ハイマ。   作:とう

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この力を使っては、絶対にダメよ?
 なんで?
なんででも。とにかくいけないからね?ママとの約束。その時が来るまで、絶対発動しちゃいやよ?
 うん、わかった。
じゃあ、指切りげんまんね。この力は、あなたが絶対に守りたいと思えるような、そんな人たちのために使うのよ? 覚えておいてね──


     ──璃兎。


もぐ、もぐ、ごっくん。

「ぅ、ん……?」

 

 水底から浮上するように意識がゆっくりと覚醒していく。重い瞼を開くと、視界がこれ以上ないほどにボヤけていて何が何だかよく見えない。何度か瞬きをしながら、なんとなく現状の解明に努めてみた。

 

 俺は、死んだんだろうか? ここはいわゆる天国(いや地獄かも知れない)で、天使だったり鬼だったりがうろついてるんだろうか。エンジェルさんはパフパフラッパみたいなの吹いてて、デビルさん達は金棒ふりまわしてるのかな。

 どれどれ。

 確認したいが体がまだ完全に起きていないらしく、動かない体でただ考える。体は何か柔らかいものの上。上は白い。この雰囲気だとどちらかといえば天国寄りか? やりぃ。

 それにしたってここがあの世なら、あれだ。ご先祖様にも会えるんだろうか。

 

 というか俺、そういえば三途の川渡ってない。

 

「あ、目が覚めたんですか」

 

 その時何か物音がして、誰かの声が聞こえた。誰だろう。俺を迎えに来た天使かな。天国(ここ)って、一人につき一天使とかそういうシステムなんだろうか。ふむ。

 まだまだぼやけている視界にふっ、と影が射す。どうやら、その誰かが俺の視界に入ったらしい。

 

「来てくださいコムイ室長。彼、目が覚めたみたいです」

 

「お、本当かい?」

 

 また別の声が聞こえた。今度は最初のそれより少し低い。オスの天使か? というかそもそも天使にメスオスとかいう概念は存在するんだろうか。

 

 少しずつ天使(?)達の輪郭がはっきりと見えてくる。すぐそばに、誰かがいる気配も感じる。

 俺が反応しないのを不審に思ったんだろうか。最初の声がまた問いかけてきた。

 

「気分はどう? どこか痛いところとかありますか?」

 

 覗き込んでくるその顔をよく見てみると、向かって右半分の顔に何か赤い印のようなものが描かれている。なんだろう、刺青? 天使なのに?

 怪訝に思って目を細めてよく見てみると、それには羽が生えていなかった。天使違った。

 

 その白い髪……丁寧な言葉遣い……、……はッ、まさか貴方は……。

 

「じっちゃん……?」

 

「じっ、じっちゃん!?」

 

「ぶっ!」

 

「ちょっ、笑わないでください!」

 

「ご、ごめんごめん……っくく」

 

「ん〜……?」

 

 意識が覚醒していくにつれ、視界も徐々にクリアになっていく。

 そろそろ体も動くようになってきて喧騒の聞こえてくる方に顔を向けると、鮮明になっていく映像には口元を押さえて笑う眼鏡の長身男と、少し赤くなって怒鳴っている白髪の少年の姿。

 誰だろう。

 

 ついでに周辺も見回してみる。

 天国、という俺の当初の予想は見事に外れ、ここはどうやらどこか建物の一室らしかった。なるほど壁紙が白いのか。そして俺が寝転がっていたのは柔らかい天界の雲の上かと思いきや、真っ白いシーツに包まれた普通のベッドだった。なあんだ。

 

 何気に、ベッドのシーツの中らしい両手を握り締めてみる。確かな指の感触、手のひらの感触。試しにもぞもぞと足を動かしてみると、それも確かに存在していた。

 最初の二人の声が耳に届く。天井の明りが眩しい。

 

 手を支えにしてゆっくり起き上がる。いつの間に喧嘩を止めたのか、先刻の二人の視線を感じた。

 ──感じてる。見えてる。聞こえてる。

 それらの事実は、俺が一つの結論にたどり着くには十分だった。

 

「俺……生きてる?」

 

「え? ああ……」

 

 あくまで独り言のつもりだったのだが、俺のそんな呟きを拾ったらしい白髪の少年の方が首を傾げて、次に納得したように縦に振った。俺が座るベッドに近付いてきたかと思うと、不意に手首を掴まれる。

 そのまま手を持ち上げられて、自分の胸元に誘導され、胸に当てられる。彼は俺の腕を掴んでいない方の自分の手を、同じようにこちらも自分の胸に当てた。

 

 とくん、とくん、

 

 そして、ふっと柔らかく微笑む。

 

「はい、生きてますよ。ちゃんと」

 

 その笑顔は妙に安心感があって、胸元に当てた手に伝わる鼓動は、確かなものだった。

 

 ──ああ、また会ったね、世界。

 

 

 ・・・

 

 

「……なるほど、大体のあらすじは理解した」

 

 長い廊下を進み、顎に手を当てながら頷く。擦れ違う白衣を着た人逹に訝し気な視線を向けられているのは恐らく気の所為ではないのだろうが、なるべく気にせず進む。

 

「要約すると、つまりその千年なんとかってのが作り出した対人間用兵器のAKUMAってのがあって」

 

さっき襲ってきた化け物たちがそれで。

 

「そいつらは”イノセンス”とかいうのを狙ってて、俺がそのうち一つの適合者で」

 

 それは俺の体の中にあって。

 

「で、大昔にノアの方舟が……もうめんどくさいから割愛で。まあ、つまり俺にこのイ──……ごめん名前忘れた」

 

「イノセンスだよ」

 

「そうそれ。そのイノなんとかの力使って戦って、そいつらの野望をぶっ壊せって訳ね?」

 

「はい、まあ、大体は」

 

 隣を歩く白髪少年が曖昧に頷く。表情が微妙に見えるのは俺の気の所為か?

 

 目を覚まして十数分。最初の部屋(医療室だったらしい)から出て、どこかに連れて行かれながら俺は事の状況説明を受けていた。

 曰く、ここはそんなエクソシストと呼ばれる適合者達の集いで、俺はその兵器の襲撃を受けた村で唯一生き残り、気絶した所をここに運び込まれたんだという。運が良いんだか悪いんだか。

  ちなみに俺が元着ていた服はボロボロでもう使い物になりそうにないんだそう。今は安易な医療服を着させてもらっている。少々足元がスースーするが致し方ない。

 

 実際、話は粗方理解できていた。千年伯爵とか、イノセンスとか適合者とか。ただ、以前より国語のテストで赤点を取る事がただの日常でしかなかった事から俺の文章力の乏しさを察して欲しい。

 

 飲み込みは早いが記憶がどうもダメなのだ。

 大事な話の本筋はこれで終わりという事で、「んで」と並んで歩く二人を向いた。

 

「どっちがアレン・リーで、どっちがコムイ・ウォーカーだっけ?」

 

「「(なんか混ざってる……)」」

 

「?」

 

 二人に微妙な視線を向けられる。暗記系が不得手なので、それと同じように人の名前も苦手なのだ。察して欲しい。

 

「えっと……僕が、アレン・ウォーカーです。こっちが室長の、コムイ・リー」

 

「あ、ごめん間違った……」

 

 申し訳なさに痒くもない頭を掻くと、二人に苦笑を向けられた。

 そのまましばらく建物の下へ下へと降りていくと、段々と人気がなくなってくる。心なしか、空気も冷えてきた気がした。地下なんだろうか。

 先ほどから無言な二人を横目で見やる。なんだか空気が硬い。一体本当に、どこに向かってるんだろうか。何やら宙に浮かんでいる、俺の知る限りのエレベーターらしきものに乗り、さらに下層に向かっていく。

 とうとう沈黙に耐えかねて、俺はエレベーター(仮)を操作する眼鏡長身──確かこっちがコムイだった──に尋ねる事にした。

 

「なあコムイ、これって一体どこに向かって──」

 

「はい、到着」

 

「──早っ!? 」

 

 まだ乗って十秒ぐらいしか経ってなかったけど!?

 前言撤回、どうやらこれはエレベーターというより寧ろワープ装置的な何かだったのかもしれない。

 

 装置の上から見渡すと、さっきより一層暗くなっている。周りなんてほとんど見えなかった。照明かなんか設置しようや。

 次の瞬間、暗闇の中不意に何かが照らし出される。突然の眩しさに目を細めながら観察すると、それはどうやら椅子に座った五人の人間のようだった。

 

 またまたどちらさまですか。

 

「……それは、”神のイノセンス”」

 

 うお喋った。

 

「全知全能の力なり」

 

「また一つ……我らは神を手に入れた」

 

 なんの話だおい。

 

「……アレン、あの人たちは」

 

「僕らの指導者(リーダー)……大元帥です」

 

 なるへそ。

 

 先ほどここに向かっていた道中、アレンから彼の師匠であったというクロス元帥の話は聞いた。そのまた上に君臨するのが、この組織のトップの大元帥様方って訳だ。

 一人納得して、再び何故自分がここに連れてこられたのか疑問になる。

 つまりあれだろうか、挨拶回り? 今日からよろしくお願いしますって事?

 

 ──そもそも俺、まだ自分の”イノセンス”とやらの事、全然知らないんだけど。

 

 そう、不安になった矢先。

 

「其方の価値……我らに示されよ」

 

「──へ」

 

 意味不明な言葉と共に、俺の体は宙に浮いた。

 

 

 

 

 

 もぐ、もぐ、ごっくん。 ▼

 

(ちょっと待って俺そう言えば高所恐怖症)

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