Monster Hunter 《children recode 》   作:Gurren-双龍

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おはこんばんちは、Gurren-双龍です
新年あけましておめでとうございます。そしてご卒業、ご進学、ご就職おめでとうございます皆様

短編『ECLIPSE BLAZER』を除けば2019年初の投稿になります。本当にお待たせしました


第24話 舞う冥雷(くろ)、零れる鮮血(あか)、沈めし銀世界(しろ)

1月19日

 

「……知らねえ天井だぁ……」

 

 このセリフを言う時は、決まって病室のベッドで寝てるものなのだが、俺に限っては、今にも降ってきそうな氷の天井と、空との境目から覗く太陽が見えた。

 

「……スゥ……」

「……あ、真癒さん……」

 

 右肩に重みを感じて振り向くと、そこには真癒さんが俺の肩を枕にして眠る姿があった。そんな俺達の姿は、さながら電車で眠るカップルのようだが、そう思うには血生臭い物が感じられた。

 

「血は止まってる……専用の薬を使ったと言ってたが、効いてるようで良かった……」

 

 真癒さんの背中には、俺を庇ったが為にドラギュロスから受けた大きな生傷が出来ている。翼尾の爪が鎧を砕き、その破片が刺さっただけでなく爪が纏っていた冥雷が彼女の血肉を蝕みかけたが故に、その傷は見るに堪えない物となっていた。

 飲むだけでは効果が見込めないとすら見えたそれは、専用の薬の飲用に加えて『ウチケシ剤』を()()()()()()事で治癒の阻害が解かれ、自然治癒の目処が立っている。事実、眠る前よりは人間の皮膚らしさが戻っている。

 

「……うっ、流石にホットドリンクの効果も切れたか」

 

 末端の冷え込みがより強く感じた。防具を纏うことによってACCデバイスが生命維持装置を起動させてくれるため、凍傷には至ってないが、それでも確かな痺れと痛みがあった。

 

「無駄遣いは出来ない……まずは真癒さん……」

 

 痺れと痛みによって手が震えるが、落とさないよう地面につけて蓋を開ける。両手を使い、ほぼ掴めてないがなんとか真癒さんの口元にホットドリンクを運ぶ。幸い、真癒さんの頭防具(ヘッド)は口元が開いているため、飲み物を飲ませるのに苦労はない。強いて言うなら、俺がちゃんと飲ませられるか、だが。

 

「ん……んぁ……?」

「あ、真癒さ──」

「──へ?」

 

 真癒さんの目覚めについ喜びが現れ、手元が狂う。そしてそのままホットドリンクは彼女の顔面へ──

 

「あ」

 

 真癒さんはその一文字のみ発して、顔面で赤い液とビンを受け止めた。

 

「…………」

「……お、おはようございます、真癒さん」

「……おはよう」

 

 真癒さんの目覚めは、ホットドリンクに含まれる『リュウガラシ』のお陰で、実にホットで刺激的な物だったに違いない。ホットドリンクのそれとは別物の赤が彼女の顔を染めていくのが、その証左だ。

 

「──雄也?」

「イタズラのつもりではない、という遺言だけはどうか残させてください」

 

 空になったホットドリンクのビンが、砕け散りながらガルルガXヘルムを打った。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「……さて、私達の状況を整理しよう」

「……はい」

 

 無事に罰を受け、そして真癒さんの手当をもう一度済ませた俺達は、自分達の状況の整理と確認のために向き合う。確かに数時間前に喧嘩こそしたが、仕事となれば多少はしっかり抑え込む。

 

「現時刻を見るに、私達はどうやら一夜をここで明かしたみたい。幸い、一番冷える場所ではなかったから、思ったよりホットドリンクの効果が伸びてくれたお陰で凍傷の危険性も無し」

 

 タブレットのマップを開いて現在位置を確認しつつ、アイテムポーチの中身を取り出して物資の把握を始める。

 

「物資は……そんなに使う前に撤退したから消費はあまりないです」

「でも奴には……麻痺毒や睡眠毒、それだけじゃなく閃光玉までもが効かないから……実質、使い物になるのは毒投げナイフと各種回復アイテムだけだね……」

「伊達に『剛種』にして『特異個体』ではないですね……」

 

 互いに冷静に情報を読み解いていくこの時間。寝る前は凄まじく気まずくなっていたなど想像もつかない。

 しかしそうなっていたことを忘れたわけじゃない。それは真癒さんも同じのはず。何か、何かそれを話すきっかけは──

 

「聴いてる?雄也?」

「え、あ、はい」

 

 そんな思考を巡らせる俺の沈黙を、真癒さんの小さな疑問が破った。

 

「……『死地』と呼んでも差し支えないこんな所で、そんな様子の君を放っておく訳にはいかない。話して雄也」

「……っ」

 

 思わず引き下がろうとするが、手を掴まれる。しかも更に逃げようとしても岩のように重くて動けない。ただでさえ消耗した真癒さんの身体にこれ以上力を使わせる訳にもいかないので、とりあえず諦めよう。

 

「……俺は、知りたかったんです。真癒さんがそこまで恐れるナニカを。確かに、一度は待とうと思いました。でも……知りたくなったんです」

「そうだね……雄也は、疑問が出たらすぐに聞く子だったね」

「でも、真癒さんは、教えてくれそうにはなかった」

「……うん。あの時は私も、動揺してたからね……雄也は、それがどうしたの?」

「え?」

 

 思わず顔が上がる。もしかして俺は……妙なことを気にしていた……?

 

「私は、勝手に調べたこととかを気にしてたんじゃなくて……伝えることから逃げた自分を責めてただけなんだ……」

「真癒さん……?」

 

 掴む腕が離れた。

 

「……私ね、以前あの竜に会ったことがあるの」

「ってことは……」

「うん。戦って、勝てなかった。撃退自体は成功してたけどね。でも……私にはアイツへの恐怖が焼き付いた」

 

 その手には、肩には、確かに震えが取り憑いていた。

 

「あの傷を見て、私は気付いてたんだ。あれほどの黒い火傷……そんなのあの、『幻の冥雷竜』しかありえないと」

「『幻の冥雷竜』……」

 

 あの場所から逃げる去り際に真癒さんが呟いた竜の名前。

 

「……ドラギュロス剛種の特異個体は、これまでも複数の討伐報告と発見報告があるの。奴はそのイレギュラー……その痛覚を自らの冥雷で焼き殺して荒れ狂う黒い暴風……」

「痛覚を……ってことはもしかして」

()()()()()()()()。尻尾も、出血こそするけど切断出来る気配がない……それどころか、疲労に膝をつく気配すらない」

「そんな……」

 

 絶望をもたらしかねない情報。力の差は歴然。小細工も全くの無意味。その上向こうは一撃決殺はもちろん、生き残っても血肉を蝕み死をもたらす黒雷を常に振るう。……勝機は、ないのか?

 

「……とりあえず、連絡を入れてみる。運が良ければ、陽子が来てくれるかもしれない」

「はい……」

 

 結論として、俺達だけでは狩猟不可能と判断。真癒さんは重傷、俺は実力不足。真治やアニキが来ても、これほどの力の前では恐らく【第一中国地方支部】のメンバーは歯が立たない。

 血肉を蝕む殺意そのもの。それは今まで相対したあらゆる〈モンスター〉を上回る。最早『古龍』の領域。……龍……そういえば、龍属性エネルギーにはもう一つの力があると言っていた。今なら聴けるだろうか。とりあえず聞いてみるか。

 

「真癒さん、龍属性エネルギーのもう一つの性質って──ガッ」

 

 腹部に感じたことの無い重い拳が刺さる。ピントがズレたように視界がぼやける。何とか合わせて拳の主を確認しようとすると、そこには見慣れた白銀があった。

 

「真癒……さ……」

 

 やばい、途切れちま──

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「……ごめんね。でも、もうこれしかないと思うから……」

 

 初めて。初めて人を殴って気絶させた。互いの鎧にヒビは入ってない。上手くやれた。

 

「……毒投げナイフ、借りるね。奴にはよく効くから」

 

 追い剥ぎのように、雄也から投げナイフホルダーを取り外して自分の太ももに巻き付ける。麻痺投げナイフも睡眠投げナイフも置いてきていたので、付ける余白は十二分にある。

 

「毒テングダケは持参したし、何も塗ってない投げナイフもある……毒で削るには十分……」

 

 横抱きで雄也を抱え上げ、雪の少ない、なおかつ起伏の少ない場所に雄也を寝かせる。

 

「……()()()()()()()()()()()()()……」

 

 そんな独白は、誰にも届かず風と消える。さぁ、行こう。実は……ペイントが無くても私には奴が分かる。だから、行こう。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「……やっぱり、まだここにいたんだね……お久しぶり、幻のドラギュロス」

 

ギュルルァ……

 

 地面を後ろに蹴りながら、ドラギュロスは私を威嚇するように吠え立てる。お待たせ。さぁ、始めようか。

 

「そういえば、まだ使ってなかったこのお薬……まさか飲む日が来るなんてね」

 

 ポーチから秘薬とも強走薬とも似つかぬ、如何にも怪しい薬を取り出し、飲み込む。すると力が漲り、感覚が全てクリアになった。なら、やるしかない。

 

「ハッ!!」

 

 天高く双刃を打ち鳴らし、そして地平に沿うように構える。『真・鬼人解放』、発動。今の私なら、薬が切れるまでの間は常に維持出来る自信がある。吹っ飛ばされなければ、の話だが。

 

「多分、黒天白夜は有効打となる属性じゃないけど……きっと倒せる……だって私は……〈龍血者(ドラグーン)〉で、雄也の師匠だから!!」

 

ギュアァァァ!!

 

 高く飛び上がり、さしずめ獲物を狙う猛禽類のように天高く旋回し始める。この技……旋回落雷!!

 

「ここ!!」

 

 全力で走り、落雷をすんでのところで避ける。いくら生物由来とはいえ、電流の回避など常人には不可能──しかし、私は〈龍血者〉。それも、雷鳴を纏いて振るう龍の力の持ち主。()()()()()()()()の落雷の位置くらい、把握出来なくてどうする。

 そしてなにより、奴の冥雷は『純粋な龍属性エネルギー』と言うよりは、『龍属性の力を持った雷』に過ぎない。

 

ギュルルゥアァ……!!

 

 当てられなかった苛立ちを表すように、ドラギュロスが唸り声を上げる。

 

「確か、尻尾が柔らかいんだったよね?」

 

 当然着陸の位置も把握済み。奴の背後を一瞬で取り、高く伸びたドラギュロスの副尾を飛び上がって車輪のように切り付ける。

 

「はぁあぁぁぁぁ!!」

 

 当然それを見逃すドラギュロスでは無い。更に奴は本来のドラギュロスとは比較にならないほど動きが早い。だがそんなことは……()()()に嫌という程思い知っている……!

 

ギュルァ!

 

 軽く飛び上がり、そして三本の尾を地面に叩きつけて放電する。速い。が、当然見切っている。むしろその降りた尻尾が狙い目……!放電し切った尻尾に斬りかかる。

 

「フッ!フッ!ハッ!!セイヤァ!!」

 

 乱舞・改をその三本の尾に叩き込む。旋風まで行きたいが、この竜のスピードの前では、到底そんな暇はない。すぐさまバック宙の要領で後ろに飛び退く。

 

グルルル……ギュア!

 

 こっちを振り向いたドラギュロスは、「これならどうだ」と言わんばかりに、翼爪に冥雷を纏わせ、バックジャンプをする。この技は……三対の交差する冥雷……!流石にこの壁を超えるのはリスクが高い。となれば一つ。距離を取り、まだ使ってなかった毒投げナイフを撃ち込む。ナイフホルダーから四本掴み、三対の冥雷の壁の隙間を縫うようにドラギュロスに向かって投げる。左翼、左翼肩口、折れた角、右翼、命中確認。

 

ギュルルルル……!

 

 今度は滑空。しかし脇がガラ空きだ。きりもみ回転するように脇を通り過ぎ、そしてその回転を利用して奴の翼を斬りつける。

 そして通り過ぎて振り向くように着地したドラギュロスは、またしても当てられなかった屈辱を表すように吠え立てる。

 しかし距離が開きすぎた。投げナイフを使おうにも、毒投げナイフ以外はそもそも置いてきたし、雄也の持ってた他の投げナイフだって嵩張るから持ってこなかった。毒で奴を削ることが一つのダメージソースなため、自由に投げられる投げナイフはもうない。()()()()()をすればこの遠距離も無視した攻撃が出来るが、属性エネルギーの塊をぶつけるそれは、私の黒天白夜の属性と奴の属性を考慮すれば、大したダメージは期待できない。むしろ、それをすることで激しく消耗し、『症状』が悪化する可能性が高いのだから、デメリットが大きすぎる。

 

「……こんなに激しく戦うの、【第一中国地方支部(こっちの方)】に来る前以来だね……こういう時は誠也だったり陽子だったり……あるいは雄也と真治がいたもんね……」

 

 意味もなく双剣を指で回す。悪い癖だ。陽子に以前『物凄く余裕な時か、物凄く追い詰められてる時にだけしてる』と言われたことがある。この状況なら後者……なのだが、何だか心は前者のそれのように思えてくる。さっきの冥雷の一撃で、自分の中のどこかが壊れたか?とつい疑ってしまう。

 

ギュルルァァア!!

 

 冥雷ビームの構えを取ってきた。奴のビームは三連続な上に、『幻の冥雷竜』と呼ばれる奴のそれは、恐ろしい程に高速化している。息付く間もなく、動く他ない。

 

ゴォアァ!

 

「ふぅっ!!」

 

 一発目。ドラギュロスに対し垂直の向きに走りながら、そのままステップを踏み、射線を逃れる。

 

ギュラアア!

 

「こっ……のっ……!」

 

 二発目。同じ向きのまま走って射線から身を外す。

 三発目を放とうとするドラギュロス。しかし今は奴ではなく、目の前に立ちはだかる岩壁に目をやる。当然、このままでは避けきれない。だが侮るな。私は〈龍血者〉、仮にも古龍という超常の力を宿した存在。であれば、飛竜如きに翻弄されたりなどしない。

 

ギュロロルァァ!

 

「はぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 ビームが放たれる直前で、立ちはだかる岩壁を駆け上がりそして──

 

「私はこの時を……待っていたんだぁぁぁぁぁ!!」

 

 左の白い剣、白夜に大量の龍力を注ぎ込む。『白光』、そして『白雷光』よりもより大きく、深く、そして詰めるように──

 

「『龍妃の(ジーク)』……『白翼(リンデ)』……!!」

 

 〈滅龍技(グラム・アーツ)〉、『龍妃の白翼(ジークリンデ)』。純白の雷光で出来た刃は今、奴の首筋を──

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

「──はっ!?」

 

 知らない天井……なのは少し前の話だ。ここはさっき真癒さんと寝てた場所だ。あの時俺は……真癒さんとの蟠りを解く機会を探して……情報交換して……援護を呼ぼうとして……そして……

 

「そうだ、真癒さんにいきなり腹パンされたんだ……いねぇ……ってことはまさか!!」

 

 念の為ホットドリンクと強走薬を飲み直して走り始める。また口の中が毒沼みてぇなことになった。

 ACCデバイスには真癒さんの位置情報が載っている。そしてそのアイコンは『Active(戦闘中)』の表記、つまりドラギュロスの元にいるという事だ。

 

「馬鹿野郎……陽子さんを待てばよかったのに……!!」

 

 途中でギアノスやブランゴ共に見つかったが、どうせドラギュロスには効かない閃光玉などを使って無理矢理退け、真癒さんの元へ走る。頼む、間に合ってくれ。全てが手遅れになる前に──!

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

「はぁ……はぁ……真癒……さん!!」

 

 ポイント地点近くに辿り着いた。ドラギュロスにいきなり襲われるかもしれないほど大きな声を上げたが、今はそんなとこまで頭は回ってない。むしろ真癒さんを殺させまいとする事しか考えれてない。

 視界は悪い。吹雪いてるせいで真癒さんもドラギュロスも見えづら──いや、ドラギュロスはたてがみが朱く染まっていたからまだ見える方だ。ともかく、白に紛れた白を探す。

 

ギュルルァァア……!

 

「この声は……!」

 

 冥雷竜の呻きが聴こえた。となれば……!

 

「真癒さん……真癒さん……!!」

 

ひ人影が見えてきた。いかにも見慣れた、白に小さな赤と黒の混じった人影だ。

……一つ、違いがあるとすれば──

 

「真癒……さん……?」

 

 ──彼女が手で口を抑えながら、足元に大きな血溜まりを作っていることだろうか。

 

「雄……也……!?」

「真癒さん!!」

 

ギュルルルラララァ……

 

 そしてもう一つ、()()()()()()()ドラギュロスが、痛みに呻いていた。首筋近くから夥しい血を流しながら。

 

「なんだよ……これ……!?」

 

 まだ知る由もない、世界を揺るがす『龍』の力の死闘が、ただただ目の前にあった。




次でドラギュロス戦も大詰めになります

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