ハイマ。   作:とう

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りとっ、璃兎ー!
 はいはい聞こえてるって。どうしたの”──”?
じゃじゃーん!
 ? これは?
文字! 作ったんだ。
 へぇ……すごいな。これ、どうやって読むんだ?
へへ、オレが璃兎に教えたげる!
 これはまた、ずいぶんちっこい先生だな?
なにをぅ!?
 はいはいはい。では、ご指導よろしくおねがいします、”──”先生?
うん!


郷愁ピアニズム。

 歌が、聞こえる。

 鮮明さなんて欠片もない、霞みきった視界に白が広がる。

 

 ああ、デジャヴ。

 

 目を開けたような感覚に、襲う倦怠感。

 視界が明るくて、眩しい。

 

 教団の医務室だろうか? いつの間にまた気絶したんだろう。俺ってこんなに体弱かったっけ。

 

 ぼやける視界に、写り込んだ何か四角い物。

 あれ、こんな物医務室にはなかった筈だ。

 自分がこっちに来て、ほぼ一番最初に見た景色を思い返して考え込む。

 

 ならここは、どこだろう。

 全く。こんなことはこちらに来て一体何度目だろう。そろそろムカついてきた。俺が一体何したっていうんですか神様コノヤロウ。

 

 どこからか、優しい歌声が響く。

 

 ──、────……。……───。

 

 静かな、それでいてどこか哀しい旋律。

 それでもどこか、温かい音。

 後ろに聞こえるピアノの伴奏が、やけに耳に馴染む。

 

 まるで、子守唄みたいだ。

 

 ようやっと少しは輪郭の判別ができるようになってきた視界が、あの四角い何かの前に座る人を映す。

 それでも意識は一向に浮上してこなくて、微睡みの中で問う。

 あなたは。

 

 その箱の前に座るあなたは一体、誰。

 

 ……────。──、───……。

 

 体が怠い。動かない。

 またゆっくりと沈んでいく意識に、ただ一つの思いが浮かんだ。

 

 まって。

 眠るのは、もう少しだけ待って。

 もっと、もうちょっとだけ聞いていたい。

 

 この音色を。

 この、懐かしい旋律を……──。

 

 

 ・・・

 

 

 穏やかな演奏とは打って変わって、激しい騒音に目を覚ます。

 暗く、どこか寒い空間。それなのに周りに散乱して見える調度品は明るい色合いの物ばかり。

 カラフルなのはいいが、些か不釣り合いなように思えた。宙に浮かぶ、無数の先端が尖った不気味な蝋燭。

 

 とことん一瞬前までとは相対的だなこら。

 

「ねぇ、知ってたぁ?」

 

「ん……?」

 

 少し遠いところからなんだか聞いたことのある声がして、そちらを向く。

 大きな爆煙と共に地面が揺れ、それが落ち着いたところに見えてきたのは先ほど、最後に遭遇した短髪の少女。それに伴う数体のAKUMA。

 そして、それらに向かい睨みつけるアレンにリナリー。

 

 おい待てこりゃどういう状況だ。

 目が覚めたら見たこともない場所で思いもしないシチュエーションに巻き込まれてるなんてパターン、もう遭遇しすぎて流石に飽きてきた。

 他にないのかよ。いやあっても困るけど。

 

 だんだん回ってくる頭で考えている俺の耳に、続け様に少女の声が届く。

 

「イノセンスに破壊されずに壊れるAKUMAってさあ。例えば、自爆とかぁ?」

 

 状況はいまいち理解できないが、アレン達がピンチっぽいっていうのはなんとなく雰囲気で察した。

 そして、あのちびっ子が襲撃者らしいということも。

 

「そういう場合、AKUMAの魂ってダークマターごと消滅するんだよ」

 

「! ロード、お前っ……!」

 

 険しい顔をみせるアレンに対して、そしたら救済できないねえ、と距離のあるここからでも聞こえる歓喜を声に滲ませながらいう女の子。成る程ロードっていうらしい。……どうでもいいか。

 

 以前教団に篭っていた期間中、コムイの事務仕事を手伝っている最中にいろんな話を聞かされたのを覚えている。

 

 ──AKUMAに縛り付けられた魂っていうのはね、璃兎くん。君たちエクソシストが持つ神の結晶(イノセンス)の力で兵器を破壊することで解放され、漸く自由になることが出来るんだ。だから君たちがやっているのは、決して人殺しなどではない。君たちは、神様に選ばれた、”魂の救済者”なんだよ。

 だからそれが出来る能力を持ったことを、誇りに思うといい。

 

 仕事をやっている時やリナリーがコーヒーを届けに入ってくる時なんかは特に物凄いだらしない奴ではあったが、こういう話をする時は幾分か真剣な表情を見せてきた。

 きっとそれぐらいに、肝に銘じて置くべきことなんだろうと思う。

 

 つまりたった今、あのロードとやらが口にしたことは聞き捨てならない。

 

 そいつが乗った棒切れのような物が、命じられて十からゆっくりとカウントダウンしていく。その隣に佇む見覚えのある俺命名マッチョが、大量の汗をかきながら慌てふためいているのが見える。あれが一になったら、あいつ自爆して魂消滅すんのか。

 てか、AKUMAって汗かけたんだ。

 

 突きつけられた事実に、アレンとリナリーは未だ呆然としている。

 よくよく考えてみると、アレンの左目はあの機械仕掛け達に宿された魂が見えるんだっけ。

 だとしたら自爆してダークマター諸共消滅する魂を見るのって……──なんかやばくね?

 

 思い立った瞬間から、俺は次に自分が取るべき行動がわかっていた。有言実行……はなんか違うけど。善は急げっていうし。思い立ったが吉日だ。そうしている間にも、ここから目視棒切れにしか見えない何かのカウントは続く。

 

 身動きを取ろうとして出来ないことに、本当に今更ながら俺は今の自分の状態を認識した。

 背中には半ば崩壊した壁。両手がご丁寧にもばらばらにその壁に固定されている。これでは手を引っ掻いて傷を作ることも出来ない。恐らく向こうは、俺の能力の発動条件を知っているのだろう。

 

 俺のイノセンス、『聖血(ハイマ)』は体から外部に血が出ている状態……つまり、外傷がある状態でないと使用できない。そこから外界に血液を取り出す必要があるからだ。

 

 俺の傷が異常なスピードで治るのも、それに関与している。

 イノセンスの発動を止めると、それは取り出し口として使われていた傷をもう使用済みの物だと判断する。そして必要以上に血液を漏出しない為、自動的にそれを修復する訳だ。

 つまり、俺は如何なる外傷を受けても、力を発動させてさえいなければほぼ一瞬でそれを自力修復できるという訳だ。

 ただ、それが外傷だけで内臓までは修復出来ないらしいことは少し不安要素が残る。

 

 けど残念、血を出す手段なんて他に幾らでもあるんだな、これが。

 そして、相手がそれに気付かなかったことに笑みを浮かべて。

 

 がりっ、

 

「ってぇ……」

 

 思い切り閉じられた歯で食い破られた唇から、痺れる痛みと共に血が滴る。口内に鉄の味が色がるのを確認して、俺は素早くそれで幾つかの槍を空中に造形した。

 その間も、カウントダウンは続く。

 

「三、レロ」

 

「っやめろ!」

 

「ダメ、アレンくん!」

 

「二、レロ」

 

 ……レロってなんだよ。

 聞いたこともない語尾に一度呆気に取られながら、アレンの方も限界っぽいし時間もないので、血で象った武器達にターゲットを指摘して指示を出す。

 

「行っておいで、『血痕の刃(ブラッディー・スピア)』」

 

 我ながら子供に言い聞かせるような口調だな。

 その一瞬で宙に浮かぶ槍達は猛スピードで獲物に迫っていく。AKUMAの方は必死にロードに自爆を取り消してもらおうと懇願中で避ける様子はない。

 その親玉ちゃんの方も、あんまり楽しいのか気付かずにいるらしい。

 

 間に合わないのを承知で、それでも必死にAKUMAを破壊しようとするアレンに、間に合わないとそれを止めるリナリー。

 よしよし、そのまま抑えといてくれよ。破壊の爆発に巻き込まれなんてしたら、洒落にならないんだから。

 

「一、レロ──」

 

 タイムアップを告げるその声が嫌に鮮明に響いた次の瞬間、AKUMAは悲痛な声をあげて破裂した。

 

 

 ・・・

 

 

 かぼちゃの形をした傘の先端部のゴーレムが、最後の数字に辿り着こうとしている。

 そのカウントダウンを聞きながら、ロードは目の前でもがく人間を心の底から楽しそうな表情で観察していた。

 

 さあ、その左目でこれから起こることを。

 魂がダークマターと共に奈落に落ちる瞬間を目撃したら、一体目の前のこれはどんな表情をするのだろう。

 想像しているだけで、ロードの顔に裂くような笑みが浮かんだ。

 

「一、レロ」

 

 叫びをあげる隣のAKUMAを内心鬱陶しく思いながらも、さあどんな絶望を見せてくれるのかと期待に胸を膨らませるロード。

 

 しかし。

 

 ひゅ、

 

「!!」

 

 何か赤い塊が、高速で頬を掠めて横を通り過ぎていった。次の瞬間目の前で起こる大爆発。ハッとして消えていくそのAKUMAを見やると、その魂は奈落に落ちようと──などしていなかった。

 

 ノアの一族である自分の目にも、特殊な魂は映る。

 不気味な仮面が削がれ天に向かい昇っていくその一つの魂を、アレンと同じくロードは惚けて見つめる。

 そして、犯人であろう人物を拘束してある筈の方向に振り向いた。

 その顔に、再び不気味な笑顔が浮かぶ。

 

 それは、()()()()楽しそうで、嬉しそうな満面の笑み。

 

「やってくれるじゃんかぁ」

 

 そこに佇む少年は、自身の手首に巻きついていた縄を片手に。もう一方の手には、深紅の剣を握りしめていた。

 縛られていた所為で赤く痕の残った手首を舐めていた少年が、ロードの視線に気付き顔を上げる。

 その顔に、ふっと微笑が浮かんだ。

 

「おはようさん。二度目まして、というべきかな」

 

「うん。おはよぉ──璃兎」

 

 

 

 

 

 郷愁ピアニズム。 ▼

 

(というか、そもそも今って朝なんだろうか)




原作を知ってる人が基本的に対象なので出来るだけそのまま記述せずなんとか捻って描写しようと悪戦苦闘する今日この頃。はあキツい……。←

一応ですが前話の最後のシーンがちょっとアレだったのでR-15タグ付けさせて頂きました。
と言っても、自分がようやっと十五になったばっかしなんですけどね!()

追記、歌詞の無断転載禁止とご指摘いただきました。すっかりど忘れしていました本当にすみません……!
通達ありがとうございました! 伏字……と言うか罫線で誤魔化しましたけど大丈夫ですかね……(汗)。
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