ハイマ。   作:とう

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だーるまさんがー……転んだっ!
 ……。
ふぬぬ、手強いな……。よし。坊主が屏風に上手に坊主の、
 いや待って待って待ってそれなんか違うって!
いぇーい俺の勝ちー!
 う、なっ、ちょっと待って今の明らかにおかしいだろ!?
勝ちは勝ちだよーっ。
 こんのっ……イカサマやろー!
わーっ、璃兎が怒ったー!
 待ちやがれこのガキ!
きゃーっ、ていうか同い年じゃんー!


たわいもない、そんなお話。

 あの異空間でのロードとの邂逅、及び戦闘を終え、俺たち三人のエクソシストが本部に送還された後のことを話そう。

 

 まず、三人の中で一番最初に目を覚ました俺は二人の病室を訪れた。

 二人は俺のようにイノセンスの力と伴う自然治癒を持っていない為、傷の回復が遅い。特にリナリーに関しては精神的な損傷が激しい為、なにやら針治療? を受けてゆっくり治して行くしかないらしい。

 見舞いに来ていて出くわしたコムイは平然と笑っていたが、内心きっとハラワタ煮え繰り返っていることだろう。握り込んだ手がわずかに震えているのを確かに見た。

 

 アレンの方は傷は大きいものの命に別状はないらしく、少しすれば目が覚めるという。それを聞いて酷く安心した。

 

 とはいえ俺の方も表面上は無傷にすら見えるが、何しろ内臓に与えられた負荷が半端ではなかった。

 まず一つに、血液の乱用に貧血。

 そしてそれから招かれる内臓への血液循環の欠如及び栄養不足。

 目が覚めてすぐは消化器官が上手く働かなくて、飲み込んだ筈のものが直後、食道を逆流してきたことは印象に残っている。今はなんとか胃に優しいものを口にすることは出来るようになったが、いかんせんほかの臓器の状態もやばい。俺の(イノセンス)使用リスクでか過ぎくね?

 

 そして今。現在。ナウ。

 俺はアレンの病室で、運び込んでもらったデスクの上でせっせと報告書の執筆に勤しんでいた。

 その量、専用用紙五枚分。

 

 なんについての報告書なのかというと、今回の『巻き戻しの街』にて起こった一件についての全て、起こったこと諸々全部に関してである。

 グループで行動した為、報告書を提出するのは出動したうち一人のエクソシストでいい。

 本来なら俺は初任務、そしてアレンは新米らしいということでベテランであるリナリーが書くのを見て今後の参考にするのが妥当なのだろうが、この通り二人は昏睡状態。

 結果的に、一足先に目が覚めた俺がそれを書いて提出することになったのだ。

 

 未だ眠るアレンの様子を視界の端に捉えつつ、ぐちぐち文句を言いながら結構なスピードで用紙にペンを走らせる。

 

「ちきしょうコムイめぇ……後から書類書かなきゃいけないんなら最初っからそう言えっての……」

 

 別に報告書を書くこと自体に関しては文句なんてないし、一応これもちゃんとした職業なんだしと納得している。

 ただ許せないのは、そのことに関して一言も言わず送り出した挙句、疲労困憊した体に鞭を打てというようにそれを押し付けてきた室長その人だ。

 

 俺に紙とペン、そして入力必需事項のリストを渡してきたコムイに問い詰めると、「忘れてたぁ! てへぺろっ」と返ってきた。取り敢えずコークスクリューを顔面にぶち込んでおいた。次の機会にもう一発殴っておこうと思う。

 

 ちなみになぜアレンの病室で作業しているのかというと、恥ずかしながら一人でいるのが少々怖かったからである。

 

 ロードが別れ際、最後に言い残したあの言葉。

 

『また遊ぼう? 璃兎』

 

「──ひゅいぃぃいっ……!」

 

 思い出すとぞわっと背筋を凄まじい寒気が駆け上がって、変な声を上げながら思わずペンを落として暖を取るように腕を組んだ。

 

 また遊ぼう = また会うことになる + 飛び交う殺人蝋燭+なんかよく分かんないけど好かれてるっぽい + あの子ちょっと頭おかしいっぽい。

 = 俺、死。うそん。

 思い出すだけでも恐ろしいとは正しくこのことか。あ、やばい涙出そ。

 

「……なに書類書いてる途中で目に涙浮かべてるんさ?」

 

「あ?」

 

 本当にまた来たらどうしよう、と想像して(こういう時特訓で発達してしまった己の想像力がこの上なく憎い)震え上がっていると、不意に聞こえた声に顔をあげた。

 それが聞こえてきた部屋のドアの方に目を向けると、いつの間にか開いたドア縁に寄り掛かって訝しげな顔をしている青年が一人。

 

 赤い髪にヘッドバンドという特徴的な外見をしていたが、着ている服に黒の教団のシンボルが刺繍されている所を見ると、教団の関係者だろうか。

 

「(つかいつ入って来たのこの人)」

 

 物音一つ立ってなかったぞ。

 

「え、と……?」

 

「ん?」

 

 突然の登場に驚いて少し惚けてしまった俺を見て向こうも首を傾げてきた。いや、だからあんた誰なんだってばよ。

 未だにびっくりしてうまく声が出ない俺に対して、あちらは依然不思議そうにこっちを見つめたまま。

 そんな不可解な見つめ合いが十秒ほど続いたのち、ヘッドバンド少年がようやく何かに気付いたように「ああ!」と頷き手のひらにぽん、と拳を打ちつけた。

 

「なに書類書いてる途中で目に涙浮かべてるんさ?」

 

「うんそうじゃなくて」

 

 どうやら俺が聞こえなかったから固まっていたのだと勘違いしたらしい。

 丁寧にも一字一句誤ることなく繰り返してくれた青年には悪いがそうじゃない。そういうことじゃないんだよお兄さん……。

 

「あの、お兄さんどちらさま?」

 

「……え、お兄さんって俺のこと?」

 

「それ以外にいないかと」

 

 頭の後ろで腕を組んでいた状態から片手を持ってきて、驚いた様子でその人は自分を指差す。俺に指摘されて青年はキョロキョロと周りを見回すと、「ほんとだ」と恥ずかしそうに頭をかいた。

「そうやって呼ばれたことなかったから反応出来なかった」と笑いながら言うその人に拍子抜けして、思わず体からがくっと力が抜ける。

 

 第一印象=「あ、この人馬鹿だ」。

 

 

 ・・・

 

 

「ブックマン、目の様子はどうだって?」

 

「特に、治療の必要はないそうです」

 

「そっか」

 

 病室から出てきたアレンの言葉に内心ほっと胸をなで下ろしながら、大きなガーゼに覆われたアレンの左目に目をやった。

 血はもう出ていないらしく、この間俺が応急処置したみたいに血が滲んだりはしていない。けれど、やはり痛々しいのは変わらなかった。物貰いなんて比じゃない。

 

 絶対激痛だったんだろうなぁ。話によるとロードのあの蝋燭にぶっ刺されたって言うし。

 アレンが言っていたことを思い出し、そして再三彼女の言葉を連想して自分も次会うとき下手すると目ん玉抉られるんだろうか、と嫌な想像をしてしまう。さぁっ、とただでさえ少ない血の気が引いていくような気がした。

 

 ……よし、やめよう。想像力鍛えたのはいいけどこういう時はほんと勘弁。というかそんな事態そもそも起こらないことを心底願います。

 

 アレンが目を覚ましたのはつい先刻。丁度報告書の最後に必需記入事項の一つである名前とサインを書き終えた時だった。

 急に小さな唸り声が聞こえたと思ったら無言でむくりと起き上がったんだぞこいつ。軽くホラーだった気がする。身体中の包帯とか真っ白な頭も合わさって。

 

 慌てて呼びに行ったコムイが突如取り出した巨大ドリルを持って顔を真っ青にするアレンに向かって行った時は流石に殴ったが。おかげで件の報告書関連の気は幾分晴れた。

 そしてもう一人の訪問者がブックマンというご老人。ブックマンというのは歴史に起こるあらゆる出来事を記録するという彼の職業の名前で、老人自身は名前を持たないのだという。

 

 全く、こっちに来てから奇想天外な人たちばっかだ。

 

 廊下での俺たち二人の会話を横で眺めていた先ほどの赤髪お兄さん──ラビ、と名乗っていた──が、不意に寄りかかっていた壁から離れて「なあ」とこちらを向いた。

 

「そいじゃあそいつも起きたことだし、気分転換に散歩でもするさ」

 

「「……え?」」

 

 それはどういう理屈なんでしょうか。

 唐突に提案したラビに俺とアレンは思わず立ち尽くすが、当の本人は一向に構わず手を掴んできたかと思うと結構な力で引っ張られていく。

 俺はともかく、病み上がりのアレンが少し心配だ。まだ左目も治ってないし、これでは外に出ると不安になったりしないだろうか。いつもと景色は違うだろうし。

 

 ……いや、実際俺も人のこと言えないぐらいに臓器たちが逝っちゃってるんだけども。

 

 そうしてラビに連れ出された外の街では、何やらお祭り騒ぎでそこらかしこから人々の騒音が聞こえてきた。

 なんだろう。収穫祭?

 

「なあ二人共、歳幾つ?」

 

「え? 十五ぐらい……」

 

「あー……俺も大体そんくらい」

 

 特に宛てもなく、ただ夕暮れ時の陽の光が眩しい街路を三人並んで歩いていると、ふと思い出したようにラビが訪ねてきたので返しておく。

 

「なんだよそんくらいって。どっかに不確定要素でもあんの?」

 

「いや、ううん。多分きっと十五だと思うし」

 

「……そか。なら、二人とも俺のがお兄さんだな」

 

 不思議そうに見下ろしてきたラビに少し誤魔化しを含んでいうと、幸いあまり深くは探らないでくれたようだった。感謝感謝。

「十八だもん」と前方に視線を戻したラビが自分の年齢を明かす。おお、思った以上に差があった……まあ、確かに身長は高い。

 それに加えて、まさかアレンとは近い歳だいうのは知っていたが、まさか全く同じ年齢とは思わなかった。

 

「もっと年上かと……」

 

「……いっときますけど、この髪は歳の所為じゃないですからね?」

 

「えっ、いやそういう意味じゃなくて」

 

 隣を歩くアレンを見ながらいうと、向こうは少し不機嫌そうにじとりとした視線を向けてきた。

 それはとんだ勘違いだよアレンくん。

 

 俺がアレンを年上だと思ったのは、あくまで彼の言動が異様に大人びていたからである。白髪だからといって顔立ちは若いんだから、見積もって十七、八ぐらいかなと思っていたぐらいだ。

 本当に。嘘などこれっぽっちも織り混ざっていない。

 

「だからその目やめて……」

 

「まあ確かに、白髪の所為がもっと老けて見えんぜ」

 

「しらがっ……」

 

 うわ、アレンが大ダメージ受けてる。というかラビあんた直球だな……。

 撃沈して、隣で「白髪なんかじゃない僕のこれは昔のイノセンス覚醒の影響で白くなったんだ別に老化が進んでる訳なんかじゃない……」と頻りにそれはもう親の仇のように繰り返すアレンが怖い反面、流石に同情してぽんぽんと肩に手を置いてやる。それだけで物凄いスピードでギンッ! と効果音が付きそうなほど睨んでくる。

 どんだけその髪にトラウマ抱えてんだこの子は……。

 

「あ、俺のことJr.(ジュニア)って呼ぶ奴もいるけど、ラビでいいから」

 

 そしてとことんマイペースかこのブックマン後継者は。

 いかん、貧血も合わさってして頭と胃が痛くなってきた。

 

「璃兎は璃兎として……アレンのことは、モヤシって呼んでいい?」

 

「はあっ!?」

 

「だって、ユウがそう呼んでたぜ?」

 

「「……ユウ?」」

 

「あれ、知らねえの? 神田の下の名前。ユウっつんだぜ、『ユウ』」

 

「いや……みんな神田って呼んでるし」

 

「……、もやし……」

 

「え? 璃兎何か言いました?」

 

「アレンが、もやし……、……ぶふっ!」

 

「ちょ!? 人の顔見て笑いだすってどういうことですか! ていうかモヤシじゃないです!」

 

「も、もやっ、もやしって……かっ、神田ってばセンス抜群っ……ふくくっ」

 

「ちょっと璃兎!」

 

「お前ら仲良しだなー」

 

 

 

 

 

 たわいもない、そんなお話。 ▼

 

(だってほら、ティムキャンピー頭に乗っければまんまモヤシじゃん……!)




私事で更新が遅れてしまいました、申し訳ないです! 今回ギャグ回? です。

あと、いつの間にか随分アクセス数が伸びてると思ったら、どうやら日間ランキング? とやらに入らせていただいたようです。本当にありがとうございました!
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