ハイマ。   作:とう

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寝起き早々大惨劇。

 これは、一体全体どういうことだ。

 視界の半分を占める瓦礫を見つめながら、不意にそんなフレーズが頭を過った。

 四方八方に聞こえる爆発音、破壊音。断末魔に阿鼻叫喚。目の前スプラッタ。これが俗に言う地獄絵図か、とぼんやりした頭の隅で現状どうでもいいことを思った。

 

 崩壊した建物の残骸らしきものに下敷きにされたまま、その隙間から辺りの様子を窺う。

 人々は逃げ惑い、それを追うように巨大で気色悪い怪物らしきものが行進する。その胴体からは大砲のような銃身が伸びていて、そこから紫色の光弾が無数に打ち出されて人を襲う。それに運悪く打たれた人間は、倒れたかと思うと突然真っ黒になって灰と化した。

 

 そんな現実離れした惨状を目の当たりにしながら、漸く少し冴えてきた頭をフル稼働させる。

 

 よし、状況を整理しよう。

 俺はつい先ほどまで、自室のベッドで寝転がっていた。そう、ただ横になっていただけだった。

 何か悪いことをしていた訳でもなければ、よし非行に走ろうという考えとかも一切合切皆無。つまり何が言いたいかというと、俺は何も悪くない。

 することないのって最高だなー、とつい数日前までの目まぐるしい生活を思い返し寝返りを打ちながら、少し寝たら散歩にでも出かけようと思って瞼を閉じた。

 

 はい寝たよ、そのまま寝ましたよ?それはもう平和的に普通に、何の支障もなく。

 

 なのに突然衝撃が体を襲ったかと思うと耐え難い痛みの襲来で意識は覚醒。その原因が体の上に落ちてきたコンクリートの塊だと理解するのに数十秒を要したよ。

  ベッドも無くなってるし、周りの町並みは全くもって見覚えないし。

 

 なにがどうしてこうなった。

 というかそもそもここはどこだ!

 

「っつ……」

 

 身体中が燃えるように熱い、いや、痛い。

 今更自覚したように、一気に体の至る所に激痛が走る。そりゃそうだ、瓦礫に押しつぶされた状態な訳だから。これは確実に骨が何本か逝ってる。折れたそれが内臓に突き刺さってなければいいのだが、そんなことを一々気にしててもどうしようもないのが現状だ。

 

 傷の所為かぐわんぐわんと揺れる頭で考える。

 この様子だと助けが来ることも無さそうだし、動けないので直接確認は取れないが体の痛み具合から見て恐らく血も出ている。

 このままだとあれだな、出血過多で確実にデッド・オア・ダイ。

 そうでなくとも助けが来ないんだからそのまま衰弱死。

 あるいはさっきの見たこともない化け物に見つかって文字通り消し灰になるか。

 

「っは、ひっでぇ……」

 

 どのルート選んでも死確定とか最凶過ぎる。

 だんだん重くなってくる瞼を必死こいて開けようとするけど駄目だ、眠い。痛い。疲れた。

 

 本当に、どうしてこうなったんだろう。

 何気に今までの自分の人生の情景を、一つ一つを思い返してみる。

 

 入学式。

 初めて出来た友達。遠足、親友、遊園地、迷子。

 初めて泣かせた、卒業式、夏祭り、お別れ、放課後、流星群、笑顔、笑い、病気、鮮血、母さん、死。

 初めて枯れるまで流した涙、冷たい手、父さん、喪失、また涙。

 孤独、涙、裏切り、痛い、涙、痛い、痛い、痛い。

 痛い。

 

 走馬灯って本当にあるんだ、と流れ行く忘れた筈の記憶に能天気にそんなことを呟く。いや、もはや声に出ていたかどうかすらよくわからない。指一本満足に動かせない今の俺に何を求めるか。

 ああ、考えてみれば結構くだらない人生だった。このまま生きていても最終的には同じ結果だったかもしれない。

 

「(なら、ここで死んでも同じだな……)」

 

 いよいよ限界が来たのか、視界が霞む。焼けるような痛みも、徐々に感じなくなってきた。

 

 ──ああ、グッバイ、世界。

 

 化け物の一つが瓦礫のすぐ横を通り過ぎ、運悪くこちらを向く。そいつはさっき見かけたやつとは違う形で、なんか独特なフォルムを取っていた。瓦礫の中の俺を見て、それはニタァと吐き気を催す笑みを広げる。

 

『イノセンス、ミィツケタァ』

 

 あーあ、 みつかった。

 まさか第三ルートとは。

 せめて、いたくないといいな。

 

 振り下ろされる鋭い爪を最期に、俺の視界は真っ黒に染まった。

 

 

 ・・・

 

 

「リナリー、こっちは粗方片が付きました!」

 

「了解、アレン君は先に向こうのAKUMAを倒しに行って! 私もすぐ追うわ」

 

「わかりました!」

 

 大きく奇怪な左腕を振りかざし、白髪の少年は討伐が済んでいない一角に向かって屋根の上を走り出した。一刻も早く。最小限の被害に抑える為に少年、アレン・ウォーカーは未だ爆発の絶えない村の南に向かい全力疾走する。

 早く、早く。

 犠牲者を少しでも減らす為に。

 一つでも多く、悲しすぎる惨殺兵器を破壊する為に。

 

 エクソシスト総本部、黒の教団。そこに突如北のある村でAKUMAが暴れているという情報がパトロール中の捜索部隊(ファインダー)から送られてきたのは、つい数十分前のことだ。丁度前の任務が終わり、教団に帰ってきたところだったアレンとリナリーはナイスタイミングとばかりに送り出されたのである。

 

 そこは今まで一度も話題に上がったことのない本当に小さな村で、AKUMA達の目的である”イノセンス”が引き起こす怪奇現象が起こったという話も聞いたことがない。つまり、本来ならAKUMAが現れる筈のない場所なのだ。

 

「(なら、一体どうして……?)」

 

 屋根から屋根へと飛び移りながら、スピードは一切緩めずに考える。

 

 AKUMAとは、兵器の名称。

 千年伯爵によって作り出される彼らは、人類を標的として認識する悪性兵器。自らの体をコンバートして打ち出される弾丸には毒のウィルスが含まれており、それに打たれればたちまちウィルスが体内で繁殖し、灰と化して消えていく。

 機械が人の魂を糧に動く生きる兵器。

 

 そんな彼らの目的は、伯爵側の脅威になりうるイノセンスの発見、及び破壊。それがイノセンスもない筈のこんな小さな村で暴れるのは、彼らにとっては寧ろエクソシストに破壊されて数が減り、なのに収穫がほぼ無に等しいというデメリットしかない。

 

 それなら、一体何故。

 

 疑問符を浮かべたアレンが改めて進行方向を見据えた。そしてすぐ後、その目が大きく見開かれる。

 

「(AKUMAが、集まってきている……)」

 

 今まで町中を何かを探すように荒らしまわっていた無数の悪魔達が、今一転して一箇所に集い始めていた。しかもそれは──アレンが向かっていた、村の南側。

 

 ──あそこに、何かある……?

 

 直感的に感じ取ったアレンは一層走るスピードを上げる。

 そしていよいよ距離も縮まり、イノセンスの宿った自らの左腕を大砲に変化させ、最寄りのAKUMAを撃ち抜こうとした時だった。

 一粒の赤が、視界の端を掠める。

 

「っ!? な、」

 

 反射的に伝ってきた屋根を蹴って後ろに大きく跳躍する。

 次の瞬間、崩れかけの建物のベランダに危なげなく着地したアレンの目に、予想だにしていなかった光景が映った。

 

 目の前に群がっていた筈のAKUMA達が、()()()()()()()()()

 それは紛れもなく兵器を破壊した時に起こるもので、アレンは半ば呆然としながら襲いくる爆風にとっさに両手で顔を庇った。

 

 破壊したのは明らかに自分じゃない。

 ならリナリーが? 違う、彼女の戦闘スタイルはこうも一気に敵を倒せるものではない。円舞「霧風」を使ったような感じでもなかった。

 

「一体誰が……」

 

 爆風が収まり、腕を下ろしたアレンが顔を上げる。つい一瞬前までそこにいた筈のAKUMA達が、レベル1も2も関係なく全て消滅していた。

 跳躍して、一つの残骸も残らないその現場に降り立つ。そこは街のどこよりもひどく損傷しており、AKUMA達の標的がここにあったことを証明していた。

 

 その惨状を見回したアレンの目にあるものが留まる。それを見て、大きく息を飲んだ。

 

 それは少年だった。

 黒い、艶やかな髪は土煙で汚れ、身体中の衣類は破れて至る所から血を流している。惨状の中一人佇むその姿は妙に場違いで、一瞬の寒気を覚えた。

 

 AKUMA達の襲撃の中、彼一人が生き残っている。

 運が良かったのだろうか。あるいは……──。

 

「……あの、君──」

 

 左腕の発動を解いて、アレンは一言も発する気配を見せない少年に声を掛けた。

 刹那、その翡翠色の双眸が不意に揺らめき、

 

 ふら、

 

「! ちょっと!」

 

 少年の体勢が突然傾き、ばたりと地面に倒れる。慌てて駆け寄ったアレンは彼を抱き上げて、改めてその容態の悪さを確認し、同時にこれ以上とないほど驚いた。

 破けた衣服の合間から覗く肌には無数の擦り傷、切り傷。皮膚は避け、打撲も多い。この様子だと骨も何本か折れていることだろう。こんな状態で立っていたなんて信じられないほど、少年の怪我は深刻なものだった。恐らく崩壊した建物の瓦礫の下敷きになったのだろう。

 

 しかし、アレンが本当に驚いたのはそこじゃない。

 少年の肌が裂けた無数の箇所。普通に考えれば、そこからは少なからず鮮血が溢れ、すぐに失血過多で命の危険に晒されるだろう。

 けれど、アレンは改めてその傷口を見る。

 

 そこからは、血が流れたような跡こそ残るものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それどころか、傷口は驚異滴な速さで修復されつつある。

 

「これは……」

 

 どういうことなんだ。

 アレンは眉根を寄せて考え込む。

 

 ──この傷の治りの早さ。彼は、もしかして──。

 

 一つの予想を立てて、目を覚ます気配のない少年を見下ろした。呼吸は少々浅いが、脈もあるし血色もある。この分なら本部の医療班に診て貰えば問題ないだろう。

 そしてもしこの仮説が正解だとすれば、AKUMA達がこの村に集まってきたのにも説明が付く。

 

「アレン君!」

 

「リナリー」

 

 残党のAKUMAを片付け終え、黒い靴(ダークブーツ)を発動させたリナリーが二つ結びにした長髪をはためかせながらすぐ傍に着地する。彼女はすぐアレンに抱えられている少年に気付き、目を丸くした。

 

「アレン君、彼は……」

 

「……彼を、教団に連れて行きましょう」

 

「え?」

 

 視線に疑問を含みながら口を開いたリナリーに、アレンは言いながら気を失った少年を抱え上げた。それを見た彼女の目が更に見開かれる。

 両腕に少年を抱え、アレンはリナリーに向き直ってただ一言、はっきりと確信を持って告げた。

 

「この人、イノセンスの適合者かもしれません」

 

 腕の中で静かに眠る少年の傷は、もう跡形もなく消え去っていた。

 

 

 

 

 

 寝起き早々大惨劇。 ▼

 

(フフフ、まァた面白いモノが降ってきましたネ)




さて始まりました始めてしまいました連載。
なんせ皆様の作品が素敵すぎるんだもの……!!
文才も何も本当に皆無なんですが、どうか生暖かい視線で見守ってくださいまし。
主人公の設定はあえて載せていませんが、ご要望がありましたら投稿する所存です。
執筆速度はやや亀です。
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