ハイマ。   作:とう

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 こら、出てこいって。
やだ、雷怖いもん!
 だから、雨はもう止んだってば……。
うそ! じゃあこの音はなんなのさ!
 騙されたと思って。な? 出ておいで。
や、やだ……!
 ……。
……? にいちゃん……?
 うぉらっ! 確保ー!
うぎゃっ!? うわっ、離して兄ちゃんのバカ! セクハラ!
 セっ……!? っ外! 窓の外見ろって!
そと……? ──う、わぁ……!
 嘘じゃなかったろ?
うん、うん…! 大きい! きれー……!


おおきな大きな。

「このっ……」

 

 右手に刀。左手にも刀。二重装備の状態で、向かい来る敵を切り壊していく。最初こそ次から次へと地中から浮上して来る無数のAKUMA達に腰が引けていたものの、そろそろ数も尽きてきたのか、随分開けた目の前の空を見て尚も悪態吐きたくなった。

 道中AKUMAやノアに遭遇しないというのは、どうやら神様には無理な相談だったらしい。現に、バルセロナを発ってからこの様に兵器に群れで襲撃されるのは、この一回を入れてもう三回目になる。

 

 というか神様、取り合ってくれてすらいない気がする。こう、全身全霊を込めた願い事が、商業目的の迷惑メールの如く「あーもーまたこいつ……」みたいなノリで一括選択ごみ箱送りになってる感覚だ。神様のメール事情なんざ知った事ではないが。

 

『ここでくたばって貰おうか、エクシシストォ!』

 

 ──苦しい。助けて。

 

「うるさい馬鹿阿保オイル臭い! 加齢臭!!」

 

 内側の魂と外側の自我。双方の声を同時に受信すること程不愉快な事はない。一つの器の中で二つの相対的な意思がぶつかり合う音というのは、存外耳障りだった。耳栓買っておけば良かった。

 その上でこの独特なウィルスの匂いだ。死して尚、長い時間をAKUMAとして生き永らえているのだから、ある意味"加齢臭"というのは結構妥当だと思う。機械に加齢臭なんて、相当ぶっ飛んだ話ではあるが。

 

 武器を装備型に限定している為か、普段に比べて血液の消耗が少ない。そこらかしこに血の塊を放ったりしていない分、当然の結果とも言えるのだろうが。

 向かって来たレベル2二体を一薙で吹き飛ばし、徐々に減っていく敵軍の数に内心ほっと息を吐いた。

 

 さあ、もう一息。

 

『覚悟しろニンゲン!』

 

『今日こそ長年の恨ミ、晴らしてくれるゥ!』

 

「俺がお前らに何したよ!?」

 

 まあ現在進行形でぶっ壊しまくってますけど。

 どうやら、随分ご長寿な機体もいるらしい。

 

 

 ・・・

 

 

 なんやかんやで、その後も良くわからない恨み言や文句を言われまくりつつ(と言うかもう明らかに感情の矛先が間違っていた。俺は長年の恨みなんて買った覚えない)、漸く目的地が視界に入ってきた頃にはもう日は真上の空から沈み始めていた。前回の宿泊地から出発したのが朝早くだったから、結構長い間進み続けていた事になる。

 その上この様な重労働は今日一日に限った事でなく、ここ数日間クロス部隊に追い付こうとろくに休む事もなく旅路を急いでいた。

 

 元から体力は平均、或いはそれより少ないかぐらいしか持ち合わせていない。そんな俺が、この多大な運動量を連日こなし、その上ろくな食事を摂っていないなどと言う無茶をすれば、どうなるかなんて目に見えていた。

 

「うう、脚痛い……筋肉痛とか……まあ次の日にすぐ来ただけでも良い方か……」

 

 因みに、次の日以外に一体何日目に筋肉痛が発覚したのかと言う疑問は禁句である。はいお口にチャック。

 

 少々ふらふらとした足取りで竹林を進む。

 確かもう少し歩いた所に街外れの集落がある。そこを突っ切って更に山を越えて行けば、最終目的地の港街に到着する筈だ。恐らくそこでなら、アレンやリナリー達と落ち合えるだろう。

 まあ、あくまでまだ彼らを乗せた船が出港していないという楽観的前提あっての予想だが。

 

 目的地も漸く近づいて来ていた事もあり、俺は細く息を吐いて走るスピードを緩めた。その時だった。

 

 どごぉぉおおおんっ、

 

「うわ、わっ……!?」

 

 突如、凄まじい轟音と共に地面が揺れる。ちょうど気を抜いていた事もあり、思わずよろけたもののなんとか踏ん張って転倒を防ぐ。

 ここに来て、幾らやってもちっとも筋肉がつかなくて挫折しかけた足腰トレーニングが功が成したか。遅いわ。

 足を止めたまま、顔を上げて衝撃の根源を探す。あの地面の揺れに、如何にも地の底に轟くような音。

 何かが地面に叩きつけられでもしたのだろうか、と首を捻った俺の予想は、しかし彷徨わせていた視界にに飛び込んで来た光景によりあっさりと覆された。

「はあ……!?」と思わず上擦った、悲鳴じみた声が喉から出る。

 

 大きい。あまりにも大きかった。

 大きめの山一個分はあるであろう図体。それは人間の上半身から両腕と首を切り落としたような出で立ちをしていて、日の照らす明るい空で、薄ら白い光を放っていた。

 それが、突如として、なんの前触れもなく、深く切り立った山脈のど真ん中に現れた、と。

 

 ……なんだあれ。今までとは明らかに規模が違う。主にサイズ的な意味合いで。

 新種のAKUMAか何かだろうか、とまだ少し混乱したまま考える頭に追い打ちをかけるように、新たな何かが目に飛び込んでくる。

 

「たく、次から次へと……」

 

 なんにせよ、流石に職業柄そのまま放って置く訳には行かない。この近くには山間の集落があるんだ。そちらに被害が行く前に、せめてあれらの正体を突き止める事が出来れば。

 黒く霧状な何かが巨大な物体に近付いていくのが見えて、堪らずこちらも駆け出した。

 

「ちょっと休もうとすりゃこれか……!」

 

 と言うか、これの所為でアレン達に追い付けなかったら怨むぞ千年伯爵。お前の差し金であってもなくても構ってやるもんか。こらそこ理不尽とか言わない。そもそも世間をこんな物騒にしたあいつらのが不条理だ。人様の迷惑考えろ!

 内心で絶えずぐちぐちと文句を連ねつつ、じんじんと痛む脚をひたすらに動かした。

 そしてある程度その未確認物体達に近付くにつれ、気付く。

 

 今や白い巨体を取り囲むように変形した霧──あれは、とてつもない数のAKUMAの大群だ。余りにも数が多く密集していたものだから、まるで霧のように見えた訳だ。

 理解して、思わずさぁ……と血の気が引いて額が冷たくなる。本当に型破りな数だ。何百、下手をすれば何千と行っている。

 

 ──やっぱテメェ関連か千年やろう!

 

 一度も顔を合わせたことなんて無いが、名前に千年と付いている所を見て結構なジジイなのだろうか。だが今はそんなこと関係なしにただひたすらこの訳の分からない事態の元凶であるそいつの顔を思い切りぶん殴ってやりたい気分だった。

 こう、顔面陥没するぐらいにメキャァっ……、と。マスクか何かを着けている場合はその面ごとかち割ってやりたい。あとついでに鳩尾に回し蹴りと脳天に踵落としをぶち込めればそりゃあもう完璧だ。

 関係ないことに思考を凝らし始めた脳を叱咤して、改めて現実に目を向けた。

 

 向けたのに、またしても超展開が俺の視界に写り込んできた。……ちょっとは休ませてくれないと俺の頭パンクしちゃうよ? 爆発してのグロッキーなスプラッタだよ……?

 

「どこに向かって ……」

 

 なんとびっくりどっこい、ただ単に地面から湧き出してその場に留まっているだけかと思っていた巨大物体が、向かうべき場所があるのか真っ直ぐに移動し始めていたのだ。

 こいつ動力源は一体どうなってんだ、とか、なんで周りのAKUMA達に攻撃されてるんだ、とか色々と浮かぶことはあったが、そんな思考はすぐさま消し飛ぶことになる。

 

 最悪のパターンってのは一番起こって欲しくない時に限って起こる訳で、その謎のデカブツの行く方向は……紛れもなく、山の合間の、集落のある方向だった。

 

 おう、神よ。なぜ俺にこのように過酷な試練ばかりを与えるのか。気まぐれか? ふざけてろこんちくしょ。

 

 いつの間にやら、つい数瞬前までは明るかった筈の空を陰湿な雲が覆っていた。

 これは一雨来そうか……? と急遽方向転換しつつ視線を上に逸らす。雨そのものに苦手意識はないが、いかんせん雷が嫌だ。

 というより、爆発音というものが一等ダメなのだ。小さい頃、祖母がよく好きで戦争物の時代劇をよく家族共用のテレビで見ていて、よくわからないまま一緒に画面を覗き込んでいたら唐突にミサイルが爆発して十数人の兵士が身体バラバラになりながら吹き飛ぶ瞬間を目の当たりにするという事があった。

 あれはなんというべきか、少なくとも子供の身で迂闊に見るべき内容ではなかった。おかげで昨今、幼少期からの物に加えこの惨状でトラウマに更に拍車が掛かってきている。

 

 というか婆ちゃん、お願いだからもう子供のいるリビングでそれを見ないでくれ。数年後、不幸にも妹が全く同じ体験をして号泣した。俺も泣きたい気分だった。

 俺はあんなショッキングな映像見てて大丈夫なのかって、最後まで婆ちゃんの心臓が心配でならなかったよ。

 青い顔をする俺たちに祖母はいつも、テレビに映るどんぱちとは全くの正反対と言えるようなのんびりとした動作でおかしそうに目を細めていた。

 

 ──ほっほっほ、璃兎くんは怖がりさんだねぇ。

 

 違うよ婆ちゃん……俺が怖がりなんじゃないんだよ……婆ちゃんが見てるそれがバイオレンス過ぎるんだよ……なんだよ十秒に一人は空彼方高く吹っ飛ばされる光景が拝めるドラマって……。

 

「ぅっぷ……」

 

 いかん、思い出したら気持ち悪くなってきた。

 デカブツは尚も移動を止める気配を見せず、集落の方向に進んでいる。そこに住む人たちに危害を加えない可能性はあれど、どちらにせよ住民たちは錯乱するに違いない。というか、それ以前にあれが何もしないという保証も安心もどこにもなかった。

 あれは確実に何かまずい事を仕出かす。下らない直感ではあるが。

 

 流石に遠いのでよく聞こえはしないけれど、先ほどからあの白い巨体の周りもは絶えずパチパチと何か火花のような物が舞っている。空が暗くなった今ではそれが一際よく見え、それが遠目から見ても爆発だと気付くのにそう時間はかからなかった。

 攻撃しているのは、あの黒い霧状のAKUMAの大群。

 ということは、あの白いのは、あいつらに対して不都合な物なのだろうか。

 脳裏にまたしてもあの独特な血色の悪い肌が蘇る。背筋を駆け巡る悪寒は、きっと武者震いだと自己解釈した。

 

 大丈夫。

 大元凶である千年伯爵本人に出くわしたことがないから、一々あいつらの顔が浮かんでくるだけだ。

 そもそもあの千年やろうとノア達は一味なのだから、連想して真っ先にあいつらが浮かぶのはしょうがない。うん、しょうがないのだ。もし千年伯爵の顔を知っていれば、先に思い出すのは確実にそちらなのだから。

 心配ない。この胸のざわざわはきっと気の所為だ。

 まさかまた、こんなところでノアと鉢合わせる訳がない。もうずっとAKUMAだけだったんだ。今回のこの大群も、きっと千年伯爵が統率してて、ノア達はまたどこかわからない場所をのらりくらりとほっつき歩いているに違いない。

 

 ここにロードはいない。

 あのシルクハットの、似非紳士っぽい感じのも、いない。

 

 ドクドクと不快な程強く脈打つ心臓がある。

 深く考えるな。これは走ってるからであって、血液に含まれた酸素を筋肉に届けるためであって、そうだからつまりこれは運動している人間なら誰しも同じ状態になるのであって、決してまた何か変な直感だとかシックスセンス的な物が作用しかけている兆しなんかでは断じてないのだ。

 

 俺はやれる。のーぷろぐれむ。

 さあ走れ。痛む足に鞭打って疾走する。白い巨体はその分移動も早くて、それとの間の距離はどんどん開いていくばかりだった。

 急がないと、村が。住んでる人たちが。みんな、

 

「っさせねーよ……!」

 

 嫌な程にリアルな想像は振り払った。

 そうならないために走ってるんだ、わかってるだろう。

 

 走って呼吸が苦しくなると、またあの時の光景が蘇ってきた。

 首が絞まって、喉が潰れて、息が、止まって。

 どくん。と、一際強く心臓が脈打った。

 忘れろ、そんな可能性。ありえない。絶対にない。

 神でも仏でもなんでもいい。

 

「──今回ぐらいはっ! 変なキャンドル凶器使いとか変態シルクハットとかと鉢合わせることとかありませんよーに! このやろーーーっ!」

 

 

 

 

 

 おおきな大きな。 ▼

 

(フリなんかじゃないから! 断じて!!)




お久しぶりです一応生きてます! ここ最近もとから壊滅的だった文才が更に衰えた気がします。
ギャグ要素を捩じ込もうとしたらなんかお婆ちゃんが出しゃばりました。あるぇ……?
誤字、脱字などあればご報告いただけると助かります。
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