ハイマ。   作:とう

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 苦しい。
 吐き気がする。
 頭がいたい。
 ……ああ、泣きそうだ。
 ──……。──、─……!
 誰だ。
 何を言ってる。
 うわやめろ、揺らすな。脳が揺れる。
 いたい。ぐわんぐわんする。
 眠い。眠い。
 やめて。もう放っておいてくれ。
 俺は眠いんだ。
 痛いし苦しいし、眠いんだ。
 今は放っておいてくれ。
 起きたら、治ったら。
 きっと君の話を聞くから。


一難去らずにまた一難。

「……トマさんカムバーック……」

 

「ほらほらぁ、集中してないとぶすり、だよお?」

 

「なにこれヤンデレ!? それはデレの一種なの!?」

 

「あっははっ、やっぱり璃兎って面白ぉい」

 

 うれしくねぇ……!

 そんな語尾にハートがついてるような猫撫で声で言われてもその物騒なキャンドル兵器向けられてる所為で台無しだ。甘い雰囲気も可愛気もあったもんじゃない。

 

 南のとある街に任務に駆り出され、案内役としてトマさんが地下水道を一緒に通ってきてくれた。そして街に着くと、元々案内だけの予定だったし当然他の仕事も入っているのでトマさんはすぐに水道を逆戻りして行ってしまったのだ。勤務お疲れ様です。

 

 今回のケースでは街全体が中央に向かって同一のスピードで砂漠化を進めている。つまり最も力の根源がある可能性が高いのはその中心。

 善は急げとはよく言ったもので、俺は早速街のど真ん中に建てられた教会のような建物に向かった。

 

 そこまでは良かった。

 そこまでが良かった。

 なにも起こらないし、AKUMA達の声も聞こえないしで多少安心して人気のない教会に入ろうとした時。

 ちょっとここで文句を言わせてもらうと。

 

 外開きのドアを開けたらいきなりとんがり蝋燭が目潰しとばかりに顔面に向かって二本飛んでくるってなにそれどういう罰ゲーム? 神様の新手の嫌がらせだろうか。可愛らしいお茶目というやつか?

 ハハハっ、馬鹿野郎死ぬわくそったれ。

 

「っ、てかずっと来なかった癖して今回に限って登場とか何! せっかく決意を新たに飛び出してきたってのに」

 

「だってここ最近僕も忙しかったんだよ〜。今も千年公に黙ってサボりの途中だし」

 

「それダメじゃんねそれ!」

 

 マジトマさん戻ってきて。助けて。いつかの外国人紛いのAKUMAじゃないけどヘルプ。誰かヘルプです。

 頬を冷や汗が伝うのを感じつつ、向かってくる色とりどりの蝋燭たちを紙一重で避け続ける。一瞬でも気を抜けばぶすり、だ。その尖った先端が鮮やかな血の色に染まるのを想像して、額のあたりがさぁっと冷たくなっていく。

 あかん、また想像した。

 

「刺さっちゃうよお? 下手すれば貫通するかもね〜……あっははっ、それも見ものだなあ」

 

「貫通してたまるか!?」

 

 やめろバカ言うな己の悲惨な姿がありありと浮かんでくるからやめて。

 半べそをかきながらせめてもの反撃として幾つか刃を生成して飛ばすものの、やはり余裕と言った様子で避けられる。

 

 なんだこいつら。

 アレンとかリナリーとかラビと言い、この身のこなしの良さはなんだ。人外? 人外なの? それとももしかして俺が運動音痴なだけなの?

 もう少し鍛えておけばよかった、と今更な後悔が過る。

 後悔先に立たず。こんな命に関わる場面で思い知りたくなかったよ。そもそも元の世界ではこんな危険なことに巻き込まれる立場でもなかったし。

 

「──つっかまぁえた♥」

 

「、しまっ」

 

 ロードの嬉しそうな声にハッとして咄嗟に背後を確認すると、そこには壊れかけの教会の壁。

 すなわち、前。蝋燭。

 右。蝋燭。

 はい左。蝋燭。

 後ろ……壁。

 

「(詰んだ……!)」

 

「ばいば〜い」

 

 満面の笑みと共に後ろを除いた三方向からの攻撃が降ってくる。

 これがアレン達ならバク転見たく軽々と壊れかけの壁を飛び越えて避けられるんだろうが、生憎俺にそんな脚力はない。

 

 あまり使いたくはなかったが、この際イノセンスに頼るしかなさそうだった。

 

「『守れ(プロテクト)』!」

 

 なんとか具現化が間に合って、一瞬で俺の周りに形作られた壁がキャンドル達を弾く。結構広い範囲だったし血も随分使ってしまったが命には代えられない。

 必要のなくなった壁が高い音を立てて割れ、赤がかっていた視界が元の色を移す。ロードは相変わらず笑顔のままだ。

 

 立ち止まっていては良い的でしかない。そう思って一歩目を踏み出すと、視界がぐらりと揺れた。

 ああ、だから使いたくなかったのに。

 貧血だ。気持ち悪い。

 

「いつまでもつかなぁ?」

 

「はっ、にゃろ……」

 

 とことん向こうさんの思うツボだったって訳だ。悲しすぎて逆に笑ってしまう。

 狙っていたとしか思えない。ロードが片手を振り上げると、今まで以上に大量の蝋燭が浮かび上がった。もちろんすべての矛先は俺に向かっている。

 

 外傷は能力を使うために傷つけた親指のみ。内側も(血液循環的な面を除けば)問題なし、足も挫いていない。避けようと思えば避けられる。

 けどあんな大量の凶器、時間差でいろんな方角から打ち込まれでもしたら確実にアウトだ。セウトもアウフもなんもない。ばりばりアウトだ。

 

 ──さあ、今度はどう避ける?

 

 笑みを深めて放たれた蝋燭を眺めて考える。我ながらこの危機的状況で冷めてるな、と素直に感心していた。

 もう一度壁を作るか? けどそんなことしたら今度こそぶっ倒れる。そうしたら確実に嬲り殺しだ。

 なら避ける? ……いや、だから無理だっての。

 

 猛スピードで蝋燭達が向かいくる。冷や汗が首元を伝う。

 そして、一本目の蝋燭があと数センチで目潰しに来るというそんな時。

「レロ〜!」というふざけてるとしか思えない鳴き声(?)が空から降ってきた瞬間、尖った先端がまさに目の前でピタリと止まる。その小さな余波が眼球に伝わって、思わず全身を鳥肌が覆った。

 

「あっっっぶねぇ……」

 

「ロードたま、やっと見つけたレロっ!!」

 

「ちぇっ、見つかっちゃった」

 

 その声の主はやはりというかなんというか、先日あの異空間にも居合わせたかぼちゃ傘だった。こいつ普通に喋れたのか。初対面の印象が「レロレロ五月蠅いなあ」だったからか少し驚きだ。

 どういう仕組みなんだろうあれ。てか浮いてるし。

 

「ちょっと休憩してただけだよぉ」

 

「ダメレロ! 元はロードたまの宿題なんだから少しは自分でやるレロ! 伯爵もご立腹レロ」

 

「でも数学とかめんどくさいだけだし〜」

 

「それを言ったら元も子もないレロ……」

 

 あの様子を見る限り、こっそり抜け出してきたというのは本当だったらしい。

 なにやら言い争っている二人を蚊帳の外で眺めつつ、俺はふとそういえば自分は命拾いしたんだと床に転がる蝋燭達を見やった。ついさっきまで俺を蜂の巣にせんと向かってきていた奴らだ。

 

 けどなんだろう。

 九死に一生を得たってのに全く実感がわかない。

 

「……とうとう俺も麻痺ったかな」

 

 ぼそりと呟いて、かぼちゃ傘に言い包められたのか渋々といった様子で手を振りながら帰っていくロードに、こちらもなんとなしに手を振り返した。

 ……なんだろう、どんどん自分がこのワケワカラン事態に適応してきている気がする。

 

 人間の順応力まじ半端ない。

 

「……っと、イノセンス回収しないとだっけ」

 

 ふと思い出して半壊した古い教会を眺める。これ後で請求とかされるんだろうか、壊したの俺じゃないんだけど。

 街の様子を見る限り、砂漠化は止まっていない。つまりこの現象がイノセンスによるものなら、それはまだ壊されていない。

 

 千年伯爵達は各地のイノセンスを破壊することを目的としている。ロードまで来ていたというのに、まだ破壊されていなかったなんで物凄いラッキーだ。

 瓦礫の中を進みながらなんとなくそれの気配を探ってみる。本当に感じられるのかどうかは別として。

 

「(……あれ、でもだとしたらロードのやつ)」

 

 ──一体なんのためにここへ……?

 

 俺より先に教会に到着していたというのに、イノセンスを真っ先に壊さなかった。

 内緒で抜け出してきたのだと言っていたが、だとしても来るのが()()であった必要性が見当たらない。

 これはただの偶然だろうか。答えが出るはずないんだから考えても仕方ないけど。

 

「よしよし、考えるのやめよ」

 

 どうせ答は出ないし、なにより何か変なことを妄想してしまった時が怖い。

 親指の傷はいつの間にか治っていて、少しずつ体に血液が行き渡るのを感じつつ、いっそ面白いほど粉々に砕け散った教会の残骸の中を歩き回った。

 

 

 ・・・

 

 

 なんとか瓦礫の中からイノセンスを回収してあらかじめ預かっていた容器にそれを慎重に入れた時、タイミングを見計らったかのように本部から無線で連絡が入った。

 小型のヘッドフォンのような形をしたそれから漏れる音量を調整しつつ、いつイノセンスのことを報告しようかとコムイの話に耳を傾けていた。

 

 が、次に聞こえてきたまさかの情報に、俺は思わず瓦礫のど真ん中で静止してしまった。

 

『……璃兎くん? 聞こえてるのかい?』

 

「……──お、おま、おぉおおま、いま、いい今なんて!?」

 

『気持ちはわかる。けど、頼むから落ち着いて聞いて欲しい』

 

 こういう時に冷静でいられる辺り流石室長としか言いようがない。普段も少しぐらいこうなら科学班の人たちの負担も減るのに。

 

 ”元帥の一人が殺された”。

 突然かかってきた無線で驚く程簡単に告げられたその事実は、”元帥”というものがエクソシストのトップの位置付けにある人たちだと認識していた俺にとって少なからず衝撃的だった。

 亡くなったのはケビン・イェーガー元帥殿。最年長ながらも常に戦いの最前線に立っていた人物だという。会ったことはないがコムイの話でケビンさんがどれほど部下に信頼されていた人だったかが伺えた。

 

 というかせめて話に前振りを置けコムイよ。貧血も合わさって意識が飛びそうになったよ俺は。

 

『……そんな訳だから、君たちエクソシストには残った四人の元帥達の護衛を任せたいんだ』

 

 なるへそ。

 

『璃兎くん。君にはこのまま、ティエドール元帥の保護に向かって欲しい』

 

「……アレンやリナリーは?」

 

『彼らには、クロス・マリアンの捜索及び護衛を任せた』

 

 クロスって確かアレンの師匠だったか。

 あれ、あいつ師匠との生活にトラウマ持ってるんじゃなかったっけ。

 

『どうする? アレンくん達と行くかい?』

 

「……いや、いい。あのメンバーなら心配ないよ。俺はそのティエドールさんとやらんとこ行く」

 

 アレン、リナリー、ラビ、それに加えてブックマンだ。十分すぎる戦力と言える。

 少々攻撃特化なのが気になるが、まあ四人とも名だたる歴戦の猛者達だ。きっと大丈夫だと思う。

 

 無線機から聞こえるコムイの声に従って地図を開き、向かうべき場所に印を付ける。

 回収したイノセンスをどうすればいいのか尋ねれば、合流した時に元帥に手渡せばいいと告げられた。

 

『……それじゃあ璃兎くん、気をつけて』

 

「あいさー。心配せずとも無事に戻ってやるよ。そんで全力でお前に腹パンぶち込んでやる」

 

 覚悟しとけ。

 俺の布告を聞いてコムイが漏らした笑いを最後に無線通信を切る。

 

 よし、これで戻る理由が一つできた。

 なんて言ったって、襲撃を受けたのは他でもない元帥の一人だ。普通のあんな下っ端AKUMAに倒せる筈もないし、それどころかあいつらじゃ幾ら群がっても元帥クラスには擦り傷一つ付けられるかどうかすら怪しい。

 即ち、襲撃犯はAKUMAじゃない。そしてその仮説が合っているとしたら、他に思い当たるのは一つしかない。

 

「さっきのロードのあれ、もしかしなくてもこの事かな……」

 

 ここ最近忙しかった、と確かに言っていたし。

 ロードもいつまた現れて遊び(と称した殺し合い)に発展するか分からない。自分の身ですら危ういというのにまさかの護衛任務って。

 

「〜、あぁっ、もう!」

 

 おのれマイゴッド、俺に安息の時は来ないってのか……!

 

 

 

 

 

 一難去らずにまた一難。 ▼

 

(彼は、また”戻る”と言った)




『ジャンプSQ.CROWNにてD.Gray-man.連載再開!』

…………………………。
…………………………。
…………………………。
マ ジ で す か。
えっ、え……? 本当に? 星野先生帰ってきたの……?(震)
うぅわっふぅうううう! もう嬉しすぎて画面が滲むんですがどうしたらいいですか!?
やふーっ、そぉい!!(意味不)

そして気付いたら前回の更新から一週間経ってました。
遅れて本当にごめんなさい! そして短文駄文……ダブルで泣きたい……。
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