どうしてやる事もできない自分が、ただただ唇を噛んで手を握りしめるしかできない自分が、大嫌いだ。
たすけられなくて、ごめんね。
なにもできなくて、ごめんね。
ごめんね。
身体中を弄られるような不快感に身を捩る。
やっとの思いで首を捻り、襲撃者を睨む。そこには巨大な蛇のような、女のような半透明の”何か”がいて、彼女はその無数の腕を俺の体に巻きつかせている。
はっきり言おう。気持ち悪い。
「くそっ、離せ!」
『落ち着いて……私は敵じゃない』
信用できっか!!
大声でそう叫んでやりたい気分だったが、兎にも角にも気色悪い。この謎の生物(であるかどうかすら怪しい)に持ち上げられた俺の下にいるはずのアレンやコムイに助けを求めようとも思ったが、そうしようと口を開いた矢先、それの腕が何本か前に回り込み、俺の
「へ!? なっ……」
あまりにショッキングな光景に一瞬体が硬直する。
入ってきてるんだけど。なんか入ってきてるんだけど!? 体の内側を何かに探られている感触に、背筋を寒気が走った。
なんだ、こいつは。
なんだ、これは!
「っ、いい加減に……!」
体の奥にふつふつと何かが沸き起こってくる。単なる怒りやその類の激情とは違う、もっと別の、何か大きな力のような。
続けて「しろ!」と怒声を放つつもりだった俺の声はしかし、それまで黙っていた癖して突然発せられたコムイの声によって掻き消された。
「どうだい、ヘブラスカ? 彼は君のお眼鏡に叶いそうかな?」
「コムイ、おまっ……!」
こいつ知ってたな、こうなること!
「……すみません、少しだけ耐えてください」
視界の端に捉えたアレンが至極申し訳なさそうに目をそらす。お前もか。
反省の色が見えるアレンはともかく、目下「あっははー」と愉快そうに笑っているだけのコムイは今後一切信じないと心に決めた瞬間だった。
不意に、ヘブラスカと呼ばれたそれが腕を回転させ、俺はそいつと至近距離で向かい合う形となった。
……怖。たった今気付いた、こいつ近くで見るとやばこっわ! でっか!
『大丈夫、力を抜いて……』
ごめん無理だから俺今恐怖でがっちがちで力抜くとか無理だから……!!
体内を徘徊する異物感はそのままに、ヘブラスカは俺に額を近付ける。そしてそのまま俺のそれと触れ合った瞬間、そこから突如眩い光が溢れ出した。
ほぼゼロ距離で目を襲う眩しさにきつく目を瞑る。下でコムイとアレン、そして大元帥の五人に見られている気配を感じた。
すると、ヘブラスカが何やら数字を数え始める。
『3%……18%………27%……45%………』
おい待てなんの話だパーセントってなんだ。
俺の体へのなんらかのウィルスの侵食率か!? これ百パーになったら俺死ぬのか!?
とてつもなく縁起でもないことを思うも、無数に絡みつく腕にロックされて身動き一つ取れない。どうすることもできないまま、俺はただ彼女のカウントに耳を傾けた。
『76%……83%……………、!』
「……?」
それまで数値を増やし続けていたヘブラスカが突然息を飲んで停止するので、思わず眩しさも忘れて薄く瞼を開く。わずかなどよめきが耳に届き、アレン達や大元帥方にも予想外の何かだったことがわかった。
ヘブラスカは黙ったまま、俺の
『98%』
「「「……!」」」
「98……ってそれなんの数値?」
──何せ今の俺にはこの世界のことがよくわからない。
恐らく今まで過ごしてきた場所とは全く別の次元……所謂
訳わからん怪物兵器はいるし。聞いたこともない神の物質は存在するし。
極め付けに、今目の前にいる人語を喋る人外だ。明らかに俺の知っている世界とは別物。
つまり俺は、ここの”基準”のことを全く知らない。
『今、お前と武器とのシンクロ率の最高値だ』
「シンクロ?」
『シンクロ率とは、お前が今、どこまでその武器の力を引き出せるかを表す数値。対AKUMA武器発動の、生命線となる数値だ』
へー、と表面上では納得したように頷くが、ごめん内心さっぱりだ。なんというか、内容が新鮮すぎてまるっきり頭に入ってこない。まるで右から入って左から抜けてしまっているようだった。
なんとなくのニュアンスで察する限り、別に高くて悪い数値じゃなさそうでホッとする。
説明を終えて、俺はゆっくりとアレン達のいるエレベーターもどきの上に降ろされた。
『これからお前は、たくさんのことを感じ取っていくことになる。お前のイノセンスは、来たる破滅の未来に向かう神々の、導き手となるだろう』
……ああ、また特大スケールの話きた。
・・・
「ぐわーっ……」
そんな奇声を発しながら、食堂の長テーブルに突っ伏する。行儀が悪いとは思ったが、冷んやりした机の誘惑にはどうにも抗いきれなかったんだ。許して神様。
ヘブラスカも含めた大元帥たちとの面談ののち、そろそろ昼食時だというアレン達に付いてきたはいいが、どうも疲労のせいか食欲がわかない。
聞いた話によると、俺は運び込まれてから三日間眠ったままだったらしい。どんだけ疲労たまってたんだ俺。夜は十一時以降に寝る癖に、毎朝五時半起床なのがいけなかったんだろうか。
そして目が覚めて早々新世界。
出来るだけ表面上に出さないようにはしていたが、実際は結構な大パニック中だった。俺の中で俺の精神がゲシュタルト崩壊を起こしかけていた。
ちなみになぜアレン達に悟られないようしているのかというと、所謂男の意地である。
「頭パンクしそ……情けねー……」
「仕方ないですよ、色々と初体験でしょうし」
己の体力の無さを嘆いていると、水の入ったグラスを持ったアレンがフォローしてくれた。隣に腰を下ろし、持っている二つのうち一つを差し出されて、お礼を言いながら取り敢えずそれを一口含む。冷たい飲料が体を内側からクールダウンしてくれた。
「そういえば、まだ名前を聞いていなかったね」
「……あ」
テーブルの向こうに、俺と向かい合わせになる形で座っていたコムイに指摘され、本当に今更な事を思い出す。
うおお、こんな所でボロが……。
二人が注目する中、改まって自己紹介なんて何年ぶりだろう、と謎の小っ恥ずかしさに頬を掻きながら息を吸った。
「
なぜか敬語がすべり出た。確認するように繰り返すと、思わずあれ俺の名前これであってるよね? と少し不安になる。来たよゲシュタルト。
「天羽璃兎、か。もしかして日本人?」
「うん」
「そうか……神田くんと仲良くなれるかも知れないね」
「えっ、そうですか……?」
「かんだ、ってその人も日本の?」
「ああ、そうだよ」
「ほー」
アレン・ウォーカーやコムイ・リーといった名前からなんとなく予想はついていたが、ここはやはり日本ではないらしい。そもそもリーってのは中国か韓国あたりに多い苗字だった覚えがある。言葉が通じているようなので然程気に留めていなかった。
ここまで来る間に見かけたアルファベット表記の表札なんかも普通に読めていたし、いつの間に頭に自動翻訳機でも頭に埋め込まれたんだろうか。
「はっ……まさか俺をここに連れてきたのって、宇宙人かなんかじゃ……?」
「え、ちょ、なんのことですか……?」
某推理小説の主人公ばりにV字にした親指と人差し指を顎に当てながら言うと、目下三皿目のオムライスを口いっぱい頬張ったアレンが顔を引きつらせていた。つかお前よく食うな。
そんな俺たち二人の様子を見たコムイがははは、と爽やかに笑う。けど残念だったなもうそのフレッシュ笑顔には騙されんぞ。さっき身を以て知ったからな。
先ほどの情景を思い出して背筋がぶるっと震えた。念のため自分の胸元をペタペタ触って確認する。……よし、穴は開いてない。
「まあ、ゆっくり馴染んでいくといいよ」
すると、不意にコムイが青椒肉絲を摘んでいた箸を皿に置いた。からん、という小さな陶器の音に反射的にそちらを向く。
「……さて、と。それじゃあ」
そこで一度言葉を区切り、真剣な表情をこちらに向けるコムイに首を傾けた。思ったが、この人はいかんせん勿体振るのが好きらしい。
「改めてようこそ、黒の教団へ。今日からここが、君の帰る場所だ」
歓迎するよ、天羽璃兎くん。
笑顔と共に差し出された手を見つめた。
これを取ることはすなわち、俺に取って今までの生活との別れを意味した。
そもそもどうやってここまで来たのかすら分からないんだから、戻れるなんて希望は少なからず捨て去った方がいいのだろう。
向こうに未練がないと言ったら真っ赤な嘘になる。けど、
「……うん」
自然と顔に笑みが浮かぶのを感じながら、差し出された手を握り返した。
俺の元あった”日常”ってのは、もうとっくの昔にぶち壊されたんだから。
「もう、乗り掛かった方舟だし」
今度は千年卿、あんたの野望とやらをぶっ壊してやるよ。
疲労困憊困憊。 ▼
(てか食堂でメシ食いながらする話か? これ……)
他のキャラとも絡ませたいのに進行がグダグダして進まなーい!(泣)
ちなみに夜は十一時以降に寝る癖に毎朝五時半起床って言うのはもろ自分です。