機動六課が始動してから幾日か月日が流れた。
ここでの生活と毎日行われる訓練に新人四人が少しずつ慣れ始めた今日この頃、機動六課としての初任務が行われた。
内容としては、聖王教会の調査部が山岳リニアレールにてレリックらしきものを発見されたが、そのリニアレールがガジェットによって乗っ取られ暴走状態にあるとのことだった。
そこで聖王教会から機動六課に出動が要請され、フォワード部隊が現場に赴くこととなった。
新デバイスを支給された四人は日頃の訓練のかいあって、危なげない部分も見られたが、なんとか新型ガジェットを撃破、レリックの確保を遂行した。
俺も現場に向かっていたのだが、ヘリ内部で上空から新人達を見守ることしかできなかった。
流石に高速で移動するリニアレールに魔法も使わず降下すればただでは済まないだろう。
ちなみに、その時の俺は……。
「おい、見ろよヴァイス! 竜だぜ竜! 本物の飛竜だ! すげえよな、あんなチビだったフリードがあんなにデカくなってよ!」
「旦那ってたまにもの凄い子供っぽくなる時ありますよね。」
「失礼な。いつまでも少年の心を忘れないピュアな男と言ってくれ。」
「旦那がピュアとか……。」
この後、操縦に支障のない範囲でヴァイスをボコボコにした。
という風に現場の緊迫した状況からは考えられない程ヴァイスで遊んでいた。だって暇なんだもん。
しかし、今日の任務には以前のようなレリック奪還任務ではなく、ホテル・アグスタで行われるオークションの会場警備が目的で、警備くらいなら俺もできるだろうと今回は隊長陣と共に会場内部の警備をすることになり、今はその現場へとヘリで向かっている最中だ。
「ほんならここまでの流れと今日の任務を改めておさらいしよか。」
これまでの経緯を頭の中で整理していると、はやてが全員に向けて口を開いた。
そして、空中にモニターに一人の男を表示させて説明を始める。
「これまで謎やったガジェットの製作者とレリックの収集者は現場ではこの男……違法研究で広域指名手配中の次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティの線を中心に操作を進めて行くものとする。」
「こっちは主にわたしや空が担当することになるけど、みんなも覚えておいてね。」
ジェイル・スカリエッティ。
その男の顔と名前を見た瞬間、俺は僅かに表情を強張らせる。
実はこの男と俺は少なからず関わりがあるのだ。
「……空、大丈夫?」
俺の表情の変化を感じ取ったのだろう、フェイトが不安げな表情で俺に声をかけ、それにつられてその場の全員が俺の方へと視線を向ける。
数日前、隊長陣の間で犯人に関して会議が行われ、スカリエッティと俺の関わりについて説明したのだが、それ以降フェイトは何かと俺のことを気にかけている。
「そんな顔すんな。大丈夫だよ。任務に支障は無いからさ。はやて、続けてくれ。」
確かに因縁深い相手だが、それを気にしていては任務を速やかに遂行することはできない。
俺は全員の視線に苦笑して、切り替えるようにフェイトに笑顔を作り、はやてに続きを促した。
はやてはそれに頷いて、モニターの方へと視線を戻した。
「今回のお仕事はホテル・アグスタで行われる骨董美術オークションの会場警備と人員警護や。」
「オークションには取引許可の出ているロストロギアが多数出品されるからそれをレリックと誤認したガジェットの襲撃がある可能性が高い。ということでわたし達に出動要請がでたですよ。」
「この手の大型オークションだと、密輸取引の隠蓑になっていることもあるから十分注意してね。」
「現場には前日からヴィータ副隊長とシグナム副隊長が現地入りして会場を警備してくれてるから、外はシャマル先生とザフィーラ、フォワード四人で警備してもらうことになるよ。」
「もちろんわたし達も中にいるけど、何かあったら副隊長とフォワードのみんなで対処してもらうからね。」
はやて、リイン、なのは、フェイトの言葉を全員理解し、了解の意味を込めて頷く。
はやてからの説明が終わるとその場の張り詰めた空気は霧散し、全員がリラックスした体制となる。
「シャマル先生、さっきから気になってたんですけど。その箱ってなんですか?」
話の終わりを見計らってキャロがシャマルさんに問いかける。
シャマルさんの足元を見ると、四角い箱が四つ置かれていることが分かった。
シャマルさんは六課の主任医務官であることから医療品か何かかと思ったが、治療にはクラールヴィントがあれば事足りる為、きっと違うだろう。
「ああ、これはね隊長達のお仕事着よ。」
そう語るシャマルさんの笑顔に俺はなんだか寒気を感じ取った俺はその場で外を眺めて気を紛らわす。
(ジェイル・スカリエッティか……。)
そう心の中で呟きながら、数日前のことを思い起こしていた。
◇
ここは機動六課の部隊長室。
そこには部隊長であるはやて、なのはとフェイト、ヴィータとシグナムの各分隊の隊長と副隊長、それに加えて俺、リイン、グリフィスが集められフェイトが管理局首都中央地上本部で知った情報を隊長陣に報告している。
「空、スカリエッティについて何か知ってるの?」
スカリエッティの名前を聞いてから呆然としている俺に気づいたフェイトが俺に尋ねてくる。
その言葉に全員が俺の様子がおかしいことに気づき、フェイトと同じように視線を向ける。
「いや、そりゃあ名前くらいは知ってるさ。」
「そういうことじゃなくて。」
「何か情報あるんやったら、些細なことでもええから教えてくれへんか?」
フェイトの後に続くようにはやてが口を開く。
その真剣な表情に俺は目を逸らし少し考え込むが、今は迷っている暇はないだろう。スカリエッティが犯人の可能性があるのなら少しでも情報は欲しい筈だ。
「……分かった。ただし、今回の事件とはあまり関係はないかもしれないからそこは予め了承してくれ。」
全員その言葉に頷き、黙り込む。
俺は全員を見渡し、少し頭の中で整理して言葉を口にした。
「スカリエッティはあいつの……。俺が復讐したあいつの古い知り合いらしい。」
「え……。」
俺が口にした告白に皆少なからず驚きの表情を浮かべ、フェイトは小さく、呟くように声を漏らした。
あいつというのは自分が復讐の為に殺した一人の男のこと。
スカリエッティと同じように広域指名手配されていた次元犯罪者で、スカリエッティと同様に厄介な男だった。
「後から調べたことだから、本人には確認取ってないし、取りようもない。フェイトには黙ってたが、あれから密かにスカリエッティのことは追っていたが、一般管理局員が分かる範囲のことでしか情報は手に入らなかった。だから、あいつが今回のレリックの件に関わっているのかとか、今どこで何してるのかとかは全く分からない。」
「そうか……。」
俺の言葉になのは達は俯き、表情を曇らせる。
フェイトなど今にも泣きそうな程肩を震わせている。
「おいおい、お前ら。まさか俺に辛いこと思い出させたとか思ってんじゃねえだろうな? だとしたらやめてくれ。俺のやったことは同情されることじゃないし、ましてや許されていいもんじゃない。ただ怒りに任せて人を殺しただけの犯罪者となんら変わらない愚かな行為だ。俺はそれを一生背負って生きるって決めている。だから、そんな優しい同情はいらないんだ。」
俺は自分の犯した罪を自覚している。
そしてそれは誰が許そうとも俺の中から消え去ることはない。
だが、俺はそれでいいと思っているし、それを受け入れている。
「まあ、これは俺の問題だからあまり気にすんな。ただ、話したのはいいけど、スカリエッティについてはあんまり知らないんだ。すまん。」
「いや、ええんよ。元から情報は少ないから何かあれば……とは思ったけど、まあ仕方ないかな。」
結局のところ、スカリエッティが犯人であるという線を中心に操作を進めていくという方針に決定し、その場は解散となった。
みんなに話したことによって想起された当時のあの男に対する怒りや憎悪が僅かにだけど確実に俺の中でふつふつと湧き上がってきているのが分かり俺は足早にその場を後にした。
「空!」
「ん? フェイトか。」
会議が終わり、自室へと向かう廊下のさなか後方から声をかけられ呼び止められる。
振り向いた先にはフェイトが立っており、良く顔を見ると金糸の髪を揺らし、赤の瞳を僅かに涙で濡らしているのが分かった。
「なんでお前が泣いてんだよ……。」
「だ、だって空の過去のこと……。」
「だー! まだ言ってんのかお前は。さっきも言ったろ? 同情はいらないって。」
「そ、そうじゃなくて!」
涙目を浮かべているフェイトに一つため息を吐きながら僅かに突き放すように放った言葉にフェイトは首を横にブンブンと振って否定する。
「空も知ってることだけど、わたしは過去に家族絡みですごく大変なことがあったんだ。今でもそのことを思い出すと、苦しくて悲しくて、胸が締め付けられそうになる。たぶんどれだけ時間が経っても、どれだけ自分の中で見切りをつけても、その感情を忘れていたとしても、そういった辛いことって完全に消えてはくれなくて、思い出した時にきっと同じように苦しくなるんだ。」
だから。とフェイトは言葉を続ける。
「わたしのせいで辛いことを思い出させちゃったことを謝らせて欲しい。それから、その辛い感情を自分の中に押し込めたりせずにわたしに分けてよ。空が今までわたしのそばでわたしを助けてくれたみたいに。わたしにも空を助けさせてよ。」
必死に目を見て話すフェイトを俺はただ見つめていることしかできなかった。
暫くの間静寂が流れる。
少しの間、目を閉じ考えていた俺はゆっくりと目を開けフェイトに向かって微笑む。
「……ありがとう、フェイト。お前の言う通りちょっと一人で抱え込み過ぎてたのかもな。」
「ううん。元はわたしのせいだから。ごめんね。」
「あぁ、もう。謝るのは俺の方だって。ごめんな、フェイト。」
「いや、わたしが悪いから。」
「いやいや、俺が。」
「わたしが。」
「俺が。」
お互いに自分が悪いと何度も主張し合う。
やがて、暫くお互いの顔を見合わせて。
「ふふふ……。」
「ははは……。」
同時に笑い出した。
「フェイト。」
やがて、一通り笑いあった後、俺は再び口を開いた。
「ありがとう。お前の言葉、ちゃんと覚えとくよ。」
「うん。忘れないでね。空は一人じゃないんだよ。」
「ああ。」
その後はもう夜も遅いということで、フェイトをなのはの待つ自室まで送り届けた後自分の部屋へと戻った。
その夜はいつも以上に穏やかで、湧き上がっていた怒りと憎悪など跡形もなく消え去り、今までにない安らぎを感じて眠りに着いた。
読了ありがとうございます。
第三話です。
ファーストアラートを飛ばした理由としては特にオリ主がやることがなかったからです。
無理矢理戦闘に参加させても良かったのですが、それはもう少し後に取っておきましょう。
今回、やけにシリアス成分が多くなっていることに作者自身書き上げてから気づきました。
オリ主が復讐した人物はまた追々。オリ主の復讐期は本編終了後に書く予定です。
感想など随時お待ちしております。
それではまた次回もよろしくお願いします。