D,C,Ⅱ to リリカルなのは ~理想と願い~ 作:ゆーじ1121
あれから、数ヶ月の月日がたったある日。
冬から、春になろうという時期に初音島を駆ける存在があった。
赤い聖骸布の
桜が舞う桜並木をその存在…悠二は必死に走る。
「ハァ、ハァ」
桜が舞う桜並木を悠二は必死に走る。
(畜生・・・!!畜生!!)
心のなかで、自分を罵倒しながら。
話は、一週間前にさかのぼる。
ある日、突然として音姫や、由夢の母親・・・朝倉由姫が倒れた。
すぐさま、病院に搬送され、検査を受けた結果
―――出された結論は『原因不明』
由姫の病気は不治の病どころか、症例すら少ないらしい
病院の医者の会話を盗聴しての情報だった
そして、ある日
「悠二くん」
深夜。悠二がひっそりと病院に進入した日。
気付かれないようにしていたはずなのに、不意に由姫は悠二に話しかけた。
「……なんですか?」
「……悠二くん、ありがとう」
帰ってきた言葉は感謝。
「……感謝されるような事は何ひとつしてませんよ」
双呟くと、由姫は可笑しそうに笑い
「貴方は私を直そうとしてくれた」
そういった。
「……なんのことですか?」
当然、悠二は白を切るが
「隠さなくてもいいわよ、貴方の事はさくらさんから聞いてるわ」
まるで、すべてを見透かしたような言葉に諦めざる終えなかった
(…あのお喋りめ)
その原因がさくらにあるときき内心毒づく。
「すいません…ぼくの力不足で」
「いいのよ。私はもう、十分に生きたわ」
はなしながら、悠二は由姫の体に手を触れ解析の魔術を走らせると状態を確認する。
―――危険。体内の無数の腫瘍を確認。
―――原因不明
―――対処法、不明
結果、良くなってはいないが、悪化もしていない。
「どう?私のからだの調子は」
「ッ!?」
悠二はよほど、驚いていたんだろう
逆に由姫がすこし驚いたように「これでも正義の魔法使いなんだから♪」と微笑む
それは音姫や由夢と同じで綺麗…というより、可愛い笑顔だった。とても、不治の病を抱えた人には見えない。
それから、しばらく他愛もない雑談に花を咲かせていると不意に、由姫は表情を引き締め、悠二の名を呼んだ。
「悠二くん」
「はい」
「あの子達……音姫と由夢をよろしくね」
そういって、また微笑む。先ほどもいったが、とても、病人には見えない。
「大丈夫ですよ。あの二人は強い、ぼくの助けなんて要りませんよ」
「ええ。たしかに二人は強いわ。でも…」
『とても脆いの』と悲しげな表情で続ける由姫。ガラスのように、一つのショックを受けたら容易く折れてしまうのだと、由姫は悲しげに悠二に話す。
「……」
それは、悠二も薄々と感じていることだった。
だから、否定できない。
「もし、二人がくじけそうになったとき、二人をお願いしてもいいかしら?」
まるで、答えは決まっている問いを確認するように聞く。
すると、悠二はフッと顔に笑みを浮かべて肩を竦めると答えた。
「ああ、僕に出来る事なら…な」
「そう。どうせなら、恋人になってくれてもいいわよ?」
悠二の答えに満足そうに笑みを浮かべると、由姫は爆弾を投下した。
だが、悠二は焦るわけでも、動揺するわけでもなく笑みを浮かべたまま、答えた
「馬鹿な事、言わないで下さい。二人にはいずれ相応しい彼氏が見つかりますよ」
……その翌日
悠二が用事で居ないとき、由姫は息を引き取った。なぜか、死に顔は何とも安らかだったそうだ。
それから、迅速に葬儀は終わり、由夢はまるで滝のように涙を流し、音姫は妹に涙を見せまいと冷たい仮面で涙を隠した
悠二は涙すら流すことはできなかった。
彼としては分っていたことだった。
だが
(―――)
そんな自分に憤りを隠せなかった。
それからだった、音姫が変わってしまったのは。
なにを話しかけても「興味ない」「だからなに?」と冷たくあしらわれ、家の誰とも距離を置くようになってしまった
無論、悠二からも
誰もがその原因が痛いほどわかるため、なにも出来ないでいた。そんな今日、音姉が家出したのだ。
幸い、今日が日曜であったために悠二や義之はもちろん、普段「かったるい」と言って動きたがらない彼女らの祖父・・・純一まで加わり、朝一で捜索をはじめた
防寒に聖骸布のコートを纏い、朝からずっと、走り回っていた。
ただ1人の家族をさがして。
だが、彼のその努力を嘲笑うかのように彼女の姿は見つからない。
そして、いま彼が屋根を伝って、むかっているのは桜公園。
なぜか知らないが、そこに音姫は居ると、確信できた。
(―――見つけたぞ、音姫…)
予想通り、目的の少女は桜公園の一角に設置されているベンチに姿勢よく座っていた
その少女・・・音姫の顔には喜怒哀楽…一切の感情を感じられない
その姿は、まるで人形のようだと、悠二は思った。
近くの民家から人気のない路地へと着地し、ゆっくりとした歩調で音姫の座っているベンチへと歩み寄っていく。
「音姉…」
言葉をかけるが、音姫は振り向くどころか、反応すらしない。まるで、聞こえていないかのように。
「…」
孤独と絶望
いまの彼女を占めている負の感情
このままでは、その感情に飲まれてしまう、そんな危機感が悠二をさらに焦らせる。
「音姉!聴こえてんなら返事をしてくれ」
声を大にして叫ぶ。
すると、僅かに表情を買え、ようやく悠二を法をむくと、子供とは思えない悲しい仮面のような顔をして、答えた。
「聞こえてるよ…」
抑揚のない、感情を押し殺したような声音。
それが、どうしようもなく悠二の胸を抉る。
「こんな所に居ると風邪、引いちまうぜ?」
「いいの…」
「良い訳無いだろうが。純一さんだって、由夢だって義之だって……それに僕だって心配してんだからさ」
まるで、家出した娘を諭すような優しい口調で語りかけるが、音姫は反応を示さない。
「……」
「だからさ、帰ろうぜ?……ぼく達の家にさ」
「いや……だよ」
不意に、音姫の表情が揺れる。
仮面に皹が入るように。
「いやだよ!!だって……お母さんがいないんだもん……」
そして、まるでダムが決壊したように感情が溢れ出す
……涙
音姫にとって由姫の存在は特別だったのだ
魔法のことをしる唯一の家族
魔法……それが、音姫と由姫を繋いでいた特別な繋がり
例え、それが断ち切られたなら繋げば良い。その方法を、悠二は知っているのだから。
「このまま、病気に成れば……そうすればお母さんに会えるんだもん!!」
まるで、なにかを振り払うように悲痛な叫びを上げる音姫。
「なら、もし由姫さんにあったら、音姉はなんていうんだ?」
「え!?」
問いかけを聞いて、キョトンとする音姫。
「…あの人にあったら、お前はどうはなすんだ?」
「えっと…、私は・・・??」
しどろもどろになりながら焦る音姫。
「あの人は・・笑って逝った。なら、音姉ももし由姫さんにあったら笑って話させるように生きないとな」
「・・・君に何がわかるの?」
「―――音姉は1つ、誤解してることがある」
人差し指をあげて、そう言った。
「誤解?」
「ああ」
「この世界にはさ、割りと多いんだぜ?……魔法使いって人種はさ」
パチンと、指を鳴らすと地面が隆起し、壁が出来上がる。
彼の十八番『錬成』だ。
「えええええぇぇ!?」
それをみた音姫は浮かび始めていた涙も吹っ飛び、驚愕へと代わった。
「これ……魔法?」
「まあ、その様なもんだ。僕は既存の物質を解析して、分解、再構築することができるんだ」
「再構築…?」
さすがに、再構築という言葉は音姫には難しかったようだ。
悠二はそんな様子に少し苦笑すると、分りやすいように噛み砕いていった。
「まあ、作り替えるんだ。この壁は地面のコンクリートを組み替えて、無理やり壁にしたんだ」
「へえ~」
「そうだ、由夢や義之には秘密だぜ?」
コートから、なにか巻物のようなものを取り出すと、シュルリと広げる。
そこには、墨で描かれたような魔法陣が描かれていた。
「これって、転移の魔方陣?」
「お、詳しいね。さすが由姫の娘だな」
音姫が描かれた術式を理解すると、まるで我が子を褒めるように頭を撫でる悠二。
年齢は、音姫が三つ上なのだが、こうみると兄と妹に見えるから不思議だ。
音姫もそれを跳ね除けずに目を細めて幸せそうに頬を緩める。
音姫から手を放すと巻物を地面に置く。
そして、左手をそこに添えるとそこに、魔力を流す。すると。魔方陣は黒く輝き、なにかがそこに転送された。
「これ、ネックレス?」
「ご名答」
それは、銀で作られ、中央にルビーの飾られた手の込んだ高価そうなネックレスであった。
しかも、錆びないように『固定化』され、尚且つ『強化』されているため強度も上がっている。
そして、それを悠二は持つと、音姫に差し出した。
「これ、私に?」
「ああ」
「きれい・・」
見とれたように、自分の手にあるネックレスを見やる音姫。
その様子に、悠二も満足そうに微笑む。
「気に入ってもらえて何よりだ」
そして、自分でネックレスをつけると、なにかを思いついたように微笑む。
「―――じゃあ、御返ししなくちゃね♪」
不意に、そう可愛く微笑み手を握り込んだ。
「ん…?」
わけが分らない悠二は頭の上で疑問符を浮かべていると、音姫が握っていた手を開いた。
すると、そこにはなんとも美味しそうな大福が乗っていた。
「はいっ♪」
悠二に差し出した。
「―――驚いたな…」
まさか、和菓子が出てくるなんて思ってもいなかった悠二が目を見開いて言う。
「フフ、和菓子は嫌いだった?」
なにき憑き物がとれたような明るい笑みで、そう言う。
すると、それを見た悠二も安心したように笑うと
「・・嫌いじゃないさ」
一口に、放り込んだ。
「どう?」
「美味しいな、うん」
率直な感想を言うとそうだった。これほどの和菓子を彼は食べたことがなかった。
―――というより、彼がこの手の嗜好品に疎いのもあるかもしれない。
「あ、ありがと…」
顔を赤くしながら、礼を言う音姫。
「―――ねえ、君に聞いて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」
渡された大福を租借し終えたところで、不意に話を切り出す音姫。
その表情はどこか、由姫を思わせた。
「ん…、いいよ」
「あのね、私はね。―――正義の魔法使いなんだよ」
小さく、胸を張って宣言した。
「正義…ね」
自分以外に聞こえないような小声で、悠二は呟くのだった。
結果から言えば、これを切欠に音姫は明るくなった。
由姫のことも、自分のなかで踏ん切りがつけられたのだろう。
だが
「―――」
―――『正義の魔法使い』
このときに、音姫が言ったこの言葉に、悠二はどこか、羨望に似た感情を覚えるのだった。