『バカと明久と怪異死譚』がまだ完結していないのに出してしまうと言う、
この有り様(汗)
本当にすみません(大汗)
でも何と言いいますか、『バカと明久と怪異死譚』は言わば原作物語シリ
ーズにおける『傷物語』ポジションで、このバカと明久と怪異奇譚は『化
物語』ポジション。本当なら先にこっちを出すべきでした(涙)
木下優子。
文月学園のトップクラスの成績者だけが属する『Aクラス』にいる、姫路さんみたいな優等生タイプ。
その特徴を分かり易く言ってしまえば『むっつり』。
僕の親友にしてエロ友であるところの性少年『土屋康太』こと『ムッツリーニ』みたいに。
しかしながら、両者には違いがある。
クラスが違う。成績が圧倒的に違う。とか、そういうのじゃなくて。
ムッツリーニは確かに『むっつり』だ。でも何でもかんでも『むっつり』というわけでもなく、言ってしまえば笑うこともあるし怒る時もある。
普段は『無表情』でも、ちゃんとそういう時に『そういう顔』ができる。それがムッツリーニの『むっつり』だけど、木下さんは違う。
木下さんは……ばっさり言ってしまうけど『感情がない』。
怒る時でも。悲しい時でも。嬉しい時も。楽しい時でも。
恐らく、憂鬱な時でさえ彼女は、木下さんは『無表情』。
人間としての感情が欠落しているかのような、謂わばそういう風な、そんな感じの『むっつり』。
普通の人間とは違う、そういう『異様な部分』があるせいか彼女には、友達と呼べる人間はいないこともないけど限られてる。
『同じ無表情タイプで、どこぞの赤毛ゴリラに恋愛的な意味で熱心なAクラス代表の女子』や『同性愛を惜しむことなく、堂々と自称する一見すると普通で真面目そうな眼鏡系男子』、『ムッツリーニと気が合いそうな体育会系エロ少女』だったり。
はっきり言って碌な友人がいないと言う点が悲しい。
僕も人のことは言えないけど。
でも優等生として、つまり彼女は『風紀委員長』なんだけど、その優秀さは非の打ち所の一欠けらもなく本物らしい。まる一日費やしても処理しきれないような書類の山を2時間程度で終わらせるスピーディーさ。
日々問題が起きてる僕の学校『文月学園』の中で起こった、様々な事件を的確に、完璧に、後顧の憂いなく解決してしまうその手腕。
故に僕と彼女の関係性には何の因果も無いし、これからもないだろうと僕は思っていた。何故なら僕が『落ちこぼれの劣等性』と蔑称されるなら、彼女は『鰻上りの優等生』と敬称されるに相応しい存在。
だからそう高をくくっていた。侮っていた。
でもあの地獄の夏休み前、もっと正確に言うなら僕があの悪魔と出会い、半分死んで半分生きてる、生と死の境界線が曖昧な怪物『ハーフゾンビ』と化してしまった、あの夏。
僕は木下さんと同じ人種の、つまり、『鰻上りの優等生』の一人である姫路さんに助けられた。それはつまり簡単には割り切れない関係性を持ってしまったということであって、今現在も彼女とは寄り良い友人として接している。
何が言いたいのか、それ簡潔に説明すると『本来なら接点のない者同士でも時と場合によってはどんな形であれ関係を持つことがある』って言いたんだ。
底辺の劣等性と頂点の優等生が必ずしも『絶対的に関係を持たない』という理由は存在しないってことを、僕はあの夏休みに嫌と言うほど教えてもらった筈だった。
なのに僕は、その教訓を完全に忘れていた。
忘れてはいけなかったのに、忘れちゃってた。
うん。さすがにこれは自分の『バカさ』を否定する僕としても『バカ』としか言い様のない、そう認識ざる得ない有り様だった。
それが原因か、はたまた別の要因があったのかは正直僕としても分からないけど、とにかく僕は木下優子という一人の少女と関係を持ってしまった。
知り合ってしまったんだ。
文月学園に入学してから一度目の夏を迎え、その季節の学業休暇を終えて。
つまり夏休みを迎えてから、あの色々と異常で異様な経験をした後の話になるかな。
その日の日付は、九月七日。
当然ながら夏休みなんてものはとっくに終わり、僕は文月学園の学生として少し遅刻しながらも登校しに来ていた。
足を小走りに動かし、その手に鞄を持って。
僕は校門まであともう少しという所まで来てはいたんだけど、ここで問題がごく当たり前のように発生した。してしまった。
眼前に、女の子がいた。
僕の親友の一人にして、俗に言うところの『男の娘』な文月学園生徒『木下秀吉』の姉に当たる女の子『木下優子』が。
別に目の前にいること自体は不思議でも何でもないよ?
まぁ。木下さんみたいな優秀で真面目な子が、少しとは言え、僕と同じように遅刻してるって言うのは不思議と違和感を覚えるけど。
でも人間、いくら真面目な優等生でもたまにはそういうこともあるものだと思うし、この時点では特に何も気なんて止めてなんてなかったんだけど。
問題なのは、この後だった。
木下さんの足取りがどこか拙く、フラフラし始め、最終的に四つん這いの態勢になったと思ったら、なんとそのままコンクリートの地面に向かって嘔吐した。
胃の中の物を出し尽くしたかもしれないっていう、そう思えるほどの量の中身を吐き出して、木下さんは倒れ込んだ。
すぐに僕は駆け寄って彼女を抱き起こす。
ここで言うセリフとしては『大丈夫っ?!』とか『しっかりしろ!』っていうのが的確な判断なのだろうけど、僕にはそれが言えなかった。
呆然としてしまったんだ。その件について『何故?』と問われれば、木下さんの顔があまりに『無表情』だったからだ。
ごく一般的に普通なら、この時点で表情としては、『顔色が悪い』になる筈だ。
でも彼女は、明らかに素人でも具合が悪いって分かるくらいの行動を取った後にも関わらず『無表情』だった。
人形のように。機械のように。そこに人間味というものは、一切一欠けらさえなかった。
「木下優子さん……ですか?」
僕の眼前にいる姫路さんは首を傾げながら、復唱でもするかのように呟く。
姫路瑞希という少女の説明を大まかに説明するとあの夏休みの時に色々助けてもらった僕にとっての
恩人って、ところかな。
今僕のクラスは僕と姫路さんの二人だけ……と言うと誤解を招く言い方だけど、全然僕達は恋人同士
じゃない。あくまでも友達同士。
じゃあ二人っきりで何かをしているのかと言うと、僕と姫路さんは放課後を利用してまで補習に明け暮れていた。こう言うと姫路も僕と同じ劣等生みたいな言い方だけど、補足を入れると彼女はあくまで
『手伝い』。
量が量だけにマジでヤバイもんだったから、仕方なしにという形で姫路さんに手伝ってもらってる。とゆーか、そもそもの原因は僕といつものメンバーの雄二、ムッツリーニで非常識な問題行為を起こし
たことだ。
内容は……いや、本当今更になって恥ずかしくなって来たから伏せさせてもらうけど、とにかくそれが原因+前科があったことが、この補習への発端となってしまったということなんだ。
「うん。ほら、やけにムッツリーニや霧島さんみたいな無表情な娘だからさ。ふと気になって」
「ふ~~ん……」
何処か怪訝な目で僕を見る姫路さんだけど、森羅万象の神々天地神明に誓って僕は別に如何わしい目的で聞いてるわけじゃない。
姫路さんとの出会いは、計画してすらない偶発的だったけどその気があったわけでもないのに。
まさしく、その『如何わしい行為』から始まってしまった。
これについては……正直これも自分の口からは語りたくないから、是非とも前作を鑑賞してほしい。
「私の知っている限りだと……『なんでもできちゃう娘』で、翔子ちゃんみたいに『あんまり感情を出さない娘』ですね」
いや、その表現は語弊があると思う。
正しくは『全く感情を出さない』が合ってる気がする。
少なくとも、あの時の木下さんを見た限りでは。僕は。個人的にそう断定してる。
「でも珍しいよね。あんなに無表情な女の子ってのも」
「そうですねぇ……でも、昔は普通に笑ってたみたいですよ?」
笑ってた。そんなことを言われても正直、どうしてもイメージが思い浮かばない。想像できない。
あんな気持ち悪いくらいに無表情な顔……こう言ってしまうのも酷い話だけど、あれが普通の人間にできるような顔なのか。
人間は楽しい時、嬉しい時、悲しい時、辛い時、どういう時であろうとも必ず顔に出るものだ。どれだけ我慢してようともそれがどうしようもない人間の事象なのだから。
でもあれは。あの無表情は。明らかに異質だった。まるで心そのものを丸々切り取られたかのような、心なんて元から存在してないと断言しているような、そんなくらいに言い知れぬ何かを思わせる人形のような顔。
「でもさ、なんでそれが今あんな感じになってるの? あーなるにしても、何か原因みいたことがあるんじゃないのかな?」
「さぁ、私もそこまでは分かりませんけど、何かあったのは間違いないんですよね」
「…てゆーか、今思ったんだけどさ。そもそも何で姫路さんはそんなことまで知ってるの?」
それは疑問と言えば疑問だった。僕の考え得る限りだと姫路さんと木下さんに何ら接点は無い筈……だとしたら、二人は昔から何かしらの関係性を持っているということになるよね?
「ああ、そう言えば言ってませんけど私、木下さんとは昔からの知り合いなんですよ。幼稚園から小今に至るまで殆ど同じ学校だったんですけど、木下さんが今みたいになったのは中学三年の時ですね
」
僕の考えは見事に的中した。
なるほど。そう考えれば確かに納得はいくけど、やっぱりどうにも木下さんのことが引っ掛かる。
なんであんな風な顔ができるのか。
中学三年生の時に何があったのか。色々な疑問がこれでもかと言った感じで湧き出るほど思い浮かんで来る。
しかしここで色々ごちゃごちゃと考えたところで、結局は机上の空論としか言い様がないのだけれど、でも僕はどうしても考えられずにはいられなかった。
いや、もっと簡単に言ってしまえば知りたかったんだ。
木下優子という少女のことを……その娘が抱えている何かを。もしその何かが凡そ人の常識では諮り得ることのできない存在。妖怪変化。怪物。魑魅魍魎。お化け。と、色々な名で呼ばれる『怪異』が絡んでいるのだとすればかつてあの身の毛も弥立つ、恐ろしい夏休みを経験をした僕としては放置することなんてできなかった。
ただの他人事なんて、到底思えなかった。
これはある意味傲慢な考えた方かもしれない。人間は時として、背負うべきではない物まで背負ってしまう傾向がある。傍から他人がどう見たとしても、自分が悪くないことは明白だったとして、けど他でもない自分自身がそう割り切ることができず罪悪感に駆られてしまう。
そういうような話を聞いたことがある…もしくは誰かしら経験しているのかもしれない人もいるんじゃないかな? そしてそれは僕も当て嵌まるんだろうと思う。
悲惨的な状況に酔って、余計で偽善的な気持ちに駆られているのかもしれない。
でも。そうだとしても。
僕は彼女の力になってあげたいと思う。そんな我欲を抑えることもできなければ消すことなんてできず、姫路さんと補習を終えた僕は時間が時間だから、下校してまた明日にでも木下さんから事情を聞こうと思い、今日その日は特に何もせず家へと帰った。
「お兄ちゃん遅い! ま~た補習を受けてたの?」
僕には妹が3人と姉が1人、そんでもって両親2人の計7人家族だ。玄関のドアを開け颯爽と駆けつけたのは妹の1人…より正確に言えば次女の吉井月美だった。
こいつのことを明確に説明するのなら、オカルトマニアだ。
非科学的な神秘を愛し、逆に科学に対して文句不満を述べ立てる本物の筋の入った愛好家。オカルトに愛着を持ち、独自の価値観や思想なんかを演説的なことのように説法してみせる変人たちは幾千五萬といるかもしれないけど、こいつほどの変人は早々拝めない気がする。
まず、オカルト絡みの事件とかそういうのを調べようとする際の行動力から説明すると、即効現地に赴いて徹底的に調べ尽くす。これだけだったら何にも変人呼ばわりされることもないが、学校にいる時でも何かを発見したり、もしくはオカルト絡みの事件を調べようという気を起こせば瞬く間にスイッチが入ってしまい、もう手がつけられない。
授業があろうと何だろうとその先に自分が望むものがあれば、そこがどれほど険しく困難な道であろうと真っ直ぐに。短絡的に。一寸先の闇さえ問題なし言わんばかりの勢いで突っ走るんだ。
そんな問題児なんだけど、頭がすっごく良い。
本当に僕の妹なのか。そう思うくらいにめっちゃくちゃ頭脳明晰だ。まぁ行動面に関してはアホとしか言い様がないけど、そしてそれは僕を異常なほど愛してやまないと断言している長女の姉にも言えたことなんだから、一層に始末に終えないのが個人的に悲しいよ。
「悲しいことにね。…っていうか、何でまたそんなに慌ててんの?」
いつもならこんな勢い過ったような出迎えなんかしないし、そもそも出迎えなんてしない。だから僕の経験則で言わせて貰えばこういう時、月美は自分的にヒットしたオカルト関連のビッグニュースの話をしたがるか、もしくは。
何か家族にとっての記念日や誕生日の時だけに限る。でも僕の考え得る限りだと今日がそんな日ではないことは明白。ならやっぱり前者が該当するな。
「今日ね! 見たんだよ! 『踏み切りスプラッター』!」
「踏み切りスプラッターぁ?」
少し胡散臭く、いやもう確実に胡散臭いと思いながらも僕は妹の口から出たその言葉を復唱した。あまりにアホらしい名前だと素直に思った。思わない方がおかしいほどのネーミングセンスは一体誰がどういう意図でつけたのかは知らないけど、妹の話を聞く限りその踏み切りスプラッターというの
は俗に言う『お化け』の類らしい。
『お化け』。『魑魅魍魎』。または『妖怪』とも言うべきそれは、生き物のような外見した奴もいれば目には見えない特殊な霊的エネルギー(オーラとかチャクラとかそういうの)だったり、あるいは一つの結果としてのものだったり。
それを専門とし生業とする人達もいて、その人達はそれらを『怪異』と呼ぶらしい。
怪異は人間の思いと異界と呼ばれる異次元世界から流出した、霊的エネルギーと結び付くことで初めて存在できる。
それはつまり人間に語られることで、種類を問わずどう思われるかってことなんだ。
言ってしまえば怪異は人間の思いから生まれる。思いが形を得たものでもある。
人の思いを基盤の骨に、異界の霊的エネルギーで肉付けすることで怪異は怪異となるんだ。
閑話休題。
踏み切りスプラッターというものを妹の説明文から聞く限りだと以下の通りになる。
・両手が鎌状のような刃物になっている
・背中から左右四本の腕が生え、その手も鎌状の刃物となっている。
・人を見つけると斬り付けて来るが、仮に斬られてたとしても痛みはない。
・痛みがない代わりに体調不良になり、その際の症状は個人による。
というものらしい。
「で、月美はそれを見たわけ?」
「うん。見た。すごい怖かった」
その割には平気そうで寧ろ未知との遭遇に心が躍っていると言わんばかりの雰囲気だし、どこか嘘っぽいような気もするけど、しかしあまりにも目が真剣であることからたぶん嘘じゃないと思う。
まぁ嘘じゃなくても、とんでもない見間違いってこともあるけど。
「へぇ~そんな化け物がいるんだ~、へぇ~へぇ~」
「……どうせ信じてないでしょ」
「いやいや、何を言ってるんだ月美ちゃん。僕は自分の妹の言葉を信じないほど器は狭くないつもりだよ?」
それに今更そういった存在を信じない方がおかしい。あれだけのことがあって、実際我が身でもって経験しといて一切合財信じないというのは、さすがに虫が良すぎるでしょ。
でもいくら怪異らしい話と言っても、それが本当に怪異かはまた別問題だ。
さすがに何でもかんでも信じるわけにはいかないよ。
「まぁいいや。とにかく私が言いたいのはそれだけだし、運悪く傷を付けられるなんてこともなかったし、うんうんよしよしだね」
「いや、何勝手に1人で納得してんのさ。大体そういう心霊スポットとか安易に行こうとしないでよ。そんな場所に行って事故か霊障、もしくはとんでもない悪質な変質者に遭ったらどうすんのさ?」
「ん~そう言われるとそうなんだけどさ~~、やっぱどうしても行きたくなるんだよね本当」
何と言うことか。これは俗に言うところの、すなわち世間一般に知れ渡ったかの有名な登山家の名言『そこに山があるから登るんだ』という感じみたいなものなのかな?
でもそれならそれで……いや、ダメだね。
やっぱりそういうところを無用心且つ好奇心目的で行くなんてどうかしてるよ。
「例えマニアとしての探究心とか好奇心であろうと行っちゃダメだって。月美に何かあったら僕はどうすればいいのさ? 僕はもう、君たち吉井家シスターズがいないとどうしようもないんだよ?!」
「うわぁ、シスコン来たぁぁ~~……マジで死んでほしい」
何故か軽蔑の視線で僕をシスコン認定して来る妹(次女)。
うぐっ。その素直な言葉が、率直過ぎているが故に心に深く突き刺さってしまう。
「まっ、とにかく踏み切りスプラッターに会えたのはもう吉兆だね。今後も遥か未来も古今東西全てのオカルトを研究しなきゃっ!」
そんなことをのたまってから月美は自室へ篭っちゃったけど、いつものことだから大して気には止めなかった。てゆーかもう、これは週に四~五回は起こる恒例パターンの一つだし。
ともかく、踏み切りスプラッターの件は十分気になるところだけど、今は木下さんだ。
明日学校に行って、それでうまく話が聞ければいいけど。
感想待ってます!