Monster Hunter 《children recode 》 作:Gurren-双龍
フロンティアは終わりましたが、相変わらずこちらのフロンティアモンスターは生き続けます
書き直した第26話『最終カウントの幕開け』も読み直してね
8月13日
「……さて、こっちか」
真治の策略によってやむを得ず──と言うには、嫌々ではなく納得してるからこの表現は違うかもしれんか。ともかく、冬雪姉妹と一緒にお出かけすることとなり、繁華街まで来た。
「……そういや、あん時以来か、こんな風にここに来るの」
ざっと二年前。つまり訓練生から正式に〈ハンター〉としての仕事に就けるようになった頃。姉を独占してるという不当かつ身に覚えのない罪で突然買い物にも付き合わされたことがあった。あの時は慣れない場所に加えて、今よりもっと小さい身体だったので、改札付近を通ることすら大苦戦した末に二人の元に着いた記憶がある。
「んで、あん時の真治は……マジでガキだったよなぁ……ツンケンしてるなんてレベルじゃなかったし」
「アタシが何だって?」
背後から何か突きつけられた。察して両手を上げる。
「今の真治は落ち着きのある素晴らしいレディですねって話」
「……アンタも随分、昔より喋るじゃない?」
「確かにな……ってか、真癒さんと待ってたんじゃねえのか?」
「……いつものよ」
察した。いい加減目覚まし時計を核爆弾にした方が良いんでは無いのか?
「ともかく行くわよ。というかあっつい……」
「あ、突きつけられたのボウガンじゃなくてペロキャンの棒か……?」
「さて、どっちかしらね?」
「……せめて良い方の想像をしておく」
「その方が健全ね、色々と」
最近ハマったらしいペロキャンを口に咥えて歩き始める。そして同じく、最近気に入ったのを見つけたらしい緑色のパーカーとその下にラフなTシャツ。そしてホットパンツ。いつも通りのラフさが売りな姿であった。
「あー真治? その……似合ってる」
「……夏風邪引いてたんなら帰っていいわよ?」
「人がいつぞやのアドバイス通りに動いたらそれかオメーは」
「嘘よ。ありがとう」
「へいへい」
並んで歩く。どうせすぐ近くの噴水で真癒さんと合流だが。
「ん、あれか」
「……年甲斐もなく手を振ってる……のはいつもの事かな」
「年甲斐もなくとか言ってやるな……地味に、真癒さんにとって久しぶりの外出だろうしな」
病状悪化してから既に7ヶ月ほど。あれから全く外に出てない訳では無いが、やはり彼女は病人。外出は一ヶ月に一回と限られてる。これほど低頻度の外出は、久しぶりと呼ぶには充分なほど期間が空いている。まあ休みに関しては、元々のオペレーターさんがいる分そこそこあるのだが。
「お待たせお姉ちゃん」
「真癒さん、あまり日に強くないんですし、無理してここで待たなくても……」
「大丈夫だよ、噴水が霧みたいになるから涼しいし」
「いえ日光が……」
「さっさと日陰に連れてきゃいいのよ」
真治は問答無用と言わんばかりに、俺と真癒さんの手を引いて歩き始めた。今日はいつもより強引だ。昨日もまだ俺達が拗れてたから、なのだろうか。今日は終始真治のペースになるだろう。
「あはは……真治、お昼ご飯行こっか。何食べたい?」
「お姉ちゃんにお任せ!」
「じゃあ雄也」
「これと言って決まった気分じゃ──あぁいや、なら……この店に行きましょう」
真治の睨みが入った。というわけで、適当に思いついたイタリアンを選んだ。まあチェーン店だが。
「アタシはそれでいいわ」
「私も賛成。久しぶりにピザとかパスタ食べたいなぁ」
「では行きますか」
いつもの調子が、みんな出た気がする。
◇◆◇◆◇
「いただきます」
注文が出揃った。さて食べるか。フォークとナイフをしっかり揃え、いざその麗しい肉塊に刃を向ける。
「……あんた、ここですら『モスの煮込みハンバーグ』なのね……」
「違う違うよく見ろよ。『モスのチーズ&煮込みハンバーグ』だ」
「少なくとも一個はあるんじゃない……」
「あはは……二人とも冷めちゃうよ」
いつも通りモスの煮込みハンバーグ……だけではせっかくの外食が勿体ないので、チーズハンバーグもセットの物にした。美味そうだ。パチパチと跳ねる油やソースが食欲を湧き立てる。セットにしておいたライス(大)と一緒に食べればどれほどの物になるやら。検討もつかないほど美味そうだ。つい二回も言っちゃうくらい美味そうなのだ。
「にしても……まさか二つとも頼むとは」
「だって雄也が譲らないし」
「何せ真治が譲ってくれませんので」
「あはは……私が〈
そんな真癒さんの目の前には、あっさりさとまあまあの量がある物を、ということで俺からはカルボナーラ、真治からはグラタンを選んだ。が、どっちが良いとも決まらず、結果として二つの料理が並んだのである。真癒さんの腹の容量を知らない訳じゃないが、残ったら自分が代わりに食べる位は出来るので、多分大丈夫だ。真癒さんは食べ切れるだろうけど。
「それじゃ、いただきます」
「「いただきます」」
頂く食材という命への感謝の言葉、食事にとって当然の挨拶と共に、食器類を手に取る。まずは上側に乗っているチーズバーグの方から。フォークで刺し押さえ、ナイフで切り取り、口に運ぶ。
「……!」
最早何も言うまい。ただこの瞬間を味わっていたい。素晴らしい肉感と肉汁、甘さも辛さも整ったこのソース、そしてそれと絡み合うチーズ。全てが素晴らしい……一介のチェーン店と侮ることは無い。美味い、旨い。食事が楽しくて仕方ない。
「……ほんと、アンタの食べっぷりはいつも満腹になりそうよ」
「ん? 食べねえのか?」
「食べるわよ。あーもう、なんか悔しいわね、そこまで美味そうに食べられると」
「?」
何を張りあってるんだ? 真癒さんの方を見ても苦笑いしてるだけ。まあいいか、旨い飯は気にせず食べるが一番である。
「ふふ、私もいつもより食べられそうかな」
「ええそうね……カロリー気にしてるのが馬鹿みたいに思えるわよ、全く」
何故だか文句を垂れながら、真治も飯を食い始める。どうやら俺に向いてるようだが、よく分からないし飯が旨いので気にしないでおこう。
「美味しいねえ」
「いつも支部の食堂じゃ飽きちゃうし、たまにはこういうのも良いわね」
「……!」
やっぱりハンバーグは米と合う……あぁ……ビバ、ハンバーグ……ハンバァ──
「ちょっとトイレ行ってくるね」
「……アタシも行こうか?」
「吐血じゃないよ!? 本当にトイレだよ?」
「そう、なら行ってらっしゃい」
「何かあったら、すぐ言ってください」
「ん、ありがとう」
真癒さんが席を立つ。以前は真癒さんが席を立つ時は、大抵血を吐く時だった。最近は戦闘を行ってないこともあってほぼ吐いてないらしいが、それでも三年間ずっと血反吐を吐いてそれを隠してたので、一人で動くともなれば心配もする。如何に食事に夢中でも、そこの切り替え位は出来る。
「……ふーん、飯食ってたらあんまりゴチャゴチャしないのね?」
「ん? ……言われてみれば、だいぶ余裕持って会話出来たような……?」
「そういや、ご飯の時すらお姉ちゃんを避けてたわねアンタ……ホント、筋金入りの頑固ね」
「そういうお前こそ、あそこで滅茶苦茶強引になりやがって。……まあ、別に良かったけどさ」
一緒に頼んでたドリンクバーのメロンソーダを啜りながら文句を返す。まあ、確かに飯食った後の余裕のお陰で、ドラギュロス戦の前くらいの調子に戻ったような気がしないでもないが。
「……はぁ……アンタ、飯食ったらすーぐ機嫌よくなる単純だからもっと早くするんだった……」
「おい待て確かに飯は好きだがそこまで単純扱いされるのは心外だぞ」
しかし抗議は受け入れてもらえず。真治はどこ吹く風で白ぶどうソーダを飲み始める。なんか悔しいしもう食べるか。
「あ、そうだ。アンタあれ忘れてない?」
「アレ……あ、そっかこの時期は……」
「覚えてるみたいね、
8月31日。真癒さんの誕生日だ。最初の年は知らなかったので何も出来ず、去年も去年で、上位から凄腕ランクへの鍛錬で大したプレゼントが出来なかった。……もしや真治の奴、このためにこのタイミングで……?
「……そうだな……何がいいかな……」
「アタシはアタシでやるけど、アドバイスくらいは聞き入れるわ」
「……その時はそうさせてもらう」
「素直でよろしい」
再び飯に手を付ける。……誕生日プレゼントかぁ……去年はよく分からず似合いそうな靴下をあげたっけ。……なんで靴下を選んだんだ俺? あとあげた癖に気にしなさすぎて履いてたかどうか覚えてないし。
「……アンタのあげた靴下なら、必ず週一で履いてるわよ」
「そうか良かった……って、お前まで心を読むのか……」
「アンタは顔に出ずとも雰囲気に出やすいのよ」
「……訓練しなきゃなぁ」
「お姉ちゃんはその分野分からないと思うわよ」
「そっかぁ……」
俺の返事で会話が終わった感じがした。お互いにそれを感じたのか、食事に戻る。さて、次は煮込みハンバーグの方を……
「……ッ!」
…………ハンバァ──
◆◇◆◇◆
「はぁ……ツイてねえなぁ……俺だけまた仕事とはよぉ……」
俺は
「……ここかぁ!?」
(周り曰く)デカい声で確認する。今日の仕事場は鍾乳洞。なんでも、夜の内に爆破されたのか、ってくらい荒れてたらしい。しかも県内でも有数の観光地の一つとして知られていた鍾乳洞。損害はかなり大きい。危険性から、自衛隊だけでなく俺までお呼ばれされてしまった。
「ええ、ここなのでデカい声は辞めてください」
「あっ、すみません……」
先に来てたウチの調査員に怒られてしまった。普通のつもりだが仕方ねえ。気を付けるしかない。
「(そ、それで……なにが……?)」
「小さすぎです。もっと丁度いいの無いですか?」
「あーあー……これでいいすか?」
「はい。では本題に。まずはこちらへ……」
歩き出した調査員に着いていく。なんか切り替えた途端にすげー表情かおしてたが……何があったんだ?
「……あちらです」
「…………なぁっ!?!?!?!?」
俺達が来た鍾乳洞は、まず河川を挟んで河原から橋を通って入るのだが。その橋が途中から消し飛び、入口は大きく抉れていた。それこそ、〈モンスター〉が入れそうな程のサイズだ。
「まさか……」
「今回の原因、〈モンスター〉の可能性が高いんです。相手を特定次第、もしかしたら【関東支部】への応援を要請する可能性もあります」
「陽子の姐御まで呼ぶかもしれねえのか……?」
岸野陽子。二年前に『覇竜アカムトルム』の討伐作戦で鬼神の如き活躍をし、世界的にも『最強』の一人に数えられるほどの〈ハンター〉。姐御を呼ぶ事態となると、それこそ相手は──
「おいおい嘘であって欲しいな……」
「その為に、来て貰ったんです」
「おうよ。まずは爆破された部分を見ねえとな」
同じ気持ちなのか、調査員も現場に向かう。案の定ボートに乗る必要が出たか。
「しっかし……きれいな水だな」
「鍾乳洞は水場が近いのと、綺麗な地下水も関係してるはずなので」
「なるほどなぁ……」
思わず飲みたくなるほど透き通った水だが、ボートから手を伸ばして濡らすだけにしておくか。
「あったけえなぁ……ん? なんだこれ?」
「着きましたよ。どうしたんですか?」
手に付いたモノを見ていると、調査員が立ちながらこっちを見ていた。
「ん? いや、なんか
「砂金? そんなものはここの辺りにはないような……どれどれ……本当だ、砂金みたいですね」
手に付いたそれを見せると、彼も同じ反応をした。どうなっているんだ? それに、こいつを見てると妙にザワつく。俺の勘が『こいつは何かある』と告げてくる。
「ったく……訳わかんねえな……見てみたら分かるかねえ?」
「ですねえ。すみません、【ハンドルマ】の者です」
調査員が身分証を見せると、貼られたテープの前にいた警備員が通してくれた。お疲れっす。
「まだ誰も入ってねえのか?」
「危険性が高すぎると見なして、ウチから警告したからね」
「……支部長の旦那はそんなに事態を重く見てんのか」
支部長の旦那は、姐御の
「……変だな?」
「何がです?」
「……〈モンスター〉が荒らしたにしちゃ、随分綺麗に削れてんな?」
「……確かに」
入口も橋もだが、力ずくで壊したと見るにゃ丁寧な破壊がされたような感じだ。というかまるで
「……ん? また砂金じゃねえか」
「本当だ、なんで……」
「……ッ! これは!!」
中に入ろうとすると、光が反射してきた。電気系も壊されてる今、光るモノなど反射してきた光しかない。だが鍾乳洞に光を綺麗に反射するほどの鍾乳石はあるのか? まずない。というかこれは……
「け、……結晶!?」
あまりにも不自然な、透き通るような結晶がいくつか点在していた。しかも、かなり大きくなって震えている。いかんこれは!!
「下がれ!!」
ベルト型のACCアームドカスタマーコンパクトデバイスを起動して装備、即座にガンランスのシールドを構える!
「伏せろ!!」
瞬間、爆ぜた。
「ぬぅっ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
衝撃を受け止めきったが、今度は入口の警備員が爆音を心配して見に来た。こんな時に!!
「伏せろ!! 今すぐ!!」
「は、はい!!」
またしても爆ぜる。これで二個目。見える限りではこれで残り一個!!
「くっ……動くなよ!!」
範囲ガードモード起動! これで耐える!!
「おおおぉぉぉぉ!!!!」
三度目の爆裂。一、二発目より離れていたため何とか耐えられた。
「あっぶねえ……」
「誠也さん、今のは……」
「やべえぞこれは……支部長の勘が当たっちまってる!! 今すぐ戻るぞ!! 陽子の姐御も呼ばねえと!!」
「誠也さん!?」
装備を解除し、支部に連絡を──
「俺だ!! 常磐だ!! 支部長に連絡を──」
『こちら司令部!! ポイントエリアに出動お願いいたします!!』
こちらの要件と運悪く被った。しかし出動ということは〈モンスター〉の出現だ。それはいい。確認してすぐに連絡を──
「なっ!? そこかよ!?」
今日は、どうにもツイてない。
◆◇◆◇◆
「食った食った」
「オッサンか」
一介のチェーン店でも、美味いものは美味い。良いもんだな。
「あはは……それじゃどこ行く?」
「んー、一応デパートあるしそこにしよっか」
「この手のプランの立て方知らねえんで、任せた」
「はいはい」
真治主導の元、デパートに向かう。さて……ここで買っちまいますかねえ。何買うか決めてもないが。とりあえず真治に聞くが早い。
「なあ真治」
「あげるものの方向性くらいは自分で絞りなさい」
「……うっす」
先手を打つのが早すぎる。また顔だか雰囲気に出てたとでも?
とはいえ、真治の言う通りだ。流石に方向性も絞れてないのに相談されても限度があるだろう。しかしまあ上げるとしたらなんだろうか。去年は靴下。今年は……もうちょいオシャレなのあげたい。つまりアクセサリーの類だろうか。何がいいだろう。ネックレスとか指輪は流石に値が張りすぎるし、何よりこれらは、男女の間柄でないと良くない気がする。だからパス……他に思い付くのは……
「なぁ真治」
「まあ無難にヘアピンが良いんじゃない? 選ぶの手伝うわよ?」
「お前はなんでそう思考を読めるんだよ……」
真癒さんのように〈龍血者〉という訳でもなし、本当に俺があまりにもわかりやすい故なのだろうか。ここまでだと流石に別の理由を疑う。
「何色が良いかな……アンタはお姉ちゃんに付けてもらうなら何色のイメージが湧く?」
「そうだな……真癒さんの髪の色や目の色からして……」
目の色からイメージして赤系? それともあの銀髪に似合う青みのあるカラー? それとも……
「……よし、この色どうだ?」
「良いんじゃない? お姉ちゃんのイメージにも合うと思う」
「よし、これにしよ」
「……ホント、即断即決ねアンタの買い物は」
「うじうじ悩んで決められないくらいなら今ピンと来たものを選ぶ。選ばない後悔より選んだ後悔だ」
それもいいんじゃない、って感じで納得した真治は、自分のプレゼントを買うためにそそくさと歩いていった。まあ俺もあとは会計して待つのみだから良いのだが。……そういえば真癒さんはどこだ?
「何買ったの?」
「わっ!? ま、真癒さん……」
「それ……誰用?」
「え、えっと……【関東支部】に仲のいい人がいるんで! もうすぐ誕生日だしプレゼントでもー! と!!」
「ふーん」
まあバレてるだろう。しかし表面だけでもそうするわけには行かないのだ……!
「そっか、また次の出張で渡せるといいね」
「そうですねえ……まあ次の出張も決まりませんし、とりあえず郵送になるかな……?」
「そっか」
そこで会話が終わった気がした。そして、真癒さんの顔が心做しか曇ったような──
「真癒さ──」
もう一度話しかけようとした刹那、ACCデバイスが震えた。司令部からの通信だ。
真癒さんと顔を見合わせる。彼女も神妙な面持ちだ。
「……こちら上田」
『こちら司令部!! 緊急出撃です!! 間もなく指定エリアに〈モンスター〉の出現が予測されます!!』
「……ッ! ここは!?」
指定エリアは、俺達のいる街だった。しかもこう伝えてきたということは、ダミービル群に誘導することも難しいのだろうか。
「相手は?」
『波形パターンとの照合の結果、飛竜種と思われます! しかも……二体!』
「アニキ……誠也さんは?」
『彼には先に伝えてます! 急いでください!』
通信が切れる。エリア指定のビーコンだけが残された。……確かに、俺達の現在位置からそこまで遠くない。俺達の全力疾走なら五分とかからない場所だ。間もなく警報も鳴り響くだろう。
ヴィィィィィィィ!! ヴィィィィィィィ!!
「真癒さん……」
「私は迎えが来るから、ヘリで支部に戻るよ。それより雄也、物資は大丈夫?」
「真癒さんの迎えのヘリからある程度貰えるので、そこから」
「雄也! お姉ちゃん!!」
鳴り響く警報で人々が逃げ惑う中、何とか掻い潜って真治が合流してきた。あちらも買い物を終えたのか、袋を持っていた。
「真癒さんはヘリで戻るらしい。恐らく物資もそこにあるだろうし、貰っていこう」
「分かったわ。アニキも後から来るのよね? 急ぎましょう」
頷き、走り出す──真癒さんを抱えて。
「え、雄也!?」
「今の真癒さん、龍力そのものがダメなんですから俺達に追いつけないでしょ」
「仕方ないけど、暫くは雄也のお姫様抱っこでお願いね?」
「……なんかすみません」
「……はーい……あ、ここの屋上に来るよ」
「了解!」
屋上か。まあこの人混みを抜けるにはちょうどいい。幸いここはそれなりに高い階、階段を上るにしても上にいる人はそんなに多くないし、階段も複数ある。なんなら壁走りで駆け抜けることも出来る……はずだ。
「む、来たか」
「壁で飛ぶわよ!」
「お、お手柔らかにね!」
一般人の客が上の階から階段で降りてくる。いくらかはエスカレーターやエレベーターを利用しているだろうが、それでもやはり多い。壁で飛ぶしかない。何度か経験してるから行けるが!
「くっ!」
「ふっ!」
「二人とも……手馴れてるね」
真癒さんから感心したような声が上がる。訓練の成果を間近で見るのは、真癒さんからしたら久しぶりだろうしな。
「次の階が屋上ね」
「よし、もういっ──」
ふと、何か聞こえた。〈モンスター〉の咆哮の類でもない。むしろもっと弱々しい──
「……真治、真癒さんを頼む」
「え? どうしたのよ!?」
「迷子がいる。しかも、逃げてる途中にはぐれたかもしれねえ……今すぐ行く!」
「ちょ、ちょっと!」
「雄也」
行こうとして、真治に渡した真癒さんに呼び止められる。その目は、ドラギュロス戦あの日のように真っ直ぐだ。
「助けたいって、決めたんだね?」
「はい」
「後悔しない?」
「しません」
「絶対に?」
「……はい!」
「なら、早く行ってあげて」
無言で頷き、駆け出す。方向は何となく覚えてる。確か……
「……いた! 君、大丈夫!?」
ベンチに座って泣く女の子が、聞こえた通りそこにいた。幸い人の波から外れてるため、巻き込まれて怪我をした様子もない。
「……喋らなくてもいい、頷くだけでいい。お母さんとはぐれた?」
頷く。となるとやることは一つ。
「分かった。なら、俺が下まで一緒に行こう。立てる?」
「……ん」
信じてくれたようだ。よし、急ぐか。
「ごめんね、いい?」
「……ん」
抱え上げるジェスチャーをすると、分かってくれたのか返事してきた。よし。女の子を横抱きに抱え、階段に目を向ける。強いて言うならお母さんも見つけてあげたいが、流石に時間がかかりすぎる。せめて安全な場所──避難シェルターに送り届けよう。
「ちょっと揺れるね」
「うん」
「それじゃ……行くよ!」
天井、壁、様々な部分を確認し、踏み込む。これらは、度々こちらを見に来ていた陽子さんから教わった『障害物を利用した高機動力の確保』の応用だ。苦労はしたが、今ここに実を結んでることを実感する。
そして同時に、ACCデバイスに通信が入る。参ったな、今は両手が塞がってる。仕方ない。
「ごめん、俺の腕時計の大きいボタン、押せる?」
「えっと……これ?」
「うん、お願い」
押してくれた。お陰で通信が繋がる。
「こちら上田。真治か?」
『お姉ちゃん回収してもらって物資も貰ったわ。今どこ?』
「早いな……今女の子抱えて一階まで飛び降りてる。もうちょいでシェルター近くに着くぞ」
『そ、ならアタシもそっちに行くわ。アンカー使って壁を駆け下りる』
「……陽子さん仕込みのお陰で随分色々できるようになったよなぁこういうの……」
前ならヘリから飛び降りようとしてたろうけど、こういう返答な辺りに修行の成果を感じる。
『とりあえず、降りたら連絡またちょうだい』
「おうよ。あ、出現まで時間あるよな?」
『そうね……飛竜二体ともなればあと一時間は猶予があると思うけど……』
「なら行ける。なんなら一度支部に戻っていいまであるな?」
『気ぃ抜くんじゃないわよ』
へいへい、と返事しつつ、階段の踊り場の階数表示には『1F』の文字があった。目的達成。シェルターへはここからなら余裕だろう。
「降ろすね?」
「うん」
「さて……お母さんとすぐ会えるか分からないけどさ、シェルター……避難する場所の方まで行けば、きっとお母さんもいる。そこまで頑張れる?」
「うん」
「よし、あそこのお兄さんに聞いてらっしゃい」
女の子は頷き、その場を動いた……と思ったら、こっちに戻ってきた。どうした?
「何?」
「……お兄ちゃんは?」
「……あぁ、俺はまだやる事あるから大丈夫。先に行ってな」
「……うん」
手を振って別れる。これで良い。流石にもう一人二人とまでは出来ないが、せめて出来ることはした。
『……早かったわね』
「あ、そういや繋いだままか」
『アンタ、子ども好きなのね? というかロリコン?』
「おい馬鹿やめろ」
『冗談よ。……それじゃ、すぐそこの交差点で待つわ』
「おうよ」
一旦通信を切る。すぐに真治と合流しよう。全てはそこからだ。
「……今回も、真癒さんを出すような事になんて、絶対しない……!」
誕生日プレゼントに真癒さんから貰った、二代目のACCデバイスを撫でる。俺はこいつに誓った。もう二度と、無様な真似はしない。もう二度と負けはしない。もう二度と──
「──真癒さんを戦わせないために!!」
『
この狩りで、半年前の師弟関係に戻る。三つの覚悟を束ねて、俺は走り出す。