ハイマ。   作:とう

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お前は前だけ見てればいいよ。後ろは、オレが見といてやるからさ!

眩しかった笑顔。
確かに頷いた、その言葉。

ああ、いつから変わってしまったんだろう。
俺が振り向いてしまったから? 前を向かなかったから?
教えてよ。
ねえ、頼むから。


Back back BACK!

「アレンお前……ほんとよく食うな」

 

「寄生型のエクソシストはこれぐらいが普通なんですって。それにしたって、璃兎は少ないんじゃない? 遠慮することないのよ?」

 

「いや、なんというか」

 

 隣で大量の料理をガツガツ掻き込むアレンに目を遣り、どうにも耐えきれずすぐ視線を前に戻した。そこには、俺の注文したクリーム色のスープが一皿置いてある。

 そんな一連の動作で俺の言わんとすることを理解したらしく、向かい側に腰を下ろすリナリーは苦笑して、何時の間に料理を平らげたのか満足そうに「ごちそうさま!」と食器を置くアレンを見た。

 そして、先ほどの俺と同じようにそろりと目を離す。

 

 つまり何が言いたいかというと、見ているこっちが腹一杯だ。大食漢の魔力って恐ろしい。

 

「こほん……それで、璃兎くんも街の南方面でAKUMAに遭遇したって訳ね?」

 

「おー。と言っても、まだその第一段階だとかいう丸っこいやつだったけど」

 

 あの女の子の皮を被ったAKUMAを撃退して以降、時間になるまでそこら中を調査したがこれと言った収穫は叶わなかった。

 そもそもイノセンスがどんなものなのかってとこから良くわかってないし、奴らが狙っているのがそのイノセンスだということであの後取り敢えず奴らを探すのに専念したが、あの一体以外は一つも遭遇していない。

 それでも十分に大きな収穫よ、とアレンから手渡された一枚の紙に目を落としていうリナリー。

 それに描かれているのは、アレンがこの小一時間で遭遇したという、AKUMAに追われていたらしい街の女性の似顔絵。

 らしきもの。

 

「アレン画伯……こいつは本当に人間か?」

 

「? はい。普通の人間でしたよ」

 

 お前無自覚かよ。

 

 というのも、そこに描かれていたのは一見してモンスター以外の何物でもなかった。

 白目だし。

 毛録に生えてないし。

 首ないし。

 

 何より極め付けに、なんと唇と目らしき多角形が顔の輪郭からはみ出していた。

 

 確か前に押入れの整理をしていた時に出てきた、俺の幼稚園時代の似顔絵もこんなんだったなあ、としみじみ。

 

 今俺たちがいるのは、最初に言っていた通りの酒屋の一角にある窓際のテーブル席。そこで休憩がてら席に着き、この一時間弱の間、別れて調査しての収穫をそれぞれ報告し合っていた。

 

「もう……こんなことなら、別れて調査するんじゃなかったわ」

 

「はは……」

 

 息衝いて、自分の方もここから出ようとして外に出るとどういう構造なのか街の中に強制返還されたという報告をするリナリーと、それを神妙そうな表情で聞くアレン。

 二人を見ていて、俺は果たしてあのことを報告すべきか否か、心の中で葛藤を繰り広げていた。

 

 決して二人を疑ったり、信用してない訳じゃない。

 けれどこの七日間──今日を入れるともう八日目だ──こっちで過ごしていて『AKUMAの声が聞こえる』だなんて話聞いたこともない。

 昔なんかあって、左目に呪いを受けて彼らの魂が()()()ようになってしまったらしいアレンは例外にするとして。

 少し冷めかけたスープを掬い、二人の会話に耳を傾ける。

 

 ──これを言ってしまったら、変な目で見られるだろうか。

 

 異物を見るような白い目が瞼の裏をチラつく。

 

「(……ダメだ、少し落ち着こう)」

 

 こんなことを考えていてもどうしようもない。

 今は任務に専念しよう。

 

 スープを口に含んで目を上げる。

 そして視界に映り込んだものに、俺はそれを流し込む軌道の選択をミスり盛大にむせ返ることとなった。

 

「ちょ!? 璃兎どうしたんですか!」

 

「けっほ、ごほ……あ、あれ……」

 

「「「え?」」」

 

 驚いてビクつく二人のうち、隣に座っていたアレンが背中をさすってくれる。

 リナリーの後ろからこちらを覗いていたその人を指差すと、二人と彼女計三人の声が見事に重なり三重奏。

 自分に集まった視線に女性が硬直していると、突然アレンがだんっ、と音を立てて立ち上がった。

 

「あぁああー!!」

 

 こら、人を指差すんじゃない失礼だぞ。

 

「こっ、この人ですよ二人共!」

 

「「……え?」」

 

 今度は俺と、リナリーの声がハモる番だった。

 そして次の瞬間、震え上がる女性の口からホラー映画よろしく大絶叫が上がった。

 

 

 ・・・

 

 

「私はミランダ・ロットー……この街の異常に気付いてる人に会えて嬉しいわ」

 

 そう自己紹介した彼女はこう言ってはなんだが、この街の異常事態に随分精神的に色々キているみたいだった。窶れてるし目の下むっちゃ隈できてるし。話を聞いた限り、彼女以外にこの現象に気付いている住人はいないらしい。

 号泣しながら説明する彼女のその話を聞いて、俺はアレンとリナリーに目配せをした。二人も、こちらを見てこっくり頷く。

 

 ミランダさん一人がこの巻き戻しの現象に気付いている。

 最近のファンタジーやミステリーに割と疎い自覚はあるが、こういう場合考えられる要因は一つしかない。

 

 それは、彼女自身が。

 

 ──……助けてくれ。

 

「!」

 

 その怪奇の発生に携わっているという仮説。

 

 覚えのある声の響き方に、弾かれたように後ろのカウンターを振り向いた。そこにはどこか不自然に四人のスーツを着た男たちが座っている。

 俺の突然の行動に三人は驚いていたが、店内のカウンター席に座る四人組を睨む俺の様子にアレンも異常を察したらしく、兵器の魂を視認するというその左目を発動させる。

 

 俺は素早くテーブルに置かれた手近なナイフを手に取り、鋭いその側面を手のひらに滑らせた。

 その行動に、ミランダさんが小さく悲鳴をあげる。

 

 席に座っていた男たちが一斉に立ち上がる。そして次の瞬間、

 

 ぴき、ぴきぴきっ……、

 

 小気味のいい音を立てて、男たちの()()()()が砕けていく。

 一瞬のうちにAKUMAへと姿を変えた彼らを見て、ミランダさんは再び甲高い悲鳴をあげた。まあこれが妥当なリアクションだろう。

 

「行きますよ、璃兎」

 

「合点!」

 

 いつの間に席を立ったのか、自身の左腕を発動させたアレンが前に出る。

 初めてまともに見るがなるほど、あの赤い腕がこういう風に変化するのか。一体どういう風にできているのか。

 

「謎だ……」

 

「璃兎!」

 

「分かってんよキャプテン、っと!」

 

「キ、キャプ……?」

 

 先ほど切った手のひらから血を飛ばして防壁を作る。それだけでAKUMAたちの攻撃が俺たちの届くことはなくなった。

 まあ、流れ弾で店は大破だけど。ごめん店長さん、請求書は千年伯爵たちに送りつければいいと思う。

 

 見たところ、敵は四対。

 その上俺がさっき壊した卵型ではなく一体一体がユニークな形をしているところを見ると、話に聞いていたそれより一段厄介なレベル2とかいうやつか。

 そもそも兵器にレベルとか面倒臭っ。伯爵せめて別の名前をつけてやるとかさあ……。

 

 止む様子を見せない攻撃を防いでいる隙に、後ろにいるミランダさんとそれを庇うように前に立つリナリーの方を向く。

 

「リナリー、ミランダさんを連れて店を出て! 君の黒い靴(ダークブーツ)ならAKUMAを撒いて、彼女の家まで行けます!」

 

「ここは俺らに任せて」

 

 大丈夫、約束は守るから。

 

「っ、分かったわ! ただし無事でこなかったら、連帯責任として一人二千本呑んで貰うから!」

 

「ええっ!? ちょ、僕もですか!?」

 

「あははは……」

 

『マテェ!』

 

「おおっ、と……逃がすかよ」

 

 黒い靴(ダークブーツ)を発動させたリナリーが、縮み上がっているミランダさんを抱えて飛び出す。

 それを見た悪魔の一体が二人を追おうとするのを見て、血で空中に小さな刃を幾つか生成し、飛ばす。向かってくるそれらに反応できず正面から貫かれたその悪魔は、叫びも上げず爆発した。

 

 徐々に散弾は止み、防御壁を崩す。度重なる爆発の爆風で巻き起こった土煙の向こうに残りのAKUMAたちのシルエットが映る。

 

 あと、三体。

 

「それが、君のイノセンスですか」

 

「あれ、見せたことなかったっけ?」

 

「初見です、よっ!」

 

 一体のAKUMAが放った鎌鼬を発動させた腕で弾き、アレンが飛びのいてくる。大破した店内で自然、俺たちは背中合わせという形になった。

 俺と向かい合うのは、三体の内一番デカい一体。なんか筋肉ムキムキで外見からして明らかにバカっぽいとはいえ、油断はできない。

 

 人殺しのために作られた、兵器であることに変わりはないのだから。

 

「背中は任せましたよ、璃兎」

 

「そっちこそ、絶対余所見しないでよ?」

 

 背後に感じる確かな存在。背中を任せられるやつがいる。

 俺一人で戦ってるんじゃないと、確証が持てる。

 

 ──ああ、なんかいいな、こういうの。

 

 この感覚を、安心感を、いつまでも感受していたい。

 けれどそれにはまず、目前の敵を破壊することだ。と内側の自分が囁く。

 それぐらい、わかってるさ。

 

 乾ききった唇に、ゆっくりと自分の舌を這わせた。

 

 

 

 

 

 Back back BACK! ▼

 

(こいつはマッチョで、あいつは鎌鼬。もう一体は……もうカボチャでよくね?)

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