「あの二人はまあ入隊確定やな。」
「だね。」
眼下に見える二人のフォワード候補、スバル・ナカジマ二等陸士とティアナ・ランスター二等陸士を見据えて、高町なのはと八神はやては満足そうな笑みを浮かべる。
先程はやてが設立する予定の新部隊、機動六課について説明し勧誘を行った。
その後の二人の様子を見るに、おそらくは二人は入隊するだろうと当たりを付ける。
「なのはちゃん嬉しそうやね。」
「うん。二人とも育てがいがあるし、ゆっくり教えられるからね。」
「それはその通りや。」
磨けばどんどん強くなるであろう新人二人の育成になのはは目や輝かせ、そのやる気に満ちた表情にはやては優しい笑みを向ける。
「新規のフォワード候補はあと二人だっけ?」
「そうや。今は二人とも別世界。そっちにはシグナムと空くんが迎えに行ってるよ。」
「二人ともお待たせ。」
「お待たせです〜。」
二人が残りのフォワード候補について話をしていると、その背後から声がかけられる。
その声になのはとはやてが振り向くとそこに立っていたのは親友の一人であるフェイト・T・ハラオウンとはやての人格型ユニゾンデバイス、リインフォースⅡだった。
「ほんなら次に会うのは六課の隊舎やね。」
「お二人の部屋、しっかり作ってあるですよ〜。」
「うん!」
リインははやてのそばへと浮遊すると、なのはとフェイト二人の部屋は作成済みであることを伝える。
なのははそれに満足そうに答えるが、フェイトは違う。動揺を隠しきれないといった表情で固まっている。
「……え? わたし空と同室にしてって頼んでた筈だけど。」
「「え?」」
「き、聞いてないですよ〜? 空さんからはなのはさんとフェイトさんを同室にする様に伝えられただけですよ?」
「「あっ……。」」
その時、なのはとはやては全てを察した。
フェイトは自分達のもう一人の幼馴染である
フェイト自身がリインに直接伝えれば、この様な事態には陥らなかっただろうが、そこは次元世界を飛び回る執務官、日々仕事が忙しく六課設立にあたって更に仕事量が増えた為に手が離せなかったのだろう。
「……。」
「フェ、フェイトちゃん?」
「大丈夫か?」
「空の……。」
「「え?」」
「空のバカーー!!」
自身の知らぬ間に思いもよらぬ事態に陥っていたことに驚愕し、その場で暫く固まっていたフェイトは今この場にいない想い人に向かって悲嘆の声を上げ、目に涙を溜めながら何処へなりと走り出す。
フェイトの悲嘆の声は局内に響き渡り、暫くの間人目を引いたというのは言うまでもないだろう。
◇
「はっ!?」
「ん? どうした?」
ミッドチルダ次元港にて、新人フォワード候補を迎えに来たシグナムは突然震え上がった同伴者である空に向かって問いかける。
「いや、なんか寒気が……。」
「風邪か?」
「いや、そんなもんじゃない。具体的に言うと……。機動六課の宿舎で同室になろうとフェイトにお願いされて、それに一度は了承する振りをしたが、フェイトに黙ってリインに無理矢理なのはと同室にさせたことがバレた。そんな予感がする。」
「なんとも具体的な予感だな。」
空は自分が感じた予感を一息に口にすると、シグナムは呆れた様にため息を吐いた。
思い返せば、幼い頃から二人のやり取りを見続けていたシグナムだが、この様なことは何度もあった。
最近はフェイトがガンガン押して行くようになった為に以前よりこの様なやり取りが増えている気がする。
「テスタロッサの気持ちには気が付いているのだろう? 受け止めてやったらどうだ?」
「それなのはとはやてにも言われた。なのははなんか若干脅迫じみてたけど。」
シグナムの言葉に空は苦笑する。
幼馴染二人もシグナムと同じことを言ってきたが空は全く受け付けるつもりはない。
別にフェイトのことが嫌いというわけではない。
むしろ、美人で誰もが羨む魅力的な女性であるフェイトに想われているということは素直に嬉しいと感じているし、以前は少し踏み込んだ関係になることを考えたこともある。
「……いや、なんかさ。色々あるじゃん? フェイトは将来有望な執務官で、まだまだこれから先輝かしい未来が待ってるし、もっともっとやりたいこともあるだろうしさ。」
「今テスタロッサが一番やりたいことはお前と恋仲になることだろうな。いや、一先ずは怒りをぶつけにくるか。」
「話の腰折るなよ。まあ、そんな将来有望なフェイトと俺みたいなどうしようもない男が一緒になっていいのかとかさ?」
空は今現在の自身の心情を正直にシグナムに吐露する。
曰く、将来有望なフェイトと代わりのきくただの執務官補佐の自分では釣り合わないということらしい。
「それをテスタロッサに言ってみろ、きっとそんなことはないと言うだろう。」
「ああ、そうだな。ついでにそんなに自分を卑下するなって説教されるだろうな。」
「違いない。」
容易に想像できるフェイトの姿に二人は互いに苦笑する。
それと同時にシグナムは内心もう一度ため息を吐く。
(そこまで分かっているならテスタロッサの恋心も理解してやればいいものを……。)
一番長く時を共にしているからだろうか、フェイトに負けず劣らず空もフェイトのことを理解していた。
執務官と執務官補佐という役職柄、次元世界を共に飛び回ることもあって二人はただの親友以上に親密になっていた。
親友以上恋人未満。端から見れば(主にフェイトが)甘い雰囲気を放つ二人は周囲の知人達からすればなんとも歯痒い関係だった。
「まあ、六課も始動するからこれから一年間は先延ばしにできるからな。ゆっくり考えてみるさ。」
「ああ、そうしてやれ。」
「シグナム二等空尉ですね? 私服で失礼します! エリオ・モンディアル三等陸士です!」
与太話に区切りを付け、次元港のエスカレーターを登り終えると赤髪の少年に声をかけられる。
聞けば彼が件のフォワード候補の片割れのようだ。
空もシグナムもフェイトからある程度の話は聞いていたが、実際に会うのは始めてだった。
「ああ、遅れてすまない。機動六課のシグナム二等空尉だ。それでこっちが……。」
「同じく機動六課の疾真空二等陸士だ。フェイト執務官の補佐をしている。と言ってもお前も知ってるだろ?」
「あなたが
「ああ、やっぱりフェイトからある程度聞いてた?」
空が予想した通りやはりエリオもフェイトから少なからず空のことを聞いていたようで、フェイトの執務官補佐という人物が気になるのかまじまじと空に視線を向けている。
空とシグナムがエリオのその様子に苦笑していると、次の瞬間エリオはとんでもないことを口にした。
「はい! 僕の父親代わりになるかもしれない人だって言ってました!」
「はぁ!?」
フェイトはエリオの保護者であり、姉代わりでもあり母親代わりでもある存在だ。それは理解している。
しかし、自分が父親代わりになるかもしれないなどと言う話は全く聞いていない。なる予定もないし、なるなどとも言った覚えはない空はいきなりの不可解な言葉に頭を痛めたが、暫くしてフェイトの意図を理解した。
「まさかフェイトのやつ、外堀から埋めるつもりか!?」
良く良く思い返してみれば、つい先日仕事の関係でたまたま出会ったフェイトの義母リンディ・ハラオウンに子供はまだか? という様な意味不明な言葉をかけられ、全力で否定したということは空の記憶に新しい。
「まさか、あの時から既に……。いや、ひょっとしたらもっと前からなのか……!?」
幼馴染の驚異的な行動力に空は驚愕し、その場で四つん這いに突っ伏す。
次元港で人通りは多く人目を引くのだが、そんなことを気にしている余裕は彼にはなかった。
(いったいどこまで外堀を埋めているんだ? リンディさんにまで手が及んでいるとしたら当然クロノまでも取り込まれていると考えるべきだ。 頼むクロノ、お前だけは正気を保っていてくれ!)
その場で突っ伏しながらフェイトの義兄で、自分の知人の中でも特に常識人であるクロノは自分の味方であって欲しいと空は願う。
「ちくしょう!」
どこまで自分の外堀が埋められているのか空は考えを及ばせるが、考えれば考える程自身の理解が追いついていかず、いても立ってもいられなくなった空は次元港の出入口に向かっていきなり走り出しだ。
「フェイトのアホーー!!」
向かう場所はただ一つ、自身の外堀を埋めんと画策する執務官の元だ。
「……えっと。」
「……あれのことは気にするな。と言うより放っておいてやれ。」
「あ、はい。」
空の声が次元港中に木霊する中、シグナムとエリオはその場に二人だけ残された。
どうしていいのか分からない様子のエリオだったが、その後シグナムの許可を得て、もう一人のフォワード候補を探しに走り出した。
ちなみに、この後お互いに説教しあった空とフェイトは二人揃ってエリオの誤解を解いたと言う。
読了ありがとうございます。
第一話です。
いきなり不穏なタイトルですが、特段心配することはありません。
この話を書くか悩んだのですが、ただエリオにあの台詞を言わせたいが為に書いたところはあります(笑)
実際のところエリオってフェイトのことを姉だと思ってるのか母だと思ってるのかどっちなんですかね?
結局名言されて無かったような。知ってる方いたら教えてください。
次はいつ更新できるかなぁ。できるだけ早めに更新できるようにします。
感想などお待ちしております。
それではまた次回お会いしましょう。