D,C,Ⅱ to リリカルなのは ~理想と願い~ 作:ゆーじ1121
桜の舞い散る島初音島。
そこで、さくらという魔法使いの少女に出会った悠二は、彼女に説得され、いま、花びらの舞う桜の街道を歩いていた。
時間はすでに深夜といっても差し支えないものとなり、道行く人は全くいない。
街灯が照らす中、三人の少年少女は歩いていた。
1人は、黒と白の簡素な服装にミニスカート。そして、魔法使いがつけているような黒い外套を纏った少女…芳乃さくら
そして、彼女と並ぶように歩いている黒いシャツに身を包んだ瞳も髪も黒い六歳ほどの少年は桜内義之。
最後に、二人と少し距離を寄るようにして歩いている赤いコートを着て、身に合わない大きなトランクを持っている金髪の少年…水無月悠二。
「ねえ、悠二君」
不意に、器用に歩きながら後ろを向いたさくらは悠二に一つのことを尋ねた。
「悠くんって、呼んでもいい?」
「?」
さくらの奇妙な提案に、すこし顔をかしげる悠二。
理由がわからないのだろう。
そんな表情を察したのか、さくらは笑いながら言った。
「だって、悠二君じゃなんか余所余所しい感じがするんだもん♪」
語尾に音符をつけて、外見相応な笑みを浮かべて言う。
実際はそうでもないが、彼女の心境だろうか?
特に、気にすることも無い悠二は『やれやれ』といった感じに肩を竦めると
「好きにしろ」
諦観にも似た表情で、言った。
だが、さくらは嬉しそうなのでそれもそれでいいかと知らず知らずの内に笑みを浮かべた。
「―――どこにむかってるの?」
それから、しばらく沈黙を保ったまま、歩いていると手を握り、隣を歩くさくらを見上げるようにして尋ねた。
すると、さくらはすぐに笑顔を浮かべて、ソコを思い浮かべるようにして言った。
「いいところだよ。暖かくて賑やかでご飯がいっぱい食べられるところ」
ふと、誰かの腹の虫がなった。
そして、それと前後して恥ずかしそうに顔をうつむかせる義之。恥ずかしさからか、顔も若干、赤みがかっている。
その様子に、悠二は少し笑みを零すと、トランクのポケットから、何かを取り出すと、彼の前に差し出した。
「え…?」
「ガムと飴玉。どっちかやるよ。噛んでいれば幾らかマシになるだろう」
彼の言うとおり、手に乗っていたのは包み紙にはいった飴玉とガムだった。
「あ、ありがとう。お兄ちゃん」
「気にするな」
おずおずと言った様子でガムを取ると、丁寧に包み紙を剥ぎ取り、ガムを口に放る。
悠二も、義之が取らなかった飴玉を口にほうる。
「甘くて美味しいね!」
「だろ?」
義之の反応に、笑みを浮かべて応える。
外見の年齢は同じくらいという原因で、二人は中の良い兄弟のような印象を受けた。
それをみて、さくらが幸せそうに笑う。
「―――えっと、あの、その……」
なにかを言おうとして、思いつかないようで、しどろもどろになってしまう義之。
それをみて、なにをいうとしているのか察したようで、さくらは自分の名前を教えた。
「さくらだよ。芳乃さくら」
さくらは義之の顔をまっすぐに、そしてじっと覗き込むけれどよしゆきは恥ずかしさのあまりに目を反らす。
でも、さくらはそれを別の意味ととったらしく、顔にすこし影が差すそれを見た義之は「しまった」と後悔したような顔をしてします。
子供は純粋だ。よくも悪くも人の感情に機敏に反応する
「……さくらさん」
気恥ずかしさもたぶんにあったろうに・・でも、義之はそういった
けっして、大きな声とはいえない。むしろ、小さな声だ。
でも、これだけ接近していれば嫌でも聞こえるというものだ。
「うん♪」
そして、笑顔が弾けた。
名前を呼ぶ・・ただそれだけのこと・・のはずなのに、この人はそんなことでさえ・・ここ数年はなかったのだろう。
「じゃ、行こっか」
「うん」
超ご機嫌なさくらの言葉に頷き、二人は再び歩き出した。
それを、少し離れた後方で見た悠二はすこし複雑な笑みを浮かべるのだった。
そんな二人の様子に親子を感じてしまい、すこしの寂寥を覚える。
彼は家族というものは知らなかった。
だから、時折、それがほしくなる。手に入らないものと分っているからこそ
「ほら、悠くんもいくよ♪」
(手に入ったのかな?僕にも、家族って奴がさ・・・)
そうやって。強引に悠二の手を握り隣を歩かせるさくら。そんなこそばゆい光景に悠二はまた心中でつぶやくのだった
*
「今日からここがキミのお家だよ」
それから、三人はしばらく歩くと目的のその家へと辿りついた。
平均より、少し大きめな今風の一軒家。そんなに新しくもないし古くもない、良くも悪くも普通の家。
だが、それはあくまで一般論
(結界…)
なぜなら、家を囲むように結界が張られているからだ。
とはいえ、進入を拒むような類のものではなく、害意をもって近づけば知らせる…程度のものではある。
普通の魔術師としてみれば、異端だろう。
魔術師にとって、家とは即ち工房だ。
己の研究成果などを秘匿するために、できる限りの防御策をするのが常識。
それを考えると、先ほどもいった異端と言う表現がぴったりだ。
だが、それ故悠二は笑みを零す。
「ボクのお兄ちゃんの家なんだけどね。みんないい人だよ」
――――ピンポーン
嬉しそうなさくらがインターホンを押すと、ぱたぱたと家の中から足音が聞こえてくる。
誰かが降りてきているようだ。
そして、しばらくするとガチャリと音を立てて玄関が少しだけ開き
「…………」
薄い茶髪の少女がそこから三人を覗き込む。
大きな緑色の瞳が三人を写す。
「…………」
「じー」
「え、あ、えっと」
「じーーーーー」
「あ、あの」
「じーーーーーーーーーー」
訂正、彼女の瞳は好奇心を宿し、義之を見つめていた。
「さ、さくらさん?・・・お兄ちゃん!?」
興味津々な少女に戸惑い、傍らにたつ二人に助けを請うが
「にゃはは、こんばんは由夢ちゃん」
さくらは知らん振りを決め込み、少女…由夢へと挨拶する。
ちょっと大人気ないんじゃないか?などと思いながらも、静観する悠二。こういうときは当事者だけの方がいいのだ。
「こんばんは」
視線を義之に向けたまま、さくらに挨拶する由夢。
「この子が義之くん。この前お話した子ね、でこの子が悠二君」
「うん」
嬉しそうな笑顔でうなずく。彼女としても、家族が増えるのは嬉しいことだった。
そして、さくらは由夢の後ろへと目を向けると、声をかけた。
「音姫ちゃんもおいで」
すると
「…………」
小さく漏れる息と共に、ドアの隙間からもうひとつの顔が飛び出す。
由夢とよく似た、少女だった。由夢が髪をお団子に結んでいるのに対し、彼女は大きな桜模様のリボンで、ポニーテールに結んでいる。
だが、それが彼女に良く似合っていると悠二は思った。
「ほら、由夢。ちゃんと外にでて」
「はーい」
音姫と呼ばれた少女のほうが姉なのだろう、由夢に出るように促し、二人は扉を完全に開き、姿を現す。
由夢はピンク色の音符のワンポイントが子供らしく可愛いデザインの服に赤いミニスカート。
そして、由夢の服装とは対照的に黒と白のさくらのソレとよく似た大人びた服を音姫は着ている。
二人とも、よく似合っている。
「ボクはお兄ちゃんに話があるから、後は適当にやってね。ちゃーんと仲良くするんだよー♪」
そして、二人が完全に出たのを見るとさくらはそういって、さっさと家の中に入ってしまう。
―――若い子は若い子でね♪
そんな言葉が悠二には聞こえるようで、思わず手で顔を覆ってしまう。
そして、取り残された少年少女4人
義之は相変わらずどうしたらいいのかわかりかねている様子だが、こういう場面には慣れている悠二は一歩、前に出ると自分でも、不思議になるほどの笑顔を浮かべて、自己紹介をする。
「とりあえず、僕は水無月悠二・・よろしくな」
「「う、うん」
元々、それなりに整っていた悠二の顔は金髪碧眼へと変わったことによって、印象を変えていた。
そのまじりっけのない笑顔を直視した二人は顔を赤くしてしまう。
そして、先手を言った悠二に習うように義之が動いた。
「桜内義之です。よろしく」
握手をと、手をさす出すがその手に触れるものはなく、ぶらぶらと宙に浮いたまま。
「あ、あはははは」
そして、誤魔化すような渇いた笑みを貼り付けた義之が諦めて、手を戻そうとした時
「あ・・・」
ぎゅっと温かい感触が右手を包み込む。
「ゆめ」
「へ?」
突然、由夢からかけられた言葉に鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする義之。
「朝倉由夢」
そう言って由夢はにーっと笑った。
「あーっと、名前?」
そこで、ようやく、名前だと気付く義之。
そして、確認すると由夢はまさに花が咲いたような笑みで頷く。
「うん」
「そっか、由夢って言うんだ」
噛み締めるように呟く義之。
「そう、よろしくね……お……」
「お?」
「お……おにいちゃん達」
恥ずかしさで、顔を真っ赤にしながら由夢は言った。
「音姫」
ポツリと一言、自分の名前を告げる。
それだけ言うと、音姫は家へと入ろうとしてしまう
だが、悠二はそれを赦さなかった。
「音姫ちゃんでいいのか?」
「うん」
「ほい」
悠二がそれをさえぎると、トランクから取り出した飴を音姉の前に差し出す。
義之に渡したモノと同じものだ。
「これ・・私に?」
「ああ」
「じーーーーー」
それをみて、猛烈な視線が一つ
―――由夢だ
どうやら、彼女もほしいらしい。そんな様子に悠二は苦笑を浮かべながらトランクから同じものを取り出す。
「ほれ」
そして、由夢へと渡した。
「ありがとう!」
それを嬉しそうに由夢は受け取った。。
「まあ、お近づきの印ってやつだ」
前世のときのように声に出して笑う。
「「あ、ありがとう」」
「ああ、どうしたしまして」
至近距離での悠二の笑顔に顔を真っ赤に知る朝倉姉妹。
「そ、それよりも、はやく中に入ろう?かぜひいちゃうよ」
そそいて、それを誤魔化すように由夢は義之を引っ張って、そして、悠二はトランクを持ってそれに続くように家のなかに入っていく。
―――家に入ると温かい空気、そしておいしそうな匂いが漂ってきた
そんなごく普通である感覚に、悠二は不意に涙ぐみそうにすらなる。
だが、それを押さえ、先に進む。
下駄箱のところでつい、義之は戸惑ってしまう。
「あ、え、えっと、おじゃまします」
「ちがうよ」
由夢が義之の言った言葉を否定する。
「え?」
そして、それに戸惑う義之。
「ただいま」
「ん?」
「だから、ただいま、だよ」
由夢が屈託のない純粋な笑みで言う
「今日からおにいちゃんのおうちだもん」
「うん・・・」
由夢につられて、義之も笑みを浮かべた。
(家族・・・か)
そんな思いを抱きながら、悠二も二人に続くのだった。
口の端を、嬉しそうに吊り上げながら。