぶ以外に何をすればいい、と言うのが言い分である。だが、思春期ゆえに緊張感も付き物であって、だから膝枕だの、肩を寄せ合わせるだの手を握るだなどの好意までには至らなかった。

 

 それは六花に対しても同じで、むしろ一部では勇太より恋愛に疎い面があるため、一歩間違えれば六花の方が緊張しているかもしれなかった。

 

 事の発端は、いつもの様に二人での帰り道、六花が勇太を呼びとめて少し困った顔をしてからだった。

 

 

 

 

 

「勇太。相談がある」

 

 一歩先を歩いていた勇太を呼び止める形で六花がそう言った。今度は何を言い出すのだろうかと思いながら、勇太は『なんだ』と言いながら振り返る。男女としての交際を始めても、相変わらず眼帯と包帯を身に着けてる小鳥遊六花の瞳がじっと勇太を見ていた。

 

「今朝、私はプリーステスからの強襲を受け、交戦状態に陥った」

 

 ああ、またか。勇太が真っ先に思ったのはこれである。六花が十花と喧嘩して勇太の部屋に『緊急退避!』として押しかけて来るのはもはやいつも通りの事になってしまったのだから、今さら言う必要もあるか、と思ったが、どうやら少し事情が違うようなのでもう少し聞く事にした。

 

「それに抵抗して何とか退け、脱出に成功した。しかし、私の脱出の際プリーステスによってパスコードがハッキングを受け、私への干渉を受け付けなくなってしまい――」

 

 そこまで聞いて勇太は言いたい事はだいたい分かったので、前振りはいいからさっさと本題を言ってもらうべく、毎度おなじみの手刀を作って六花の頭に落下させた。

 

「あうっ!」

「いいから分かりやすく言え」

 

 頭を押さえ、若干の涙目になる六花は勇太を見上げて抗議と何か言いたげな顔を作る。これでも手加減してるし、今に始まった事でもないし、ついでに言えばその上目遣いが愛いと思っていたから、無言の抗議に関してはスルーした。

 

「鍵を忘れたので泊まらせて下さい……」

「ん? 十花さん夜になれば帰るだろ?」

「おねえ……プリーステスは今日、管理局の上層部へと赴いて今晩の帰還は不可能と昨日聞いている」

「ああ、なるほど……」

 

 そう言えば十花さんはそろそろイタリアへ行くために準備があった事を思い出し、次にあれだけの料理の技量ならさぞ評判もあるだろうと簡単に考えられた。あの技量は一体どうやったら身に着くのだろうか。高校時代は新体操部だと言っていたが、これも一種の才能と言う奴なのだろうか。

 

 そこまで考え、六花の事は一瞬どうしようかと考えたが、普通に考えれば家には母や樟葉や夢葉も居るのだから、あとは母の許可があれば問題ないだろうと結論付けた。

何より、一晩外で放置するほど勇太は鬼畜では無いし、というか六花が頼まなくても事情を知った勇太自身でも、おそらくは六花に泊まってもらうと言う選択が出たであろうから結末は同じだろう。

 

「よし、分かった。ちょっと家に連絡するから待ってろ」

「了解、待機する」

 

 六花が袋で大人しくしていたきめらを抱っこするのを横目に、勇太は携帯電話を取り出して家へと連絡した。

 

 

 

 

 

 そしてその結果がこれである。夕食の買い物もして家に帰ってみれば、電話では了解と言っていた母はおろか、妹たち含めてなんと誰も居ない。ドッキリかと思って家中探してみても居ない。あったのは一枚のメモ用紙。そこには短く、『急に家族でジャカルタに行く事になったから留守番よろしくね☆ 母を始めとする家族一同』と書かれていた。

 

「んなわけあるかぁ!!」

 

 思わず勇太は絶叫した。その怒号はリビング中に響き渡り、壁と壁を反射して同じくリビングに入って鞄を置こうとした六花と、床に着地したきめらがその跳ね返った怒号によって同時にビクッ! と体を跳ね上げた。

 

「ゆ、勇太?」

 

 おそるおそる、と言った感じで六花がどうしたのかと聞く。少しおびえている六花の声と、きめらの「にゃぁ~」と言う鳴き声ではっと我に返った。

 

「あ、ああ悪い。母さん達急用で今晩は居ないって……」

「ま、まさか管理局が勇太の家族にまで手を出したと言うのか!? くっ、卑怯な!」

「無いから安心しろ」

「現れろ! 勇太の家族を返せ!」

「にゃぁ~」

「よしきめら、お前の真の能力を発揮する時だ! 今こそ、その肉体に宿りし能力超獣嗅覚を使って、勇太の家族を救い出すのだ!」

 

 なにやら六花の中で決死の捜索活動が始まり、きめらもそれを分かっているかのように六花の指差す方向へと走り回る。勇太はそれを見てため息をして、買い物袋を整理するために冷蔵庫の前に買い物袋を置いて中身を取り出す。

 

「まったく、いつまでやってんだかな」

 

 ドタドタと、リビングは猫じゃらしを構えた六花がきめらとの死闘を繰り広げる。家族の心配をしてくれてるのはありがたいが、それではもはや猫と戯れているだけじゃないかと頭の片隅で思う。

が、家族と言う言葉で夏休み、六花が自分の実家の跡地に向かい、そこで現実という壁にぶち当たった時の横顔を思い出し、続けて文化祭で六花に弁当を届けてきた彼女の母親を思い出し、一瞬手が止まる。

 

「……家族、か」

 

 

 

 

 

 そして冒頭に戻る。遊びに飽きたきめらはその場で丸くなってうとうとし始めており、六花と勇太は流れているテレビをなんとなく眺めているだけになっていた。だが、冷静に考えればこの状況、前にもあった。言うまでも無く、夏休みに六花が実家から飛び出した時の二人きりの夜である。

 

その事を思い出し、勇太と六花は少なからず気恥かしさを感じてしまう。二人きりなのは非常に嬉しいのだが、前の二人が恋に落ちる全てのトリガーとなったあのお泊まりを思い出せば、どうしてもほんの少し頬が熱くなった。

 

(でも、このままテレビを見続けるっていうのもなんかあれだよな……一応付き合ってるわけなんだし、何かこう六花を楽しませることをでも言った方がいいのか?)

 

 ちらり、と六花の顔を横目で見てみる。が、勇太の左ポジションに居るため、六花の右目は眼帯で覆われて表情が読み取れなかった。ここは一つ、 何か世間話でもしようかと六花に話しかけた。

 

「六花」

「勇太」

 

 勇太が六花の方を向き、そして六花もまた勇太の方を向いてしかも同時に名前を呼んで、あっ、と勇太と六花は同時にこの空気が気不味くなるのを感じた。

 

「あ、いや、えっとさ、その……やっぱり六花から言えよ」

「いや、ここは邪王心眼たるもの、ダークフレイムマスターに発言の権利を譲る」

「いや、ここはその、レディファーストって奴だろ、お前から言えよ」

「……な、ならば応じよう……その、だな。私の夜間活動用のエネルギーが少々不足気味で――――」

 

―ぐぅぅ~~……―

 

『…………』 

 

 六花の言葉を遮り、聞こえたのは空洞の中で空気が震える音だった。その正体が何なのか、それが誰の発したものなのかは今のところ体に何ら変化の無い勇太になら一発で分かる事で、それ以前に六花が俯いて見る見る首まで真っ赤に染まるのを見て察しがついた。

 

「……もしかして、お腹空いてたのか?」

 

 そう聞いてみると、六花はさらに縮こまってまるで無視が息をするかのような小さな声で『うん』と頷いた。

 

「……ぷっ、ははははは! なんだお前お腹空いてたのか」

 

 もしかしたら本人よりかも分かりやすいかもしれない六花の空腹の音は、思わぬ形で勇太の笑い袋を突いてしまった。六花の空腹の音でも十分笑ってしまったが、さっきまでそこそこな緊張をしていたと言うのに、今ので全部吹き飛んでしまい、なんだかばかばかしくなってしまっている事にも笑えたのだからもう本当に笑うしかない。

 

 しかし、そんなことを知らない六花にしてみれば、自分の腹の虫の鳴き声が聞かれてしまい、ただでさえ恥ずかしいのに――――勇太なら尚更だ――――ここまで笑われたらたまったものでは無かった。

 

「勇太ぁ!」

 

と、六花は抗議の声を上げ、真っ赤になった頬を膨らませながらぽかぽかと勇太の腹を拳で殴る。もちろん本気で殴って無いから大して痛くないが、六花にしてみれば必死の抵抗だった。

 

「ご、ごめんごめん、あはは、いやなんか色々おかしくててさ」

「くっ、ダークフレイムマスター、よくもこの私を愚弄したなっ!」

「はいはい、悪かったって」

「い、今さら謝った所で、私の受けた屈辱が収まるとでも……」

「晩ご飯食べるか?」

「うっ…………」

 

――ぐぅぅ……――

 

 と、ご丁寧に二度目の胃袋からの催促。正直六花は早く食べたかった。お腹が空いていると言うのも素直にあったが、実のところ勇太の料理を食べたいと思っていたりもしていたのだから、これ以上喚いてもご飯が遠くなる以外何も無いので、長い沈黙の後、

 

「…………うん」

 

 と、無条件降伏した。

 

 

 

 

 

 何を作ろうかと冷蔵庫の中身を確認し、次いで買い物袋の中身を見る。野菜は大量にあるし――六花の嫌いなトマトも例外無く――肉類だって今日の特売で牛肉を安く手に入れたのだからちょっと頑張れば男女二人では少し贅沢な料理が出来る。

と言っても、家族の分だってあるのだから勇太は効率的に野菜と肉を消費する、肉じゃがを大量に作る事に決めた。幸い、白米は今朝の内に焚いてあったからいつでも食べられる。あとはおかずを作ってしまえばすぐにでも食べられるだろう。

 

「勇太、私もサポートする!」

「お、やけに気合い入ってるな。それじゃあジャガイモの皮むきでもしてくれ」

「了解」

 

 むふー、と息を吐いて、六花は自らがやる気に満ちている事を大宣伝する。これはありがたい。六花がこうもやる気になってくれるなら手短に済むだろうと勇太は考える。

 

 六花は皿に入れられていたジャガイモを手に取ると、勇太から皮むき機を手渡されて、その時に少しだけ指が触れて六花は胸が高鳴るのを感じて少し呆けてしまうが。すぐに自分の任務を思い出してそちらに専念する事にした。

 

(にしても、これって外から見たらどう見ても夫婦だよな……実際母さんたちもこんな感じで過ごしてきたんだろうか)

 

 新婚時代の想像つかぬ両親を想像し、続いて黒いウェディングドレス姿の六花とエプロン姿で帰宅を出迎え、食事をしたくする立夏の姿を想像して勇太はいかんいかんと頭を振った。

自分たちにはまだ早い早い。今からそんなことを考えるなんて、自分もませているのだろうかと考えるが、それでも少しだけ想像してみた六花は少し大人びていて、結局ウェディングドレスの六花も見てみたいという願望の方が強かったから少しそちらに自分の想像力を働かせることにした。もちろん、料理する手は休めずにだ。

 

 ただ、その妄想の反動は手では無く顔に出てしまい、六花は勇太の顔がやたらとにやにやしているのを見てしまった。

 

「勇太、どうかした?」

 

 その声ではっとし、勇太は体が跳ねあがった。

 

「へぇ!? あ、いやっ! なんでもないなんでもない、あははは……」

「?」

 

 六花は不思議そうな顔をしていたが、勇太は見られたくない自分を見られた気がして(実際見られたが)強制的に妄想をシャットダウンさせて食事の下準備に専念した。

 

 

 

 

 

「ご馳走さまー」

 

 勇太は箸を置いて片手で手を合わせ、六花も小さくご馳走さまと呟いて合掌。勇太が二人分の食器を手に、流し台へと向かい、六花は大量に作られて残った肉じゃがを凝視する。それはもう美味だった。十花よりも美味しい、とまでは行かないが、勇太のは家庭的な味がした。言いにくいが、今の六花にはこういう表現しかできなかった。それがいわゆる、『お袋の味』という表現を表せるようになるのはもう少し先の話になる。

 

「さて、これからどうする?」

 

 食器の片付けをあらかた終えた勇太が六花へと向き直り、六花もどうしようかと勇太の顔を見つめ、頭を傾げて一つ思いつく。

 

「じゃあ勇太、ここへ」

「へ? ここって……」

 

 勇太は六花の指差す場所を見て頭にはてなマークが浮いてるんじゃないかと思った。何より、六花の指先は床を示しており、取りあえず座れと言う事なのだろうかと座ってみる。

 

「正座で」

「正座?」

 

 勇太は、ますます分からないと言った顔になる。が、六花にはそれなりの思惑があったので早く早くと勇太を催促する。

 勇太も言われるがまま、正座の状態になり、『これでいいか?』と六花に問う。

 それを見て満足した六花は、勇太の隣に座ると、そのまま自分の頭を勇太の太ももの上に乗せた。

 

「り、六花?」

「なに?」

 

 六花は目と首をほんの少し動かして勇太の顔を見る。その仕草と六花の素朴そうな表情、そしてその上目遣い上手い事合わさって、勇太は少しどきりとする。こいつにはまだ見た事の無い表情があったのかと、勇太はまだまだ六花の事を知らないなと認識した。

 

 いや、いい。それはいい。六花が可愛いのは今に始まった事では無いので、取りあえずなぜ逆膝枕なのかを聞きたかった。

 

「えーっとだな、なんで膝枕?」

「やってみたかった」

「いや、こういうのって女の子の膝の上に男子が頭を乗せるものじゃないのか?」

「……魔力の補充。ダークフレイムマスターとは体を密着させることで互いの魔力の共有が可能。その中でもこの体制は比較的に魔力補給が迅速」

「都合のいい体してるな、俺!」

 

 と、勇太はそこまで言って一息吐くと、それ以上は何も言わなかったから六花は再び勇太の腹部に顔を埋めた。

 人肌を感じた経験が少なく、勇太と出会うまではほとんど一人きりだった六花にとっては、これほど心地よく、温かい物は無かった。だから、思い切り力を抜いて甘える事が出来た。

 

そんな猫の様に甘える六花に、今の勇太には突き放すという選択肢はもちろん無い。それにもう付き合ってそれなりなのだから、こういう時どうしたらいいかくらいは知っているつもりだ。そっと六花の頭に手を置き、髪の毛に指をからませる。

 

「んっ……」

 

 絡まされた指に、六花の体は思わず反応してしまう。だが、悪い気分ではないから肩の力抜いて勇太に身を任せる事にした。多分、今なら何をされてもいいと、六花はついそんなことを思ってしまう。正直そんな勇気実際出るかは分からなかったが、今なら勢いで行ける気がした。

 

 六花のアホ毛は、さながら犬の様にぴょこぴょこと跳ね回っていた。

 

 

 

 

 ふと目が覚めれば、いつの間にか勇太は自分が寝ていた事に気がついた。確か、六花が逆膝枕をせがんで、それでしばらくそのままの体勢で六花の頭を撫で続けた所までは覚えている。それから先少し体制が辛くなったから六花に頭を乗せる形でうつむいてそれから……。

 

「ん?」

 

 と、今度は自分が横になっている事に気がつく。それと同時に後頭部に柔らかい物。なんだと思って、勇太は目線を上げると……。

 

「目覚めたか、ダークフレイムマスター」

「……あれ?」

 

 六花が勇太の目を覗きこむ形で、じっと見つめていた。どうやらいつの間にか立場が逆転していたようで、まさに理想的な膝枕な状態になっていた。一色が見たらさぞ悶え羨ましがるだろう。

 

(って言うか、六花の太もも柔らかいな……)

 

 勇太の後頭部に感じる六花の太ももの感触は、それはもう言葉では言い表せられない様な感触だった。これは枕なのか? いや、膝枕だがこれは枕では無い。一体この世の何を使えばこの柔らかさが再現できるのかと、勇太は候補を上げる。ゼリー、プリン、ゼラチン、綿、シリコン……など、色々上げてみるが、まったく思い当たる節が無かった。いや、むしろそんな物で表そうとすればむしろ六花に失礼な程だった。

 

 見た目は童顔で、幼児体型で細身の六花だが、この柔らかさは姉の十花でさえ渡り合えるだろうと、勇太は確信する。いや実際十花の膝枕の感触なんて知る由もないが、それでもそう確信出来た。

 

(やばい……めちゃくちゃ落ち着く)

 

 思わずまた目蓋を降ろし、そのまま眠りたくなってしまう。が、六花はそれを阻止。勇太の額に指を近づけ、そしてそのままぺちん、と弾いた。

 

「いたっ」

「勇太、二度寝はダメ。私の脚部への負荷がそろそろ限界」

「……もう少しダメか?」

「ダメ」

 

 はぁ、短い夢だったと勇太は起き上がり、時計を見てみる。思ったよりも長く寝ていたらしく、時計はもう十時を指そうとしていた。

 

「あー、もうこんな時間か……」

 

 頭を掻いて、どうしようかと考える。もうそろそろシャワーを浴びてもいい時間だしなとも思う。いや実際そろそろ浴びた方がいいだろう。取りあえず六花を先に行かせようと思った。

 

「六花、先にシャワー浴びてこいよ。俺その間に皿洗いしてるから」

「え、シャワー……?」

「ああ、そうだけど。どうした?」

「あ……何でも無い」

 

 六花は少し動揺したかのような素振りを見せたが、別に気になる程でも無いので勇太は皿洗いに入ろうと思ったが、そう言えば今素の状態だったなと思い出す。首を曲げ、勇太は風呂場へと向かう六花を見届ける。心なしか六花の頬が赤い気がしたが、すぐに見えなくなったから流し台の中に水に沈んでいる食器に手をかけて、食器洗いに没頭し始めた。

 

 

 

 

 

 六花は脱衣所に入って、鼻で深呼吸した。実を言う所、勇太のシャワーを浴びて来い、という言葉に少しどきりとしてしまっていた。いや、本人にその気は無いのは明らかだが、それでも思春期真っ盛りで好きな異性がいる六花には少し期待感と言うか緊張感と言う物が入り混じって、取りあえず心臓の鼓動が速くなっている事だけは確かだから落ち着かせようともう一度深呼吸した。

 

 それでも、胸の鼓動は収まりそうになかった。そっと自分の胸に手を当ててみる。残念ながら丹生谷やくみん、十花程の膨らみは無い。それでも、少しはあるだけましだろうかと思う。だが、勇太のベッドの下にあった如何わしい本を思い出す。あの本には、スタイル抜群で胸の凹凸が激しい女優たちばかり載っていた。それを思い出して、少ししゅんとするが、ぶんぶんと頭を振ってその記憶を吹き飛ばす。負けてない。そう、自分は負けてないのだ。

 

 そう思い直し、浴槽の蛇口をひねってシャワーから水を出す。冬場はこの水からお湯に変わるまでの間が辛い。速くお湯に変われと思いながら、六花は制服のブレザーのボタンを外し、それからスカート、ブラウスの順番で服を脱ぐ。ふと、鏡に映った自分を見てみる。相変わらずの幼児体型。だが、それでも出る所は少なからず出ている。腰のラインも女らしいはずだ。うん、私は大丈夫。

 

 そう自分に言い聞かせながら、六花はブラジャーのホックを外す。ちょうどその頃に、シャワーの水がお湯に変わった。

 

 

 

 

 

「うし、こんなもんか」

 

 手早く食器洗いを終わらせた勇太は、タオルで手を吹いて時計に目をやる。六花がシャワーに入ってどのくらいだろうか。あまり意識してなかったから忘れたが、感覚的にはもう出てもいい頃合いだと思う。そのタイミングで、シャワーの音が止まった。

 

「勇太ぁ~……」

 

 出たか。と思ったが、何やら助けて欲しそうな声。一学期のテストで部活解散の宣告をされた時の声色とよく似ていた。さて、何が起きたのだろうかと思いながら勇太は脱衣所の前まで歩く。

 

「どうした?」

「着替え、忘れた……」

「あー……そうだったな」

 

 よく考えれば当たり前だ。こんな状況になるなんて思っていなかったのだから、都合よく着替えなんて持ち歩いているわけがない。下着はまぁ我慢してもらうとして、服はどうしようもない。また貸すかと勇太は思う。が、

 

「勇太、私の輸送コンテナの中に予備の服があるからそれを」

「輸送コンテナって、通学鞄か?」

「そう。開けたらわかる」

「そっか。じゃあちょっと待ってろ」

 

 少し急ぎ足でリビングに置いてある六花の通学鞄のもとへ向かい、チャックを開けて中身を確認する。と、分かりやすく丸められた白い袋を発見した。これだろう。一応確認と袋の中を見て見れば、紺色の布生地が目に入った。間違いない。

 

 袋を持ち上げ、脱衣所まで運ぼうとする。と、袋の中からはらりと何かが落下する。

 

「おっと」

 

 すぐにそれに気がついた勇太は、拾い上げようとしゃがむ。と、その落ちた黒い布生地を認識して手が止まった。

 

(こ、これって……)

 

 勇太が手にしようとしたそれは、黒い生地に赤い花柄が点々と刺繍されていて、なかなか洒落っ気のあるものだった。いやそれはいい。問題はそれが男子の憧れであり、スカートの中の絶対領域にある三角地帯そのものだったと言う事だ。

 

 何と言う事だ。夏場で透けるブラウス越しのブラジャーなら何回か見た事あったが、さすがにこちら側までは知らない。何か別の世界の原作的な自分はもろに覗いているような気がしたが、それはさて置いておいて、このやたらと大人チックな下着は正直反則物だった。時折洗濯で樟葉の下着を手にするが、あくまでそれはただの洗濯物として認識してなかった。だから、いざ意識してみるとものすごくイケナイ物を見てしまったような気分になる。

 

(って言うか、あいつ本当に黒好きだな。いや確かに黒ってかっこいいし、女の子には黒が似合うと言われるけど、あいつのセンスは黒過ぎるだろ。いや、六花のイメージカラーは黒で定着してるからいいけど)

 

 取りあえず、極力見ないようにしてそれを拾い上げ、袋の中に入れる。意識しない意識しない……。

 

 と、勇太はある事に気がついた。普通、学校で家に入れない事に気がついたのなら、着替えなんて用意できない。だが、六花は着替えを鞄の中に入れていた。これでは、まるで最初から泊りに来るつもりだったかのようだ。

 

(六花の奴、まさか最初から?)

 

 そう考えながら、勇太は脱衣所まで戻り、六花のたくらみらしきものを推測しながらほぼ無意識でドアを開ける。

 

 それがまずかった。

 

「えっ……」

「んっ……?」

 

 前から声がして、勇太はとっさに顔を上げる。そしてそれも間違えだった事にすぐ気がつく。目の前には驚愕の表情の六花。と、バスタオルを取ろうと風呂場から伸びる生まれたままの姿の白い肌と、その体のラインが勇太の目に突き刺さった。

 

 あまりの出来事に、勇太は一瞬思考が停止する。だが、その一瞬の間に六花の表情は驚愕から羞恥へと変わっていき、白い肌はあっという間に赤くなって、『ひっ……』と六花が悲鳴を上げる直前で勇太は我に返った。

 

「うわわわわわわ! ごごごご、ごめん六花!!」

 

 大慌てで脱衣所を飛び出し、ドアを音速で閉める。あまりの勢いでドアの寿命が縮まったのではないかと言うほどの衝撃だった。勇太の声に上書きされたのか、幸いなことにも六花の悲鳴は響かなかったが、一瞬でドア越しにとんでもなく気まずいオーラが漂った。何度目だもう。

 

「ご、ごめん六花! 考え事しててそのだな、あれだ! ノックしなかったのは謝るし、何も見てない! 俺は断じて何も見てない!」

 

 パニックだった。正直何が起きたのかはっきり認識できていないが、体が反射で謝れと叫んでいた。記憶はノイズに阻まれ、一部がはっきりと思い返す事が出来ない。明らかに冷静さを失っていた。

 

 何も見てない、と言うが、そのノイズの記憶の向こうには上手い事その一部をはっきりと覆い、さながら放送禁止部分を隠すテレビ編集の様だった。それがむず痒さを出して六花のチラリズムによるエロさを一層際立たせた。

 

普通の女の子よりも白い肌、幼児体型とはいえしっかりと女性らしさを見せつける腰のライン、まったく無いというわけでも無く、しっかりと膨らみを持った乳房。異性に裸を見られたと羞恥に染まる女の顔。その全てが叩きつけられて、勇太の心臓は中で誰かが思い切り殴り付けているのではないかと言うほどにまで鼓動が速くなっていた。

 

(いやいや落ち着け、落ち着け、ここで冷静さを失ったらむしろもっと気まずいぞ!)

 

 勇太は一時的に全ての記憶をシャットダウンし、六花の着替えを渡すという任務を無理やり引っ張りだして、誤魔化しとしてやたらと声を張り上げる。

 

「と、取りあえず着替え入れるぞ! 俺後ろ向いてるから安心しろ!」

 

 ドアをほんの少し開けて、その隙間から後ろ向きで六花の洋服を入れる。

 

「あ……ありがとう……」

 

 取りあえず六花の声色も少し落ち着いた感じだったから、勇太も少しだけ安心して、六花が出て来るまで脱衣所から離れることにした。

 

(いかん、まだ頭に残ってる……)

 

 少し冷静になったことで、記憶のノイズがゆっくりと除去されて、より鮮明に六花の体が再生される。顕然たる男子富樫勇太、この映像は嫌でも録画してしまう。これは全国のラッキースケベ男子共通である事間違いないだろう。

 

(って言うか、六花って思ってたよりも発育はしてたんだな……)

 

 正直な話、勇太はもう少し小ぶりなものだと思っていたが、ところがぎっちょんしっかりと胸と認識できる程度には育っていた。夏場の水着姿よりもほんの少し成長しただろうか。うむうむ、いずれ六花も十花並みに成長するかもしれんと、どこか父親のが考える事の様な物を考えてはっとし、違うだろと突っ込みたくなった。

 

「勇太……終わり」

「へっ? あ、ああ。お帰り……」

 

 六花がタオルで頭の水滴を拭き取りながら脱衣所から現れる。紺色の布生地の正体はネグリジェで、シャワーで火照ったのか、それとも勇太に裸を見られたせいなのかは分からないが、赤くなった頬が上手いコントラストを引きだしていた。思わず、またも勇太は見とれそうになるが、それをしたらさっきの事を考えている変態扱い―――六花はあまり気にしなさそうだが―――を受けそうだったから、さっさと自分もシャワーを浴びる事にした。

 

 ちなみに、六花が初めから勇太の家に泊まるのではないかという疑問は、さっきの一件で脳内の過去フォルダの中に転送され、それが再び開封されるのはかなり先の話だった。

 

 

 

 

 

 風呂から上がれば、六花はじっとテレビを見続けていた。まぁ部屋に行かれて、またもダークフレイムマスターだった頃の産物を発掘されてもたまったものじゃないからこれで良かったと思う。

 

 だが、六花の見てるテレビが若干如何わしいシーンだった時は少し焦っるが、その次にああまたこのパターンかと思い出した。

 

 時刻はそろそろ十二時前。もう寝るには丁度いいくらいだろう。いい感じの睡魔もやって来た事だし、六花に寝ようかと提案する。

 

「さて、そろそろ夜も遅いし、寝るか」

「まだこれからが私の活動時間」

「なら俺は先に寝てるぞー」

「うっ……」

 

 六花はバツの悪い顔になって、勇太の顔を見る。勇太はほらほら早く決めないと俺は寝るぞと言わんばかりの、ちょっとSのは言った顔になってみる。六花はあうあうと考えて、

 

「寝ます」

「よし、いい子だ」

 

 満足げな顔になって勇太は軽く部屋の準備をする。さて、今回も樟葉の部屋を使わせようと扉を開けようとしてしかし六花は勇太の服をぎゅっと掴んでそれを止めた。

 

「六花?」

「……しょがいい……」

「ん?」

 

 服を掴んだまま、六花は目を反らして顔を赤くさせる。アホ毛がそわそわと左右に揺れる。

 

「勇太と……一緒がいい……」

「…………それってつまり」

「勇太と……一緒に寝たい」

 

 ちらちらと視線を向けては勇太の反応をうかがう。目を合わせては反らし、目を合わせては反らし、それを繰り返すたびにぎゅっと勇太の服を掴む手の力が強くなる。

 

「えっと……」

 

 どうしよう、と勇太は考える。いや別にもう付き合ってるわけだから一緒に寝るのが絶対ダメ、と言うわけではないのだが、それでも今一緒に寝たら何かこう、はっきり言うと理性が持つかどうか心配だった。

 

 だが、こうもお願いする六花を見ると、断ると言う選択肢も自ら消えようとする。了承も拒否も、どちらの選択肢も色々とまずい気がするが、今回の場合は拒否を選択すれば間違いなく一色や丹生谷に『ドアホ』と言われ兼ねないから了承する事にした。

 

「……分かった」

 

 

 

 

 

 布団に入ったはいいが、一つ屋根の下、思春期真っ盛りの男女のカップルが初めて同じ部屋、同じ布団で寝るとなると緊張するのが当たり前である。よって勇太は窓側を向いて取りあえず緊張をほぐそうとしてるのだが、その勇太の背中に六花は頭を押しつけ、尚且つ腰に手を回すというまさに完全ホールド状態だった。もしかしたら知識が乏しい分、それを通り越して六花の方が一枚上手のようだった。無知とは恐ろしい物である。

 

 ネグリジェと言う薄い寝間着の向こうに六花の体温を感じる。こんな事ならトレーナーを着ない方がもっと六花の体温感じれたなと少し後悔する。

 

 さっき膝枕で寝てしまったせいか、寝ようにもいつもより目がさえていた。六花も同じなのか、どうやら起きているらしい。時々任意的に手の位置を変えたりしてるから間違いないだろう。なんとなく、口を開く。

 

「……今日寒いな」

「うん」

「でも、部屋はあんまり寒くないな」

「うん……それに、勇太あったかい……」

 

 嬉しい事言ってくれるじゃないのもう、と勇太は頭の中で歓喜した。あんまり表に出すとみっともないし、引かれるのは目に見えていたから、右手でこぶしを作って、存分に嬉しさを噛みしめた。

 

「勇太の匂いがする……」

 

 すりすり、と六花は顔を勇太の背中に押しつける。その言葉恥ずかしいからやめてもらいたいのだが、本当に六花が嬉しそうに言うのだから言うに言えない。もしかして匂いフェチなのだろうか。

 いや、実際自分の家の匂いと言う物には安心感を覚えたりするし、六花の場合家が勇太になったと考えればまぁ好きなのも頷ける。正直さっきからわずかに香る六花のシャンプーの匂いと、女の子特有の匂いが混じって勇太の脳髄に叩きつけられていた。おそらく寝れない要因その二である。

 

 と、ここで勇太はようやく六花が最初から泊りこむ目的で来たんじゃないかと言う憶測を思い出す。どの道話す事が思いつかないし、ちょうどいい機会だから聞いてみる事にした。

 

「なぁ、六花」

「なに?」

「お前、もしかして最初から俺の家に来るつもりだったのか?」

「…………」

 

 沈黙。しばらく六花は黙り、その代わり腕の力を少し強くさせる。それがどういう意味なのかは分からないが、何かしらの意思表示なのは分かった。

 

「……さすがはダークフレイムマスター。私の思考に干渉するほどにまで成長したか」

「図星か……」

 

 やっぱりかと勇太はため息をつく。さては十花もグルだろうか?

 

「プリーステスは違う。本当にたまたま交戦状態に陥った。鍵を忘れたのはわざと」

「色々都合がいいな今日は……」

 

 鍵をわざと忘れたと言う事は、どの道ばれても帰れないという状況を作りたかったのかと分かった。まったく、用意周到な奴だと勇太は変に感心した。

 

 だが、逆に取ればそれほど一緒に居たかった、と言う事だろう。なら、それなりに六花の気持ちに答えてやらなければならないだろう。

 腰にまわされていた六花の手を軽くほどく。六花が少し悲しそうな顔をする気配があったが、勇太はすぐに体制を変え、六花と向かう形になった。

 

「ほら、これでいいだろ?」

 

 勇太はそう笑って見せ、六花は少し驚いたような顔になったが、すぐに笑顔になり、

 

「うん」

 

 と、今度は勇太の胸に頭を押しつけた。振り向いた事によって、勇太の鼻孔により一層はっきりと六花の匂いが届く。六花の香り、心なしか甘い匂いがして、ああ、これが女の子の匂いか。こんなにもいい匂いなんだと、勇太は感動した。

 

 今度は、勇太も六花の腰に手をまわして抱き寄せてみる。ほんの少し六花の体が跳ね上がるが、それでもすぐに落ち着いて受け入れた。

 

 六花の抱き心地は最高だった。太ももに頭を乗せるのでも十分柔らかかったが、ネグリジェ一枚の向こうにある六花の肌は本当に柔らかかった。文化祭の準備の時にも抱きしめたが、それよりもはっきりと六花の体温を感じられた。寒い時は人肌が一番温まるとは聞くが、これは本当だ。身体的にも精神的にも温かくなる。

 

「勇太……」

「なんだ?」

「…………大好き」

 

 六花がゆっくりと顔を上げ、じっと勇太の瞳を見つめる。勇太も同じくじっと六花の瞳を見続ける。なんだろう、雰囲気変わると恥ずかしい物が全く恥ずかしくない。今なら、もうちょっとませたことをしても大丈夫な気がした。

 

「ああ、俺も六花の事、大好きだぞ」

 

 月明かりに映える六花の顔が、ほんのりと赤く染まる。多分俺も赤いんだろうな、でも逆行だからあまりよく見えないかな、それならちょっと良かったかもなと勇太は思う。

 

 そして、二人がそうしたのは本当にごく自然なことだった。どちらから、と言う物は無い。二人同時に、そうしようと決めた。

 

 勇太と六花は、互いの顔を近づけて、何のためらいも無くそっと唇を触れ合せた。

 

 多分、一瞬。それ以上何もせずに、しかし六花はやっぱり恥ずかしくなったのか、すぐさま勇太の胸板に頭を押しつける。勇太も少し気恥ずかしかったから、素直にそれを受け入れた。

 

 それからしばらく、二人は無言だった。だが、それだけでもう十分だった。

 

 ただ、これが恋人の居る幸せなんだと、二人は心から思った。

 

「……勇太」

「ん?」

「…………もし、またパスコード帰られたら、来てもいい?」

「……ああ、いつでも待ってるぞ」

 

 

 

 

 

 朝。窓から朝日が差し込んで、勇太は目が覚める。腕の中には六花が気持ちよさそうな寝顔ですやすやと眠り、まだ起きるには少し時間が掛かりそうだった。

 

 まぁいいじゃないか。もう少しこの寝顔を堪能させてもらおうじゃないか。

 勇太はそっと六花の前髪を上げて、寝顔を眺める。そして、小さく呟いた。

 

「……六花」

 

 と、その声に反応したのかは分からないが、六花の眉がほんの少し動いて、それを合図にしたかのようにゆっくりと目蓋が開き、六花の虚ろな瞳が勇太を見た。

 

「……おはよ、勇太」

「ああ、おはよう」

 

 もう一度、六花は勇太の顔に頭を押し込んだ。それはもう、たっぷりと。猫のように甘えるその仕草に、勇太はよしよしと頭を撫でてやる。

 

 今日は土曜日。休日だし、たっぷり寝坊しようか。勇太は、もうしばらくこの状況を楽しむ事に決めた。

 

 

 

 

 

「確かにいつでも来ていいって言ったけど……」

 

 勇太はため息をついた。呆れた、それはもう呆れに呆れたため息をついた。

 その原因は目の前の少女、小鳥遊六花。例の第二回お泊りからわずか翌日。六花がまたも泊まりたい、と言うか一緒に暮らしたいと言い始めた。

 

「プリーステスがバリケードを作り、パスコードの変更が永久不能になった。よって勇太との共同生活を所望する」

「だからって、同棲は無いだろ! いやいやまだ早いだろ!」

「あらぁ、お母さんはいいわよー。娘が一人増えるくらいどうってことな言って!」

「でも父さんがいいって言うわけ無いだろ!」

「父さんに電話したら、『おう、やれやれ!』だってさ!」

「いやいやいやおかしい! その理屈おかしいから!!」

 

 と、必死の講義をする勇太だが、六花と勇太の母はやんややんやと同棲の手続きの様な物をして、夢葉もノリノリで六花の事をお姉ちゃんと呼び、樟葉はどうしようかと目を泳がせているため、多分しばらくは対応が効かないだろう。

 

「第一、十花さんが駄目って言うだろ!」

「そうでもないぞ、富樫勇太」

 

 いきなりの十花本人の登場に、勇太は口から心臓が飛び出るかと思った。振り向けばあたかも最初からそこに居たかのように、小鳥遊十花が愛用のおたまを持って腕組みで立っていた。

 

「しばらく私は研修で家に居ないから、六花の面倒を見てもらえば非常に助かるのでな。私も賛成だ」

「なんでこんなに都合が合うんですか!? もしかして昨日の夜も、皆で仕組んだのか!?」

 

 勇太は声を上げる。当然だ、こんなにも都合がよくなるなんて滅多にない。これはもう富樫家女性メンバーと、小鳥遊家が同盟を結んでるとしか考えられなかった。

 

「と言うわけで勇太、本日から勇太の部屋で世話になる」

「よりにも寄って俺の部屋指定かよ!!」

 

 と、抵抗してみせるが、あの晩の六花の寝顔を思い出す。殺人的な可愛さだった。それはもう、自分の物だけにしたいくらいに。

 

 それを考えると、勇太も正直まんざらでもなくなっていくのを感じた。どの道、自分が喚いてもこの状況は覆らないのは目に見えていた。なら、いっそ受け入れた方が早いか?

 

 しかし、それでは自分の面子と言う物もある。だから、勇太はもう少しだけ抵抗することにした。

 

 どうやら、富樫家は暫くに賑やかになりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

おわり

 



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