D,C,Ⅱ to リリカルなのは ~理想と願い~ 作:ゆーじ1121
物語の開始を告げる桜と雪の舞い散る深夜。
本来なら、ありえない遭遇はここに成立した。実に不自然な染め方の真っ赤なロングコートに身を包み、肩まで伸びる長い金の髪の少年と、黒と白の簡素な服にミニスカート。さらに、御伽噺に出てくる魔法使いが付けていそうな黒い外套を纏った少女。
本来なら、ありえることのない出会いは今宵、成り立ち世界は変遷していく。
「誰?」
市街地へと歩き出そうとしたところへ、出てきた少女を見上げつつ、少年は問うた。
すると、少女は僅かに戸惑いと驚きを顔に映しながらも、答える。
「僕は芳乃さくら。君は?」
「―――」
さくらと名乗った少女から、カウンターのように帰ってきた答えに、わずかに戸惑う。
決して、答えられないのではない。彼にだって親から付けられたわけではないが、名前はある。一瞬、偽名を名乗ろうかとも瞬巡するが、自分の中に生まれたそんな邪推を鼻で笑うと、しっかりと答えた。
「悠二。水無月悠二」
己の名前を。
水無月悠二…それが、彼を指す名前だ。先ほども言ったが、親がつけた名前ではなく、勝手に自分で名乗っているだけだ。
水無月とは旧暦で六月のこと。そして、名前は自分を拾って育てた師匠が名前がないと不便だなといって、適当に考え出した名前。
ーーーとはいえ、悠二はこの名前を気に入っていた。
「悠二くん?」
確認するように尋ねるさくら。そして、肯定を意味してうなずくと、すこし顔が綻ぶ。
とはいえ、警戒は解けていない。
「―――それで君はなんでここにいるの?」
そして、すぐさま質問が飛んでくる。
六歳の子供がこんな夜更けにこんな場所に居る。
それ自体が問題だ。
だが、さくらが尋ねていることはそのことを咎める様な意味ではないと思った。
「―――」
「ダンマリ?じゃあ、質問を変えるね?…なんで君から魔力を感じるの?」
その質問が、悠二の想像が正しかったと教えてくれる。
いま、悠二は魔力に対する一切の対策をしていない。
前世ならいざ知らず、いまは半分封印しているとはいえ、五百からなる魔術回路による莫大な魔力を持っているのだ。魔力殺しなどの対策をとらなければ、下手をすれば素人にすら関知されてしまう可能性だってあるのだ。
「―――理由はない、ただ歩いていただけ」
これ以上、だんまりを決め込む利点も無いため、悠二は口を開いた。
「ご両親は?」
「居ない。生憎、家族には嫌われているからな。」
六歳とは思えないしっかりとした口調と言葉で、さくらに返す悠二。
「―――アナタこそ、こんな時間にどうしたんですか?」
「うん、すこし用事があってね」
悠二が尋ねるとハハハと渇いた笑みを浮かべて、言葉を濁す。
だが、次の悠二の言葉にさくらは表情を強張らせた。
「霊脈にですか?」
「・・・っ」
その質問には息を呑み、ソレと同時にさくらの表情は瞬く間に戦闘者のソレとなんら謙遜無く険しいものへと変わった。
そして、その視線には殺気に近いものすら浮かんでいる。
そして、ソレが悠二の勘が正しいことの何よりの証明であった。
先ほどの錬成。それで偶然、この近くに霊脈の収束地があると分ったのだ。
「―――君の目的はなに?」
「さあ?とりあえず、この先にあるものですかね?」
「っ!!ルナ!!」
悠二がしてやったりと、笑みを浮かべて頷くと、彼の表情とは対照的に鬼気迫る表情へと変わり、胸元のネックレスを掴むと、ソレを起動させた。
『Yes,sir.Set up.』
彼女の意思に答え、ネックレスが電子音声で答える。
すると、わずかなタイムラグの魔方陣が足元に展開され眩いばかりの光に包まれると、さくらは服装を変えた。
「ごめんね、僕はどうしても桜を守らなくちゃいけないんだ」
手にした機械質の刀を構え、悠二に向ける。
(―――やはり、何かがあるのか)
霊脈から、カマをかけた悠二は確信する。
―――このさきには彼女が身命をかけてでも守りたいものがあるのだと。
だからこそ、悠二は捨て置くことが出来なかった。
「―――悪いが、それを聞いては黙っているわけにはいかない。
「えっ!?」
真名を唱える。すると、悠二の背後の空間が歪み、数多の武具が刃を覗かせる。かつて、穢れた聖杯戦争にて争った黄金の英雄王の宝具。
武具一つ一つが宝具の原典、威力は並みではない。
悠二も、コレと相対したときは奥の手を抜きざる終えなかったほどのモノだ。
「くっ!?」
それに、気付いたさくらは僅かに体を強張らせ、手にする刀を振りぬくために、横に振りかぶる。
だが、それを黙って見過ごしてやるほど、悠二はやさしくは無い。
「ぐっ!?」
背後の空間から伸びた鎖がさくらの足を捕らえ、さらに手を捉えて、戦闘能力を一瞬にして剥ぎ取る。
一瞬にして勝敗が決し、絶望した面持ちのさくらだが、悠二には彼女が思っているようなことをする気は毛頭無かった。
「案内しろ。約束する、お前が思っているように悪いようにはしない」
「えっ!?」
「―――」
優しく、言葉をかけると、さくらを縛っていた鎖を解き、展開していた宝具を閉じる。
そして、彼女に背を向けると言った。
「―――いくぞ」
「う、うん」
年齢にそぐわない威圧感に押され、さくらはおずおずと歩き出した。
*
悠二が眼を覚ました場所からさほど遠くない場所に、ソレはあった。
辺りのさくらが一定の間隔を保ち、その中央に主とばかりに聳え立つ巨大な桜の樹。
彼を遥か上空から見下ろす樹をみて、悠二は驚きを隠せない。
「―――ここだよ」
「あ」
「御待たせ、ごめんね?」
彼女の言いつけを守り、待っていた義之の頭を撫でて、微笑みかける。
二人を通り過ぎて、巨大な桜の樹の幹に触れると、驚きを隠せない様子の悠二が呟いた。
「―――芳乃、これは・・・」
「うん」
悠二の尋ねたことを言う前に、さくらはその意を察して肯定する。
「―――不完全な願望機。こいつを植えるなんて、正気か?」
この巨大な桜は彼女の理想を叶えるために、彼女が禁じ手にまで手を出して叶えようとした理想そのものだ。
だが、不完全。
致命的なまでの欠点が存在した。それは、叶える願いを問わないという事。
これでは、彼女の理想は叶えられることは無い。
「―――」
顔を俯け、後悔が滲んだ暗い表情を浮かべているさくらをみて、悠二は親近感のようなものを覚えた。
そして、その正体にすぐ気付いて、思わず笑みを浮かべてしまった。
「―――フッ、別にアナタを咎めているわけじゃない」
「え…?」
「ただ、君は少し、優しすぎただけさ」
自嘲の笑みを浮かべて、悠二は言った。だが、声が小さかったために、さくらには聞こえることは無い。
幹に手を翳して、魔術回路に意識を持っていくと、再び解析の魔術を発動させる。
「―――ッ!?」
瞬間、悠二はすぐに顔をしかめる。
(なんつう、量の人の意識だ…)
桜の樹。その内部へと解析のために、意識を軽く潜らせる。
―――それだけだというのに、凄まじいまでの意識の暴風にさらされ、普通の人間なら瞬く間に意識が持っていかれそうになるほど。
それもそのはず、この桜は島中に咲き乱れている桜の花弁。それを媒介に、人の夢を集めている。
島の住人は優に一万以上はいるだろう。
それだけの意識の中枢なのだから、これは当然だろう。
(だが…)
だがと、悠二は笑う。
悠二にとって、
(これをこうしてっと…)
意識の暴風を物ともせずに、中枢へと辿りついた悠二は、すぐさま解析し、構造を把握しようとする。
だが、悠二はその見積もりが甘かったことを思い知らされる。
(ふ、複雑すぎる…)
彼の予想を遥かに上回る構造の複雑さに、思わず呻いてしまう。
こうなっては、後にも引けないと悠二は必死に解析を続け、体感時間で三十分ほどだろうか?
それぐらいたった頃に、ようやく概要を把握することに成功した。
(―――ふう)
内心で、安堵の溜息を漏らしつつ、回路の一部を弄り、回路を書き換えていく。
慎重に、慎重に。余計な回路を一つでも弄れば、この樹は暴走を始めてしまう。
そうなっては、どうしようもない。
(―――よし)
糸を針に通すような凄まじい集中力で一連の作業を終了させると、意識を肉体へと戻していく。
「―――凄い…」
完全に、肉体に意識が戻ったとき、さくらが信じられないものを見るような顔をしていた。それをみて、悠二はまるで悪巧みが成功したような幼稚な達成感に満たされた子供のような顔で笑う。
さくらは分ったのだ。
樹に流れ込み、指向性を持って樹から逆流する霊脈。それの変化に。
悠二が、人目で気付いたほどにまで淀んでいたソレは、完全にとは行かないまでも、かなり澄み通っていた。
それだけでも、さくらは驚愕を隠せなかった。
「どうだ?」
ニヤニヤと人の悪そうな笑みを隠そうともしない悠二がさくらに尋ねた。
「う、うん。大丈夫だよ」
「それはよかった」
僅かにどもりながら答えるさくらの声を聞いて、悠二は自然とその笑みを深める。
まるで、『してやったり』とばかりに。
そんなとき、ふと、さくらはとあることに気づいた。
「悠二君っ!?その目はどうしたの!?」
目の前の少年の瞳に赤く巴模様が浮かんでいることに。
そして、それは悠二本人も気付いていなかったのか、すこし驚いたようで
「ん…?」
悠二も、少し驚いているのか手を見てみたり、辺りを見回してみると『ああ』と納得したように頷いた。
そして、自然に眼球へと流れていた魔力を封鎖する。
すると、巴模様を浮かべていた赤い瞳も、元の青い瞳に戻った。
「―――僕の能力の一つだ」
「―――魔眼の類?」
魔道に深い見識を持つさくらは一瞬にして、導き出した。
「まあ、そうだな」
悠二も隠すこともしないで頷くと、肯定する。
まあ、厳密に言えば写輪眼とは違うかもしれないが、魔眼にカテゴライズするなら、紛うことなき一級品だろう。
「写輪眼、僕はそう呼んでいる」
「先天的な魔眼なんて、珍しいね」
先天的な魔眼の所持者は少ない。後天的に、魔術を刻印して眼球を魔眼へと変えることも出来るが、それと先天的なソレはレベルが違いすぎる。
「---良いことなんてないがな」
自嘲気味な笑みを浮かべた悠二をみて、さくらは地雷を踏んだ・・・と思った。
なぜなら、魔術師の家系ならいざ知らず、一般家庭に生まれた存在なら、疎まれ、忌み嫌われるのは自明の理。
人は未知を嫌い、異端を排斥しようとするものだ。
「---ごめんね、悠二君はその目のせいで・・・?」
申し訳なさそうに、尋ねるさくらだが、悠二は特に気分を害した様子も無く、フッと笑うと、事も無げに答えた。
「まあ、な。まあ、この目だけのせいじゃないがな」
まるで、洒落でもいうようにさくらへと言うと桜の幹から手を離し、太い根に腰を下ろすと、疲れたように溜息を吐き出す。
あの程度の暴風とはいえ、今の悠二には流石に堪えていたのだ。
「人間、
はぐらかす様に、そういうとトランクの外側のポケットから、ガムを取り出すと口に投げ込む。
人工的な甘みが口に広がっていく中、悠二は1人、思考する。
(さくらから感じるコレは…)
―――やがて、結論をつけると、パチンと指を鳴らし、ガムを粉末状に分解すると唾と一緒に明後日の方向に吐き出す。
「さて、行くか」
不意に立ち上がり、さくらと一緒に、ここに来たときに持ってきたトランクの持ち手を掴むと、歩き出そうとする。
そして、それをさくらは少し慌てた様子で呼び止める。
「え!?…どこ行くの?」
「決まってんだろ?今晩の宿探しだ」
こともなげに答える悠二。
こんな時間に入れてもらえる宿があるのか、心底不安であったので最悪野宿を覚悟していた。
彼は野宿は苦手ではない…ができれば屋根のある普通の部屋で寝たい。彼は成人ではなく六歳という未熟も甚だしい体だからだ。
体調面も考えて、できれば野宿は勘弁してほしかった。
だが、現状では望み薄だろう。
「こんな時間に?」
「―――まあ、なんとまるだろう」
不安を、噛み殺し不敵な笑みを浮かべて、言ったが、さくらは訝しげな表情で見ると、その不安を突いた。
「まさか、魔眼での暗示でなんとかしようなんて思ってないよね?」
ギクッとアニメのように固まってしまう悠二。
考えを当てられ、思わず硬直する。
「はあ、図星みたいだね・・・」
手を腰に当てて、呆れたように溜息を吐き出す。
不意に、誰かが悠二の真っ赤なコートの裾を引っ張られる。
顔を向けてみると、義之が悠二のソレを引っ張っていたのだ。
義之の黒曜石のような黒い瞳が悠二を見上げて、言った。
「ねえ、お兄ちゃん。一緒に行こう?」
「---うれしいことを言ってくれるな」
自分より、明らかな少年の優しい気遣いに、悠二は顔を綻ばせる。
「でもな。どこの誰とも知らない僕にそんなことを言ったらだめだぞ」
「う、うん」
義之に目線を合わせるように僅かに屈み、目を合わせてやさしく諭すようにいう。
その仕草は実に手馴れていて、とても六歳ほどの少年には見えないだろう。
「悠二くん……よかったらさ、うちにこない?」
そして、僅かな沈黙の後、さくらは悠二にそんなことを提案した。
すると、僅かに目を見開き、呆れを多分に含んだ言葉で言った。
「―――正気か?」
「酷いよ!……それとも悠二くん、ボクたちと暮らすのが…イヤ?」
信じられないようなモノをみる顔でみる悠二に頬を膨らませて、さくらは抗議する。
だが、とてもじゃないがコレを見て怖いとは思えない。
むしろ、小動物的な可愛さすらある。
「お兄ちゃん」
心配そうに尋ねる義之だが、彼の心配は的外れだ。
彼は決して、嫌なわけではない。
「―――そうではない」
むしろ、内心涙を流せるほどに喜んでいる。
「申し出はうれしい。だが…」
だが、それを億尾を出さずに感情を殺したような無表情を貼り付けて、悠二は二人に言う。
「僕はお前らと暮らせるような大層な人間じゃないんだ」
とても、六歳の少年とは思えない笑みとは感じられない表情だけの笑みを讃えて、悠二は自嘲した。
『自分に暮らす資格はないんだ』と…
「そんなこと関係ないよ!」
だが、それは逆にさくらを刺激する結果になってしまったのは、彼の誤算だろう。
悠二はさくらの性格を自分のもの先で図ったつもりでいた。
だが、ソレは誤算。
「君がどんな子でも、僕にとっては僕を救ってくれた優しい子にしか見えないよ」
彼女…芳乃さくらはいままで彼が会った事のないソレこそ呆れる程のレベルの『お人よし』なのだから。
「―――僕は悠二くんがスラム出身者でも、忌み子でも、畜生児でも、僕には関係ないよ。だから、一緒に行こう?」
言葉も、意味も違うが、なぜか悠二は自分に『幸せになれ』といってくれた少女と、目の前のさくらの顔が被る。
そして、どこかであの少女が見ているような気がした。
「―――」
「僕だって、もう『普通』じゃないんだから…ね?」
魔道に関わっているというのに、ここまで明るく笑える少女に、悠二は自分の心が和んでいることに気付く。
いつのまにか、自分は柄にも無く興奮しているようだ。
―――その感情の名前は『歓喜』
「―――わかったわかった。僕の負けだ。煮るなり焼くなり、好きにしてくれ」
だから、悠二は降参することにした。
久しく、感じることの無かった感情にしたがってみることにしたのだ。
それを聞いたさくらは、満面の笑みを浮かべて、悠二の手を握って、歩き出す。
桜と雪が舞い散る、不思議な島の道を…
早速の感想、ありがとうございます。
これからも、この作品を宜しくお願いします。