それでは本編をどうぞ。
ホテルでの任務を終えて起動六課の隊舎へと戻った俺達は、報告書を書き終え一日の終わりを迎えようとしていた。
仕事終わり、なんとなく集まった六課の休憩場に集まった隊長陣とシャマルさんに俺を加えたメンバーは当たり障りのない会話をしていたのだが、不意にヴィータが口を開いた。
「前々から気になってはいたんだが、ティアナの奴昔に何かあったのか?」
ヴィータが口にしたのはティアナのこと。
ここにいるほとんどの人間がティアナのどこか焦っているような様子に気が付いていた。
それは俺も同じで、むしろあのがむしゃらな様子は何処かで見たことがある気がして、少し懐かしさのようなものを感じていた。
「ティアナのこと……か……。難しいなぁ。」
なのははため息を吐きながら表情を曇らせる。
それと同じようにフェイトも少し俯いた。
「そんなに複雑な過去なのか?」
「うーん。複雑と言えば複雑だけど、どちらかと言えば昔の空くんに近い、と言うか似てるかな?」
「……ああ、そうか。もうだいたい分かった。」
ティアナの焦る様子に懐かしさを感じていた理由は分かった。
そして、フェイトが俯いた理由もだ。
(
それ自体は悪いことではない。
むしろフェイトの優しさでありフェイトの良さなのだが、俺が気にしないと言っている以上は俺よりも沈んでいるフェイトを見ると複雑な気持ちになる。
「まあ、みんなにも話しておいた方がいいかな。ティアナとティアナのお兄さんのこと……。」
そして、少し息を吐いたなのははティアナの過去について語り始めた。
◇
午前0時過ぎ。
六課の隊舎近くの林の中で、俺は一人の少女ーーティアナーーを見ていた。
帰投してから時間も経っていないにも関わらずどれだけ自主訓練をしているのだろう。
なのはの話を終えて夕食も食べ終えた後、もう休もうと思っていた矢先、数時間前に偶々出会ったヴァイスから報告を受けたことを思い出し気になって来てみればまだやっている。
少しは自身の体を気遣うことを覚えてくれなければなのはの教導の意味がない。
最も、フォワード陣はそのことを理解してはいないだろうが。
(自分達で気付いてもらうのも大事だけど、言わないと分かんねえこともあるしなぁ。)
言わなければ伝わらないことなどこの世には山程ある。
人間の感情、一教導官の心情など言わずもがなだ。
なのはの教導について暫く考えを巡らせていたが、頭を二度三度左右に振り思考を元に戻す。
俺がここに来た理由は簡単だ、ティアナの自主訓練を見る為だ。
ティアナの方に目を向けると、複数個の球体を宙に浮かべそれが動いた先に銃口を向ける単純な精密射撃訓練をしていた。
(全然疲労が抜け切れてない。軸がブレブレだ。あれじゃ、修行じゃなくてただ疲労を積み重ねる苦行でしかない。)
ティアナの練習風景にため息を吐きつつ頭を抑える。
確かに精密射撃も磨けばそれなりに重要な武器にはなる。
だが、わざわざ疲労を溜め込んでまでやるような訓練ではないし、何よりあれでは全然訓練と言える程のものではない。
「……っと。そろそろ終わるか。」
ティアナの様子にどうしたものかと頭を抱えていたが、ティアナが足をフラつかせながらこちらへと歩いてくるのが分かった。
膝はガクガクと震え、今にも転倒してしまいそうな程だ。
数歩歩いたところで、ティアナがガクンと崩れ倒れそうになるが、すぐさまそばへと駆け寄りティアナの体を抱える。
「おい、大丈夫か?」
「空さん? な、なんで……。」
「なんでも何も、ヴァイスから話聞いて気になったから駆け付けて見ればまだやってるし、足元も覚束ない様子で今にも倒れそうだったし。」
「えっと。……すいません。」
「別に謝らなくてもいいんだがな……。」
ティアナの申し訳なさそうな謝罪にため息を吐きつつ、その場に座らせる。
とりあえず、落ち着くまではここで休ませよう。
「……少し、無理し過ぎなんじゃないか?」
「……。」
「努力することは大事だ。努力し続ければ、天才にも勝る武器を手に入れることができることもある。だが、ただがむしゃらに意味のない訓練を続けることは何も生み出さない。それはお前も、……お前の兄も望んじゃいないだろう?」
「……え?」
俺の口にした言葉。その最後の言葉にティアナは反応し、目を見開いて驚愕の表情を浮かべている。
(何故自身の兄が出てくるのだろう、何故兄のことを知っているのだろう。)
と、ティアナは疑問に思っているのかもしれない。
ティアナのその姿に俺は真剣な眼差しを向けつつその理由を口にする。
「……話はなのはから聞いた。お前の、……お前とお前の兄に何が起こったのかを。」
「そんな……。」
「不謹慎、と言うか本人に了解を得ずに話を聞いたことは謝る。すまなかった。だが、それとお前の今の行いを見過ごすことは話が別だ。」
俺の言葉にピクリと体を震わせたティアナは俺の言い方が気に食わなかったのだろう、眉根を寄せてこちらを睨みつけた。
「……わたしの今やってること。何か間違ってますか?」
「ああ。お前がやっているのは訓練なんかじゃない。ただの愚行だ。」
「っ! じゃあどうすればいいんですか!?」
ティアナは大きく力一杯声を上げた。
もうほとんど力も残っていないだろうに。
「わたしは六課のみんなみたいな才能なんてないただの凡人なんです! 他人と同じような努力してちゃダメなんですよ!」
「お前は凡人なんかじゃない! それは毎日訓練を見てる俺達が保証する!」
「嘘言わないでください! 訓練しても訓練しても全然強くなってる気がしないんです。でも、周りの同僚達はどんどん才能を伸ばして行ってるのが目に見えて分かる。分かっちゃうんです!」
「お前の中にも光るものはちゃんとある! 今はまだそれが開花してないだけだ!」
「じゃあどうしてその為に努力することはいけないことなんですか!? わたしには力が必要なんです。力をつけて、ランスターの弾丸はちゃんと敵を撃ち抜けるんだって証明しなくちゃいけないんです!」
一口に叫んだからだろう。息も絶え絶えで肩で息をしているティアナを見据えて、俺も一つ息を吐く。
まさかここまで執着しているとは思いもしなかった。
だが、仕方のないことなのかもしれない。
ティアナにとってはたった一人の唯一無二の家族を失ったのだから。
「ちゃんと敵を撃ち抜ける……か。さっきも言ったけど、お前の過去については聞いた。お前もお前の兄も不幸としか言いようがない。あの心ない上官の発言は明らかな問題発言だ。」
ティアナの兄はある任務中次元犯罪者によって殺害された。
その際に彼の部隊の上官が心ない言葉を口にし彼を批判したのだ。
俺は一旦言葉を区切り、ティアナの肩を掴んでしっかりと目を見て続ける。
「だがな、力をつけてどうする? その上官に復讐するか? それとも兄を批判した世間に? どちらにせよそんなことの為に力を使うのならやめておけ。」
「……復讐なんて、わたしはそんな。」
「少し行き過ぎた話だとは思うが、力をつけてそれをかつて肉親を貶めた者達に誇張しようと躍起になるのはそれに近しいものがあると俺は感じている。その見返してやりたいという気持ちは何処か復讐心と似ているんだよ。」
「……。」
「力をつけるなんてことは誰にでもできる。大事なのはさの力をどういう風に使うかなんだ。だから、ティアナ。お前の力を復讐の為に向けないでくれ。そんなことお前の兄も望まないだろう?」
「……どうして。どうしてそんなことを言うんですか?」
ティアナは俺の言葉に不安そうな表情を浮かべながら俺に問いかける。
「それは、俺が元復讐者だからだよ。」
「え?」
「俺は昔、とある次元犯罪者に復讐を企てた。毎日血反吐を吐きながら死ぬような思いで力を求めたよ。そいつを……殺す為に。」
「……。」
「その後、なんとかそいつに復讐を果たした。普通、復讐……と言うより目標を達成したらどんな風に感じると思う?」
俺の問いかけに目を閉じて少し考え込んでいたティアナだが、やがて目を開け恐る恐る自分の回答を口にした。
「……普通なら、喜ぶとかですか?」
「ああ、それが普通の目標ならな。だが、それが復讐ならどうなる?」
「あ……。」
「待っていたのは虚無感と罪悪感だった。達成感、満足感、幸福感がほんの数秒、一瞬だけ浮かんで来たがすぐに消え去った。目の前に倒れ込むその男の姿を見て、俺は言われのない後悔を抱き、その後は虚しさだけが残っていた。」
ティアナはそれがどういうものか想像しようとして、すぐにやめた。
今の自分ではそんな経験は一度もないし、想像などできなかったのだろう。
「さっきの訓練するお前、力を求めて躍起になっていた俺にそっくりだぜ。」
「え……。」
「確かに努力は大事さ。才能があっても努力していなければ何も意味はない。でもな、お前の努力はただ疲労を貯め続ける行為にしかなっていないんだよ。お前はまだまだ魔導師としての未来がある。俺みたいな愚かなことをしてその道を潰して欲しくないんだよ。」
俺は言いたいことを言い終えると、その場で立ち上がった。
もう夜も遅い、疲労の貯まったティアナにこれ以上無理をさせるわけにはいかない。
俺の言葉に口を閉じて俯いているティアナに声をかけようとしたところで、不意にティアナの口が開いた。
「空さんだって……。」
「え?」
「空さんだって将来有望じゃないですか。」
ティアナから飛び出した突然の言葉に俺は硬直する。
突然何を言い出すのだろう、俺が将来有望? なのは達じゃなく俺が? ありえない。
「その様子だと分かってませんよね。だから言います。空さんはこの六課の中でもおかしな存在なんですよ。魔法が使えない、魔力がないのに隊長陣から実力を認められ、対等な存在だと一目置かれてるじゃないですか。それってすごい才能があるってことですよね?」
「いや、あれは名残というかなんというか……。」
「別にいいんです。わたしのような凡人には分からないことだから。でも、そんな才能のある人にどんなことを言われたってわたしはやっぱり自分の考えを変えることはできません。」
そう言い終えると、俯いたまま立ち上がり俺の横をすり抜ける。
「ごめんなさい。」
すれ違い様に謝罪の言葉を口にして、ティアナは足早にその場を走り去った。
「……ままならねえなあ。」
ため息と共にその場に寝転び夜空を見上げる。
夜更けの静かな林の中でティアナの謝罪が俺の心の中で木霊していた。
読了ありがとうございます。
第五話です。
改めて遅くなり誠に申し訳ありません。
言い訳にしかなりませんが学業が忙しかったからです。
今後も学業などの理由で更新が不安定になることが考えられますので、タグに不定期更新を追加しておきます。
さて、本編ですがティアナの焦る気持ちについてですね。
本編中でも語っている通りオリ主は元復讐者なので、がむしゃらに力を求め続けるティアナに過去の自分を重ねて自分のようになって欲しくないという思いを抱いています。
ただ、やはり人の心を変えることは一朝一夕ではほぼ不可能です。
対人関係ってやっぱりそこが難しいですよね。
次話はできれば早めに更新したいですね。
感想、疑問など随時お待ちしております。
それではまた次回もよろしくお願いします。